養育費には時効があり、不払いのまま放置すると時効にかかる可能性があります。取り決めがないまま離婚した場合も、離婚後に養育費の請求は可能です。
養育費の時効期間や時効完成を猶予(停止)させたり更新(中断)させたりする方法を、令和2年4月1日から施行されている民法の改正を踏まえて弁護士がわかりやすく解説します。
目次
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養育費の時効とは
養育費は、子を育てていく上で大切な費用です。
しかし、本来養育費を受け取るべきときから一定の時間が経過してしまうと、もはや過去分の養育費を請求することができなくなります。
これは、養育費の請求に時効があるためです。
どのくらいの期間が経つと過去分の養育費を請求できなくなるのかは後ほど詳しく解説しますが、まずは養育費が時効にかかる可能性があることを知っておきましょう。
養育費とは
養育費とは、子の教育や監護に必要となる費用のことです。
一般的に、離婚によって親権を持たなかった側の親が、親権を持った側の親に対して支払います。
詳しくは、関連リンクをご確認ください。
養育費の未払いとは
本来、養育費を支払うことは親の義務です。
しかし、離婚の際に養育費を取り決めたとしても、その後養育費を支払ってもらえなくなるケースが後を絶ちません。
実際に、シングルマザーの8割が養育費を受け取っていないとのデータも存在します。
詳しくは、下記リンク先をご参照ください。
養育費の時効の考え方
養育費は、すべてが一度に時効にかかるわけではありません。
養育費は、たとえば令和4年5月分を令和4年5月末日までに支払う、令和4年6月分を令和4年6月末日までに支払うというように、基本的には毎月弁済期(支払うべき時期)が到来する債権です。
そのため、時間が経過するにつれて、時効を経過した月の分から順次時効にかかっていきます。
養育費の取り決めの内容により時効の期間が異なる
養育費の時効は一律ではなく、養育費をどのような方法で取り決めたのかにより異なります。
それぞれケースごとの時効は、次のとおりです。
調停で養育費について合意した場合の時効
調停とは、調停委員立ち合いのもと、家庭裁判所で行う話し合いのことです。
当事者同士で離婚するかどうか、養育費など離婚に際しての諸条件がまとまらない場合には、調停で解決を図ることが一般的です。
調停で養育費を取り決めた場合、取り決め前に発生していた過去の未払い分の養育費の時効は10年となります。また、取り決め後に発生する将来の養育費の時効は5年となります。
なお、調停でも話し合いがまとまらない場合には審判や裁判へと移行する場合がありますが、審判や裁判で養育費を取り決めた場合も、調停と同じく、過去の養育費は10年、将来の養育費は5年です。
裁判所を通して養育費を取り決めた場合、過去分と将来分で養育費の時効が異なる点に注意しましょう。
公正証書で養育費について取り決めた場合の時効
公正証書とは、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。
当人同士で離婚することや養育費など離婚の諸条件を取り決めた場合、合意した内容を公正証書とすることができます。
公正証書としておくことで、仮に養育費の支払いが滞った場合、改めて裁判を提起することなく相手の財産への差し押さえが可能となる点が大きなメリットです。
しかし、公正証書で養育費を取り決めた場合の時効は、原則どおり5年となります。
調停で取り決めた場合とは異なり、過去の養育費についても10年に伸長される制度はありませんので、誤解のないよう注意しましょう。
協議離婚合意書で養育費について取り決めた場合の時効
離婚協議合意書とは、当人同士で離婚することや養育費など離婚の諸条件を取り決めた場合において、合意をした内容を公正証書ではなく、任意の書面で残したものです。
この場合における養育費の時効は、原則どおり5年となります。
なお、公正証書ではない離婚協議合意書で養育費を取り決めた場合には、仮に約束どおりに養育費が支払われなかった場合、改めて裁判を提起しなければ差押えはできません。
養育費の取り決めをしていない、口頭での約束しかしていない場合
法律上、口約束であっても、「養育費を月○万円払ってほしい」「わかった」という合意ができていれば、養育費の支払いに関する契約は成立します。
しかし、口約束だと、「お互いの合意があった」という証拠が残っていないことが大半です。そのため、いくら口約束をしたところで、そんな約束をした覚えはないと言われてしまうと、泣き寝入りとなる可能性があります。
協議離婚をする場合には、離婚協議書の作成や養育費の支払いについて公正証書を作成しておくことをおすすめします。
民法改正による影響はある?
時効について定めている法律である民法の改正法が、令和2年4月1日から施行されています。
元々「短期消滅時効」など債権の発生原因により異なる時効が定められていたところ、この改正により、時効は原則として5年(調停や審判などで取り決めた場合は10年、ただし確定時点で弁済期の到来していない債権は5年)へと統一されました。
しかし、養育費は民法改正以前から定期金債権として5年で消滅時効にかかるとされていたため、改正により時効期間に特に変更はありません。
令和2年4月1日の民法改正で変わったこと
令和2年4月1日施行の民法改正により、時効についてのルールが大きく変更されました。
しかし、上で解説したように、養育費が原則として5年で消滅時効にかかるという点では、改正前後で特に変わるところではありません。
また、この改正により、成人年齢が従来の20歳から18歳へと引き下げられており、令和4年4月1日から施行されています。
しかし、改正法施行前に養育費について「20歳の誕生月まで支払う」「大学卒業年の3月まで支払う」などと取り決めた場合に影響がないのはもちろんのこと、「養育費を成人する月まで支払う」などと取り決めた場合であっても、取り決めた当時の成人年齢が20歳であった以上は、改正後も20歳までは養育費を支払う合意があったものといえるでしょう。
新たに設けられた「協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予される」という完成猶予事由
今回の改正で、時効の更新や完成猶予の内容も改正されています。
中でも、協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予される制度の新設は重要です。
これは、権利について協議を行うことの合意が書面でされたときは、次のうちいずれか早い時までの間は、時効は完成しないというものです。
- その合意があった時から1年を経過した時
- その合意において当事者が協議を行う期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時
- 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6ヶ月を経過した時
これにより、時効にかかってしまいそうな債権がある場合には、書面での合意を取り交わして一時的に時効を完成猶予させておくことも選択肢の一つとなります。
養育費の時効は中断できる?
養育費の時効も、他の債権と同様に中断(更新)をしたり停止(完成猶予)させたりすることが可能です。
では、どのような際に更新や完成猶予の効力が生じるのか、詳しく解説していきましょう。
時効の更新(中断)と完成猶予(停止)について
従来、民法では時効の完成について、「中断」と「停止」の制度が設けられていました。
これらは、それぞれ次のことを意味します。
- 中断:ある事由が発生することによって時効期間がリセットされて、そこから新たに時効のカウントが始まる。
- 停止:ある事由が発生している期間中のみは時効の進行が停止して、停止事由が消滅した後は、続きから時効が進行する。
しかし、これは用語としてわかりづらいということで、改正によってそれぞれ次のように改められています。
改正前 | 改正後 |
---|---|
中断 | 更新 |
停止 | 完成猶予 |
裁判上の請求による更新
裁判上で養育費の請求をすると、裁判中は時効が完成しません。
また、仮に裁判で権利が確定しなかったとしても、裁判終了の時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます。
また、裁判によって権利が確定した場合には時効が更新され、そこから新たに時効がスタートします。
この場合の裁判としては、主に次のものが存在します。
養育費分担調停の申し立て
養育費分担調停とは、相手へ養育費の負担を求める調停です。
詳しくは、次のリンク先をご参照ください。
離婚訴訟の提起
離婚訴訟とは、離婚をすることや離婚の諸条件について争う訴訟のことです。
この離婚訴訟において、養育費の支払いを請求することもできます。
差押え、仮差押え(強制執行)による更新
差押え(強制執行)を申し立てた場合には、その強制執行が終了するまでの間、時効は完成しません。
また、仮差押えをした場合や、差押えを申し立てたもののその取下げをした場合であっても、そこから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。
給与の差押等の強制執行
養育費が不払いとなった際にもっとも有効な方法に、給与の差押えなどの強制執行があります。
強制執行を行うことで、強制的に養育費を取り立てることが可能となります。
詳しくは、次のリンク先をご参照ください。
債務承認による更新
相手が債務を承認したときは、時効が更新されてそこから新たな時効がスタートします。
債務の承認とは、相手が自分に養育費の支払い義務があることを認めることです。
支払いに関する誓約書など
債務承認の方法に、法律上特に制限があるわけではありません。
そのため、口頭であっても債務承認の効力自体は生じます。
しかし、口頭の場合には債務を承認した証拠が残らず、「そのようなことは言っていない」と主張されてしまうかもしれません。
そのため、債務の承認は誓約書をもらうなど、書面で行うことをおすすめします。
たとえば「現在私が滞納している〇年〇月分から〇年〇月分までの養育費は、今年の〇月までには支払うので、しばらく待ってほしい」という文言であれば、債務の承認とみなせる可能性が高いでしょう。
催告
相手へ催告をすると、その時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成を猶予することができます。
ただし、催告によって時効の完成が猶予している間に再度催告をしたとしても、そこからさらに時効の完成猶予期間が延びるわけではないことには注意が必要です。
内容証明郵便等での養育費の請求
催告は、催告をした事実と催告をした日の記録を残すため、内容証明郵便で行うことが一般的です。
内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する制度です。
時効の完成猶予としての意味がある他、内容証明郵便での催告によっても相手が支払わない場合には裁判や差押えに移行することが多いため、これを避けたい相手がこの時点で滞納分の養育費を支払ってくれる効果も期待できます。
養育費の時効完成がすぐ間近の場合・更新の手続きが間に合わない場合
養育費の時効完成が間近に迫っており、相手から債務の承認を得たり裁判を提起したりする時間的な猶予がない場合には、まず内容証明郵便を送って催告をしておくと良いでしょう。
上で解説をしたように、内容証明郵便で催告をすることで、そこから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。
この猶予期間中に裁判の提起や差押えを行う準備を進めることで、養育費が時効にかかって消滅してしまうことを防ぐことが可能となります。
なお、内容証明郵便は書留扱いとなるため、相手が不在の場合、受領されずに期間が経過してしまう可能性があります。そのような心配がある場合には、並行して特定記録郵便等で同じ内容の催告を発送することも検討したほうがよいでしょう。
養育費の時効が成立してしまったら諦めるしかない?
催告さえも間に合わないまま養育費の時効期間が過ぎてしまったら、諦めるしかないのでしょうか?
時効が完成していても諦める必要はない
時効期間が過ぎていても、すぐに諦める必要はありません。
この場合には、できるだけ早期に弁護士へ相談してください。
なぜなら、次の方法で解決ができる可能性があるためです。
支払い義務を消滅させるための「時効の援用」とは
養育費をもらう権利などの債権は、時効期間を過ぎた時点で自動的に消滅するものではありません。
時効によって債務が確定的に消滅するためには、支払い義務のある相手が「時効の援用」をする必要があります。
時効の援用とは、養育費の支払い義務のある人が、「時効が完成したので、その分の養育費はもう支払いません」と主張することです。
しかし、時効完成後、時効を援用する前に「支払うからもう少しまってくれ」と申し入れるなど、債務の承認にあたる行為をした場合には、原則としてその後この発言を撤回して時効を援用することは認められません。
そのため、相手が時効の援用を主張する前に相手に債務を承認させることで、時効期間が過ぎていても時効を完成させないことが可能となります。
過去の未払い分の養育費は請求できる?
過去の養育費を受け取っていない場合、この養育費を受け取ることはできるのでしょうか?
ケースごとに解説していきましょう。
いつの分まで請求できる?
お互いが合意するのであれば、過去何年分であっても、離婚時点まで遡って養育費を受け取ることは可能です。
しかし、実際には相手が無制限に遡って養育費を支払うケースは、ほとんどないでしょう。
そのため、それぞれ次の対応となることが一般的です。
養育費の取り決めがされている場合
あらかじめ養育費について取り決めをしていたにもかかわらず不払いとなっている場合には、時効が完成していない過去5年(調停などで過去の滞納分の養育費を取り決めた場合には10年)分の養育費を請求することが一般的です。
また、この場合には、取り決めが調停や公正証書等でなされているのであれば、強制執行による取り立ても選択肢の一つとなります。
養育費の取り決めがない場合
養育費は、請求した時点からの支払い義務が認められることが一般的です。
そのため、養育費について明確な取り決めがないまま離婚をした場合には、過去分の養育費遡って請求することは、原則として認められません。
そのため、この場合には早期に相手へ養育費の請求を行いましょう。
再婚後に未払い分を請求することはできる?
再婚して子が再婚相手の養子となった場合には、相手から養育費の減額請求をされる可能性があります。
しかし、未払いとなっている過去の養育費はすでに権利が確定しているものであるため、原則として再婚による一方的な減額は認められません。
再婚している場合であっても、未払い養育費は諦めずに請求しましょう。
離婚後に養育費を請求するには
養育費の取り決めがないまま離婚した場合であっても、離婚後に養育費の請求をすることは可能です。
離婚後に養育費を請求するには、まず相手方との合意を図りましょう。
当人同士で話し合いが成立すれば、公正証書へしておくと安心です。
当事者同士で話し合いがまとまらない場合には、裁判所での話し合いである調停や、裁判所が決断を下す審判へと移行します。
弁護士に依頼するメリットとは
養育費の取り決めや不払いでお困りの際には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士へ依頼することによって、相手と直接やり取りをすることなく請求することが可能となります。
さらに、時効期間を過ぎていても相手から債務の承認を取るなど、まだ方法が残されている場合もあり、弁護士へ依頼することで道が開ける可能性もあります。
養育費の不払い問題は、ぜひ弁護士へお任せください。
まとめ
養育費の支払いは、親が当然に負担するべき義務です。
親が離婚しても引き続き父母ともに子の親であることには変わりなく、親権を持たなかったからといって子を養育する責任を投げ出すことはできません。
しかし、養育費が未払いとなったまま期間が経過してしまうと、時効を経過した分から順次時効にかかってしまいます。
子の権利を守るため、養育費が不払いとなった場合には、早期に弁護士へ相談して解決を図りましょう。
Authense法律事務所には、離婚問題に詳しい弁護士が多数在籍しており、養育費の不払いなど離婚にまつわる問題を日々解決しております。
養育費の不払いや時効でお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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