コラム
公開 2020.11.25 更新 2021.10.04

DVから逃れて離婚するとき心配なお金の問題について~離婚と慰謝料、財産分与~

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DVを理由に離婚したくても、経済的な不安のために踏み切れない方が多数おられます。
しかし、離婚後の生活を支える手段はあるので、離婚の前にこのような制度を参考にしつつ離婚を検討してみてはいかがでしょうか。
今回はDVから逃れて離婚するときに気になるお金の問題について、弁護士が解説します。

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1.慰謝料

DVは違法行為です。常日頃から暴力を受けていると、被害者は多大な精神的苦痛を受けるので、DV事案で離婚する際には、被害者は加害者へ慰謝料を請求できます。

1-1.DVの慰謝料の相場

DVのケースにおける離婚慰謝料の相場は、だいたい50~300万円程度です。
以下のような事情があると慰謝料が高額になります。

  • 暴力の程度が激しい
  • 暴力が振るわれていた期間が長い
  • 暴力を振るう頻度が多い
  • 婚姻期間が長い
  • 被害者に後遺症が残った
  • DVが原因でうつ病などの病気になった
  • 被害者に落ち度がない
  • 未成年の子どもがいる

1-2.暴力の証拠になるもの

DVを理由に慰謝料を請求するには「暴力を受けた証拠」が必要です。以下のようなものを手元に集めておきましょう。

  • 診断書や診療報酬明細書
  • 画像や写真
  • 録音、録画
  • 証言

婚姻中、相手から暴力を受けているなら必ず病院に行って診察を受けておくことが大切です。
また激しい暴力によって身に危険を感じているなら我慢せずに警察に相談し、保護してもらいましょう。

2.財産分与

DV事案でも夫婦間に共有財産があれば、財産分与を求められます。

2-1.財産分与の対象

財産分与の対象になるのは、婚姻中に夫婦が共同で築いた財産です。例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 現金、預貯金
  • 株式
  • 社内積立
  • 生命保険、火災保険(解約返戻金のあるもの)
  • 不動産
  • 絵画や宝石、時計などの動産
  • ゴルフ会員権

一方、夫婦のどちらか一方が独身時代から持っていた財産は財産分与の対象になりません。
またどちらかの親から相続した財産や贈与を受けた財産も対象外です。

2-2.財産分与の割合

DV夫に対し財産分与を求めると、夫は強く拒絶する可能性があります。また「お前は稼いでないから財産はやらない」などと言われるかもしれません。

しかし夫婦の財産分与の割合は2分の1ずつが原則です。専業主婦や相手より収入が少ないケースであっても半分をもらう権利があるので、遠慮する必要はありません。

3.婚姻費用

DVが原因で離婚する場合、離婚交渉中に別居するケースが多数です。同居のままだと相手から暴力を振るわれる危険が高いからです。
ただ「別居するとお金がなくて生活していけない」という不安もありますよね?
実は夫婦が離婚前に別居するときには、収入の多い方は少ない方へ生活費を払わなければなりません。この生活費を「婚姻費用」と言います。婚姻費用は別居後離婚が成立するときまで請求できます。

直接相手に言っても払ってもらえない場合、家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てれば「調停委員」という第三者の介入のもとに支払いについて話し合いができますし、それでも相手が拒絶するようなら「審判」によって裁判官が判断を下してくれます。
調停や審判で決まったことに相手が従わない場合には、給料や預貯金などを差し押さえて取り立てることもできます。

婚姻費用の相場は家庭裁判所の「婚姻費用算定表」によって確認できます。
たとえば子どもがいない夫婦のみの家庭の場合で、夫の年収が500万円(給与所得者)、妻の年収が100万円(給与所得者)の場合、婚姻費用の相場は月額6~8万円となります。

裁判所:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

4.養育費

子どもがいる夫婦の場合、離婚後に親権者となりたい方が多いでしょう。
話し合いによってあなたを親権者とすることに合意ができればあなたが親権者になることは可能です。
経済的に不安があっても親権者にはなれるので、過剰に心配する必要はありません。

親権者になれば、離婚後は相手へ養育費を請求できます。
養育費も法律によって支払わねばならないと定められているお金なので、相手が拒絶しても養育費の支払いを請求することが可能です。調停や訴訟で決まったら必ず支払わねばなりませんし、離婚時に養育費の約束ができなかった場合でも、離婚後に「養育費請求調停・審判」で決定できます。

養育費の相場は、家庭裁判所の「養育費算定表」で確認できます。
たとえば14歳以下の子どもが一人、夫の年収が500万円(給与所得者)、妻の年収が100万円(給与所得者)の場合、1か月4~6万円程度となります。

裁判所:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

5.離婚時に充分なお金を請求するための手順

離婚時に配偶者から充分なお金を受け取りたいと考えるのであれば、自分たちだけで話し合って離婚条件を定めるという方法には注意が必要です。配偶者から暴力を振りかざされて威圧を受け、不利な条件で合意させられてしまうリスクが高いからです。
充分な給付を受けるため、以下の手順で離婚を進めましょう。

5-1.別居する

まずは別居をすることをお勧めします。暴力から身の安全を確保するためには、加害者である配偶者から離れることが必要です。また、同居したままでは相手の支配下にあるので、お金を要求するのが難しくなります。
別居に対する不安もあるかもしれませんが、緊急一時保護施設により一時的に保護してもらえる制度もありますし、配偶者からの暴力に関するお悩みについては公的機関による支援が受けられます。まずはお住まいの市区町村にある婦人相談所や配偶者暴力相談支援センター等へ相談してみましょう。

5-2.離婚調停、婚姻費用分担請求調停を申し立てる

次に家庭裁判所で離婚調停と婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。調停では「調停委員」が間に入って話を進めてくれるので、DV加害者の配偶者と直接交渉する必要がありません。調停委員から相手を説得してもらえたり、「調停案」を提示してもらえたりするケースも多々あります。
婚姻費用についても、当初は相手が拒絶していても調停委員から「婚姻費用は法律上払う義務がある」と説得してもらえば支払いに応じるケースも少なくありません。

調停を利用するとDV事案でも自分の意見を伝えやすくなるので、別居と同時に離婚調停と婚姻費用分担請求調停を申し立てると良いでしょう。

5-3.離婚訴訟を起こす

相手が頑なに離婚を拒否している場合、調停委員からどんなに説得されても離婚に応じない可能性があります。
調停を申し立てても合意ができずに調停が不成立になったら、離婚訴訟を提起することが多いです。
訴訟になれば、裁判官が証拠にもとづいて慰謝料や財産分与、養育費などの事項を決定します。暴力を受けた証拠があれば慰謝料の支払を命じてくれますし、夫婦共有財産の証拠があれば財産分与を決定してくれます。子どもがいれば養育費についての判断もしてもらえます。

ただ訴訟で自分の言い分を通すには、法的に適切な主張と立証活動が必要です。裁判手続は専門的知識が要求されたり、多くの時間が取られたりと、ご自身だけで対応するには負担が大きいので、早めに離婚トラブルの解決経験が豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。

6.行政からの給付

DVで離婚した後の生活が心配な方は、行政からの給付についても知っておいて下さい。特に未成年の子どもがいると、行政から次のような手厚い保護を受けられます。
もっとも、公的支援を受けるためにはご自身で申請する必要がありますし、自治体によって内容も異なります。詳しくはお住まいの自治体窓口にお問い合わせください。

児童手当

婚姻中も受け取っているケースの多い児童手当。離婚後も引き続いて受け取れます。

児童扶養手当

所得が一定以下で子どもが18歳の誕生日の後の最初の3月31日まで(政令で定める程度の障がいの状態にある場合は20歳未満)支給されます。

医療費助成

医療が容易に受けられるよう医療費の自己負担額を助成する制度です。ひとり親の家庭に対しては、「ひとり親家庭等医療費助成制度」が定められており、子どもだけでなく親の医療費も対象となるなど、ひとり親の負担軽減が図られています。

就学援助

子どもが学校に通うため、学校教材費や学校給食費等の援助を受けることができます。

就業支援

就職や自立支援に関する制度などの情報を提供してくれたり、仕事に就くための教育訓練費の助成等をしてもらえます。

交通費の助成

定期代などの交通費が助成されます。

生活保護

最終的にどうしても自活できない場合、生活保護も受けられます。生活保護受給者となっても子どもと引き離される心配はありません。生活保護受給中で親権者になっている方も多いので安心しましょう。

経済的な不安を理由に違法な暴力を我慢し続ける必要は一切ありません。離婚時に相手に対して慰謝料や財産分与を請求できますし、離婚後も養育費や行政からの給付を受け取れます。困ったときには弁護士に相談してみて下さいね。

記事を監修した弁護士
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