コラム
公開 2019.01.31 更新 2023.04.06

離婚後は旧姓に「戻す」「戻さない」はどちらがよい?メリット・デメリットを解説

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離婚後、旧姓に戻すにはどのような手続きを取ればよいのでしょうか?
また、旧姓に戻すメリットやデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

今回は、離婚後に旧姓へ戻すメリットやデメリットの他、旧姓へ戻す手続きなどについて弁護士が詳しく解説します。

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離婚後の苗字はどうなるの?

ライフスタイルの多様化などで夫婦別姓の声も高まり、別氏制度が検討されてはいますが、現行制度としては、結婚の際に夫婦同姓制度を採用しています。

「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(民法750条)として、夫婦の一方はどちらかの氏(姓、苗字ともいう)に改めなければならないのです。

それでは、離婚すれば、その後の苗字はどのようになるのでしょうか?

離婚後の苗字は選択制

結婚の際に、もともとの苗字を変えずにいた方は、離婚しても当然、そのまま変わることはありません。

一方、結婚の際に、相手方の苗字に変えた方は、離婚後は2つの苗字を選択することができます。

  • 結婚前の姓(旧姓)に戻る
  • 結婚時に名乗っていた姓(つまり相手方の姓)を継続する

2つの姓のどちらかを選ぶことによって、その後の手続きも異なってきます。
また、この2つの姓は「離婚後の戸籍をどうするか」にも大きく関わってきます。

結婚前の旧姓に戻る場合と戸籍の関係

それでは、苗字と戸籍の関係はどうなるのでしょうか。

離婚をすると、姓を変えた側は結婚時の戸籍から抜け、自分の選択で、戸籍を選択することができます。結婚前の旧姓に戻る場合は、結婚前の戸籍に戻る、もしくは新しい戸籍を作る、のどちらでも選択することができます。
手続きは、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」という欄に選択してチェックをすれば自動的に変更され、新しい手続きは不要となります。
なお、既に両親が死亡して両親の戸籍がない場合には、結婚前の戸籍に戻ることができず、新しい戸籍を作る必要があります。

結婚時に名乗っていた姓(つまり相手方の姓)を継続する場合と戸籍の関係

旧姓に戻らず、結婚時の姓をそのまま継続する場合は、新しい戸籍を作る必要があります。
結婚時の姓を継続する場合は、離婚届とともに、「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出します。

なお、提出先は住所地または本籍地の役場ですが、離婚届提出後に本籍地以外で届出をする際には、戸籍謄本が必要となります。

提出期限は、離婚から3ヵ月以内と制限されており、この期間内であれば、継続して名乗りたい理由や、同じ姓である相手方の同意など聞かれることはありません。

子どもの苗字は?

離婚しても、筆頭者の戸籍には筆頭者とその子どもが記載されたままとなります。そのため、子どもの苗字は変わることはありません。

仮に、母親が離婚の際に旧姓に戻って、子どもの親権者として一緒に暮らした場合も、子どもは父親の戸籍に残り、父親の苗字を名乗ることになります。

子どもと同じ苗字にするには?

子どもと同じ戸籍、苗字にするには下記の手続きが必要です。

まず、離婚の際に、自分を筆頭者として、新しい戸籍を作る必要があります。この場合、苗字は旧姓でも、結婚時に名乗っていた姓でも、どちらでも構いません。

次に、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に子の氏の変更許可の申し立てを行います。

家庭裁判所で審査を受け、変更許可を得た場合は「許可審判書」が交付されます。

この「許可審判書」と新しい戸籍に入る書類である「入籍届」を役場に提出すれば完了です。

子の氏の変更許可の申し立てができるのは子ども自身であり、15歳未満の子どもは親権者である法定代理人が申し立てを行います。

旧姓に戻る場合のメリット・デメリット

離婚後、旧姓に戻る場合の主なメリットとデメリットは、それぞれ次のとおりです。

メリット

離婚後に旧姓へ戻す主なメリットとしては、次のものが挙げられます。

離婚する相手方の姓を名乗らなくて済む

旧姓へ戻すことにより、相手の姓を今後名乗る必要がなくなります。

離婚原因にもよりますが、離婚に伴って相手方への愛情がなくなったというよりは、それを超えて強い憎しみや嫌悪感など抱いて離婚に至ったケースもあるでしょう。
少しでも結婚していた事実を消したい、相手方と縁のあるものを捨てたいという思いがあれば、相手方の姓を名乗るのは苦痛でしかありません。

デメリット

離婚後に旧姓へ戻す主なデメリットは、次のとおりです。

離婚をしたことが周囲にわかってしまう

旧姓に戻すことで、離婚したということが周囲に伝わってしまう可能性があります。
このようなことを避けたい場合には旧姓に戻さない選択をする他、戸籍上は旧姓に戻したうえで仕事上は結婚時の姓を名乗る選択もあるでしょう。

名義変更が煩雑である

旧姓に戻すことで、さまざまな名義変更が必要となります。

公的な身分証明書となる運転免許証やパスポートはもちろん、財産に関するすべての名義変更など複数の変更手続きを行わなければなりません。

結婚時の姓を継続する場合のメリット・デメリット

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次に、旧姓に戻さず、結婚時の姓を継続する場合のメリットとデメリットについて解説しましょう。

メリット

結婚時の姓を継続する場合の主なメリットは次のとおりです。

過去の業績が分断されない

仕事上、結婚時の苗字で実績を出していた場合、苗字を変更することで同一人物であることがわかりづらくなってしまう可能性があります。

実績とは、たとえば結婚時の苗字での資格取得や論文発表、書籍の出版などです。
結婚時の姓を継続することによって、過去の業績が分断されないメリットがあるといえます。

名義変更の手続きが不要である

旧姓に戻す場合の裏返しとなりますが、結婚時の姓を継続することによって、名義変更などの手続きが不要となります。
煩雑な手続きが不要となる点は、大きなメリットの一つであるといえるでしょう。

離婚をしたことが周囲に分かりづらい

離婚については偏見を持たれづらくなっているとはいえ、現実には、離婚したことを周囲に知られたくないさまざまな事情もありえます。
結婚時の姓を継続することで、離婚した事実がわかりづらいというメリットがあります。

デメリット

一方、婚姻時の姓を継続することには、次で説明するように、後からやはり旧姓に戻したいと考えた場合に、当然に戻せるわけではないというデメリットが存在します。

離婚後時間が経ってから旧姓へ戻すのに必要な手続き

たとえ自分の旧姓へ戻す場合であっても、いつでも自由に旧姓へ戻せるわけではありません。
いったん婚姻時の姓を名乗り続ける選択をした後に旧姓へ戻すためには、次の手続きが必要となります。

ステップ1:家庭裁判所から許可を得る

はじめに、旧姓へ戻すことについて、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
申立てをしたからといって必ずしも許可がされるとは限らず、諸般の事情を考慮のうえで判断される点に注意が必要です。

ただし、婚姻時の姓での債務を免れたいなど不当な目的であったり、再婚や離婚、養子縁組や離縁などを繰り返し頻繁に氏が変わっているなど特別な事情があったりするのでない限り、一般的には許可がされる可能性が高いでしょう。

ステップ2:市区町村役場の窓口で手続きをする

家庭裁判所から許可が下りたら、その後住所地または本籍地の市区町村の窓口(「戸籍課」など)で手続きを行います。
これで、旧姓に戻す手続きが完了です。

家庭裁判所での手続きの概要

上で解説をした旧姓へ戻す手続きを、もう少し詳しくお伝えしていきましょう。
はじめに、家庭裁判所で行う手続きの概要を解説します。

申立ての準備をする

家庭裁判所に旧姓へ戻す手続き(氏の変更許可)を申立てる際には、原則として次の書類が必要となります。
申立ての前に、これらの書類を準備しましょう。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 婚姻前の申立人の戸籍(除籍)謄本など、氏の変更の理由を証する資料
  • 同一戸籍内にある15歳以上の者の同意書(筆頭者の氏が変更されることによって自分の氏も変更されることに同意する旨が記載され、日付と署名、押印のある任意の書類)

なお、同じ戸籍内に子がいる場合に旧姓へ戻す手続きをすると、同じ戸籍に入っているその子も一緒に旧姓へと氏が変わります。

申立てをする

申立ての準備ができたら、申立人の住所地の家庭裁判所へ申立てを行います。
なお、氏の変更を自分で申立てた場合にかかる費用は、次のとおりです。

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の切手代(家庭裁判所によって異なり、数百円から数千円程度)

この他に、上で解説をした必要書類を取り寄せる費用で数千円程度がかかります。

家庭裁判所へ申し立て後の手続きの概要

家庭裁判所へ氏の変更許可を申立てた後の主な流れは、次のとおりです。

家庭裁判所の面談がある場合がある

申立て後、家庭裁判所から面談がある場合があります。
家庭裁判所から連絡があったら、裁判所の指示に従って面談を受けましょう。

旧姓へ戻す許可が下りる

家庭裁判所が氏の変更に支障がないと判断した場合には、旧姓へ戻す許可が下ります。

旧姓へ戻す許可が下りた旨の証明書を取得する

旧姓へ戻す許可が下りたら、名字を旧姓に戻すことの許可が確定したことの証明書を家庭裁判所から取得します。
この証明書が、次で解説をする市区町村役場での手続きで必要となるためです。

証明書を取得するための申請用紙は家庭裁判所にありますので、あらかじめ入手しておくとよいでしょう。
申請用紙に必要事項を記入し、150円分の収入印紙とともに審判をした家庭裁判所に申請します。
返信用の切手を添えて送ることで、郵送で取り寄せることも可能です。

氏の変更許可後の手続き

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家庭裁判所から氏の変更許可が下りたら、次の手続きを行いましょう。

市区町村役場の窓口で手続きをする

家庭裁判所から許可が下りたら、次の書類を住所地か本籍地の市区町村役場へ提出します。

  • 名字を旧姓に戻すことの審判書:裁判所から発行されます
  • 名字を旧姓に戻すことの許可が確定した事の証明書:裁判所から取り寄せます
  • 戸籍の変更届:市区町村役場で入手します

これで、旧姓へ戻すための手続きは完了です。

新たな戸籍謄本が取得できるようになる

市区町村役場で手続きを行うと、1週間から10日程度で変更後の戸籍謄本が取得できるようになります。
この後に行う名義変更手続きで必要となりますので、数通を入手しておきましょう。

なお、原本が返却されることやコピーの提出でよいとされる場合もありますので、手続き先の数と同じだけ取得する必要まではありません。

はじめは3通ほどを取得して、不足した場合には追加で取り寄せるとよいでしょう。

銀行口座や運転免許証などの名義変更をする

新たな戸籍謄本が発行されたら、運転免許証や銀行口座、クレジットカード、パスポートなど、各種名義変更手続きを行います。
手続き先の数が多ければかなりの時間を要しますので、重要なものから順に行っていくとよいでしょう。

まとめ

離婚後に旧姓に戻ることと婚姻時の姓を名乗り続けることには、それぞれメリットとデメリットが存在します。
どちらがよいのかは考え方や事情によって異なりますので、よく検討をしたうえで判断するとよいでしょう。

また、いったん離婚時の姓を名乗る場合であっても、その後家庭裁判所の許可を得ることで旧姓へ戻す道があります。
たとえば、子の義務教育中や子が未成年のうちは婚姻中の苗字で過ごし、その後旧姓へ戻すことなども検討できるでしょう。

Authense法律事務所には、離婚後の手続きを含め、離婚問題に詳しい弁護士が多数在籍しております。
氏の変更手続きなどでお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶応義塾大学法学部法律学科卒業、上智大学法科大学院修了。個人法務から企業法務まで多様な案件に従事する。特に、離婚、相続を中心とした個人法務については、請求側・被請求側、裁判手続利用の有無などを問わず、数多くの案件を解決してきた実績を有する。
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