意外に思われる方は多いかもしれませんが、ペットは法律上“物”であり、離婚時に引き取り先を決める際には財産分与の考え方が適用されます。引き取り親となるために知っておきたいポイントを解説します。
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ペットは“物”として財産分与の対象になる
離婚をするとき、「ペットの親権は自分が取りたい」といういい方をされる場合があります。しかし、家族同然にかわいがってきたペットであっても、ペットは法律上、物(動産)の扱いです。つまり、ペットを引き取るときには、子どもを引き取るときのような“親権”という考え方がありません。ペットをどちらが引き取るかを決めるときには、財産分与の対象として、どちらが所有権を持つかを話し合うことになります。
・共有財産と特有財産
婚姻後に夫婦が共同で築いた財産を共有財産といいます。また、夫婦の一方が独身時代から所有しているものや遺贈・相続によって手に入れた財産、日常的に使う身の回り品など、一方に固有の財産といえるものを特有財産といいます。
離婚に際して財産分与の対象となるのは共有財産のみです。そのため婚姻以前からペットを飼っているようなケースでは、そのペットは独身時代に購入した人の特有財産となり、ペットを引き取ることができるのも独身時代にペットを所有していた人となります。
一方で、婚姻後にペットを購入した場合は、ペットも夫婦の共有財産です。たとえば、「ペットの購入費用は全額自分が出し、エサ代などペットを育てるのにかかった費用もほとんどを自分が負担しているので、ペットは自分の特有財産だ」などと主張されるケースもあります。しかしこの場合でも、ペットを購入する費用は夫婦の財布から捻出したと考えるのが一般的なので、ペットは共有財産として夫婦のどちらにも引き取る権利があります。
どちらがペットを引き取るかはどうやって決める?
どちらがペットを引き取るかは、他の財産分与と同じように夫婦間の話し合いで決めることができます。財産分与の考え方は、一方が専業主婦(夫)であるなどにかかわらず、原則として1/2です。しかし、ペットの引き取り先を決めるときに問題となるのは、ペットは土地や建物(不動産)などと同様、分けられない財産である点です。
離婚時の財産分与において、ペットなどのように分けられない財産を平等に分配する方法は主に2つあります。1つ目は財産を売却し、換金して売却益を1/2とする方法です。2つ目は一方が財産をそのままの形で引き取り、他方に同等の金銭やその他の財産を補てんする方法です。
しかし、ペットに物(動産)としての価値はほとんどありませんし、愛情を注いで育ててきたペットを、離婚するとはいえ手放そうと考える方はほとんどいないため、財産分与としてペットのことを考える際には、2つ目の方法が取られるのが一般的です。ペットには物としての資産価値はほとんどないものの、自分がペットを引き取る場合には相手の精神面などにも配慮し、一定のまとまった財産を渡すことで折り合いをつけるのがよいでしょう。
・自分がペットを引き取った場合、養育費を請求することはできるか
ペットを育てるのにも、毎日のエサ代や予防接種などの費用、病気やけがをすれば医療費など、何かとお金がかかります。そのため、自分がペットを引き取って育てるにしても、養育費としてペットにかかる費用の一部を相手に負担してほしい、と考える方もいるかもしれません。しかし、自分がペットを引き取った場合に、相手に離婚後もペットにかかる費用の一部を負担するよう請求することはできません。
そもそも離婚時にいう養育費とは、子どもを養育していくために必要な生活費を中心とする費用のことです。離婚して夫婦という形がなくなっても、夫婦のどちらも父親・母親として子どもの親であることに変わりはなく、離婚後も子どもの養育費を負担する義務があります。そこで、親としての義務から、子どもと一緒に住んでいない親(通常は親権をとらなかった親)に対しても、養育費を請求することができると考えられています。
一方で、ペットの場合は物(動産)という位置づけですから、ペットにかかる費用のすべては所有権を持つ人が負担しなければなりません。離婚時の財産分与により土地と建物を得ても、不動産を資産として所有する際に発生する固定資産税などの支払いを、相手に請求できないことと同じ考え方です。
このように、いくら夫婦2人で育ててきたペットであっても、離婚後にその費用の一部を負担するよう相手へ強制することはできないのです。ただし、相手が納得した上で一部を負担するように、話し合いで決めることはもちろん可能です。
・自分がペットを引き取らなかった場合、ペットとの面会を請求することはできるか
自分が子どもを引き取らなかった場合は、相手に対して子どもと会ったり交流したりすることを求めることができます。これを面会交流権といいます。子どもとの面会交流権は法律上も認められた権利ですが、ペットの場合は養育費の考え方と同じで、ペットと面会交流をさせるように相手へ強制することはできません。
しかし、子どもの場合は、養育費の支払いと引き換えに面会交流を認めるような取り決めは認められていませんが、ペットの場合ならこのような交渉も可能です。ですから、例えば相手の特有財産であるため自分にはペットの所有権が認められていなくても、「毎月○円ペットのエサ代を負担するから、月に○回会わせてほしい」といった交渉により、離婚後もペットに会えるようにすることもできるでしょう。
話し合いで決まらなければ調停や裁判も可能
財産分与は夫婦の問題ですから、ペットのことも基本的には夫婦の自由に決められます。どちらがペットを引き取るか、ペットにかかる費用の負担はどうするか、面会交流はどうするかなど具体的なことが決まったら、慰謝料やその他の財産分与など離婚時の他の取り決めと一緒に、離婚協議書に記載しておきましょう。
「ペットをどちらも引き取りたくてゆずらない」「相手がペットとの面会交流を認めてくれない」など、ペットの問題を夫婦間の話し合いでは解決できないときは、財産分与の問題のひとつとして、ペットのことも調停や裁判で争うことができます。
調停や裁判では、「どちらがペットの引き取り親としてふさわしいか、どちらに引き取られたほうがよりペットが幸せか」という観点から、さまざまな事情を考慮して引き取り親と面会の方法などが判断されます。引き取り親を決定する基準としては、具体的に次のような項目が挙げられるでしょう。
- ・これまでペットの世話にどれくらい関与してきたか
ペットの世話を主に行ってきたほうが引き取り親として有利になります。 - ・ペットにどれくらいなつかれているか
ペットがどちらと暮らすほうが幸せだといえるのかを判断する材料のひとつとなります。 - ・離婚後の生活環境がペットに適しているか
離婚後の住居にペットが快適に暮らせる環境があるかどうかも、引き取り親を決める際のポイントのひとつです。 - ・安定した収入があるか
子どもの場合と異なり、ペットには養育費を相手に請求するという考え方がないため、経済力は重要な判断材料のひとつとなります。専業主婦(夫)だからという理由で財産分与そのものが不利になるわけではありませんが、ペットを育てるという観点からいえば、ペットを養うだけの十分な経済力がないと判断されれば、引き取り親になれない可能性もあります。
調停調書や裁判の判決書には、調停・裁判で決定した面会交流の内容なども記載することが可能です。もちろん、ペットとの面会交流は法律で認められている権利ではないのでそれ自体を強制することはできませんが、万が一取り決め通りにペットとの面会交流などがなされなければ、調停調書・判決書を根拠として損害賠償請求が可能になります。
まとめ
愛情を持ってペットを育ててきた夫婦ほど、どちらもペットを引き取りたくてゆずらず、泥沼の争いに発展することが少なくありません。
たとえ自分がペットの引き取り親になれなくても、「週に1回はペットに会いに行く、散歩をさせてもらう」といったように、面会の条件を定めて交渉をすることは可能です。
長い目で見れば、ペットが年齢を重ねて高齢になるにつれ医療費などもかさんでくることが予想されますから、どちらが引き取ることがペットにとって最善なのかを冷静に判断して引き取り先を決めることが大切です。
離婚の際にペットのことで悩んでいる方は、一度弁護士など法律の専門家へ相談してみてください。
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