コラム
公開 2019.05.09 更新 2023.04.06

離婚後に慰謝料を請求するときの注意点とは?

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離婚当時は、離婚することに精一杯で、何も考えられない状況といえます。しかし、新しい生活にも慣れ、少し落ち着くと、離婚条件に関して「もっとこうすればよかった」と後悔する場合があります。そのうちの一つが慰謝料です。よく考えれば「相手に非があるのでは?」と、相手に対して離婚の慰謝料を請求したいと思うこともあります。
このように、離婚をしたあとでも、実際に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
そこで、今回は離婚後に慰謝料を請求する際の注意点を解説します。

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そもそも慰謝料を請求できる場合なの?

離婚後に慰謝料を請求できるのかという問題以前に、そもそも、慰謝料を請求して認められる要件を満たしているのかを、先に確認する必要があります。

・慰謝料が認められる場合とは?

よく勘違いされるのが、「離婚=慰謝料」という図式で、離婚すれば当然に慰謝料が発生すると思い込まれていることです。財産分与と混同して、そのような思い込みになったのかもしれません。
しかし、「慰謝料」は法律的には民法709条の「不法行為による損害賠償」という名目のお金です。

この損害賠償金は、不法行為、例えば不貞行為(不倫や浮気)や暴力などや、相手が婚姻関係を破綻させたという相手の不法な行為のせいで、精神的・肉体的に傷つけられたことなどの損害があれば、それを償うという意味で支払われます。
このような不法行為と損害、そしてその間に因果関係がなければ、離婚の慰謝料を請求しても、認められません。

離婚後に慰謝料請求をする前にチェックすべき3つの項目

それでは、不法行為による損害賠償請求の要件を満たしていれば、離婚後でも慰謝料を請求することができるのでしょうか。
離婚後でも慰謝料請求が可能となるには、次の3つの項目をクリアする必要があります。

・慰謝料的財産分与を受けていないか?

Aさんの場合、離婚の際に財産分与を受けています。それも、住宅ローンは相手が支払い続け、住んでいるのはAさんで、名義もAさんのものとなっています。また現金においても、通常の財産分与であれば1/2の割合であるところ、2/3の割合で配分されています。
相手からは財産分与に慰謝料という意味も含めたとして、Aさんも承諾しています。

さて、このような場合に、Aさんは離婚後に慰謝料請求をすることができるのでしょうか。

ここでいう財産分与は、一般的に、公平の観点から婚姻関係と共に財産も清算するという意味を持ちます。そして、夫婦で協力して得た財産を清算する際に、他にも相手に支払わなければならない場合は、これに上乗せするという方法を取ることもあるのです。
例えば、一方が専業主婦で、離婚後すぐに自活することができないような場合には、扶養的な意味を込めて財産分与に当面の生活費を上乗せすることもあります。また、慰謝料を支払わなければならない場合も同様です。別途慰謝料を支払うのではなく、財産分与と合併して、相手に財産を渡します。
特に、現金がなく不動産を所有している場合などは、慰謝料として支払える現金がないため、財産分与として不動産をもらうということも現実的になされています。
Aさんのケースであれば、財産分与としての配分が通常よりも多く、財産分与の際に慰謝料も含まれることに同意しているため、別途再度慰謝料を請求しても認められない可能性が高いといえます。

このように、財産分与の際に慰謝料も含まれている場合は、慰謝料の二重取りとなるため、離婚後の慰謝料請求は認められないと解されます。
ですから、離婚後に慰謝料を請求する際には、財産分与という名目で既に受け取っていないか確認する必要があります。

・時効が成立していないか?

Bさんの場合、配偶者の不倫が理由で6年前に離婚に至りました。ようやく立ち直りつつありますが、未だに不倫をした配偶者が許せずにいます。今からでも離婚の慰謝料を請求することはできるのでしょうか。

まず、民法には時効という制度があり、一定期間を過ぎれば権利が消滅します。
そして、「不法行為による損害賠償請求」にも時効があります。

  • ・「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年
  • ・「不法行為の時」から20年

「損害及び加害者を知った時」から3年との規定から、一般的に、離婚成立時から3年が経過すれば、消滅時効が成立し、損害賠償請求はできないと解されています。Bさんのケースでは、当初から不倫の事実を知っています。そして、不倫が理由で離婚に至り、離婚成立時より6年が経過しているため、時効により、離婚の慰謝料請求は認められないでしょう。

このように、離婚後に慰謝料を請求する際は、時効が成立していないかを確認する必要があります。

・清算条項に署名していないか?

Cさんは離婚の際に、「今後、慰謝料も何も求めない」という文言の入った書類に署名と捺印をしています。しかし、今からでも離婚の慰謝料を請求したいと考えています。このような場合でも離婚の慰謝料を請求することはできるのでしょうか。

「今後、慰謝料も何も求めない」という文言のことを「清算条項」といいます。
清算条項とは、離婚に際して記載した権利・義務以外に何らの債権債務もないと、紛争の蒸し返しを防止するために、当事者が互いに確認する項目のことです。
これは、せっかく苦労して合意に達した離婚条件を蒸し返さないためです。これがなければ、あとから追加や変更が主張され、いつまで経っても離婚条件が確定しないことになるからです。
清算条項のある文書に署名している場合は、「今後、何も求めない」ことに合意しているため、その合意が新たな財産分与請求や慰謝料請求にも及びます。強迫など強制的に文書に署名したなどの事情がない限り、新たな請求は認められないといえるでしょう。
Cさんのケースでは、「離婚後に慰謝料を求めない」という書類に署名をしている以上、離婚後に慰謝料を請求するのは難しいといえるでしょう。

このように、離婚後に慰謝料を請求する際には、清算条項に署名していないか、離婚条件が記載されている「離婚協議書」を確認する必要があります。

離婚後に慰謝料を請求するときの流れ

それでは、不法行為による損害賠償請求の要件を満たし、離婚後に慰謝料を請求する上で阻害する事情もなければ、実際にどのような流れで慰謝料を請求すればいいのでしょうか。

・当事者間での話し合い

まずは、当事者間の話し合いによる方法です。
既に離婚がなされている為、再度、相手方に慰謝料についての話し合いの機会を持ちたいと連絡をし、実際に当事者同士で慰謝料の話し合いを行います。
ただ、離婚の際に一度離婚条件を話し合っている為、相手からすれば、話し合いに応じる、もしくは話し合いがなされても、現実的に合意に達することは難しいでしょう。
なお、当事者同士で話し合いがなされ、慰謝料についても両者で合意がなされれば、公証役場で公正証書を作成することをお勧めします。

・裁判所の調停または審判を利用する

相手が話し合いに応じてくれない、もしくは当事者間で合意に至らない場合は、家庭裁判所の手続きを利用し、調停や審判の申し立てを行います。
ここで注意すべきは、利用する調停が異なります。離婚の際に慰謝料を請求する場合は「夫婦関係調整調停」の中で行いますが、離婚後は、「慰謝料請求調停」で話し合いを進めることになります。

調停手続きでは、調停委員が、双方から意見やこれまでの経緯、現在の経済的状況、その他の事情を聴取します。これらを総合的に判断して、調停委員が助言や解決案を提示し、当事者間で解決案に対しての合意がまとまれば、調停成立となります。
他方、合意に至らない場合は審判が開始され、裁判官が決することになります。

・ポイントは離婚の際に、離婚条件の中で話し合うこと

離婚後に慰謝料を請求するには、「財産分与に含まれていないか」「時効の成立の有無」「清算条項の有無」という3つの条件をクリアしなければなりません。
しかし、これをクリアしても、最大の難関が相手との話し合い、相手から譲歩を引き出すことです。

離婚の際に、慰謝料の請求がなされなかったということは、相手からすれば、慰謝料を請求しないつもりなのだと、思い込む要因になります。つまり、経済的負担を負わなくてよいと、安心したわけです。しかし、離婚をして落ち着いた頃に、再度、慰謝料について話し合いたいとなれば、進んで経済的負担を負う気がない限り、積極的な態度を示す可能性は低いといえます。
また、離婚前で、相手に「離婚したい」という気持ちがあれば、進んで相手も譲歩する可能性があります。
しかし、既に離婚したあとであれば、「わざわざ裁判沙汰にはしないだろう」という憶測も働き、相手も強気な態度で慰謝料請求を突っぱねることも考えられます。

どちらにしろ、離婚後の慰謝料請求は、相手が応じる可能性は離婚前と比べて低くなるでしょう。そのため、離婚前に離婚条件の中で話し合うことが、自分にとって有利な結論を出せるのではないのでしょうか。

まとめ

離婚後の慰謝料請求が認められるためには、「阻害要因(時効や清算条項)がないか」「相手が慰謝料請求に応じるか」という二重の大きなハードルを越える必要があります。
法律の専門的知識ももちろんですが、交渉術も非常に重要になってきます。ですから、離婚後に慰謝料請求を考えているという場合、少しでも早く弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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