コラム
公開 2022.01.25 更新 2023.02.21

卒婚とは?離婚との違いやメリット、注意点を弁護士がわかりやすく解説

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卒婚とは、婚姻関係を維持したまま、夫婦がお互いに必要以上に干渉せず、個々の人生を歩むことを指す言葉です。
離婚届を提出しないため、卒婚しても法律上は夫婦のままであり、扶養義務や相続権は残ります。
また、相手から必要以上に干渉されず自由に生きられるとはいえ、別の人と交際した場合には、不貞行為となり慰謝料を請求される可能性があります。

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卒婚とは

「卒婚」は法律上の用語ではなく、明確な定義があるわけではありません。

「婚姻からの卒業」と読めるため離婚と同義のように感じますが、一般的には、離婚届を出さずに法律上の婚姻関係は継続したまま、夫婦がお互いに干渉し合わずにお互いを尊重しながら自由に生きることを意味します。

離婚をするわけではないため、卒婚をしても法律上は夫婦のままです。
つまり、卒婚は夫婦の新たな形の一つであると考えるとよいでしょう。

卒婚と離婚の違い

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卒婚は離婚と似ている点がありますが、実際には以下の点で大きく異なります。

離婚届を提出しない

卒婚する場合、夫婦が「お互いに必要以上に干渉しないで自由に生きる」ことに合意するだけなので、離婚届を提出しません。
戸籍上は「夫婦」のままになります。
離婚の場合、役所へ離婚届を出して戸籍上も夫婦でなくなる点が、決定的な違いです。

扶養義務が残る可能性がある

卒婚しても、互いに扶養義務は残っていると解する余地があります。
その場合は、相手が経済的に困窮したときなどには、卒婚していても助けなければなりません。

一方、離婚すると扶養義務がなくなるので、相手が経済的に困窮しても、あるいは自分が困窮してもお互いに扶養する必要はありません。

相続権が認められる

卒婚しても、相続権に影響はありません。
配偶者として相手の資産を相続できますし、自分が死亡すると相手に相続されます。
相続させないためには遺言書を書いておかねばなりません。

ただし、配偶者には遺留分があるので、すべての権利までは奪えません。
離婚するとお互いに相続権はなくなります。

別の人と交際すると不貞になる可能性がある

卒婚しても、法律上、当然に、夫婦関係が破綻するものではありません。
別の人と交際すると「不貞」になってしまう可能性があります。

卒婚する主な理由・きっかけ

卒婚をする理由やきっかけは、夫婦によってさまざまです。
なかでも、主に挙げられる理由やきっかけには、次のものなどが存在します。

子どもが自立した

子どもの成人、卒業、結婚、独立など子育てが一段落したことをきっかけに、卒婚に踏み切るパターンです。

子どもが幼いうちは、家庭内ではどうしても「父」「母」としての役割がメインとなるでしょう。
子どもが巣立ったことにより、夫婦それぞれが改めて「個」を重視する卒婚を選ぶ場合があります。

定年退職を迎えた

夫婦の一方や双方が定年退職を迎えたことで、卒婚に踏み切るパターンです。

定年退職をすることで、長期間固定化していた家庭内での役割が大きく変わります。
たとえば、これまで「夫が主に稼ぎ、妻は家庭の事をメインで行う」という分担をしてきた場合であっても、定年退職をきっかけにこの役割を見直すことが多いでしょう。

定年後における夫婦の一つのカタチとして、卒婚を選ぶ場合があります。

熱中したいものができた

夫や妻に熱中したいものができたタイミングで、卒婚を選ぶパターンです。
たとえば、これまでは外で働く夫を家庭内で支えてきた妻が独立開業したことなどをきっかけに、卒婚を選ぶ場合があります。

卒婚のメリット

卒婚には、以下のようなメリットがあります。

お互いが自由に生活できる

卒婚すると、夫婦がお互いに必要以上に干渉しないので自由に生活できます。
趣味に時間を費やすのも自由ですし、相手に遠慮せず友人と会ったり旅行にでかけたりもできます。

面倒な手続きが不要

実際に離婚すると、離婚届を作成して役所へ届け出なければなりません。
名字が変わると免許証や銀行預金、クレジットカードなどの名義変更も必要で、離婚条件を取り決めて離婚協議書を作成する必要もあります。
卒婚であれば、こういった面倒な手続きがすべて不要で手間がかかりません。

相続や年金がそのまま

離婚すると、相手の財産を相続できませんし、遺族年金も受け取れなくなります。
卒婚であれば、相手が先に亡くなると家や預貯金などを相続できて、遺族年金も受け取れます。
相手が死亡した際の金銭面では、卒婚のメリットが大きくなるでしょう。なお、離婚時には、財産分与制度があります。

周囲に知らせずに済む

離婚すると、各種書類上も夫婦ではなくなり、職場など周囲の人に離婚した事実を知られる可能性があります。
卒婚であれば、各種書類上も夫婦として記入でき、周囲の人に卒婚したことを伝える必要もありません。

卒婚のデメリット

卒婚には以下のようなデメリットがあります。

生活費が二重にかかるケースがある

卒婚して夫婦が別居する場合、生活費が二重にかかります。
資産や収入の少ない夫婦が、別居の卒婚を選択すると、生活が苦しくなる可能性があります。

不貞になる可能性がある

卒婚しても、必ずしも夫婦関係が破綻したとはいえません。
他の異性と関係を持つと「不貞」となり、慰謝料を支払わなければならない可能性があります。

完全には相手から自由になれない

卒婚しても相手との法的関係は残るので、完全に自由になれるわけではありません。

卒婚の手順

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実際に卒婚を進めたいときには、以下の手順で進めましょう。

1. 卒婚の条件を話し合う

まずは相手との間で、卒婚の条件を話し合い、以下のような事項を取り決めましょう。

  • 別居するか同居を継続するか
  • 生活費の分担方法
  • 同居の場合、共有部の掃除などの家事分担
  • 他の異性との交際を認めるか
  • 病気になったり介護が必要になったりしたときの対処方法
  • 親戚との関わり方

2. 家族の同意を得る

配偶者以外の家族のいる方は、事情を伝えて卒婚に理解を得ておくとトラブルが生じにくくなります。

3. 遺言書を作成する

卒婚しても相手に相続権が認められます。
遺産をわたしたくない場合には、遺言書を作成しておきましょう。
ただし相手の遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求をされる可能性があるので、遺留分には注意を払う必要があります。

4. 書面化する

相手との間で卒婚の条件についてまとまったら、内容を書面化するようおすすめします。
後に、夫婦間のトラブルを防ぐことができますし、万が一、不貞などの問題が現実化したとき、書面があると解決方針を立てやすくなるからです。心配な方は、弁護士へ相談するとよいでしょう。

5. 将来生活に変化が起こったとき

将来的に介護が必要になったときなど、生活に変化が起こったら、基本的に卒婚条件として取り決めたとおりに対応しましょう。
ただし取り決めた事項のみによって対応できない場合には、そのときの状況に応じた判断が必要となります。
迷ったときには弁護士へ相談してみましょう。

卒婚に関するよくある疑問

最後に、卒婚に関するよくある疑問とその回答を2つ紹介します。

卒婚をしたら恋人を作るのも自由?

卒婚をしたら、配偶者以外に恋人を作ることも自由なのでしょうか?

まず原則として、配偶者がいながら外部に恋人を作って不貞行為に及んだら、離婚請求や損害賠償請求の対象となります。

しかし、卒婚後の場合には卒婚の目的や夫婦それぞれの考え方などによって異なるため、まずは夫婦間でよく話し合うとよいでしょう。
たとえば、夫婦の役割から解放されたいものの婚姻関係が破綻しているのでない場合には、外部に恋人を作る合意は得られないかもしれません。

一方、お互いにもはや男女としての愛情はなく婚姻関係が破綻しているものの世間体を理由に法律上の離婚をしないのみであれば、外部に恋人を作ることについて合意できる場合もあるでしょう。
仮に合意ができるのであれば、そのことを書面化しておくことも一つです。

ただし、書面で合意をしたからといって、絶対に慰謝料請求や離婚請求の対象とならないとは言い切れません。

なぜなら、夫婦間でした合意は、夫婦の一方から取り消すことができるとされているためです(民法754条)。

仮に慰謝料請求された場合には、夫婦関係が破綻していたかどうかなど、さまざまな状況から個別に判断されることになるでしょう。

卒婚の合意は取り消せる?

いったん夫婦間で卒婚について合意をして書面化したものの、その後通常の夫婦関係に戻りたいと考えた場合、卒婚の合意を取り消すことはできるのでしょうか?

仮に当事者である夫婦がいずれも取り消しに合意するのであれば、取り消すことに問題は生じないでしょう。

では、たとえば夫が「卒婚を取り消して通常の婚姻関係に戻りたい」と考えている一方で、妻は「卒婚を続けたい」と主張している場合には、どうなるのでしょうか?

先ほども触れたように、法律上は、婚姻期間中の夫婦の合意は一方的に取り消すことが可能とされています。
しかし、裁判例では、夫婦関係が破綻した後は合意を取り消すことができなくなるものとされています。
そのため、合意を取り消すことができない場合もあり得ます。

また、合意を取り消すことが可能だとしても、それだけでは問題が解決しない場合が多いでしょう。
卒婚にまで至った経緯がある以上、一方的に合意を取り消したとしても、それだけで卒婚以前の夫婦関係に戻るわけではないからです。

また、冒頭でも触れたように、「卒婚」について法律で定義があるわけでもなく、卒婚の形もさまざまです。

そのため、問題が生じた際の対応方法は個別の状況によって異なり、一律で論じられるものではありません。
お困りの場合には、弁護士へご相談ください。

まとめ

素材_ポイント
卒婚にはメリットだけではなくリスクもあります。
離婚か卒婚か、どちらを選択すべきかについては、ご夫婦の状況や親族関係によっても変わってきます。
また、卒婚をする際には、将来トラブルにならないよう、夫婦間で卒婚の条件について、十分な話し合いをすべきです。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

・離婚か卒婚かという判断は非常に重く、簡単にできるものではありません。
弁護士にご相談いただくと、離婚、卒婚それぞれのメリット、デメリットについて具体的にアドバイスいたします。

・卒婚前に夫婦間で取り決めておくべき事柄について、具体的に弁護士にご相談いただけます。

・卒婚後、予想していない事態が発生し、話し合いがつかない場合には、早めに弁護士にご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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