コラム
公開 2023.12.15

離婚後に苗字を旧姓に変える手続きは?旧姓に戻す・戻さないメリット・デメリット

離婚後は旧姓に戻すことができる一方で、婚姻時の姓を継続して名乗ることもできます。

では、旧姓に戻す場合と戻さない場合とでは、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
また、いったん婚姻時の姓を名乗ることとしたものの、後から旧姓に戻すことはできるのでしょうか?

今回は、離婚後に旧姓に戻すかどうかの判断材料となる情報について弁護士が詳しく解説します。

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離婚後の苗字はどうなる?

ライフスタイルの多様化などで夫婦別姓の声も高まり、選択的夫婦別姓制度が検討されてはいますが、現行制度としては、結婚の際に夫婦同姓制度を採用しています。
「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(民法750条)として、夫婦の一方はどちらかの氏(姓、苗字ともいう)に改めなければならないのです。
では、離婚するとその後の苗字はどのようになるのでしょうか?

離婚後の苗字は選択制

結婚の際に、元々の苗字を変えずにいた方は、離婚してもそのままで、変わることはありません。
一方、結婚の際に相手方の苗字に変えた方は、離婚後は2つの苗字を選択することができます。

  • 結婚前の姓(旧姓)に戻る
  • 結婚時に名乗っていた姓(つまり相手方の姓)を継続する

2つの姓のどちらかを選ぶことによって、その後の手続きも異なります。
また、この2つの姓は「離婚後の戸籍をどうするか」にも大きく関わります。

結婚前の旧姓に戻る場合と戸籍の関係

では、苗字と戸籍の関係はどうなるのでしょうか?
離婚をすると、姓を変えた側は結婚時の戸籍から抜け、自分の選択で戸籍を選択できます。
結婚前の旧姓に戻る場合は、結婚前の戸籍に戻る、もしくは新しい戸籍を作る、のどちらでも選択できます。
手続きは、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」という欄に選択してチェックをすれば自動的に変更され、新しい手続きは不要となります。
なお、既に元の戸籍がない場合は結婚前の戸籍に戻ることができず、新しい戸籍を作る必要があります。

結婚時に名乗っていた姓(相手方の姓)を継続する場合と戸籍の関係

旧姓に戻らず、結婚時の姓をそのまま継続する場合は、新しい戸籍を作る必要があります。
結婚時の姓を継続する場合は、離婚届とともに「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出します。
なお、提出先は住所地または本籍地の役場ですが、離婚届提出後に本籍地以外で届出をする際は戸籍謄本が必要となります。
提出期限は離婚から3か月以内と制限されており、この期間内であれば、継続して名乗りたい理由や、同じ姓である相手方の同意など聞かれることはありません。

子どもの苗字は変わらない

離婚しても、筆頭者の戸籍には、筆頭者とその子どもが記載されたままとなります。
そのため、子どもの苗字は変わることはありません。
例えば、母親が離婚の際に旧姓に戻り、子どもの親権者として一緒に暮らす場合も、子どもは父親の戸籍に残り、父親の苗字を名乗ることになります。

子どもと同じ苗字にする方法

子どもと同じ戸籍、苗字にするには、次の手続きが必要です。
まず、離婚の際に自分を筆頭者として、新しい戸籍を作る必要があります。
この場合、苗字は旧姓でも結婚時に名乗っていた姓でもどちらでも構いません。
次に、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に、子の氏の変更許可の申し立てを行います。
家庭裁判所で審査を受け、変更許可を得た場合は「許可審判書」が交付されます。
この「許可審判書」と新しい戸籍に入る書類である「入籍届」を役場に提出すれば完了です。
子の氏の変更許可の申し立てができるのは子ども自身であり、15歳未満の子どもは親権者である法定代理人が申し立てを行います。

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旧姓に戻すメリット

離婚後に旧姓に戻すことの主なメリットは次のとおりです。

離婚する相手方の姓を名乗らなくて済む

旧姓へ戻す最大のメリットは、離婚に至った相手の姓を今後名乗る必要がなくなることです。
離婚原因によっては、相手に対する嫌悪感や憎しみを持つことや相手を思い出すたびに悲しみに暮れることがあり、そのような相手の姓を名乗り続けることに苦痛を感じる可能性があります。
旧姓に戻すことで、今後はそのような相手の姓を名乗る必要がなくなり、さっぱりとした気分になりやすくなります。

旧姓に戻すデメリット

離婚後に旧姓に戻す主なデメリットは次のとおりです。

離婚をしたことが周囲にわかってしまう

離婚後に旧姓に戻すことで、離婚をしたことが周囲に知られやすくなります。
勤務先の企業内において離婚したことを知られたくない場合は、社内で婚姻時の姓を使い続けることについて勤務先の企業に相談してみるのも手です。

名義変更が煩雑である

離婚後に旧姓に戻す場合、さまざまな名義変更手続きが発生します。
名義変更が必要となるものには、次のものなどが挙げられます。

  • 運転免許証
  • パスポート
  • マイナンバーカード
  • 銀行口座
  • クレジットカード
  • 不動産
  • 自動車
  • 生命保険

中には平日しか手続きができないものもあり、名義変更の手続きに追われる可能性があります。
名義変更とは異なるものの、苗字で作成した印鑑を利用している場合は印鑑も作り直し、印鑑登録をし直す必要も生じます。

子どもや子どもの周囲の人に離婚が知られやすい

離婚をしたことを、当面は子どもに伝えたくない場合もあるでしょう。
特にこれまでも単身赴任などで別居していた中で離婚に至った場合は、離婚したことが子どもに知られにくいかもしれません。
しかし、旧姓に戻した場合は旧姓宛の郵便物が届くことなどで、離婚したことが子どもに知られやすくなります。
また、子どもの苗字も親の旧姓とする手続きをとった場合は子ども自身の苗字も変わることとなるため、クラスメイトなどに親の離婚が推察されることとなります。
子どもの年齢や環境によっては、これが「イジリ」や「イジメ」の対象となる可能性があり、より慎重な検討が必要となります。

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旧姓に戻さないメリット

離婚後に旧姓に戻さず、婚姻時の姓を名乗り続ける主なメリットは次のとおりです。

過去の業績が分断されない

婚姻時の名前で仕事の業績がある場合は、旧姓に戻すことで業績が分断されるリスクがあります。
業績とは、たとえば論文の発表や書籍の出版、表彰などのことです。
そのため、特に個人名で実績がある場合は、この点も踏まえて旧姓に戻すかどうかを検討する必要があります。
なお、戸籍上の姓は旧姓に戻し、業務上では婚姻時の姓を名乗り続けることも1つの手です。

名義変更の手続きが不要である

先ほど解説したように、旧姓に戻す場合は煩雑な名義変更手続きが必要です。
一方、婚姻時の姓を名乗り続ける場合は、このような名義変更手続きが不要です。

離婚をしたことが周囲にわかりづらい

現代において離婚は決して珍しいことではなく、離婚に対して否定的な印象を持つ人も少なくなっています。
しかし、周囲に離婚を知られたくないと考える人もいるでしょう。
その場合は、婚姻時の姓を名乗り続けることで、離婚をしたことが周囲に知られづらくなります。

旧姓に戻さないデメリット

離婚後に旧姓に戻さず、婚姻時の姓を名乗り続ける主なデメリットは次のとおりです。

後から旧姓に戻したくなっても容易には戻せない

離婚後に旧姓に戻す場合、もっとも手続きが容易なのは離婚届の提出時です。
離婚届の提出までに旧姓に戻すことを決めた場合は、離婚届に記載をするだけで旧姓に戻すことができます。
一方、離婚時にいったん婚姻時の姓を名乗ることを選択した場合、後から婚姻前の姓に戻す場合は家庭裁判所の許可を得なければなりません。
離婚後時間が経ってから旧姓へ戻す場合の手続きについては、次で詳しく解説します。

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離婚後時間が経ってから旧姓へ戻すのに必要な手続き

たとえ自分の旧姓へ戻す場合であっても、いつでも自由に旧姓へ戻せるわけではありません。
いったん婚姻時の姓を名乗り続ける選択をした後に旧姓へ戻すには、次の手続きが必要となります。

ステップ1:家庭裁判所から許可を得る

はじめに、旧姓へ戻すことについて、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
申し立てをしたからといって必ずしも許可されるとは限らず、諸般の事情を考慮のうえで判断されることには注意が必要です。
ただし、婚姻時の姓での債務を免れたいなど不当な目的であったり、再婚や離婚、養子縁組や離縁などを繰り返し頻繁に氏が変わっているなど特別な事情があったりするのではない限り、一般的には許可される可能性が高いでしょう。

ステップ2:市区町村役場の窓口で手続きをする

家庭裁判所から許可が下りたら、その後住所地または本籍地の市区町村の窓口(「戸籍課」など)で手続きを行います。
これで旧姓に戻す手続きが完了です。

家庭裁判所での手続きの概要

先ほど紹介した旧姓へ戻す手続きを、もう少し詳しくお伝えします。
はじめに、家庭裁判所で行う手続きの概要について解説します。

申し立ての準備をする

家庭裁判所に旧姓へ戻す手続き(氏の変更許可)を申し立てる際は、原則として次の書類が必要となります。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 婚姻前の申立人の戸籍(除籍)謄本など、氏の変更の理由を証する資料
  • 同一戸籍内にある15歳以上の者の同意書(筆頭者の氏が変更されることによって自分の氏も変更されることに同意する旨が記載され、日付と署名、押印のある任意の書類)

申し立ての前に、これらの書類を準備しましょう。
なお、同じ戸籍内に子がいる場合に旧姓へ戻す手続きをすると、同じ戸籍に入っているその子も一緒に旧姓へと氏が変わります。

申し立てをする

申し立ての準備ができたら、申立人の住所地の家庭裁判所へ申し立てを行います。
氏の変更を自分で申し立てた場合にかかる費用は次のとおりです。

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の切手代(家庭裁判所によって異なり、数百円から数千円程度)

この他に、先ほど解説した必要書類を取り寄せる費用に数千円程度がかかります。

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家庭裁判所へ申し立てた後の手続きの概要

家庭裁判所へ氏の変更許可を申し立てた後の主な流れは次のとおりです。

家庭裁判所の面談がある場合がある

申立後、家庭裁判所から面談がある場合があります。
家庭裁判所から連絡があったら、裁判所の指示に従って面談を受けましょう。

旧姓へ戻す許可が下りる

家庭裁判所が氏の変更に支障がないと判断した場合には、旧姓へ戻す許可が下ります。

旧姓へ戻す許可が下りた旨の証明書を取得する

旧姓へ戻す許可が下りたら、苗字を旧姓に戻すことの許可が確定したことの証明書を家庭裁判所から取得します。
この証明書が、次に解説する市区町村役場での手続きで必要となるためです。
証明書を取得するための申請用紙は家庭裁判所にあるため、あらかじめ入手しておくとよいでしょう。
申請用紙に必要事項を記入し、150円分の収入印紙とともに審判をした家庭裁判所に申請します。
返信用の切手を添えて送ることで、郵送で取り寄せることも可能です。

家庭裁判所の許可が下りる主なケース

離婚して時間が経ってから旧姓に戻したい場合、家庭裁判所の許可が必要となることはここまでで解説してきたとおりです。
この許可のハードルは決して高いものではありません。
そのため、次の双方に該当する場合は、許可が出る可能性が高いといえます。
許可が下りるかどうか不安がある場合は、裁判所に氏の変更許可を申し立てる前に弁護士へご相談ください。

やむを得ない事由があると認められる場合

氏の変更についてやむを得ない事情がある場合は、原則として氏の変更が許可されます。
やむを得ない事由について、裁判所のホームページでは「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいう」とされています。※1
具体的にどのようなケースが「やむを得ない事情」であるかどうかの判断はケースバイケースですが、一般的には離婚後、旧姓に戻す場合には比較的緩やかに判断される傾向にあります。

不当な目的ではない場合

離婚後時間が経ってから旧姓に戻すには、不当な目的によるものではない理由が求められます。
不当な目的とは、たとえば婚姻時の姓で負担した債務を免れることなどを指します。
そのため、たとえば再婚や離婚、養子縁組や離縁などを繰り返し頻繁に氏が変わっているなど特別な事情がある場合は、不許可となる可能性があります。
ただし、実際は再婚や離婚などを繰り返しているからといって、不当な目的であるとは限りません。
離婚後に旧姓に戻したいものの、家庭裁判所の許可が下りるかどうか不安な場合は、申し立てをする前に弁護士へご相談ください。

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氏の変更許可後の手続き

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家庭裁判所から氏の変更許可が下りたら、次の手続きを行ってください。

市区町村役場の窓口で手続きをする

家庭裁判所から許可が下りたら、次の書類を住所地か本籍地の市区町村役場へ提出します。

  • 苗字を旧姓に戻すことの審判書:裁判所から発行されます
  • 苗字を旧姓に戻すことの許可が確定した事の証明書:裁判所から取り寄せます
  • 戸籍の変更届:市区町村役場で入手します

これで、旧姓へ戻すための手続きは完了です。

新たな戸籍謄本が取得できるようになる

市区町村役場で手続きを行うと、1週間から10日程度で変更後の戸籍謄本が取得できるようになります。
この後に行う名義変更手続きで必要となるため、数通を入手しておいてください。
なお、原本が返却されることやコピーの提出でよいとされる場合もあるため、手続き先の数と同じだけ取得する必要まではありません。
はじめは3通ほどを取得して、不足した場合には追加で取り寄せるとよいでしょう。

銀行口座や運転免許証などの名義変更をする

新たな戸籍謄本が発行されたら、運転免許証や銀行口座、クレジットカード、パスポートなど、各種名義変更手続きを行います。
手続き先の数が多いとかなりの時間を要するため、重要なものから順に行っていくとよいでしょう。

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まとめ

離婚後に旧姓に戻すことと、離婚時の姓を継続することそれぞれのメリット・デメリットを中心に解説しました。
それぞれのメリットとデメリットを踏まえ、慎重に検討することをおすすめします。
また、いったん婚姻時の姓を名乗ることとした後で旧姓に戻す場合には、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
許可が受けられるかどうか不安がある場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所では、離婚にまつわる法的サポートや交渉の代理などに力を入れています。
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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。家事事件(離婚・相続)、一般民事事件(交通事故)、不動産法務など幅広い分野を取り扱い、刑事事件では、裁判員裁判の経験も有する。相談者が抱える法律問題に真摯に向き合い、正確かつ丁寧に説明するよう心がけている。
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