コラム

解雇予告除外認定とは?要件や必要書類を弁護士がわかりやすく解説

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従業員を即日解雇する際などには、原則として解雇予告手当を支払わなければなりません。
しかし、労働基準監督署長から解雇予告除外認定を受けることで、予告なく解雇をする場合であっても解雇予告手当の支払いが不要となります。
では、解雇予告除外認定は、どのような際に受けられるのでしょうか?

今回は、解雇予告除外認定を受けるための要件や申請時の注意点などについて、弁護士がくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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解雇予告除外認定とは

解雇予告除外認定とは、どのようなものを指すのでしょうか?
はじめに、概要について解説しましょう。

解雇予告手当とは

解雇予告除外認定について理解するためには、まず「解雇予告手当」について理解しておかなければなりません。

企業が従業員を解雇する際には、少なくとも解雇日の30日前までに解雇の予告をしなければならないとされています(労働基準法20条)。
しかし、状況によっては、30日以上前までの予告が困難である場合もあるでしょう。

そのような場合には、原則として、30日に満たない日数分の平均賃金を支払わなければなりません。
たとえば、解雇10日前に解雇予告をする場合には、20日(30日-10日)分の平均賃金を支払う必要があるということです。
この支払いのことを、「解雇予告手当」といいます。

解雇予告除外認定とは

解雇予告除外認定とは、先ほど解説した解雇予告なしに解雇できるようにするための認定です。

たとえば、従業員が横領をしたなど一定の場合には、急な解雇をせざるを得ません。
しかし、そのような場合にまで解雇予告手当が必要とされれば、企業にとって酷だといえるでしょう。

そこで、一定の場合に労働基準監督署長へ解雇予告除外認定申請をして認定を受けることで、解雇予告をすることなく(解雇予告手当を支払うことなく)従業員を解雇することが可能となります。
解雇予告除外認定を受けるための要件は、後ほど改めて解説します。

解雇予告手当除外認定がなくても解雇予告手当の支払いが不要なケース

そもそも解雇予告除外認定を受けるまでもなく、解雇予告手当の支払いが不要となる場合も存在します。
その場合とは、次のとおりです。

解雇日の30日以上前に解雇予告をする場合

解雇予告手当は、解雇を告げた日から解雇日までの期間が30日未満となる場合に、支払いが必要となる手当です。
そのため、解雇日の30日以上前に解雇を予告した場合には、解雇予告手当の支払いは必要ありません。

一定の試用期間中などの解雇である場合

次の者は、30日前までに解雇予告をすべきとの規定が適用除外とされています(労働基準法21条)。
そのため、これらの者を解雇する場合においては、たとえ解雇予告から解雇日までの期間が30日未満である場合でも、解雇予告手当の支払いは必要ありません。

  • 日々雇い入れられる者(1か月超引き続き使用されている場合を除く)
  • 2か月以内の期間を定めて使用される者(契約した一定期間を超えて引き続き使用されている場合を除く)
  • 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者(契約した一定期間を超えて引き続き使用されている場合を除く)
  • 試用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されている場合を除く)

なお、カッコ書きに記載のあるとおり、たとえば試用期間中であれば常に解雇予告手当の支払いが不要というわけではありませんので、注意しましょう。

解雇予告除外認定を受ける要件

解雇予告除外認定の根拠は、労働基準法20条の次の規定です。

20条1項 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

この、ただし書き以降の記載が、解雇予告除外認定を指しており、これを満たす場合に解雇予告除外認定を受けることが可能となります。
具体的なケースは、それぞれ次のとおりです。

天災事変などやむを得ない事情による場合

厚生労働省の資料によると、天変地異などやむを得ない事由とは、「天災事変に準じる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともし難いような状況にある場合」を指すとされています。※1

これに該当する具体的なケースは、次のとおりです。

  1. 事業場が火災により焼失した場合。ただし、事業主の故意または重大な過失に基づく場合は除く
  2. 震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼などにより事業の継続が不可能となった場合

一方、次のケースはこれに該当しないこととされています。

  1. 事業主が経済法令違反のため強制収容され、または購入した諸機械、資材などを没収された場合
  2. 税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合。
  3. 事業経営上の見通しの齟齬のように事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材の入手難、金融難に陥った場合
  4. 従来の取引事業場が休業状態となり、発注がなくなってしまったために事業が金融難に陥った場合

事業主に責任のある事態はこの「やむを得ない事由」に該当せず、火災や震災など天変地異などに限定して認められるということです。

また、「事業の継続が不可能となった」場合とは、事業の全部または大部分の継続が不可能となった事態を指すとされています。
ただし、事業が主たる部分を保持して継続し得る場合や、近く再開復旧が見込まれる場合などは、これに該当しません。

労働者の責に帰すべき事情による場合

労働者の責に帰すべき事由には、次の場合などが該当します。※1

  1. 極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害など刑事犯に該当する行為のあった場合
  2. 一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的にまたは断続的に盗取、横領、傷害などの刑法犯またはこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害など刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるものまたは労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
  3. 賭博、風紀の乱れなどにより職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
  4. 賭博、風紀の乱れなどが事業場外で行われた場合であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるものまたは労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
  5. 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
  6. 他の事業場へ転職した場合
  7. 原則として2週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
  8. 出勤不良または出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合

厚生労働省の資料によれば、解雇予告の保護を与える必要のない程度に重大または悪質なものが認定の対象となります。

解雇予告除外認定申請の必要書類

解雇予告除外認定申請をする際には、管轄となる労働基準監督署へ、一定の書類を提出しなければなりません。
主な必要書類は、次のとおりです。※1

ただし、状況に応じて、追加の資料が求められる場合も少なくありません。
追加資料の連絡を受けたら、速やかに対応するようにしましょう。

天災事変その他やむを得ない事由の場合

天災事変その他やむを得ない事由が生じたことを理由として解雇予告除外認定を受けようとする場合の主な必要書類は、次のとおりです。

  1. 解雇予告除外認定申請書
  2. 解雇対象の従業員名簿など、申請対象となっている従業員の範囲などが明らかになる資料
  3. 自治体の罹災証明書や現場の写真など、事業場の被害状況について客観的に判断できる資料

労働者の責に帰すべき事由がある場合

労働者の責に帰すべき事由を理由として解雇予告除外認定を受けようとする場合における主な必要書類は、次のとおりです。

  1. 解雇予告除外認定申請書
  2. 解雇対象者の従業員名簿など、申請対象となっている従業員の生年月日、雇入年月日、職種・職名、住所、連絡先などが明らかになる資料
  3. 「労働者の責に帰すべき事由」が明確となる疎明資料
    • 事由の経緯について時系列に取りまとめた資料
    • 被申請労働者の「労働者の責に帰すべき事由」の自認書、本人の署名・押印のある顛末書など
    • 懲罰委員会など懲戒処分関係の会議の議事録
    • 新聞などで報道された場合は、その記事の写し
  4. 就業規則(解雇・懲戒解雇などの該当部分)
  5. 解雇通知をしている場合には、解雇予告日及び解雇日が分かる書面

ただし、これはあくまでも基本の書類であり、これら以外の書類が求められる場合もあります。
そのため、申請前に管轄の労働基準監督署へ確認のうえ、書類の準備を進めるとよいでしょう。

なお、申請書などは、厚生労働省のウェブサイトなどに挙げられていますので、ダウンロードして作成するとよいでしょう。

解雇予告手当除外認定申請をする際の注意点

解雇予告除外認定を申請する際には、次の点に注意しましょう。

解雇予告手当除外認定を受けても解雇無効の提訴がされる可能性は残る

原則として、会社は理由もなく、一方的に従業員を解雇することはできません。
従業員の権利は、労働基準法などで強く守られているためです。

そのため、会社側が一方的に従業員を解雇するためには、そもそも、就業規則上の根拠が必要とされ、解雇自体にも、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければなりません。
また、いくら就業規則に懲戒解雇などについて定めていても、従業員の軽微な非を理由に解雇をした場合には、解雇が無効とされる可能性もゼロではありません。

そして、解雇予告除外認定を受けたからといって、その解雇の有効性が保証されるわけではない点には注意が必要です。
そのため、解雇予告除外認定を受けて解雇予告を支払うことなく解雇ができたとしても、その後解雇された従業員側から、解雇の有効性について争われる可能性は残ります。

解雇予告除外認定はあくまでも解雇予告を除外するための認定であり、解雇の有効性につい労働基準監督署がお墨付きを与えるものではないことを理解しておきましょう。

自筆の顛末書などが必要となる

従業員側に責に帰すべき事由があることを理由に解雇予告除外認定を受けるためには、原則として、従業員の自筆の自認書や、署名のある顛末書などが必要となります。

たとえば、即時解雇をしたい場合、解雇後にこれらの書類を揃えることは困難でしょう。
そのため、解雇を告げる面談時や、その前の事情聴取の際に、必要書類への署名や捺印をもらっておくとスムーズです。
必要書類をあらかじめ確認し、書類を準備してから面談へ臨むことをおすすめします。

なお、解雇予告除外認定を申請すると、労働基準監督署から解雇された従業員に対して事情の聴取が行われます。
そのため、本人が認めていない内容の書類に無理やり署名や押印をさせることはしないようにしましょう。

あらかじめ弁護士へ相談する

解雇にあたっては、解雇無効を争う従業員との訴訟に発展するリスクが低くありません。
そのため、従業員を解雇するにあたっては、あらかじめ労使問題にくわしい弁護士へご相談ください。

弁護士へ相談することで、解雇の相当性についてあらかじめ見通しを立てることが可能となります。
また、仮に訴訟へ発展した場合の対応がスムーズとなるほか、訴訟を見据えた証拠の準備をしておくことも可能となるでしょう。

まとめ

解雇予告除外認定とは、労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告が不要となる制度です。
ただし、仮に認定を受けられたとしても、解雇の有効性が保証されるわけではないことは誤解しないように注意してください。

解雇については、解雇無効を主張する従業員との訴訟に発展するリスクがあります。
そのため、解雇の前に弁護士へ相談しておくと安心です。

Authense法律事務所には労使問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、これまでも数多くのトラブルを解決してまいりました。
解雇予告除外認定の活用をご検討の際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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