昨今DX導入の必要性が声高に叫ばれており、国もさまざまな政策で後押ししています。DXを推し進めている企業も多い中、導入することに焦り危機管理が疎かになっては後々大きな損害を被る可能性があります。DX導入にあたり考えるべき危機管理について解説します。
目次
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新型コロナウイルス(COVID-19)による企業経営への影響
新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるい、その影響は人命だけでなく企業にも及んでいます。
業績悪化により大きな打撃を受け、休業や廃業に追い込まれる企業が後を絶たず、経営状況の改善に希望を見いだせない企業も多いです。
2020.09.23に公開された株式会社東京商工リサーチの2020年1-8月「休廃業・解散企業」動向調査(速報値)によれば、2020年1月~8月の間に休業・廃業・解散した企業は3万5,816社にのぼり、昨年の同時期に比べ約24%も増加しました。※1
内訳は、サービス業が約1万1,000社、建設業が約6,300社、小売業が約4,500社、製造業が約3,800社となっており、飲食業界や観光業界への打撃が特に大きいことがわかります。
他方、企業の中には、コロナ禍を新規事業の開発やIT化による生産性向上の機会と捉えている企業もあります。
収益の増加が見込めない状況下で、自らの経営体制の見直しに力を注いでいるようです。
新型コロナウイルス(COVID-19)によるDXの優先順位の変容
多くの企業にとって向かい風となっている新型コロナウイルスですが、ことデジタルトランスフォーメーション(DX)にとっては、いまだかつてない追い風となっています。
感染拡大防止や感染リスクの回避の観点から、私たちの生活はコロナ前と比べて大きく変化しました。
働き方の面ではリモートワークが広く普及し、食生活の面では飲食店での食事や会食が避けられデリバリーやテイクアウトが発達、その他にも接触による感染を防ぐためオンライン決済や通販の利用が増加しました。
このように環境が激変したことに伴い、DXは価値の提供方法や運用方法のみならず、働き方にも変革をもたらすものとして大きな注目を集めています。
最先端のテクノロジーを利用して業務効率性を向上させようと模索する企業は多く、リモートワークの導入に伴い、DXに着手せざるを得ないとも言えます。
経済産業省からは、DX導入の遅れによる損害が最大で年間13兆円を超えるという恐ろしい予測(2025年の崖)も公表されています。※2
今や、企業におけるDXの優先順位は跳ね上がっているといえるでしょう。
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デジタル世界の自由度
DXは最先端のテクノロジーを用いてビジネスモデルそのものを変革するものですから、インターネットやクラウド等のデジタル世界を駆使せねばなりません。
デジタル世界は物理的・地理的な制約のない自由度が高い世界です。
デジタル世界であれば、膨大なデータを処理できますし、海外の遠く離れた土地にいる人ともやり取りができます。
デジタル世界は自由度が高く、DXによりビジネスモデルを変革するうえで、これを活用しない手はありません。
とはいえ、無体物により形成されるデジタル世界にはそれ特有の制約もあります。
例えば、IDやパスワードによるアクセス制限、コピー防止機能によるコピーの制限などです。
そのため、自由度が高いとはいえ、一定の制約が課されるという点も忘れてはなりません。
また、デジタル世界特有の法的問題もあります。
詳しくは後述しますが、デジタル世界を活用するうえで意識しておくべき点も多々あります。
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デジタルトランスフォーメーションで求められる危機への対応
ビジネスモデルを変革しようとDXの導入に躍起になる気持ちもわかりますが、DXを進めるうえで注意が必要なこともあります。
危機管理がしっかりできていないと、後々回復しようのないほど大きな損害を被ってしまう可能性もあります。
ここでは、DXで求められる危機管理について解説します。
パーソナルデータの保護・管理
「パーソナルデータ」とは、個人情報保護法に定められる「個人情報」に加え、個人情報との境界があいまいなものを含む、個人との関係性・関連性が見いだされうる広範囲の情報を意味します。
個人情報よりもさらに広く定義されるのが「パーソナルデータ」です。
顧客情報や社員の情報など、企業が取り扱う個人情報は多岐にわたります。
DXを進める場合、プライバシー保護や企業秘密の保護の観点からこれらのデータの保護・管理には細心の注意を払う必要があります。
パーソナルデータの保護・管理が十分でないと、顧客から反発を招き、信用を失ったり、企業のホームページやSNSが炎上する騒ぎにつながったりしかねません。
パーソナルデータの保護・管理の視点なしにDXは進められないのです。
この観点は「プライバシーガバナンス」と呼ばれ、その重要性が提唱されています。
2020年7月には、経済産業省から「DX企業のプライバシーガバナンスガイドブック(案)」も発行されています。※3
“ガバナンス”と聞くとコンプライアンス部門の仕事を思われるかもしれませんが、事業部門や現場の社員の協力も不可欠です。
現に、ガイドブック内ではプライバシー保護組織だけでなく、事業部門も自部門で扱う商品・サービス・データ等がプライバシー問題を引き起こさないか当事者として確認する必要があると記載されています。
パーソナルデータの保護・管理をし適切にDXの導入を進めるためには、企業全体が連携して各部門が当事者意識を持って臨まなければなりません。
契約の見直し
DXが進められデジタル世界でのやり取りが活発になった場合、データは無体物であるため、有体物とは異なる特徴を持ちます。
そのため、データを取り扱う契約は、従前における有体物を取り扱う契約をそのまま使用することはできません。
無体物であるデータの特徴を考慮し、カスタマイズされた契約を用意しなければなりません。
契約は、当事者間で自由に決められる幅が大きい一方、専門知識が不足しているがゆえに、自社に不利となる契約や無体物であるデータにふさわしくない契約を締結してしまう可能性もあります。
DXを推進するうえで、データを取り扱う契約がある、または新しく作成する必要がある場合は、契約内容をよく検討してみると良いでしょう。
データは必ずしも知的財産法によって保護されるわけではない
前述の通りデータは無体物ですので、所有権や占有権等を主張できません。
つまり、「このデータは自分のものだ」と主張することは難しいのです。
そこで重要になってくるのが、著作権法などの知的財産権法です。
知的財産権法の保護を受けることができれば、自分の権利を主張できます。
他方、知的財産権法の保護を受けられないとすると、秘密にしたいデータであっても誰でも利用できることになってしまいます。
しかし、この知的財産権法によっても、データが保護されるとは限りません。
個々の画像などが著作権として保護される可能性はあるものの、情報の機械的な集積であるデータは、創作性がないものとして著作権の対象外となる可能性が高いです。
また、データそのものは発明ではないため、特許として保護されることもありません。
さらに、データは視覚により美観を感じさせるものではなく、意匠権の対象にもなりません。
このように、データは必ずしも法的な保護を受けられるわけでないのです。
そのため、契約でデータの自由な理由を制限してデータを保護する必要があります。
不正競争防止法による保護も限定的
データが他者との共有を前提としているため、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当しない場合、不正競争防止法の保護も受けられません。
前述の通り、データは知的財産権法の保護も限定的であるため、データの流出を防ぐことは困難です。
そこで、平成30年5月、一定の価値あるデータを保護するため不正競争防止法の改正法が施行されました。
この改正法により、「限定提供データ」という新たな概念が生まれ、価値の高いデータは不正競争防止法の対象となります。
とはいえ、一定の要件を満たさなければ「限定提供データ」には該当しません。
DXを導入する際は、自社のどの情報が「限定提供データ」に該当するのかよく確認し、しっかりと保護・管理の体制を整えることが必要とされます。
DXは新しいチャレンジ
多くの企業にとって、DXの導入はまったく新しいチャレンジです。
新しいチャレンジの際は保守的な姿勢になりがちで、日常業務の忙しさに負けて手が進まないかもしれません。
人的・物的資源の制限から思うように進まないこともあるでしょう。
しかし、DXの導入が遅れてしまっては、後々大きな損失を被る可能性が大きく、国もさまざまな政策を実施しDXを後押ししています。
国内の企業の多くも、大なり小なりDX導入をスタートしています。
時代の変化に対応するためにも、もはやDXは避けては通れない道と言えます。
新型コロナウイルスで生活環境の変化を強いられたように、企業もビジネスモデルの変革が求められているのです。
しっかりとした危機管理のもと、DXを導入することで企業のあり方は大きく変化するでしょう。
まとめ
今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関する危機管理について検討しました。
新型コロナウイルスにより、企業のビジネスモデルの変革が求められている中、DXは避けては通れません。
とはいえ、危機管理をおろそかにし、導入を焦ってしまっては、取り返しのつかない損害が発生することもあり得ます。
プライバシーガバナンスを意識した厳格な危機管理のもと、会社の規模・業種に合わせた体制を整えてDXを導入することが必要です。
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