音楽業界から弁護士へと身を転じた江藤 朝樹弁護士。ロースクール入学まで法律に触れてこなかったが、「弁護士は自分の資質が活かせる仕事」と語る。
特に依頼者との対話を通じて構築する主張のストーリーと事実の抽出には自信を持っている。背景には理系で学び、緻密に論理を積み上げてきた経験があった。
依頼者の声を何よりも重視する江藤弁護士に、仕事をする上で大切にしている事を聞いた。
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音楽業界から弁護士へ転身した理由
先生が弁護士を志したきっかけから教えてください。
弁護士になる前は、新卒でクラシック音楽専門のマネジメントとレコード制作をする会社に入社して、6年間勤めていました。
世界中のアーティストと一緒にツアーをしたり、新しい音源を制作したりしていました。元々音楽が好きだったので、面白い仕事でした。
ただ、音楽は本当に切羽詰まった人の役には立たない、と感じる事が多くなってしまったのです。
法律を勉強して弁護士を目指すか、心理学を勉強してカウンセラーを目指すか、どちらかの選択肢が浮かびました。
色々と本を読んで調べてみたところ、カウンセラーはあくまでクライアントのお手伝いをする事までで、最後は個人の内面の話になってきます。カウンセラーにできる事の限界があるんだなと感じたのです。
法律という制度を活用できる弁護士の方が、できる事が多いと考えて法律の勉強を始めました。司法試験がどれだけ大変な試験かよくわからないまま、スタートしたのです。
ちょうど新司法試験制度が始まって、ロースクールも開講したタイミングだったのですよね。
法学部出身者ではなくても法曹になる道が開ける、という謳い文句を素直に信じてしまいました。実際は全然違いましたけど(笑)。
働きながらロースクールに通われたのですか?
はい。1社目は働きながら通える環境ではなかったので、ロースクールに通うために転職しました。
働きながらロースクールに通われて大変だと思われる部分、改めて法律を学んだ事で面白いと思われた部分もあったのではないでしょうか。
大学では理系の学部に通っていて、ロースクールで初めて法律を学びました。
法律って文系の学問の中では、論理的と思われている分野なのですが、価値判断を含むところが理系の学問と全然違います。
すごく緻密に判断しているようですが、最終的には正義、公平、社会的な福祉、尊厳などで判断していくのが、法律の世界ならではですよね。
緻密に論理を組み立てるところと、人間の判断を挟み込んでいくところが面白いと思いました。
自分の資質を活かせると感じた弁護士の仕事
最初に入所された法律事務所では、どういった案件に注力されていたのでしょうか。
債務整理、破産、刑事、相続、離婚、交通事故など、あらゆる事件のご相談がありましたね。
特定の分野が得意というより、弁護士の仕事そのものが自分の資質を活かせると感じました。
依頼者のお話を伺い、どういうストーリーで主張を組み立てると有利に案件を進められるのか考える事が好きだったのです。
元々文章を書くのも好きだったので、書面を作るのも向いてると感じていました。
また、人から言われて気づいたのですが、難しい事をわかりやすく説明するのが自分は得意だったようです。
色々な方から、「説明がわかりやすい」「納得しました」と言われる事が多くあり、自分でも驚きました。
ご自身の悩みをどう伝えていいかわからない、と困っている方も多いかと思います。そういう方にとって、わかりやすい説明は救いになる部分が多そうですね。
依頼者は、ご自身が伝えたい事のうち、法律上主張できる言い分や重要な事実はわかりません。お話を伺って、ストーリーを組み立て、有力な事実を抽出する必要があります。
依頼者の主張を通すためには、必要な事実を取りに行く作業も必要です。
「事件の筋を読む」と言われているのですが、すごく難しく、とても面白い。弁護士によって能力の差が出るところなんです。
自分は事案の核心部分を掴んで提示する事が得意なんだな、と思ったんですよね。
他の弁護士を見ていると、必ずしも全員が得意というわけではないので、自分の強みだと思います。ただ、何かの専門分野というわけではないので対外的にアピールするのは難しいです。
先生が理系で学び、ロジカルに物事を積み重ねてきたご経験や、社会人としての幅広い経験が強みに繋がっているのでは、と推測したのですが、いかがでしょうか?
それはあると思いますね。理系の理屈ってものすごい厳密なんです。頭のキレでは「かなわないな」と思う弁護士の方はたくさんいますが、理屈づけにおいて、自分は緻密な方だなと感じます。
先生が依頼者と向き合っている中で、特に大切にされている事があれば教えてください。
先ほどの話と重複するのですが、依頼者の方のお話をよく聞く事です。
依頼者が主張したいと思っている内容や依頼者自身が思っている事実と、法律家から見て主張に使える事実は異なります。
お話をよく聞いて、幅広く事実を集める中で、依頼者の方から「それを言いたかったんです!」と言っていただけるような主張を組み立てる事を大切にしています。
依頼者の気持ちを法律に当てはめ、どの要件の話なのか整理する事が法律家の役目なので、そこを重視しています。
企業法務の案件についてはどのようなお考えを持っていますか?
基本的な姿勢は一般民事と同じなのですが、企業が何をやりたいと思っているのか、何が問題になっているのかを的確に把握する事が重要だと考えています。
例えば、契約書のレビューをする際も、契約のポイント、肝になっている部分、企業側でチャレンジをしたいと考えている部分を把握した上で対応する事を心がけています。
法律家は保守的とよく言われますが、企業がやりたいと思っている事をサポートする。問題を解決するためにはどうすればよいか。そういう姿勢で対応していく事を心がけています。
無茶ぶりを形にしたB型肝炎訴訟
Authenseに移られた背景を教えてください。
前の事務所は埼玉県の越谷管轄にあり、比較的時間にも余裕を持って案件に取り組んでいたのですが、規模の大きい東京の事務所で働いてみたいという思いがありました。
Authenseの面接はオープンな雰囲気で、「一緒にやろう」という空気が良かったですね。
最終面接は元榮も含めた数名の弁護士で事務所近くのイタリアンで食事をして、雑談をしました。面接というよりも仲間を探している感じに惹かれました。
入所されてからは、どのような案件に取り組まれていたのでしょうか。
いわゆる一般民事と企業法務をやっていたので、前の事務所とそんなに変わらなかったのですが、入所して3ヶ月くらいの時に、B型肝炎訴訟の立ち上げを命じられました。
右も左もわからず、「なんだそれは?」という感じで(笑)
最初の一番大きな仕事でしたね。幸い上手くいって、途中で後輩にバトンタッチしました、
右も左もわからないという状況から、どうやって立ち上げを進められていったのですか。
事務所内では誰も経験した事がなく、書籍も全然ない分野でした。本当に手探りで、他の事務所がやっている訴訟を、後輩弁護士に傍聴してきてもらったり、とにかく案件に着手してみたりしました。
手続きをやっていく中でわかってきた情報を少しずつ整理して、ナレッジを蓄積しながら形を整えていきました。
最初に無茶ぶりされたときは、そんな事が本当にできるのかって思ったんですけど、やってみるとちゃんと形になったんですよね。
弁護士倫理を遵守するため、事務所内の法務審査を担う
事務所内では他にどのような業務を担われていますか。
法務審査という業務も担当しています。私と弁護士統括の森田の2名で担当していて、弁護士倫理に関するチェックを行っています。
役割は3つあって、1つ目は対外的な情報のチェックです。弁護士倫理や事務所のブランドも加味しながら問題がないか確認します。
具体的には、弁護士倫理規程に定められた広告に関するルールに触れていないかチェックしています。
2つ目は、弁護士が相談を受けたり受任したりするときに必ずやらないといけない利益相反のチェックです。
事務所全体で受けている相談の数もかなり多いのですが、法務審査に回ってくるのは1日5件くらいですね。
3つ目は、弁護士が弁護士倫理上の判断に迷った場合の相談対応です。
依頼者との関係がこじれた場合、懲戒請求につながる可能性があります。案件に関わっている弁護士にとって、迷った時に相談できる環境を整える事で、精神的なプレッシャーをケアするようにしています。
普段の弁護士業務とはだいぶ頭の使い方が異なりそうですね。
そうですね。ただ、弁護士が案件処理でつまずくところや、依頼者とトラブルになりがちなところは大体類型化されます。
自分が弁護士業務を行う際に気をつけるべきだな、と学ぶ点も多いです。
最後に、今後のビジョンについて教えてください。
抽象的な話になってしまいますが、弁護士って、正しいと思った事を、忖度なく胸を張って正しいと言える数少ない職業だと思うんです。
長く仕事を続けていると、どうしても慣れや長いものに巻かれる感覚も出てきてしまうのですが、初心を忘れないでいたいです。
どんなに難しく、少数の意見だったとしても、「あなたが言っている事は正しいです。法律ではこう主張できるんです。だから、諦めないでやりましょう」と依頼者に伝えられる弁護士でいたいですね。
Professional Voice
江藤 朝樹
(第二東京弁護士会)東京都立大学理学部化学科卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。民事事件から刑事事件まで様々な類型の事件に積極的に取り組み、実績を積む。現在は、家事事件や一般民事事件を中心に、企業法務まで幅広く取り扱う。訴訟(裁判)の経験も多く、法廷弁護を得意とする。
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