コラム
公開 2019.10.31 更新 2023.04.06

離婚時の退職金や年金はどうなる?

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厚生労働省が発表した平成28年の人口動態統計において、離婚件数は21万6,805組となっており、そのうち同居期間20年以上の夫婦の離婚件数は、3万7,604組と全体の17%を占めています。[注1]

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退職金が財産分与となる2つのケース

離婚時の財産分与・退職金の扱い方

退職金のすべてが財産分与の対象となるわけではありません。
退職金が既に支払われている場合とこれから支払われる場合で注意すべき点が異なります。

退職金が既に支払われている場合

既に支払われた退職金が残っている場合、以下の2つの条件を加味して、分与される金額が決まります。

  • ・婚姻期間(同居期間)が何年だったのか
  • ・退職金の形成にどれだけ貢献しているか

退職金が無くなっている場合

退職金が支払われてから、しばらくして離婚すると退職金が既に無くなっている可能性もあります。この場合、財産分与の対象となる退職金が存在しない状況なので、分与の対象とならないケースがほとんどです。

退職金が支払われていない場合は会社の規定なども考慮する

退職金が支払われていない状況でも、今後の支給がほとんど確実といえる場合は分与の対象となります。この判断の場面では、会社が設ける退職金支給の規定などが考慮されます。

ただし、若年離婚した場合、退職がいつになるかわからない、退職金が支給されるかわからないため、分与が認められないケースがあります。
一方、若年離婚であっても、退職が既に決定してるうえに、退職金が支払われることが決まっているようなケースでは、分与の対象として認められることもあります。

退職金の分与額の算定方法

退職金分与の対象かどうかと同様に、算定方法も支払われている場合と、そうでない場合で異なります。

退職金が支払われていない場合

退職金が支払われていない場合は、自己都合退職と定年退職時の支払額を想定した場合で、算出方法が異なります。

自己都合退職の場合

別居時または離婚時に自己都合退職したと仮定して、退職金の支払額を算定するケースです。
この場合は、会社規定に基づく自己都合退職の場合の退職金をベースに支給額を算定します。この額から、結婚の時点までの勤続年数分を除きます。例えば、55歳で離婚した場合の退職金が1,500万円だとします。
そしてこの会社には20歳から勤め始め、30歳で結婚したとします。
この場合、勤続期間は35年、婚姻期間は25年になりますので、以下の式で計算されます。

1500万円【退職金総額】×(25年【婚姻期間】÷35年【勤続年数】)=1071万4286円

この額が財産分与の対象額となります。

定年退職時にもらう退職金を想定した場合

退職金がまだ支払われておらず、定年退職時にもらう退職金を分与する場合は、定年退職時に支払われる退職金を算出します。
仮に20〜60歳までの40年間での退職金が4000万円とします。婚姻期間が30〜50歳でその後定年までは別居していたというケースであれば、婚姻前の勤続年数分と別居後の勤続年数分を差し引いた、20年間に相当する2000万円を分与のベースとします。

4000万円【退職金】×(20【婚姻期間】÷40年【勤続期間】)=2000万円

この額が財産分与の対象となります。

退職金が支払われている場合は婚姻期間に応じた割合が対象

退職金がすでに支払われている場合は、全額のうち、婚姻期間に応じて割合が決まります。
勤続期間が20年で、婚姻期間は10年だった場合は、退職金の半分が分与の対象とみなされます。

退職金に関する財産分与は話し合いで決めるのが理想

退職金に関する財産分与は、夫婦で話し合って決めるのが理想です。
まずは、退職金を分割する意思が相手にあるかを確認したうえで、望む金額を伝えましょう。
特に退職金は上記のとおり、退職までの年数がそれなりにあったりすると、裁判で争っても財産分与の対象とならないこともありますので、できる限り話し合いの段階で、相手との合意を目指すのが良いでしょう。

同居している場合は、直接話し合いができますが、別居している場合であれば、財産分与の話合いに参加してくれない可能性もあります。

調停で決める

話し合いでまとまらなかった場合、次に家庭裁判所での調停で分与について話をすることになります。

特に退職金は、上で述べたとおり、一定の条件をクリアしないと財産分与の対象にならない財産ですので、実際に財産分与の対象になるかどうか、対象になるとしてこちらからいくらの金額を請求していくか、ということは慎重に検討が必要です。

なお、相手の退職金の金額が不明の場合は、調停の場で、調停委員を通して、相手に会社の退職金規定を提出するように求めるのが良いでしょう。

離婚裁判でも分与について争える

調停で財産分与がまとまらなかった場合は、場合によっては家庭裁判所で引き続き審判手続きを行い、財産分与について決定することもありますが、離婚についての争いなどが残る場合には、離婚訴訟を起こしその中で財産分与について争っていくことになります。

財産を開示させることも大切

退職金の分与には、相手方の財産も関係していきます。そのため、どれくらいの財産を保有しているかを提示してもらう必要があります。
ですが、話し合いでは、全財産を提示してくれないという可能性もあります。

財産を開示させるには弁護士会照会制度などを利用する

財産を開示させるには、弁護士会照会制度という制度を活用したり、裁判所の調停手続きなどの中で、相手方に裁判所を通して開示するよう求めていくなどします。

もっとも、上の弁護士会照会制度を使ったり、裁判手続きである調停になったとしても、強制的に財産の開示をさせることはできませんので、注意が必要です。

年金に関しては年金分割制度が定められている

離婚による年金分割の方法

年金の分割は、年金分割制度として定められています。この制度は、平成16年に導入され、離婚後に、婚姻期間中の配偶者の年金保険料の納付実績を分割して、もう一方の配偶者が納付した実績に加えることができるという制度です。

年金の分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類がある

年金の分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
どちらも年金分割をしてもらうための請求の期限が原則、離婚翌日から2年以内となっています。

合意分割は夫婦の合意が必要

合意分割は、夫婦の合意にもとづいて分割される仕組みになっており、分割の割合は最大2分の1となっています。

夫婦間での協議が難航して合意にいたらなかった場合、家庭裁判所による調停や審判によって分割の割合を決めます。

3号分割は夫婦間の合意は不要

3号分割は、合意分割と異なり、夫婦間での合意を必要としません。分割の割合は、一律2分の1となっており、第3号被保険者のみが対象となる点に注意が必要です。

年金分割の手続きは年金事務所に「標準報酬改定請求書」を提出

年金分割を行う場合は、所轄の年金事務所に、「標準報酬改定請求書」を提出します。このときには、年金手帳、離婚届、戸籍謄本に加え、分割の割合を定めた公正証書や、調停書、確定判決などを忘れずに持参しましょう。
なお、3号分割の場合、一律2分の1の割合で分割されるため、公正証書などの持参は不要です。

退職金と年金の分与は弁護士に相談する

退職金と年金の分与には、専門的な知識が必要になります。加えて財産の開示は、一個人で行うのには限界もあります。そのため、弁護士に依頼をすることで、分与に関する争いをスムーズに進められるケースも多くあります。

まとめ

離婚後の生活に大きな影響をおよぼす、退職金や年金の分与。これらは、まず、夫婦間での話し合いで決定するようにしましょう。特に退職金は、勤続年数や婚姻期間によって変化することが多いため、一般的な算出方法を把握しておき、お互いが納得するかたちで分与の割合を決めるのが大切です。

もっとも、話し合いでどうしてもまとまらない場合には、1人で悩んだり対応したりするのではなく、裁判所の調停手続きを利用したり、弁護士に相談、依頼して対応にあたってもらうということも検討してみてはいかがでしょうか。

記事を監修した弁護士
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