コラム
公開 2023.05.08

事実婚とは?条件やメリット・デメリット、相続権について弁護士がわかりやすく解説

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事実婚とは、法律上の婚姻届を出さないまま、夫婦として暮らしている状態を指します。
事実婚となる理由はさまざまで、法律婚に縛られたくないという場合もあれば、同性であるなど法律婚ができない事情がある場合もあるでしょう。

事実婚であっても法律婚と同様に受けられる給付などもある一方で、デメリットも存在します。
今回は、事実婚のメリット・デメリットや法律婚との違いなどについて、弁護士がくわしく解説します。

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事実婚とは

事実婚とは、婚姻の意思をもって夫婦同然の暮らしをしつつも、婚姻届を出していない状態を指します。

事実婚についてのデータは多くないものの、男女共同参画局のホームページでは、令和3年度の調査結果より「事実婚を選択している人は成人人口の2~3%を占めていることが推察される」と記載されています。※1
決して少なくない数の人が、事実婚を選択しているといえるでしょう。

法律婚との違い

事実婚と法律婚との最大の違いは、事実婚は婚姻届を提出しておらず、戸籍謄本などの公的書類から夫婦関係が読み取れない点にあります。
そのため、事実婚の配偶者には相続権がなく、また配偶者であることを要件とする税務上の控除なども原則として受けられません。

内縁との違い

事実婚と同じ意味で使用される言葉に、「内縁」が存在します。
これらには明確な使い分けはなく、同じ状態を指していることが多いでしょう。

事実婚であると認められるための要件

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法律婚は、婚姻意思が合致し、かつ戸籍法に基づく届出(婚姻届)を提出することで成立します。
婚姻が成立すると、戸籍謄本にその旨が記載されるため、非常にわかりやすくシンプルといえるでしょう。

では、事実婚であることは、どのような要件を満たした際に認められるのでしょうか?

事実婚であると認められる方法は、事実婚を証明すべき事情によって異なりますが、おおむね次の点などから判断されることとなるでしょう。

お互いに婚姻の意思を持っていること

事実婚の成立にもっとも重要な要素は、お互いが婚姻の意思を持っていることです。
そのため、たとえ同じ家で暮らしていても、友人同士で暮らしている場合やシェアハウスである場合などには、事実婚は成立し得ません。

とはいえ、「意思」は目に見えるものではないため、これを証明することは困難です。

自治体によっては同性パートナーシップ制度を導入していることもあり、この宣誓をすることで婚姻意思の存在が補強しやすくなるでしょう。
ただし、パートナーシップ制度は同性カップルのみを対象としていることが多く、異性カップルでは利用できないことが少なくありません。
また、現在、同性婚は、事実婚に含まれないと判断されることも多い点に注意が必要です。

生計が同一であること

生計が同一であることが、事実婚の一つの要件とされます。
「生計が同一」とは、いわば一つの財布で生活している状態を指します。

たとえば、住居費や食費、光熱費などを夫婦が共同で負担している場合や、夫婦のうち主に収入を得ている側がまとめて支払っている場合などには、生計が同一であると判断される可能性が高いでしょう。

同一世帯であること

同じ戸籍に入らなくても、住民票の世帯を同じくすることは可能です。

この場合、世帯主の事実婚配偶者について、続柄欄に「夫(未届)」・「妻(未届)」と記載できる場合もあります。
このような記載としておくことで、事実婚状態であることの推定が強く働きやすくなるでしょう。

事実婚のメリット

事実婚のメリットは、どのような点にあるのでしょうか?
法律婚と比較した事実婚の主なメリットは次のとおりです。

どちらも姓を変えなくてよい

令和5年(2023年)2月現在、日本では夫婦別姓が認められていません。
そのため、法律婚をした場合には、どちらかが相手の姓に変えることが必要となります。

一方、事実婚であればどちらも姓を変える必要はありません。

同性であっても成立し得る

令和5年(2023年)2月現在、日本では同性婚は認められていません。
そのため、同性カップルが婚姻するためには、事実婚を選択せざるを得ないでしょう。

婚姻や離婚が周囲に知られにくい

法律婚や離婚をした場合、姓が変わった側は、周囲に婚姻や離婚が知られやすいでしょう。
一方、事実婚であればどちらも姓が変わらないため、周囲に婚姻や離婚が知られにくいといえます。

相手の親族と姻族関係にならない

法律婚をした場合には、自動的に相手の親族との姻族関係が発生します。
中には、これを避けたい場合もあるでしょう。

一方、事実婚の場合には、相手の親族との姻族関係は発生しません。

相続権が発生しない

事実婚の配偶者には、相続権はありません。
これはデメリットとして挙げられることが多いものの、場合によってはメリットともなり得るでしょう。

たとえば、パートナーではなく以前の婚姻で生まれた実子に、すべての遺産を相続させたいと考えている場合や、「遺産目当ての結婚である」などと疑念を持たれたくない場合などです。
なお、後ほど解説しますが、事実婚であっても遺言さえ遺しておけば、パートナーに遺産を渡すことは可能です。

事実婚のデメリット

事実婚は、法律婚と比較した際に、デメリットが少なくありません。
事実婚を選択する際には、デメリットをよく理解しておくことが必要です。

相続権がない

先ほども触れたように、事実婚の配偶者には相続権がありません。
つまり、たとえ長年、法律婚の夫婦同然の暮らしをしてきたとしても、何ら対策していなければ、原則として相手が亡くなった際にわずかな財産さえも相続できないということです。

なお、「特別縁故者」という概念があり、事実婚の配偶者であればこれに該当する可能性は高いでしょう(民法958条の3)。
しかし、特別縁故者に遺産が分配されるケースは、非常に限定されています。

具体的には、相手に相続人(法律婚の配偶者、子ども、孫、両親、兄弟姉妹、甥姪など)が誰もおらず、また債権(借金や未払金など)を支払ってもなお相続財産があることが必要です。
仮に子どもや法律上の配偶者などがいなくても、兄弟姉妹や甥姪がいるケースは少なくないでしょう。
これらの人が1人でもいれば、事実婚の配偶者は原則として遺産を受け取ることができません。

そのため、事実婚の夫婦が亡くなった際に相手に財産を渡したいのであれば、遺言書の作成は必須といえます。
遺言書で遺産を渡す相手には制限はなく、事実婚の配偶者を遺産の受取人(「受遺者」といいます)として指定することも可能であるためです。

「配偶者」を要件とする税務上の特例が受けられない

配偶者が税務上優遇される規定や、配偶者であることを条件に受けられる控除が多数存在します。
たとえば、次のものなどです。

  • 所得税の配偶者控除
  • 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
  • 相続税における配偶者の税額の軽減

しかし、これらはすべて法律婚の配偶者であることが要件とされているため、事実婚の配偶者は対象外です。
また、法律上の相続人であることを要件とする次の規定の適用も受けられません。

  • 生命保険金の非課税枠
  • 死亡退職金の非課税枠
  • 小規模宅地等の特例

ここでは各制度の詳細までは触れませんが、いずれも税額を大きく軽減できる可能性のある制度です。
事実婚の配偶者は、配偶者であることなどを要件とする税務上の特例を基本的に受けられないと考えておく必要があるでしょう。

証明に手間がかかる

法律婚の配偶者であれば、戸籍謄本を提示することなどで、夫婦関係を簡単に証明できるでしょう。
一方、事実婚の場合には戸籍には記載されていないため、夫婦関係の証明に手間がかかります。

また、証明に要する書類も書類の提出先などによって異なっており、一律ではありません。
そのため、夫婦関係などの証明が必要となるたびに、通常以上の手間がかかる可能性があります。

子どもが非嫡出子となる

事実婚の夫婦に子どもが生まれた場合、子どもは「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」となります。
これに対して、婚姻関係のある夫婦の間に生まれた子どもを「嫡出子」といいます。
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定されますが(民法772条)、事実婚の夫婦の子どもは、この推定を受けることができません。
そのため、非嫡出子である子どもと事実婚の夫との間に法律上の親子関係を生じさせるためには、夫が認知をする必要があります。

また、事実婚の夫婦は原則として名字が異なり、非嫡出子は原則として母側の戸籍に入るため、出生した子どもと子どもの父親との名字が異なる事態が生じます。

生命保険の受取人として認められない場合がある

法令上、生命保険の受取人に制限はありません。
しかし、各保険会社が受取人の範囲を約款で制限している場合があります。

保険会社によっては事実婚の配偶者を受取人として設定できない可能性があるため、保険の選定時には注意が必要です。

入院や手術などへの同意が難しい場合がある

事実婚の夫婦であることの証明は容易ではありません。
そのため、病院から家族として認められず、相手の入院や手術への同意ができない可能性があります。

事実婚であっても受けられ得る主な給付や権利

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事実婚であっても、法律婚の配偶者と同様に受けられる給付や権利が存在します。
主なものは次のとおりです。

離別時の財産分与や慰謝料

たとえば、パートナーの不倫が原因で事実婚関係を解消した場合などには、法律婚の離婚の場合と同様に、慰謝料請求や財産分与の対象になると考えられます。
法律婚でないからといって、不貞行為が許されるわけでも、慰謝料請求の対象から外れるわけでもありません。

ただし、単なる同棲ではなく事実婚であることの証明が必要となる点で、法律婚の場合と比較して請求のハードルが高くなるでしょう。
また、同性婚の場合に、内縁関係を認めなかった審判もあり、同性婚における財産分与の請求のハードルは、さらに高いといえます。

子どもの養育費

事実婚のパートナーとの間に未成年の子どもがいる状態で事実婚関係を解消した場合には、養育費の請求が可能です。

養育費とは、子どもの教育や監護に要する費用のことであり、離別後も双方が負担する必要があります。
そのため、離婚後に、子どもと同居していない親が同居している親に対して、毎月定額の養育費を支払うとすることが一般的です。

ただし、事実婚の夫に養育費を支払ってもらうには、子どもと父親との間に法律上の父子関係を生じさせる「認知」が必要です。

遺族年金

遺族年金とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。※2

遺族年金は、事実婚のパートナーであっても受け取れる可能性があります。
ただし、遺族年金の受給にはさまざまな要件があるため、パートナーが亡くなったときは年金事務所または市区町村役場の窓口で相談するとよいでしょう。

なお、現在、同性婚のパートナーは、遺族年金の給付対象とは解釈されていません。

死亡退職金

パートナーが在職中に亡くなった場合には、死亡退職金が支給される可能性があります。

ただし、死亡退職金の支給要件などは、法令で一律に決められているものではありません。
死亡退職金の有無や支給対象者に事実婚のパートナーが含まれるかどうかは、会社によって異なります。

そのため、パートナーが在職中に亡くなった場合には、勤務していた企業へ問い合わせてみるとよいでしょう。

まとめ

事実婚とは、婚姻の意思を持ちつつも、婚姻届を提出していない状態を指します。
事実婚状態となるためには法令上の手続きは必要ないため、同性カップルや夫婦別姓を希望するカップルであっても活用することが可能です。

その一方で、事実婚のパートナーには相続権がないなど、デメリットも少なくありません。
そのため、事実婚関係を構築しようとしている際や、事実婚のパートナーに遺産を渡したいと考えている際などには、弁護士へご相談ください。

Authense法律事務所では、夫婦関係のトラブル予防やトラブルの解決に力を入れています。
事実婚パートナーとトラブルが発生した際や、事実婚パートナーに遺産を渡したいとお考えの際などには、ぜひAuthense法律事務所へご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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