養育費について取り決めをしたものの、相手が約束どおりに支払ってくれない場合もあるでしょう。
そのような際には、養育費の差押えが選択肢の一つとなります。
では、養育費の差押さえは、どのような流れで行えばよいのでしょうか?
また、差押えを成功させるためにどのような点に注意すればよいでしょうか?
今回は、養育費の差押えについて弁護士がくわしく解説します。
目次
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養育費の差押えとは
養育費とは、子どもの教育や監護にかかる費用です。
婚姻中は家計から支出するため、どちらがいくら支払っているなどと意識することは少ないでしょう。
しかし、離婚をすると夫婦の財布は別々となるため、これまでのように必要に応じて支払うなどとしていては、不都合が生じてしまいます。
そこで、未成年の子どもがいる状態で離婚をする際には、親権を持たなかった側の親が親権者である親に対して毎月定額の養育費を支払うこととすることが一般的です。
ただし、いったん取り決めた養育費を一方的に滞納されてしまうような事態も少なくありません。
そこで検討したいのが、養育費の差押えです。
養育費の差押えとは、相手の預貯金や給与などから、強制的に滞納分の養育費を取り立てる手続きです。
非常に強い効力を持つ手続きであるため、裁判所へ申し立て、裁判所から差押命令を出してもらわなければなりません。
養育費を差し押さえるメリット
養育費の差押えには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
主なメリットは次のとおりです。
養育費を強制的に回収できる
差押え手続きをすることで、仮に相手が養育費を滞納した場合であっても、強制的に養育費を回収することが可能となります。
適正額の養育費を受け取ることは、子どもにとっての正当な権利です。
養育費を回収することで、子どもの未来の選択肢を広げることにつながるでしょう。
将来分の養育費の差押えも可能である
一般的に、差押えは、すでに支払義務が発生した支払いについてのみ可能です。
一方、養育費については例外的に、将来分についても差押えることが可能とされています。
ただし、この場合であっても将来分の養育費を一括で支払わせることまではできません。
所定の手続きを踏むことで、将来支払われる給与などから、定期的に養育費を回収することが可能となるということです。
なお、これはあくまでも同じ会社から給与などを受け取り続ける予定である場合にのみとることのできる手段であり、相手に継続的給付がない場合や転職を繰り返している場合などには、この方法はとれません。
養育費を差し押さえるデメリット
養育費を差し押さえることには、デメリットも存在します。
主なデメリットは次のとおりです。
弁護士費用が発生する
養育費の差押え手続きをするには、専門的な知識が不可欠です。
そのため、弁護士に依頼をすることが一般的でしょう。
弁護士に手続きを依頼することで、弁護士費用が必要となります。
相手が退職する危険がある
相手方の給与や報酬を差し押さえると、それを契機に相手が勤務先を変える可能性があります。
その場合、差押えの効果は転職先の給与等には及ばないため、転職先の調査や、新たな差押えが必要になります。
感情的な対立が生じやすい
養育費を差し押さえると、相手が感情的に強く反発する事態は避けられません。
中でも、給与を差し押さえた場合には勤務先に事情が知られることとなるため、この点について非難される可能性があります。
離婚をしたうえに養育費を滞納されているような事態であれば、すでに当人同士の関係性はこじれてしまっている場合が多いかもしれません。
一方、それでも子どもの親であることには変わりありませんので、相手が子どもと定期的に面会交流をしている場合などには、子どもへ冷たく当たるといった影響が及ばないよう、配慮する必要があるでしょう。
また、今後子どもの教育費が増え、取り決めた養育費以上にお金が必要となった際に、追加の支払いに応じてもらえなくなる可能性が高くなります。
申し立ててもお金が回収できない可能性がある
相手にまったく財産がない場合には、強制執行を申し立てても、結果的にお金が回収できない可能性があります。
差押えをしたとしても空振りに終わる可能性があることは知っておいた方がよいでしょう。
養育費を差し押さえるための要件
養育費を差し押さえるためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
ここでは、それぞれの要件について解説しましょう。
債務名義があること
差押え手続きをするためには、「債務名義」がなければなりません。
債務名義とは、強制執行の根拠となる文書のことです。
養育費の差押えにあたっては、養育費について取り決めた次のものなどが「債務名義」となります。
- 執行認諾文言付きの公正証書
- 調停調書
- 和解調書
- 確定判決
つまり、離婚調停や離婚裁判など裁判所を介して養育費を取り決めた場合や、養育費に関する取り決めを公正証書としてその公正証書内に「強制執行認諾」に関する条項が含まれていた場合などには、原則として債務名義があると考えておくとよいでしょう。
一方、養育費についての取り決めが公正証書ではない任意の書面やLINEなどのSNS、口頭などのみで行われていた場合には、債務名義がありません。
この場合には、養育費を差し押さえる強制執行手続きを申し立てる前に、債務名義を取得することが必要です。
具体的には、養育費請求調停などを申し立て、養育費を取り決めた調停調書等を取得することが必要となります。
なお、このような事態に備え、養育費について相手方と取り決めを行う際には、取り決めを公正証書としておくことをおすすめします。
相手の住所が判明していること
養育費を差し押さえるために強制執行を申し立てるためには、相手の住所が判明している必要があります。
ただし、相手の現住所がわからなくても、役所に対して正当な権利行使のために必要であることを説明したり、弁護士へ依頼することで、相手の現住所を調べることができる可能性があります。
たとえば、過去の住所や本籍地がわかっている場合には、そこから辿って確認をする方法のほか、相手の電話番号をもとに弁護士会照会という制度を使って住所を調べる方法などがあります。
相手の現住所がわからないからといってそこで諦めず、弁護士へ相談するとよいでしょう。
差押え対象の財産が特定できていること
裁判所に強制執行を申し立てたからといって、裁判所が相手の財産を調べてくれるわけではありません。
原則として、申し立てをする側で相手の財産を調査して、差押え対象とする財産を特定することが必要です。
そのため、相手の勤務先や相手がどの銀行に預金をしているかなどの情報がまったくわからなければ、差押えをすることはできません。
また、たとえ預金口座が判明しても、差押えをした時点で残高がなければ養育費を回収することはできない点にも注意が必要です。
令和2年(2020年)4月施行の改正法で養育費の差押えがしやすくなった
令和2年(2020年)4月、養育費の差押えに関係する「民事執行法」が改正されました。
この改正により、養育費の差押えの実効性が高まっています。
主な改正ポイントは次の2点です(参照元:法務省民事局:民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律の概要)。
財産開示手続きが使いやすくなった
先ほど触れたように、相手の財産がどこにあるのかわからなければ、差押えをすることはできません。
日本全国にある金融機関などに対して、いわゆる「ダメ元」でやみくもに差押命令を発してもらうことは、現実的に困難です。
しかし、これでは相手の知らない口座に財産を隠しさえすれば差押えを逃れられることとなり、強制執行手続きが絵に描いた餅となってしまいかねないでしょう。
これに対応するため、従来から「財産開示手続き」が存在します。
財産開示手続きとは、養育費などを滞納している債務者を裁判所に出頭させ、自分の財産状況を陳述させる手続きです。
相手に陳述させることで財産のありかがわかれば、そこに対して強制執行をすることが可能となります。
しかし、従来は仮に裁判所からの呼び出しを無視したり嘘の陳述をしたりしても最大30万円の過料に処されるのみであり、「逃げ得」となってしまっていました。
そこで、今回の改正により罰則が強化され、財産開示手続きの実効性が高められています。
改正後に裁判所からの呼び出しを無視したり嘘の陳述をしたりした場合には刑事罰の対象になることとされ、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性があります。
第三者からの情報取得手続きが新設された
改正により、第三者からの情報取得手続きが新設されました。
これは、裁判所で所定の手続きをすることにより、金融機関や市町村などから、養育費の支払い義務者である相手方の情報が取得できる制度です。
取得できる情報は、次のものなどとされています。
- 金融機関から:預貯金債権、上場株式、国債などに関する情報
- 登記所から:土地・建物に関する情報
- 市町村や日本年金機構などから:給与債権(勤務先)に関する情報
これにより、相手の財産がわからないことを理由に養育費の差押えができないという事態が、大きく減少することが見込まれています。
相手の財産のありかや勤務先がわからずこれまで諦めていた場合でも、改正を機に改めて養育費の差押えを検討するとよいでしょう。
養育費の差押えをする手順
養育費の滞納が発生した場合において、養育費の差押えをする一般的な手順は次のとおりです。
申立ての必要書類を準備する
裁判所から差押命令を発してもらうためには、裁判所へ民事執行手続きを申し立てなければなりません。
はじめに、申立てに必要となる書類を準備しましょう。
必要となる主な書類は、次のとおりです(参照元:裁判所:養育費に関する手続)。
- 申立書
- 債務名義の正本(養育費について定めた調停調書、審判書、和解調書、判決書または公正証書)
- 送達証明書
- (給与を差し押さえる場合)勤務先の商業登記事項証明書など
- (当事者の住所や氏名が変わっている場合)そのことを証する住民票や戸籍謄本など
状況によってはこれら以外の書類が必要となる場合もあります。
そのため、あらかじめ弁護士へご相談のうえ、弁護士とともに準備をするとよいでしょう。
民事執行手続きを申し立てる
必要書類が準備できたら、裁判所に民事執行手続きを申し立てます。
申立て先の裁判所は、相手の住所地を管轄する地方裁判所です。
離婚調停などとは異なり、家庭裁判所ではないことに注意しましょう。
なお、申立てには、1件当たり4,000円の収入印紙と、3,000円程度の予納郵便切手(内容によって異なります)の納付が必要となります。
裁判所から差押命令が発せられる
申し立てをした内容に不備などがなければ、裁判所から差押命令が出されます。
差押命令の送達先は、養育費を滞納している相手方のほか、相手の勤務先や相手の預金がある金融機関などです。
この段階で、相手方は対象の財産を自由に処分することができなくなります。
各機関へ取り立てる
その後、相手の勤務先や金融機関から、滞納分の養育費を取り立てます。
取り立て自体は裁判所が行ってくれるわけではなく、自分で行うか弁護士が代理して行います。
それぞれ、次の点に注意しましょう。
預貯金の差押え
預貯金から養育費を回収するためには、差し押さえをした時点で口座内にお金が残っていなければなりません。
相手に金銭的な余裕がない場合には、給与の支払日後の日を狙って差し押さえをするなど、タイミングに注意しましょう。
給与の差押え
給与は相手の生活にも必要となるものであることから、全額を取り立てることはできません。
給与から取り立てることができるのは、原則として給与から税金と社会保険料、通勤手当を控除した金額の2分の1までとされています。
養育費の差押えを成功させるポイント
養育費の差押えをしたとしても、回収できる財産がなければ徒労に終わってしまいます。
そのため、養育費を差し押さえる際には、次のポイントを踏まえて行うとよいでしょう。
あらかじめ弁護士へ相談する
養育費の差押えを自分で行って取り立てまでを成功させることは、容易ではありません。
強制執行を申し立てるためには、専門知識が必要となるためです。
また、手順やタイミングを誤ってしまったり、解決方法があるにもかかわらず途中で諦めてしまったりして、結果的に回収ができないリスクも高くなるでしょう。
そのため、養育費の差押えをする際には、あらかじめ弁護士へご相談ください。
差押さえすることを相手に伝えない
養育費の差押えをする側にとってもっとも恐れるべき事態は、相手に差押さえを感づかれてしまい、事前に財産を隠されてしまうことでしょう。
財産を隠されても財産開示手続きなどを取る道はあるものの、手間と時間が余計にかかってしまいます。
そのため、裁判所から相手に対して差押命令が送達されるまでは、差押さえ手続きを進めていることを相手に知らせることはおすすめしません。
差押えをすると決めたら、相手に伝えたりSNSなどに投稿したりせず、粛々と手続きを進めましょう。
タイミングを慎重に検討する
差押えは、タイミングが非常に重要です。
先ほども解説したように、せっかく預金口座を差し押さえてもお金がほとんど入っていなければ、養育費の回収には至らないためです。
そのため、相手の給料日など事前の情報収集をしっかりと行い、取り立てできる可能性が高そうなタイミングで差押えをするようにしましょう。
まとめ
養育費の支払いについて取り決めたにもかかわらず相手が養育費の滞納をしている場合には、養育費の差押えを検討しましょう。
差押え手続きをすることで、たとえ相手が支払う気をなくしていたとしても、強制的に養育費を取り立てることが可能となります。
養育費の受け取りは、子どもにとっての正当な権利です。
子どもの未来の選択肢を狭めてしまわないためにも、養育費を滞納されたらきちんと法的な対応をとることをおすすめします。
しかし、養育費を差し押さえるには専門的な知識が必要です。
また、不用意な言動をしてしまえば、相手に財産隠しなどをされるリスクが高くなるでしょう。
そのため、養育費の差押えをする際には、弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所には離婚問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、養育費の強制執行にも多数の実績があります。
養育費の滞納でお困りの際や差押え手続きをご検討の際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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