コラム
公開 2022.02.08 更新 2023.03.09

離婚の「公正証書」とは?内容や作成手順、費用、必要書類を弁護士がわかりやすく解説

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協議離婚をするのであれば、合意した離婚条件について公正証書にしておくことをおすすめします。
なぜなら、養育費や財産分与などの支払いを滞納されたとき、公正証書があればすぐに強制執行手続きが可能になるからです。
離婚に関する公正証書は、お近くの公証役場で作成してもらえます。
今回は、公正証書が必要な理由や作成手順、必要書類や費用について弁護士がくわしく解説します。

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公正証書とは

公正証書とは、個人や法人などからの嘱託により、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。
文書を公正証書化することで、文書の成立について真正である(その文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたものである)との強い推定が働きます。

公証人が執務する事務所のことを公証役場といい、離婚協議書を公正証書とする場合には最寄りの公証役場へ出向いて行うことが一般的です。

公証役場は全国に約300か所ありますが、すべての市区町村にあるわけではありません。※1
東京都に40か所以上の公証役場がある一方で、多くの県において公証役場は数か所程度です。

離婚協議書を公正証書にする必要性とメリット

離婚協議書を公正証書にするためには、公証役場の手数料が必要です。
では、費用をかけてまで離婚協議書を公正証書とすることには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

主なメリットは、次のとおりです。

養育費などが不払いとなった際に強制執行が容易となる

離婚協議書を公正証書とすることの最大のメリットは、訴訟などを経ずに強制執行が行える点です。

離婚に際しては、慰謝料や財産分与、養育費など、金銭の授受について取り決めることが多いでしょう。
しかし、特に養育費など長期にわたって支払いが継続するものは、たとえその場では合意をしても、滞納されてしまうリスクがあります。

滞納をする側は、連絡を絶ったり、さまざまな理由を付けて支払いを先延ばしにしたりするため、これを自分で取り立てることは容易ではありません。

このような際に利用できる法的な制度が、強制執行です。
裁判所に強制執行を申し立てることにより、裁判所が相手の財産や給与などを差し押さえ、相手が滞納している養育費などを強制的に取り立てることが可能となります。

しかし、仮に離婚協議書など合意書面が残っていても、これが公正証書でなければ、すぐに強制執行へ進むことはできません。
この場合には、まず訴訟や支払督促を申し立て、相手に支払い義務があることを裁判所に認めてもらう必要があります。
その後、ようやく強制執行へ進むことが可能です。

なお、財産分与や養育費の内容自体の合意ができていない場合は、まず家庭裁判所へ調停または審判を申し立てる必要があります。

一方、養育費などについて定めた離婚協議書が公正証書となっていれば、改めて養育費調停や養育費審判を経ることなく、いきなり強制執行手続きに進むことができます。
また、強制執行を避けたいとの心理が働くため、滞納の抑止力ともなりやすいでしょう。

このことから、特に養育費など長期にわたって相手から支払いを受ける内容の取り決めをする場合には、公正証書にしておくべきであるといえます。

「離婚協議書の内容に同意していない」などの主張を防げる

離婚協議書を公正証書としなかった場合には、相手から「自分は合意していない」や「勝手に印鑑を押された」などと主張されてしまうリスクがあります。

一方、公正証書とした場合には公証人の面前で作成して双方が捺印をするため、後からこのような言い逃れをすることはできません。

原本が公証役場で保管される

離婚協議書を公正証書とした場合、原本自体は公証役場で保管されます。

手元には正式な写しである「正本」や「謄本」が交付されますが、万が一紛失した場合であっても再交付を受けることができるため安心です。

自分で文言を作成する必要がない

離婚協議書を公正証書としない場合には、自分たちで協議書の文言を作成する必要が生じます。
一方、公正証書で離婚協議書を作成する場合には、合意内容を公証人が文書化してくれるため、自分で文言を作成する必要がありません。

なお参考までに、美濃加茂公証役場のウェブサイトで離婚公正証書のサンプルが掲載されています。
[参考] 美濃加茂公証役場:離婚給付契約公正証書サンプル

公正証書を作成する手順

公正証書は以下の手順で作成しましょう。

1. 離婚条件を取り決める

まずは夫婦で話し合って離婚条件を取り決める必要があります。
公証役場では話し合いの仲介や離婚条件についてのアドバイスはしてもらえません。
事前に次のような事項について合意をまとめておきましょう。

  • 親権:未成年の子どもの親権をどちらが持つのか
  • 養育費:養育費は、いくら、いつ、どのような方法で支払うのか
  • 面会交流:どのような方法で面会交流を行うのか
  • 慰謝料:発生するのか。発生する場合には、いつ、いくら、どのような方法で支払うのか
  • 通知事項:住所などが変わった際、通知義務を課すのか

ほかに、年金分割や財産分与について定める場合もあります。

合意すべき内容がわからない場合や、相手が提示した条件が適正かどうかなどに悩んでいる場合には、弁護士へご相談いただくことをおすすめします。

2. 離婚協議書を作成する

自分たちで取り決めた離婚条件を書面化しましょう。
書面があると、公証人へ離婚条件を伝えやすくなります。

3. 公証役場へ申し込む

準備ができたら公証役場へ公正証書作成の申し込みを行います。
場所についての制限は特になく、どこの公証役場でもかまいません。

4. 必要書類を用意する

公正証書を作成する際には必要書類を用意しなければなりません。
公証人から指示を受けて、書面作成日までに準備しましょう。

5. 夫婦で公証役場へ行って署名押印する

公証人と日程調整を行い、公正証書を作成する日にちを決めます。
当日は夫婦が2人で公証役場へ行き、必要書類を提出して署名押印して公正証書を完成させます。
当事者には公正証書原本の写しである正本や謄本が交付されます。
相手と顔を合わせたくない場合などは、弁護士などの第三者に、公証役場への出席を委任することもできます。

公正証書の必要書類

公正証書の必要書類
公正証書を作成する際には、一般的に以下の書類が必要です。

  • 自分たちで作成した離婚協議書、離婚条件をわかりやすく記載したメモや書面
  • 顔写真つきの身分証明書(運転免許証やパスポート等)など、本人確認のための資料
  • 婚姻関係や親子関係を確認できる戸籍謄本
  • 財産分与対象に不動産が含まれている場合、不動産の登記簿謄本、固定資産評価証明書または納税通知書
  • 年金分割の合意をする場合、基礎年金番号のわかる年金手帳等

代理人に委任する場合

公証役場の出席を代理人に委任する場合、以下の書類も必要です。
なお、弁護士も公正証書作成時の代理人になれます。

  • 委任状(実印にて押印)
  • 印鑑登録証明書
  • 代理人の本人確認書類

公正証書にかかる費用

公正証書を作成するときには、公証人の手数料がかかります。
手数料について、まずは、財産分与、慰謝料、養育費等の金額から算定します。

正本や謄本の取得費用

公正証書の正本や謄本(写し)を取得する際には、1枚につき250円がかかります。

公正証書を作成するときの注意点

公正証書を作成するときの注意点
公正証書を作成するときには、以下の2点に注意してください。

離婚条件の相談はできない

公証役場では離婚条件の相談に乗ってくれませんので、事前に自分たちで合意しておく必要があります。
相手と話し合っても、離婚条件について折り合いがつかない場合は、離婚条件の定め方や、交渉の進め方について弁護士にご相談ください。

差し押さえを行うための送達について

公正証書の約束通りに支払ってもらえない場合、訴訟等を経ずに相手の給料や預金を差し押さえすることができます。

ただし、その前提として、公正証書を相手に「送達」しておく必要があります。
公正証書作成時に送達しておかないと、後にあらためて送達申請しなければなりませんが、相手方が住所変更してしまい、送達先の調査に時間がかかる場合もあります。

そのため、通常は、相手方本人が公証役場へ出頭している場合はその場で本人に交付して送達し、そうでない場合(相手方が代理人を立てた場合など)は、直ちに郵送により送達を行います。

まとめ

協議離婚をするのであれば、合意内容をまとめた公正証書を作成しておくことをおすすめします。
自分たちで話し合って離婚条件が取り決められるのであれば、あらかじめ合意内容をまとめたうえで、お近くの公証役場へ申し込みましょう。

夫婦間の話し合いのみでは離婚条件について合意できない場合には、弁護士にご相談いただき、離婚条件の決め方や、交渉の進め方についてアドバイスを受けることをおすすめします。

弁護士に依頼をした場合には、弁護士が代理人として交渉することになり、交渉がまとまりやすくなるでしょう。
また、相手と直接顔を合わせたくない場合には、弁護士に委任をすることで代わりに公証役場へ出向いてもらうことも可能です。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

・離婚条件に関し、分からないことがあれば、一人で悩まずに弁護士にご相談いただく事をおすすめします。
・財産分与の取り決め方や交渉の方法など、具体的に弁護士にご相談いただけます。
・弁護士に依頼すると、代理人として、相手と離婚条件に関する交渉をしてもらうことができます。
・離婚協議書の内容に不備があると、離婚後にトラブルになることがあります。弁護士にご相談いただくと、離婚協議書の具体的な文言について、アドバイスいたします。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。早稲田大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院法学研究科修了。一般民事、特に離婚事件に関する解決実績を数多く有する。離婚カウンセラーの資格を取得しており、法律的な問題を解決するのみならず、常に依頼者の方の心情に配慮し、不安や悩みに寄り添う対応を心掛けている。
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