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今回のテーマは、「在宅勤務が原因のうつ病に対し、企業はどのような対応が必要か」についてです。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅勤務制度を導入する企業が増加していますが、一方で、一部報道によると、在宅勤務が原因でうつ病を発症する従業員も増加していると言われています。
今回は、この様に在宅勤務が原因で従業員がうつ病等の精神疾患を発症した場合、使用者である企業に生じる責任について、解説します。
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1.在宅勤務が原因でのうつ病患者が増加
令和2年4月7日の発令から、同年5月25日に全面的に解除されるまで、約1ケ月半もの期間、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が続きました。
まさに前代未聞の出来事であり、この様な異常事態の中、多くの企業において、在宅勤務制度の導入が進んでいます。
また、緊急事態宣言は解除されたものの、休業要請の続く業種や、新型コロナウイルスの感染拡大の第2波が起こる可能性もあります。更に政府が働き方改革を推し進める中で、多様な働き方の一つとして在宅勤務を推奨していることもあり、今後も在宅勤務制度を導入する企業は増加するとみられています。
一方で、一部報道によれば、在宅勤務によりうつ病の症状を発症する社員が増えていると言われています。
在宅勤務によりうつ病の症状を発症する理由としては、仕事とプライベートの切り替えが難しく、長時間労働になりがちであることや、他者とのコミュニケーションが取れないことによる孤独等様々な要因があると言われています。
この様な在宅勤務によって労働者がうつ病に罹患した場合、使用者である企業にどのような責任が生じるかについて解説いたします。
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2.使用者の安全配慮義務
労働契約法第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することが出来るよう、必要な配慮をするものとする。」と定められており、使用者には労働者の安全に配慮する義務(「安全配慮義務」といいます。)があることが規定されています。
それでは、この安全配慮義務とは、具体的にはどのような配慮が必要となるのでしょうか。
この安全配慮義務の内容について言及されている判例を紹介いたします。
3.電通事件
今回ご紹介するのは、電通事件(最二小判平成12年3月24日労判779号13頁)です。
こちらは電通に勤務する労働者が、慢性的な長時間労働に従事していたところ、うつ病に罹患し、自殺するに至ったことから、遺族である両親が会社に対して損害賠償を請求した事案です。
電通に勤務していた労働者が長時間労働が原因でうつ病に罹患し、自殺した事件といえば、2015年12月25日に亡くなられた高橋まつりさんの事件が記憶に新しいと思いますが、その25年ほど前にも同様の事件が起こっており、それにもかかわらず同様の悲劇が起きてしまったことは、電通だけでなく、日本の企業全体に蔓延する長時間労働の問題点を浮き彫りにしていると言えるでしょう。
話がそれてしまいましたが、この事件において、最高裁判所は安全配慮義務の具体的内容について、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」、「長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を取らなかったことにつき過失がある」と判断しました。
つまり、使用者には、①労働者の精神的・肉体的健康状態に配慮しなければならないこと、②精神的・忍耐的に状態が悪化していることを認識しながら負担軽減措置を取る義務を負っていると判断したものと言えます。
なお、この事案では、労働者の性格がうつ病に親和的であることが認定されましたが、最高裁判所は、その様なうつ病に親和的な性格を有する労働者についても、労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、損害賠償額を決めるにあたってその性格を考慮すべきではないと判断しています。
つまり、労働者の性格に即した上で、労働者の精神的・肉体的健康状態に配慮する必要があるのです。
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4.在宅勤務における安全配慮義務
以上のケースは長時間労働の事案ですので、在宅勤務においては関係ないと思われるかもしれません。
しかしながら、在宅勤務においても、労働に従事させている以上、使用者には労働者の精神的・肉体的健康状態に配慮する義務は生じています。
また、冒頭でも指摘した通り、在宅勤務においては、仕事とプライベートの切り替えが難しく、そもそも長時間労働になりがちであるうえ、会社によっては、上司が仕事を辞めるまではパソコンの電源を切ることが出来ない等のしがらみがあり、それが長時間労働に繋がっているケースもあると聞きます。
また、会社に出社している時であれば同僚や上司に気軽に聞けたことが、在宅勤務によって難しくなることにストレスを感じたり、人とコミュニケーションをとる機会が少なくなったことによって孤独感を感じる等、在宅勤務であっても精神的・肉体的に疲弊する要因は様々あります。
使用者としては、この様な要因によって労働者が精神的・肉体的健康を損なうことのないよう、例えば原則的に残業を禁止したうえで、労働者のパソコンのオンオフの管理を行うことによる長時間労働に陥らないようにするための対策や、定期的なストレスチェックや面談などを行っていく必要があるといえます。
5.終わりに
以上、在宅勤務においても使用者に安全配慮義務が生じることを説明しましたが、在宅勤務の労務管理にまつわる法的な問題点は安全配慮義務以外にも様々ございますので、在宅勤務の労務管理でお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。