離婚時の財産分与では、何が財産分与の対象になるのでしょう?
株や退職金は対象になりますが、親からの遺産や生前贈与された財産は対象になりません。借金やローンは対象になるケースとならないケースがあります。
ここでは、「オー美」さんの事例から財産分与の対象となる財産と、財産分与の注意点について解説します。
目次
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結婚25年目、オー美の場合
私はオー美、50歳になります。
夫は長年単身赴任していて、長い間別々に暮らしています。
以前は、掃除や料理などの家事をするために、夫の家へ通っていたのですが、なんと夫の不倫が発覚。私の中で気持ちの糸がプツン、と切れてしまいました。
それ以降、夫の家には行っていません。
そんな折、夫の単身赴任が終了して家に戻ってくる事になってしまいました。
社会人と大学生の子どもたち2人は、すでに家から出てそれぞれ一人暮らしをしています。
夫との2人暮らしには耐えられそうもないので、熟年離婚を進めていくつもりです。
前回までのあらすじ
- 第1回結婚25年目。熟年離婚を進める際に気をつけるべきこと
- 第2回財産分与とは。どんな財産が対象になる?
- 第3回離婚時の年金分割とは。厚生年金加入者の場合の手続きや計算方法
- 第4回離婚時の財産分与、住宅ローンが残っている家はどうなる?
熟年離婚を決意したものの、初めてのことで知識もなく不安でいっぱいでした。
夫と結婚してからは、長い間夫の扶養に入っていたため、離婚後に生活していけるのかも心配です。
離婚に向けて、まず何から進めていけばよいのか、後悔しないためにどのようなことに注意すればよいのか調べました。
重要なのは離婚後の生活とお金のこと。
結婚生活25年。それなりに資産も築いてきたので、財産分与もある程度の金額になるだろうと予想しています。夫は厚生年金に入っていますし、私はずっと夫の扶養に入っていたので、年金分割してもらえるはず。
できるだけ多くの財産分与を受けて、年金分割にも応じてもらいたいと思っています。
離婚については、子どもたちにも話をして、理解してもらえました。
財産分与の対象がわからない!株や退職金、遺産はどうなるの?
熟年離婚で非常に重要な財産分与。
何が財産分与の対象になるのか、わかりづらくて悩んでいます。
夫名義の株(勤務先のものも含む)や退職金、私が親から受け継いだ遺産のこと。
夫は会社で自社株の積立をしているのですが、夫名義の株も財産分与の対象になるのでしょうか?
また、夫は在職中で、おそらく離婚時にもまだ退職していないと思います。
それでも、退職金は財産分与に含められるのでしょうか。
実は私の父が、3年前に亡くなっていて、私は遺産を受け取っています。
この遺産は、夫に財産分与として渡さねばならないのでしょうか?
父から受け取った大切な遺産を、夫に渡したくありません。
夫は、単身赴任中に作ったクレジットカードで、キャッシングをしているようです。生活費用のクレジットカードは別にあるので、もしかしたら、不倫相手との付き合いに使っているのかもしれません。そんな借金を負担させられるのも嫌で不安を感じています。
弁護士が解説!自社株、退職金、遺産、借金の分け方について
自社株について
夫婦の婚姻中に得た株式は財産分与の対象になります。
証券会社などで購入したものだけではなく、夫の勤務先の自社株であっても同じです。
ただし夫が独身時代から株式を積み立てていた場合、全額は対象になりません。
積立総額のうち、婚姻期間中の積立額に対応した部分のみが対象です。
たとえば積立総額が1000万円、積立年数が40年、婚姻年数が25年で積立期間中の各回の積立額に変動がない場合には、対象額は625万円(1000万円÷40年×25年)。
これを夫婦で2分の1に分けるので、相手には312万5千円分の株式を請求できる計算です。
退職金について
退職金については、財産分与対象になる場合とならない場合があります。
まず、すでに受け取っている場合には財産分与の対象になります。
まだ受け取っていない場合で以下に該当する場合には財産分与の対象となる可能性が高いといえます。
- ・離婚後10年以内に退職する予定がある
- ・勤務先が上場会社や公務員の場合など、退職金が支給される蓋然性が高い
オー美さんの場合にも、夫が現在56歳ということなので、10年以内に退職する可能性が高いと考えられ、退職金を財産分与対象にできる可能性が高いでしょう。
ただし全額が対象になるとは限りません。
「勤続期間」のうち「婚姻期間」に対応する部分のみが対象です。
具体的に計算してみましょう。退職金の算定方法については裁判例でも複数のタイプがありますが、中でもポピュラーな「現時点で退職したと仮定した場合の退職金額を分与対象にする」という算定方法を用いた場合、たとえば退職金が2000万円、勤続年数が40年、婚姻年数が25年なら財産分与対象額は1250万円(退職金額が勤続年数に比例する企業の場合)。
これを2分の1ずつにするので、相手には625万円の請求が可能です。
遺産について
一方の親から受け継いだ遺産や生前贈与された財産については、財産分与の対象になりません。
夫婦が共同で築いたものではなく、一方配偶者の「特有財産」となるためです。
オー美さんが父から受け継いだ財産については、財産分与の対象にはなりません。
借金について
オー美さんは「夫が借金しているかもしれない。半分の責任を負わされたくない」と心配しています。
借金については、財産分与の対象になる場合とならない場合があります。
まず「生活のためにした借金」については財産分与の対象になる可能性があります。
ただしその場合でも「マイナスの財産分与」は行われません。
たとえばプラスの資産が500万円、夫名義の借金が1000万円の場合、差し引きすると-500万円です。
この場合、妻が250万円の負債を負う、という結論にはなりません。
0になった時点で「分与する財産はない」ということになるので、妻は夫に財産分与請求できないだけです。
また「生活のためでない個人的な借金」については財産分与で評価されません。
夫が不倫相手との遊興費のためにカードローンを利用していても、オー美さんが夫に請求できる財産額に影響はないと考えましょう。
その他、保険やペットについて
保険については、「解約返戻金」のある積立式のものであれば財産分与の対象になります。
解約返戻金見込額を2分の1ずつにするのが基本の分け方です。
解約返戻金のない掛け捨ての保険については財産分与の対象になりません。
また独身時代から加入していた場合、保険料の払込期間のうち婚姻年数に対応する年数分のみが財産分与の対象となります。
ペットについては、希少性が高い個体である場合など金銭的価値があれば財産分与の対象になりますが、現実的には、財産的価値が認められるケースは少ないでしょう。
その場合、財産分与の対象からは外れて「どちらが引き取るか」を話し合って決める必要があります。
まとめ
熟年離婚の際には、財産分与が争点となるケースが多数です。
妻だけではなく、夫にとっても離婚後の生活に直結する重大な問題だからです。
妻が退職金や社内積立の財産分与を求めると、夫から強い抵抗感を示されるケースも多いので慎重に対応しなければなりません。
財産分与でわからないことがあれば、弁護士に相談しながら進めると安心です。
夫が強硬に分与を拒絶する場合でも、弁護士が説得すれば応じるケースが少なくありません。
離婚公正証書を作成しておけば、離婚後も約束通りに給付を受けやすくなるでしょう。
オーセンスの弁護士が、お役に立てること
財産分与の算定方法は状況に応じて様々で、分与額も高額になりやすいことから、離婚条件の中でも協議が紛糾しやすい項目です。
弁護士に直接ご相談をいただけましたら、財産分与の見込みについて、お客様ごとのご事情に応じたより具体的な算定方法や見込額をお伝えさせていただきます。また、協議においては、請求の難易度を見極めた上で適切な分与を得るべく交渉を尽くします。
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