近年、インターネット上で個人や企業を誹謗中傷する書込みに関するトラブルが増加しています。
インターネットの書込みは、適切な方法に則って請求をすれば削除できる可能性は十分にあります。
誹謗中傷する書込みを削除したい、書込みをした人物を特定する方法など弁護士にできることをフローチャート付きで解説いたします。
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1 はじめに
近年、インターネット上で個人や企業を誹謗中傷する書込みに関するトラブルが増加しています。
一旦、誹謗中傷する書込みがなされると削除することは困難、ましてや書込みをした人物を特定することは不可能と思われる方が多いかもしれません。
しかし、インターネットの書込みは、適切な方法に則って請求をすれば削除できる可能性は十分にあります。
また、平成13年に制定された「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」いわゆる「プロバイダ責任制限法」により誹謗中傷の書込みをした人物を特定することが可能となりました。
本稿では、インターネット上の情報の削除や発信者情報開示の概要を説明したうえで、具体的事例に沿った対応の説明及び個別サイトへの対応を解説します。
2 インターネット上の情報の削除請求
私たちは自宅や職場のPCをインターネットに接続してウェブサイトを閲覧しています。これらのウェブサイトは、作成者が特定のサーバーコンピューターに保存・公開しているものです。つまり、私たちは、次の図のとおり、サーバーコンピューターに保存・公開されているウェブページを閲覧していることになります。
このように、インターネット上の情報はサーバーコンピューターを介して提供される状態になっています。インターネット上の情報の削除請求とはサーバーコンピューターによる情報の提供を停止するよう請求(差止請求)することです。
なお、削除請求権は、すべての権利侵害について認められているわけではなく、明文の根拠(著作権法第112条、商標法第36条)がある権利に加え、裁判上・解釈上認められてきた権利にのみ認められています。
削除請求が認められるためには、権利が違法に侵害されていることが必要となります。
ただし、故意過失等の主観的要件は不要であり、違法性のみで足ります。
また、「違法性」の判断においては、権利侵害と表現を行う権利との比較衡量が行われることになります。
3 発信者情報開示請求
インターネット上で誹謗中傷の書込みがなされたことによる、損害賠償請求を行うためには、発信者を特定する必要があります。しかし、インターネット上の書込みは匿名によるものがほとんどです。また、発信者を特定するための法律は、長らく制定されていませんでした。
しかし、平成13年に制定されたプロバイダ責任制限法により、発信者の住所氏名等の情報を有しているプロバイダに対し、発信者情報の開示を請求することができるようになりました。
プロバイダ責任制限法による発信者情報開示請求の要件は次のとおりです。
- 特定電気通信による情報の流通がなされた場合であること
- 当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明白であること
- 発信者情報の開示を受ける正当な理由が存在すること
- 発信者情報の開示を求める相手が「開示関係役務提供者」であること
- 開示を求める情報が「発信者情報」に該当すること
- 上記発信者情報を開示関係役務提供者が「保有」していること
4 同定可能性
削除請求や発信者情報開示請求をするためには、「自分の権利が侵害されている」ことが必要です。これには、インターネット上の情報が自分に関するものであると他人から理解できること(同定可能性)が必要とされています。
同定可能性は、最高裁判例に従い「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈」することになります。
例えば、「あいつは人からお金を盗む泥棒だ!」という書込みがあったとします。「人からお金を盗む泥棒だ!」という部分は社会的評価を低下させますが、「あいつ」とは誰を指すのか他人からは不明であり、「自分の権利が侵害されている」とはいえません。
ただし、同定可能性が認められるためには、氏名が明記されている必要はありません。
書込みがなされたページや他の投稿の内容から誰に対する書込みなのか判断できる場合、同定可能性が認められます。
また、書込みをされた人物の属性を知る者にとってその人物を特定できるのであれば同定可能性が認められます。具体的には、「〇市出身で〇事務所に勤務する弁護士Y」といった表現であれば弁護士Yの出身、勤務先を知っている者にとって同定可能性があります。
このように、厳格な同定可能性は必要ではありませんが、書込みが自身に関するものであることを合理的に説明できることが必要です。
5 権利の内容
インターネット上の情報の削除や発信者情報の開示の請求を行うためには、権利が侵害されていることが必要となりますが、すべての権利侵害に削除請求権や発信者情報開示請求権が認められているわけではなく、明文の根拠がある権利に加え、裁判上・解釈上認められてきた権利にのみ認められています。
そこで、裁判上・解釈上認められてきた代表的な権利を説明していきます。
(1)名誉権
名誉とは、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」であり、「社会的評価の低下」が名誉権の侵害となります。
(2)プライバシー権
プライバシーとして保護されるためには、次の要件を満たす必要があります。
- 私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること
- 一般人の感受性を基準に公開を欲しない事柄であること
- 一般にいまだ知られていない事柄であること
(3)肖像権
肖像権とは、みだりに他人から写真を撮影されたり、それを公表されたりしないよう、誰に対しても主張できる権利をいいます。
肖像権の内容は次のとおりです。
- みだりに撮影されない権利(撮影の拒否)
- 撮影された写真等をみだりに公表されない権利(公表の拒絶)
- 肖像の利用に対する本人の財産的利益を保護する権利(パブリシティ権)
(4)営業権・業務遂行権
インターネット上で営業妨害となる書込みや営業秘密となる事柄が書込まれた場合、営業権や業務遂行権が侵害されることになります。
営業権や業務遂行権の侵害に基づく発信者情報開示請求は可能ですが、現在の裁判実務においては、削除請求権は否定されています。
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6 削除申請及び発信者情報開示の流れ
(1)削除申請及び発信者情報開示のフローチャート
(2)具体的事例
Aさんは化粧品の企画・販売する会社を起業しました。Aさんは自身のブログで化粧品を紹介するとともに自身のライフワークも紹介していました。
Aさんのブログの内容が面白いということで少しずつ読者が増えていき、雑誌やテレビなどで化粧品だけでなくAさん自身が取り上げられるようになりました。
このように、Aさんがメディアに露出するようになったころからインターネット上の掲示板にAさんに係る投稿が見られるようになりました。投稿のほとんどはAさんに好意的なものでした。
ところが、2週間程前から、「Aさんは学生時代、男遊びがひどく、男からお金を巻き上げていた。」、「Aさんの父親は反社会勢力の構成員であり、Aさん自身も現在、反社会勢力とつながりがある」といった投稿がなされるようになりました。
このような投稿がなされるようになってから、Aさんの会社に抗議の電話が多くかかってくるようになりAさんの会社の業務に影響が生じ始めました。
そこで、Aさんは弁護士Zに相談することとしました。
(3)方針の検討
弁護士ZはAさんの相談をうけ、問題となる書込みがAさんの名誉権を侵害していることから、削除請求及び発信者情報開示請求を行うため次の事項を確認しました。
①請求相手
法的請求を行う相手方としては、ウェブサイト管理者、サーバー管理者となります。
調査の結果、掲示板の管理者がX社であることが判明しました。
②投稿からの時間
インターネット上の情報発信はサーバーコンピューターを介して行われています。したがって、発信者情報開示請求には、ウェブサイト管理者等が有するサーバー側の投稿に使用されたIPアドレス等のアクセスログと、アクセスプロバイダ(ユーザにインターネット接続サービスを提供する事業者)のアクセスログの両方を照合する必要があります。
しかし、アクセスログの保存期間は多くのアクセスプロバイダでは3か月から6か月程度です。
Aさんに対する誹謗中傷の投稿がなされて2週間程だったことから、弁護士Zは、投稿サイトの管理者であるX社に対して投稿の削除及び発信者情報開示請求をすることとしました。
(4)X社に対する請求
X社に対する請求方法としては、ウェブ上のフォームから行う方法、プロバイダ責任制限法ガイドラインに則った方法、裁判手続(仮処分)を利用する方法があります。
まず、弁護士Zは、X社に対し、ウェブ上のフォームから投稿の削除を申請しました。
しかし、X社が任意の削除に応じなかったため、投稿の削除及び発信者情報開示請求についての仮処分を申し立てました。
仮処分の決定が出て、X社により投稿の削除がなされ、X社より投稿に使用されたIPアドレス等が開示されました。
弁護士Zが、開示されたIPアドレス調査したところ、Y社がアクセスプロバイダであることが判明しました。
(5)Y社に対する請求
弁護士Zは、Y社に対し、X社から開示されたIPアドレス等に基づき、契約者の氏名、住所、電子メールアドレスの開示を求めることとしました。
アクセスプロバイダが保有しているIPアドレス等にかかる情報は、多くの会社で3か月から6か月程度しか保存されません。
そこで、弁護士Zは、Y社に対して、IPアドレス等にかかる情報の保存を要請する書面を送付しました。
Y社からアクセスログ保存の要請に応じる旨の連絡があったため、弁護士ZはY社を被告として発信者情報開示訴訟を提起しました。
(6)発信者特定の後の対応
判決の結果、Aさんの勝訴となり、Y社より発信者の住所・氏名の情報を得ることができました。
発信者が特定できた後、発信者に対して民事上の損害賠償を求めることに加え、名誉棄損行為や営業妨害行為等、刑罰法規に触れるものについては刑事告訴や被害届を提出することも検討したほうがよいでしょう。
7 個別サイトへの対策
(1)2ちゃんねる
2ちゃんねるは削除基準に関するガイドラインを公開しており、ガイドライン違反の削除も実際に行われてはいますが、その対応基準はかなり厳格です。しかし、書込みのこの部分が事実ではなく、社会的評価を低下させるといった削除理由を丁寧に主張すれば任意の削除に応じてもらえる可能性は十分にあります。
手順としては、まず、2ちゃんねるの削除要請版にアクセスします。このページの「削除依頼フォーム」に必要事項を入力します。
任意の削除に応じてもらえない場合、仮処分を申し立てる必要があります。
発信者情報開示請求については、基本的に仮処分手続を行い、決定正本を取得できたら、これを2ちゃんねるの運営ボランティアに伝えるために2ちゃんねるの掲示板上で申請作業を行うこととなります。
(2)5ちゃんねる
5ちゃんねるは削除ガイドラインに従い削除専用の電子メールにて削除依頼を行ってください。
手順としては、まず、5ch.netのトップページに「削除ガイドライン」と記載のあるリンクをクリックします。
「5ちゃんねる削除体制」という削除に関するガイドラインが記載されたページが開きます。
ここに記載された方式に従いmeiyokison@5ch.net宛に電子メールにて削除依頼を行ってください。削除依頼のメールには、免許証等の本人確認書類を添付する必要があります。また、2ちゃんねると同様、削除理由を丁寧に主張する必要があります。
5ちゃんねるはメールでの削除依頼について柔軟に対応していますが、「犯罪に関する情報及び法人に関する情報の場合は、原則として裁判手続きによって仮処分を取得して、司法判断を待つことにする」との記載があるように、メールでの請求では応じてもらえない場合もあります。そのような場合は仮処分手続を行う必要があります。
(3)コピーサイト
2ちゃんねるや5ちゃんねるの書込みを削除しても、コピーサイトに該当書込みが残っている場合があります。
コピーサイトに残っている書込みを削除したいとき、サイトごとに1件1件削除を要請することになります。削除要請において、2ちゃんねるや5ちゃんねるの書込みが既に削除されていることを伝えることで、多くの場合、任意の削除に応じてもらえます。
(4)Twitter
Twitterの削除請求については、Twitterのサイト上に設置されているウェブフォームから請求を行うことである程度は対応してもらえます。
発信者情報開示請求については、ウェブフォームからの請求ではなく、仮処分による請求を行うことになります。
(5)Instagram
Instagramについては、サポートのヘルプセンターに報告用のフォームがあり、利用規約違反行為の報告を行えばある程度対応してもらえます。
発信者情報開示請求については、仮処分を申し立てる必要があります。