離婚が決まれば、新しい生活に向けての準備を始める必要があります。現在の持ち物を整理し、何を買い足すべきなのか、把握しなければなりません。
そこで、気になるのが財産分与です。
例えば、結婚の際に二人の生活に合わせて新調した冷蔵庫や洗濯機など、高価な家電製品一つとっても、どちらのものになるのかで、その後の生活の準備が大きく変わってきます。
離婚する二人の間には、日用生活に必要なものから、実際に家族貯金として貯めた現金まで、様々なものがあるといえます。これらのうち、財産分与の対象になるのは、どのようなものなのでしょうか。
今回は、財産分与の対象について、基礎知識を整理しながら、実際の具体例に触れつつ、解説します。
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離婚における財産分与の請求は民法で定められた権利
結婚生活において夫婦で協力して作り上げた財産を、離婚の際にはそれぞれ分ける必要があります。
民法においても「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」として、財産分与請求権を認めています(民法768条)。
財産分与の意味とは?
「財産分与の対象となるもの」について解説する前提として、そもそも、どうして財産分与請求権が民法で認められているのか、その意味を明らかにした方が理解しやすいでしょう。
・清算的側面
離婚で互いの関係を清算するとともに、夫婦が協力して得た財産も清算するのが公平という見地から、財産分与が認められています。
・扶養的側面
専業主婦など、これまで相手の扶養の中で生活してきた場合などは、離婚すれば自活するまでに一定の時間や費用がかかることもあります。
例えば、結婚を機に退職し再就職に時間がかかる場合などは、財産分与に離婚後の相手の生活を保障する内容も含めることもあります。
・慰謝料的側面
相手の不法な行為によって、精神的・肉体的に苦痛が生じた場合は、離婚による慰謝料(不法行為による損害賠償)を請求する場合があります。慰謝料の請求をせず、財産分与に付加して行うこともあります。
分割の割合は1/2になる?
財産分与については、当事者同士で自由に対象物や割合を決定することができます。
つまり、財産分与の3つの側面を考慮して、慰謝料的な意味合いや、扶養的な意味合いを持たせて分割することも可能です。
ただ、当事者の話し合いがまとまらず、調停や裁判所が決する場合には、財産分与の割合は一般的に1/2が多いです。
この割合は、専業主婦であっても変わりません。家事をしながら、財産の形成や維持に貢献していたと判断されるからです。なお、現実的には、夫婦の生活において実質的な貢献度合いを判断するのは難しいため、折半という形になっていると解されています。
離婚の財産分与の対象は共有財産
それでは、実際に財産分与を行うにあたって、分割の対象となるのはどのような財産でしょうか。
対象となる共有財産とは?
財産分与には清算的な側面があります。
つまり、公平の見地から、形式的に判断するのではなく、実質的にみて夫婦の共有財産に該当するものを分割するのです。
ここでの共有財産とは、「結婚生活において夫婦で協力して形成・維持した財産」を意味します。
例えば、専業主婦であるAさんの場合、家計をやりくりして夫婦の貯金を行っていました。
貯金の名義は夫婦の共有名義ではなく、夫名義としていました。
上記の場合に、この夫名義の貯金は、財産分与の対象となるのでしょうか。
このケースであれば、形式的には夫名義の貯金であるため、夫婦の共有財産とはいえないとも思えます。しかし、実体は夫が働き、妻であるAさんが家事を行って、両者が分担しています。家計をやりくりして捻出し貯めたお金は、夫婦として役割を分担して、協力し形成した財産といえます。形式的には夫名義の貯金であっても、実質的にみて判断すれば、財産分与の対象になるのです。
以下、代表的な財産を列挙します。
- ・預貯金
- ・有価証券
- ・保険
- ・年金
- ・退職金
- ・自宅などの不動産など
- ・自動車などの動産など
特有財産は対象とならない
一方、夫婦で協力して形成・維持していない財産は、もちろん財産分与の対象外となります。このような財産は、それぞれの特有財産と認められます。そもそも、公平の見地からみれば、当然の結果だといえるでしょう。
例えば、共働きのBさんには、結婚前から飼っていたペットの犬がいて、結婚時に犬と一緒に引っ越しをして住むことになりました。共働きで忙しかったBさんに代わって、日々の散歩など日常的な世話は夫が行い、現在は夫の方になついている状況です。
上記の場合、犬は財産分与の対象となるのでしょうか。
このようなケースでは、犬という財産につき、所有していたのはBさんです。世話は夫がしていましたが、結婚前からBさんが飼っており、夫婦で形成した財産とはいえません。
そのため、犬はBさんの特有財産といえ、財産分与の対象にはなりません。
以下、代表的な財産を列挙します。
- ・結婚前から所有していた財産
- ・結婚前から自分で貯めていた預貯金
- ・親からの相続によって得た財産
- ・日常的に単独で使用しているバッグなどの財産
財産分与の対象を決定するのは別居時
財産の範囲を決定する時期は、一般的に別居時と解されています。
同居してこそ夫婦の協力関係があると判断されるため、別居後に取得した財産は夫婦の共有財産とはいえないのです。
具体的には、預貯金や生命保険の解約返戻金などは、別居日を基準にするのが通常です。
同じ預貯金でも、別居日を基準に、夫婦の共有財産に含めるかどうかの結論が変わります。例えば、別居日以降にした預貯金は、貯金した側の個別の財産と解されるので、注意が必要です。
マイナスの財産も財産分与の対象として分割される?
ついプラスの財産ばかりに目が行きがちですが、財産には消極的なマイナスの財産もあります。
いわゆる借金(負債)です。
財産分与において、マイナスの財産(借金)も夫婦の財産として、離婚時に同じように分割されるのでしょうか。
マイナスの財産(借金)も財産分与の中で精算される
財産分与の目的でもある公平の見地からすれば、プラスだけでなく、マイナスの財産も財産分与の際に考慮するべきでしょう。
ですから、プラスの財産からマイナスの財産を控除して、分与する額を算定します。
具体的には、債務者が誰かを形式的に判断するのではなく、実質的にみて借金が「結婚生活の形成・維持のためになされたもの」かどうかで判断します。
なお、注意すべきは、夫婦の一方が同意なく借金をした場合です。本来であれば、個人の借金として夫婦の借金には当たらないとも思えます。しかし、日常生活において必要な範囲での借金であれば、結婚生活の形成・維持のためになされたものとして、夫婦の借金と解されます。
以下、代表的な借金を列挙します。
- ・結婚後の新居とするための家のローン
- ・マイカーのためのローン
- ・旅行など家族の娯楽のための費用
- ・新居で使用する電化製品を購入するための借金
- ・日々の生活費のための借金
- ・教育のための借金
- ・医療費のための借金
清算の対象とならない借金もある?
プラスの財産と同じ考え方で、清算の対象とならないマイナスの財産(借金)もあります。
夫婦の生活の形成・維持とは関係のない目的でなされたものは、特有財産となり、夫婦の借金とは判断されません。
以下、代表的な借金を列挙します。
- ・結婚前からある個人の借金
例)奨学金の返還など - ・結婚生活とは全く関係のない借金
例)個人的な趣味で許容範囲を超えた借金(ギャンブル、高価な絵画や装飾品など) - ・スキルアップのための学費の借金
まとめ
離婚時に、相手名義の財産がどれほどあるか、全てを把握することは難しいでしょう。
特に、財産分与を免れるために故意に財産を隠している場合には、気付かずに離婚条件が話し合われる可能性もあります。
このような場合に備えて、財産についての調査も検討してみてはいかがでしょうか。
具体的には、調査嘱託という裁判上の制度や、弁護士が弁護士会を通じて官公庁や企業などに問い合わせをする弁護士会照会制度などの方法があります。
相手に離婚を切り出す前に、事前の準備も含めて、弁護士などの専門家に早期の相談することをお勧めします。
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