コラム

公開 2021.02.09 更新 2022.09.15

独禁法上のプラットフォーマーの留意点とは

独禁法上のプラットフォーマーの留意点とは

市場において独占・寡占的な地位に至る蓋然性が高いと指摘されているプラットフォーマー。アマゾンジャパンに対する独禁法違反被疑事件を紹介しながら、独占禁止法の観点から、留意点について説明いたします。

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1 はじめに

プラットフォームにおいては、両面市場から集積した膨大な利用データを効率的に活用することで、多大な便益を生み出していくことが可能です。カスタマイズされたサービスの提供等により、ユーザーは特定のプラットフォームに依存することとなり、その結果、プラットフォーマーは市場において独占・寡占的な地位に至る蓋然性が高いと指摘されています。
そうしたプラットフォーマーによる、優越的地位を利用した不公正行為を規制するため、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)は、独占禁止法(以下「独禁法」といいます)の観点から、市場調査や法執行を精力的に行っています。
公取委がプラットフォーマーに行った措置として有名なものに、アマゾンジャパン合同会に対するものがあります。

2 アマゾンジャパンに対する独禁法違反被疑事件の処理

2018年3月、公取委は、インターネット通販大手アマゾンの日本法人「アマゾンジャパン合同会社」(東京都目黒区)に対して、同社が自社の納入業者に対して、値引き分の一部を負担させる行為や、過剰な在庫であるとアマゾンジャパンが判断した商品について返品する行為等を行ったとして、独禁法違反(優越的地位の濫用)の疑いがあるとして立ち入り調査を行いました。公取委は、その後、独占禁止法の規定に基づき2020年7月にアマゾンジャパンに対して確約手続通知を行いました。
これに対し、アマゾンジャパンは、違反とされた行為の取り止めや対象となった納入業者に対する金銭的回復(約1400社・20億円程度)などを盛り込んだ確約計画を認定申請しました。公取委は、当該計画の内容が十分であることや実施が確実であることから、計画を認定し、排除措置命令や課徴金などの措置は行わないこととしました。
なお、アマゾンジャパンにおいては、2017年6月にも、自社の通販サイト「Amazonマーケットプレイス」の利用事業者に対し、競合サイトと同等又はより有利な価格・品揃えで出品させることを求める「最恵待遇(MFN)条項」を含んだ契約を要求していたことについて、公取委が独禁法違反の疑いで調査に入っています。その後、アマゾンジャパンが同契約を見直したことから、公取委は調査を打ち切っています。

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3 独禁法上のプラットフォーマーの留意点

プラットフォーマーに対する独禁法の観点からのルール整備は、2018年6月に「未来投資戦略」が閣議決定されてから現在にかけて、大きく進展しています。
公取委は2019年10月、オンラインモールやアプリストアなどプラットフォーマーの取引慣行に関する実態調査の報告書を公表しました。
当該報告書は、独禁法違反となるおそれがある具体的な行為とそれに対する公取委の見解が示されており、プラットフォーマーの行動指針として非常に参考になるといえます。
プラットフォームビジネスを行う企業においては、以下のとおり当該報告書で公表された内容について、留意する必要があります。

(1)規約変更による取引条件の変更

プラットフォーマーが、手数料を引き上げたり、新しいサービスの利用を義務化してその利用手数料を設定するなどといった一方的な規約の変更により、利用者事業者に不利益を及ぼす場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあると指摘されています。
公正な競争環境を確保するには、プラットフォーマーは規約の変更に際しては、①変更内容を事前に通知し、十分に説明する、②規約変更について利用事業者から合理的な意見が寄せられた場合には、その意見をできる限り考慮する、③規約変更の通知から適用までに十分な期間を設けることが必要であると示されています。

(2)消費者に対する返品・返金の際の対応

自己の取引上の地位が利用事業者に優越しているプラットフォーマーが、利用事業者に返品・返金に伴う損失の負担を求めることにより、利用事業者に不当に不利益を及ぼす場合には、独禁法上問題となるおそれがあるとして指摘されています。
公正な競争環境を確保するためには、プラットフォーマーがどのような場合にどのような条件で返品・返金を行うのかについて書面に定めておくことが必要であり、詳細な条件の明文化が難しい場合には調停者を定めることも検討する必要があると示されています。

(3)他のアプリストア等の利用制限

アプリストアにおいて、当該アプリストアと競合する利用事業者と消費者の間の取引を不当に妨害するために、アプリストア外でのアプリのダウンロードの制限等がなされている場合には、独禁法上問題になる可能性があると指摘されています。
公正な競争環境を確保するために、プラットフォーマーは、アプリの安全性確保による消費者の保護という正当な目的達成のためにはより制限的でない他の手段がないか検討することが必要であると見解が示されています。

(4)取引データを利用したプラットフォーマーの直接販売

プラットフォーマーが、プラットフォームを運営・管理する立場を利用して得た競合する利用事業者の販売情報や顧客情報等の取引データを、自社や関連会社において販売に有利に利用して、競合する利用事業者と消費者の間の取引を不当に妨害する場合には、独禁法上問題になる可能性があると指摘されています。
これに対し、公正な競争環境を保つには、プラットフォーマーは、プラットフォームの運営管理を通じて得た販売情報や顧客情報等の取引データについて、①利用の有無、②仮に利用する場合におけるその目的、範囲、当該データにアクセスする条件等について、利用事業者や消費者に明示する必要があると示されています。

(5)自社や関連会社と異なる取扱い

プラットフォーマーが、自社や関連会社の製品等について、手数料や表示方法等において優遇したり、検索アルゴリズムを恣意的に操作して自社の製品等を上位に表示して有利に扱うなどして、競合する利用事業者と消費者の間の取引を不当に妨害する場合には、独禁法上問題になる可能性があると指摘されています。
公正な競争環境を確保するには、プラットフォーマーは①検索順位を決定する主なパラメータとそのウエイトを明らかにする、②検索順位の上位を広告枠や自社関連商品にする場合、消費者に誤認を与えないよう、そのことを明らかにする、③自社や関連会社と利用事業者との間で、手数料や表示方法などについて公平に取り扱う、④異なる条件にする場合には、その内容や理由を利用事業者と消費者に明示することが必要であると示されています。

(6)最恵国待遇条項(MFN条項)

プラットフォーマーが利用事業者に対して、競合サイトと同等又はより有利な価格・品揃えで出品させることを求めるMFN条項を設定することは、利用事業者間やプラットフォーム間の自由競争が阻害され、消費者が競争による利益を享受できなくなるおそれがあり、独禁法上問題になる可能性があると指摘されています。

(7)アプリ内課金手数料の設定とアプリ外決済の制限

アプリストアにおいて、プラットフォーマーがアプリ外決済を禁止することでアプリ内課金の利用を不当に強制させることやアプリ外決済の価格を拘束すること、又はアプリ外決済に係る情報提供を不当に妨げることは、独禁法上問題となるおそれがあると指摘されています。
また、アプリストアプラットフォーマーが、自社又は関連会社と異なる取り扱いや販売促進活動の制限を手数料の設定とともに行うことにより、競合するアプリを配信する利用事業者が排除されたり、新規参入の阻止によりアプリやデジタルコンテンツ等の価格が維持されたりすることがあれば、独禁法上問題となるおそれがあると指摘されています。

4 終わりに

以上の報告書以外にも、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(公取委R1.12.17制定)や「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」(公取委R1.12.17改定)も公表されております。
プラットフォームビジネスを取り巻く環境は非常に速いスピードで変化していくため、公取委においても取引慣行の把握のため迅速な対応が必要とされています。
現在も公取委はプラットフォームビジネスの実態調査を精力的に実施しており、今後も多くの検討結果が公表されていくと見込まれます。
プラットフォームビジネスを行う企業においては、ガイドライン等の制定や公取委審査事例などの動向に留意するだけでなく、公取委が公表する調査報告書なども頻繁に確認して情報収集を行っていく必要があるといえます。

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