セックスレスという言葉が、珍しくなくなったのはいつ頃からでしょうか。じつは、1992年(平成4年)頃には既に流行語としての地位を確立しています。近年は、セックスレスに限らず、性的不調和が離婚原因の一つとして認識され、慰謝料請求の判例なども続々と出されています。
実際のデータでは、平成29年度の離婚調停の申し立て件数は夫側から17,918件、妻側から47,807件。そのうち、夫側から2,316件(全体の約12.9%)、妻側から3,500件(全体の約7.3%)が、性的不調和を理由に離婚を訴えている状況です。
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当事者双方の合意があればセックスレスで離婚できる
日本性科学会の定義によれば、セックスレスとは、性交や性的接触が無くなっている状態を指すとのこと。より具体的には、『特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクトが1ヵ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合』を意味します。それでは、セックスレスを理由に離婚が成立するのでしょうか。
・協議離婚であれば、理由にこだわらず離婚できる
離婚が成立するには、夫婦である当事者双方の合意が必要となります。離婚することに対して、互いが望み合意すれば、どのような理由であろうとも離婚することができます。このような離婚の形式を協議離婚といいます。つまり、セックスレスが理由であろうと、極端なことをいえば、具体的な理由がなくとも、協議離婚であれば離婚が成立します。
・調停離婚でもセックスレスで最終的に合意すれば離婚できる
当事者が離婚について合意しない場合は、次のステップとして調停による離婚の成立を目指します。調停は、裁判所の制度です。裁判とは異なり、テーブルにて話し合いを行います。弁護士や各種専門家など、社会で活躍した有識者から選ばれた調停委員が中心となって、話し合いを進めていきます。相手との直接交渉はせず、調停委員を通じて意向を伝えてもらいます。最終的には、セックスレスが理由の離婚について、調停委員が提示した解決案に互いが合意するかで、調停成立か不成立かに分かれます。調停において合意がなされれば、調停調書が作成され、離婚することが可能となります。
なお、調停を経ずにいきなり裁判に持ち込むことはできません。日本は「調停前置主義」を採用しているため、必ず調停、裁判というステップを踏まなければならないので、注意が必要です。
セックスレスは「婚姻を継続し難い重大な事由」の可能性あり
それでは、夫婦である当事者で話し合ったにもかかわらず、また調停を利用しても合意に至らない場合は、離婚することができないのでしょうか。このような場合は、裁判による離婚成立を目指すことになります。
・裁判離婚では「離婚原因」に該当するかが焦点となる
裁判による離婚の場合、最終的には裁判官が法の名の下に、離婚を認めることになります。つまり、当事者の一方が離婚に対して拒否の意思表示をしていたとしても、強制的に離婚させるわけです。結果的には当事者の自由意志に反するため、裁判離婚が成立する場合は、例外的な事情によることが必要なのです。
実際には、民法770条に明記された5つの離婚原因に該当すれば、離婚が成立する可能性が高いといえるでしょう。5つの離婚原因とは、以下の内容です。
- ・配偶者に不貞な行為があったとき
- ・配偶者から悪意で遺棄されたとき
- ・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- ・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- ・その他結婚を継続し難い重大な事由があるとき
・セックスレスは「その他結婚を継続し難い重大な事由があるとき」?
一見すると、セックスレスは5つの原因に当たりそうにない気もします。一番近いと思われるのが、「結婚を継続し難い重大な事由があるとき」でしょう。
ここで、「結婚を継続し難い重大な事由があるとき」とは、どのような内容を意味するのでしょうか。具体的な事例としては、以下が考えられます。
- ・暴力や虐待
- ・浪費
- ・セックスレスなどの性の不一致
- ・限度を超えた宗教活動など
ただ、上記のような事情があるだけでは足りません。これらの事情により、「既に夫婦関係が破綻しており、回復の見込みがない」と判断される必要があるのです。つまり、上記の具体的な事情により、夫婦関係が修復不可能と認められるだけの主張、証拠が必要となるのです。
ポイントは、セックスレスに合意していない証拠
それでは、実際に具体的な事例で説明しましょう。
セックスレスであることに一度も不満を言えなかったAさんの場合
Aさんは、熱心なクリスチャン一家に育てられ、性生活においても、女性が熱心にふるまうことは恥だと教えられてきました。そのため、結婚して10年目でセックスレスの状態となり、既に1年が過ぎても、不満を口に出すことはありませんでした。このような状況で、Aさんはセックスレスを理由に裁判で離婚が成立するのでしょうか。
さて、Aさんのケースでは、非常に微妙なラインといえるでしょう。というのも、世の中には、セックスレスであっても、そのまま不満もなく、夫婦関係を続ける場合もあります。これは、互いが、セックスレスという状況に合意しているからです。
Aさんのケースでは、一度もセックスレスに対して不満を表しておらず、相手からすれば、不満があるとは分かりづらい状況です。ここで初めてAさんの気持ちが分かり、セックスレスの状況を改善する意向があれば、事態は好転する可能性があるといえます。
裁判官による判断のため、一概には言い切れませんが、夫の態度が改善され、夫婦セラピーに参加するなどがなされれば、修復可能ともいえる状況です。そのため、このような状況では、直ちに「夫婦関係が破綻しており、回復の見込みがない」とは判断されないでしょう。
「セックスレスを改善する努力をしたが無理だった」証拠が必要
このように、セックスレスは、オープンにしにくいという特殊性があります。夫婦であっても、向かい合って話すことは難しく、セックスレスだけの事情で離婚は認められない可能性が高いといえます。まずは、以下の事実を裏付ける証拠の確保が必要です。
- ・セックスレスに合意していない
- ・セックスレスの改善に努力した
- ・あらゆる手段を尽くしたが、セックスレスの状況が改善されない
- ・セックスレスでは夫婦関係を続けることが難しい(例:子どもが欲しいなど)
セックスレスの事実だけでなく、上記の事情があいまって、総合的に判断すれば「夫婦関係が修復不可能」となる可能性が高いでしょう。特に、女性から申し立てた場合、年齢が関係する場合があります。女性は出産可能な年齢が限られているため、「子どもが欲しい」という事情が絡めば、より、婚姻関係を継続させる利益がないと判断される可能性が高まるといえます。
証拠としては、日頃からつけている日記、公的窓口への相談履歴などが挙げられます。これらは、実際にセックスレスとなっている状況の証拠にもなります。またセックスレスが原因で困っている、相談をしたことで改善するための努力をしているとも認められやすいでしょう。夫婦セラピーを受けて努力をしたなどの事実も効果的です。
まとめ
セックスレスを理由に離婚したいと考えても、なかなか他人に対して相談するハードルは高いといえます。性生活のことを口に出すのも、ましてやセックスレスが不満、という意思表示も非常に勇気がいるもので、女性から言い出すには抵抗があるかもしれません。
しかし、悩みを抱えず、少しでも早く弁護士に相談することをお勧めします。相談相手となる弁護士は、法律の専門家であり、プロフェッショナルです。知り得た情報も口外しない守秘義務を負っています。そのため、安心して相談することができ、不満や疑問があれば、すぐにでもアドバイスを受けることができるので、検討してみるのもいいかもしれません。
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