離婚前に別居をした場合には、住民票を異動するべきなのでしょうか?
また、相手へ転居先を知られたくない場合に対策を取ることはできるのでしょうか?
今回は、別居後の住民票異動にまつわる諸問題について、弁護士が詳しく解説します。
目次
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離婚前に別居をしたら住民票は移すべき?
相手と正式に離婚が成立する前に、別居をする場合もあるかと思います。
では、この場合に住民票は移すべきなのでしょうか?
はじめに、離婚前の別居段階で住民票を移すべきかどうかについて解説します。
一時的な別居なら住民票はそのままがベター
別居がいったん冷却期間を置くためなど一時的なものであれば、住民票を異動するのは少し待ったほうがよいでしょう。
後ほど解説するように、住民票を異動するとさまざまな手続きや検討すべき事項が生じるためです。
特に、子が市の保育園や小中学校に通っている場合などには、影響が大きくなります。
離婚への意思が固い場合には住民票異動の検討を
すでに離婚への意志が固く、元の家へ戻るつもりがないのであれば、早期に住民票を異動したほうがよいでしょう。
なお、住民基本台帳法では、住民票の異動は引越しをしてから14日以内に行わなければならないとされています。
離婚前の別居で住民票を移すメリット
離婚前の別居で転居先に住民票を移す主なメリットは、次のとおりです。
復縁の意思がないことが明白となる
住民票を引越し先へと移すことで、元の家に戻る意思がないことが明白となります。
これにより、離婚への意思の固さが相手へ伝わりやすくなるでしょう。
また、当事者同士では離婚についての協議がまとまらず離婚調停(調停委員立ち合いのもと、裁判所で行う離婚についての話し合い)や離婚審判(離婚について裁判所が決める手続き)へと移行した場合に、調停委員や裁判官に対しても離婚への意思が固いことが伝わりやすくなります。
結果的に、離婚が認められやすくなる効果が期待できるでしょう。
子の転校手続きを進められる
子が通っている学校の校区外へ引っ越した場合であっても、住民票を移していなければ、原則として転校手続きを進めることができません。
そのため、子の通学に支障が出る場合もあるでしょう。
一方、住民票を異動した場合には、子の転校手続きを進めることが可能となります。
この点は、子の状況によってメリットともなればデメリットともなり得るため、特に慎重な検討が必要です。
異動先で児童手当が受給できる
児童手当とは、中学校卒業までの児童を養育している人のうち、所得が一定額以下である世帯に支給される手当です。
【参考】内閣府:児童手当制度のご案内
この手当は、原則として世帯主に対して支払われています。
対象となる子とともに住民票を異動することで、原則として異動先で子と同居をしている人が児童手当を受け取ることが可能となります。
保育料が下がる場合がある
子の保育料は市区町村によって異なりますが、多くの市区町村で、世帯収入に応じて金額が変わる形をとっています。
そのため、子とともに転居先へ住民票を移して離婚予定である配偶者との世帯が分かれることで、保育料が下がる可能性があります。
こちらについては、あらかじめ転居先の自治体へ確認しておくとよいでしょう。
離婚前の別居で住民票を移すデメリットと注意点
正式に離婚が成立する前に住民票を移すことには、デメリットや注意点も存在します。
特に注意すべき点は、次のとおりです。
子の転園や転校が必要になる
校区や市区町村をまたいで住民票を移した場合には、子の転園や転校が必要となります。
そのため、子にとっての環境が大きく変わってしまうことになるでしょう。
子の年齢にもよりますが、あらかじめ子の意見もよく聞いて、転校の時期などについては可能な限り子の意見も尊重することをおすすめします。
住宅ローンの契約違反となる可能性がある
転居をする人が住宅ローンの契約者や連帯保証人となっている場合には、無断で引越しをしてしまうと金融機関との契約違反となる可能性があります。
特に、契約者が無断で引越しをすると、ローン残額をまとめて請求できる旨の規約(「期限の利益の喪失」といいます)が定められている場合があるため、注意が必要です。
そのため、住宅ローン返済中の家から転居する場合には、あらかじめ金融機関に相談をしておく必要があるでしょう。
無断で子を連れだせば親権で不利となる可能性がある
相手方の同意を得ることなく無断で子を転居先に連れ出してしまうと、親権において不利となる可能性があります。
そのため、特に親権について争いがある場合には、相手の同意なく子を連れ出すことは避けるべきでしょう。
また、相手の同意を得たうえで子を連れて引っ越す場合においても、その旨を書面で残しておくことをおすすめします。
悪意の遺棄と判断される可能性がある
相手を残して家を出ることが「悪意の遺棄」に該当すると判断されれば、慰謝料請求の原因となるなど離婚において不利となる可能性が高くなります。
たとえば、相手にほとんど収入がないにもかかわらず主に収入を得ている側が勝手に家を出て婚姻費用を家に入れなくなった場合や、相手が病気などで1人での生活が難しいにも関わらず放置をして家を出た場合などには、悪意の遺棄と判断される可能性が高いでしょう。
悪意の遺棄と判断されてしまわないよう、家を出る際には相手の同意を得ておくとよいでしょう。
また、悪意の遺棄に該当するかどうかの判断に迷う場合には、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。
国民健康保険の負担が生じる場合がある
健康保険には、サラリーマンなどの給与所得者が主に加入する健康保険と、自営業者などが主に加入する国民健康保険とが存在します。
このうち、国民健康保険には「扶養」という概念はありませんが、世帯主にまとめて請求がされるため、世帯主が世帯全員分を支払っていることが一般的です。
一方、引越しをして住民票を移すと世帯が分かれるため、国民健康保険の請求先も別々となります。
結果的に、これまで配偶者が負担していた国民健康保険の保険料を、自分で負担する必要が生じる可能性があるでしょう。
国民健康保険の負担についてよりくわしく知りたい場合には、市区町村の国民健康保険窓口へあらかじめ相談しておくことをおすすめします。
別居後の住民票異動先を相手に知られたくない場合
離婚前に別居した場合、転居先を相手に知られたくないという場合もあるかと思います。
その場合に検討すべき対策は、次のとおりです。
住民票を異動しないで引越しだけをする
次で解説するDVなどの事情が特に存在しない場合において、転居先を知られたくない場合には、住民票を移さずに引越しだけをすることが一つの選択肢となるでしょう。
他人の住民票の写しは原則として取得することはできない一方で、夫婦の相手方の住民票の写しや子の住民票の写しであれば、特に理由がなくても取得できてしまうためです。
住民票を移していなければ、相手が住民票の写しを取得したところで、元々住んでいた家の住所が表示されるのみとなりますので、住民票の表記から転居先が知られることはありません。
DVなどの場合には住民票の閲覧制限をかける
相手からDVやストーカー行為を受けている場合や、児童虐待がある場合などにおいては、住民票の閲覧制限をかける制度の利用を検討しましょう。
住民票の閲覧制限をかけることで、仮に加害者である相手が住民票の写しなどの交付請求をした場合であっても交付が拒絶されるため、住所を知られることを防ぐことが可能となります。
制度を利用するためには、住所地の市区町村役場に事前に相談をしたうえで、手続きを踏むことが必要です。
手続き方法の詳細や事前相談の受付方法は市区町村によって異なる場合があります。
まずは、住所地の市区町村役場へ電話などで問い合わせてから、手続きの流れを確認するとよいでしょう。
離婚前の別居で住民票を移す手続き
正式に離婚が成立する前に別居先へ住民票を移すための手続きは、次のとおりです。
なお、ここでは住民票の閲覧制限については考慮せず、一般的な手続き方法を解説します。
同一市区町村内で住民票を移す場合
同一市区町村内で住民票を移す場合には、引越しをしてから14日以内に、住所地の市区町村役場へ転居届を提出しましょう。
転居届の様式は、市区町村役場の窓口(名称は市区町村によって異なりますが、「市民課」や「住民課」など)で受け取ることが可能です。
手続きをする際には、引越しをする人全員分のマイナンバーカード(または通知カード)と、窓口へ出向く人の本人確認書類(運転免許証など)、認印を持っていきましょう。
なお、状況に応じて児童手当の手続きや国民健康保険の手続きなどが別途必要となります。
転居届の提出と同日に済ませることのできる手続きも多いため、市区町村役場へ出向く回数をできるだけ減らしたい場合には、併せて行うべき手続きや別途持っていくべき書類などについて、あらかじめ市区町村役場へ電話で問い合わせておくとスムーズです。
市区町村をまたいで住民票を移す場合
市区町村をまたいで住民票を移す場合には、二段階の手続きが必要となります。
まず、元々住んでいた市区町村の役所で転出の手続きを行いましょう。
この手続きをすることで、「転出証明書」の発行が受けられます。なお、マイナンバーカードを用いて転出手続きを行う場合は、転出証明書の受領・が不要になります。
転出手続きをする際には、認印や本人確認書類(運転免許証など)のほか、引越しをする人全員のマイナンバーカード(または通知カード)を持っていきましょう。
その後、引越し先となる市区町村役場で転入手続きを行います。
転入手続きをする際には、前住所の市区町村で発行してもらった転出証明書の原本のほか、転出手続きの際と同じく本人確認書類や引越しをする人全員のマイナンバーカード(または通知カード)、認印などを持っていきましょう。
転入手続きは、引越しをしてから14日以内に行わなければなりません。
また、転出証明書の転出予定日から30日以内に転入手続きを行うことが必要です。
なお、状況によっては転出や転入の際に児童手当の手続きや国民健康保険の手続きなどが別途必要となる場合がありますので、あらかじめ確認したうえでまとめて手続きをしておくとスムーズでしょう。
住民票異動後に行う主な手続き
住民票を異動すると、その後さまざまな手続きが必要となります。
主に必要となる手続きは、次のとおりです。
- 児童手当の受給者変更:児童手当の受給対象である場合に必要です。転居や転入とあわせて手続きができる場合もあります。
- 国民健康保険:引越しをした人が国民健康保険の加入者である場合などに必要です。転居や転入と併せて手続きができる場合もあります。
- 子の転園や転校:あらかじめ園や学校と相談して手続きを進めましょう。
- 運転免許証の住所変更:引越先を管轄する警察署で手続きします。その他の手続きで住所変更の証明書類として使える場合があるため、住民票の異動後早期に手続きを済ませておくとスムーズです。
- 郵便局の転居手続き:手続きをしておくことで、旧住所へ届いた郵便物の転送が受けられます。インターネット上からでも手続きが可能です。
- 自動車の住所変更手続き:引越しをした人が自動車を持っている場合に必要です。陸運局などで手続きをします。
- 金融機関の住所変更手続き:口座を持っている銀行や証券会社などで手続きをします。
必要な手続きは、状況や利用しているサービスなどによって異なります。
そのため、まずは公的な手続きと郵便局の転居手続きを済ませ、その後は届く郵便物などを確認しながら、順次手続きを進めていくとよいでしょう。
まとめ
離婚前の別居で住民票を移すべきかどうかは、ケースバイケースです。
特に子が小さい場合には転園や転校が必要となる場合もありますので、慎重に検討するべきでしょう。
離婚前の別居や離婚に関する条件でお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所へご相談ください。
Authense法律事務所には離婚問題に詳しい弁護士が多数在籍しており、親身になって問題解決をサポートいたします。
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