コラム
公開 2021.01.26 更新 2022.11.14

2020年話題になった企業不祥事から危機管理対応を学ぶ

2020年話題になった企業不祥事から危機管理対応を学ぶ

2020年に起きた企業の不祥事等をもとに、企業に問われる危機管理対応について解説いたします。
企業の不祥事等の発覚により受ける損失は多岐にわたります。信頼の失墜、株価の急落、利害関係者への損失などが考えられます。
不祥事等の発生を未然に防ぐための危機管理体制について確認しましょう。

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危機管理対応について

企業の不祥事等が発覚してしまうと、当該企業に大きな経済的損失が発生するリスクがあるだけでなく、当該企業に対する社会の信頼が失われるおそれもあり、さらには株式を公開している場合は不祥事の発覚によって株価が急落することにより株主にも多大なる損失が発生するおそれがあります。さらに、大企業の場合、多数の方と利害関係を持つことになるため、大企業が不祥事を起こしてしまった場合、上記以外にも多数の利害関係者に多大なる損失が発生することもあります。そのため、企業が業務を遂行するにあたっては、不祥事等が発生することを未然に防ぐ必要があり、不祥事等が発生することを未然に防ぐための危機管理体制を整える必要があると言えます。

また、不祥事等が発生することを未然に防ぐための危機管理体制を整えていたとしても、不祥事等が発生することを完全に防ぐことは不可能です。そのため、不祥事等が発生することを未然に防ぐための危機管理体制を整えるだけでなく、万が一不祥事等が発生してしまった場合に企業に生じる損失等をできる限り抑えることができるように危機管理体制を整えておく必要がありますし、第三者に与えた損害を早期に回復することができるような体制も整えておくべきでしょう。

以下では、最近起きた企業の不祥事等を紹介し、企業に問われる危機管理対応について解説いたします。

1 ゆうちょ銀行不正送金事件

ゆうちょ銀行の不正送金事件は、キャッシュレス決済サービスの決済口座としてゆうちょ銀行を登録する際の「即時振替サービス」(他の金融機関で言う口座振替サービス)が悪用されたことによって起こりました。具体的には、決済サービスへの口座登録には身分証明書等による本人確認が必要とされていたのですが、即時振替サービスでは口座番号や口座名義、キャッシュカードの暗証番号等の一部の情報のみで認証できる状態となっており、このようなシステムの脆弱性が悪用されて不正送金事件が発生しました。不正に引き出された金額の総額は6000万円にも及び、ゆうちょ銀行側は損失を補償することを明らかにしているものの、ゆうちょ銀行の利用者のうち不正利用の被害に遭った一部の方には多大なる損害が発生しただけでなく、これを補償することになるゆうちょ銀行にも多大なる経済的損害が発生し、ゆうちょ銀行に対する社会の信頼も大きく揺らぐことになりました。

このように、多くの利害関係者に多大なる損害を及ぼすことになったゆうちょ銀行不正送金事件ですが、このような不祥事が起きないよう事前に危機管理体制を整えておくべきだったと言えるでしょう。ゆうちょ銀行不正送金事件が発生した原因の一つは、即時振替サービスにおける本人確認システムの脆弱性にあったとされていますが、このような事態が発生することを未然に防ぐため、即時振替サービスの利用にあたっても本人確認措置を徹底しておくべきだったと言えるでしょう。

また、ゆうちょ銀行不正送金事件の場合、不正送金が発覚した後の事後的な対応にも問題があったように思われます。ゆうちょ銀行は不正送金によって発生した被害については全て補償する意向を明らかにしていますが、不正送金による被害は3年前から確認されており、そうであるにもかかわらず、未だに全ての被害について補償されたわけではないのです。不正送金による被害の発生を未然に防ぐよう十分なシステムを構築しておくべきだったと言えますが、仮に不正送金が発生してしまった場合には、被害者の方々に対し、早急に被害を補償できるような体制を整えておくべきだったと言えるでしょう。

さらに、ゆうちょ銀行側は、不正送金被害に遭った場合の補償の対象者を、ゆうちょ銀行への通知を被害日の30日後までに行った方等に限定しており、このような対応についても賛否が分かれるところでしょう。

2 議決権誤集計問題

三井住友信託銀行とみずほ信託銀行は、多数の上場企業から議決権数集計業務を受託していますが、そのうちの1300社以上の企業において、議決権の誤集計があったことが発覚しました。両行が約20年間という長期間にわたって議決権の集計に関する誤った処理をしてきたことが明らかとなったため、金融庁は、両行に対し、これまでの経緯や原因、再発防止策について詳細な報告をするよう命令を出しました。

議決権誤集計問題が起きた背景には、議決権行使書の郵送に関する、「先付け」と呼ばれる特殊な処理がされていたことがあります。議決権の集計は集中日など繁忙期には膨大な事務処理となるため、両行は、郵便局と協議して対策を取っていました。具体的には、通常の郵送業務で届く日程よりも1日早く行使書を配達してもらい、前倒しで集計する仕組みとなっていたところ(このような仕組みが「先付け」と呼ばれています。)、通常であれば期限の翌日に届くはずであった行使書も、「先付け」によって実際には期限当日に届いていたにもかかわらず、「先付け」によって期限当日に届いた行使書は、議決権数集計の対象外とされていました。民法は、意思表示の効力発生時期について「到達主義」を原則としているため(民法97条1項)、「先付け」という特殊な処理が背景にあったとはいえ、本来であれば行使書が実際に届いた時期を基準に議決権数を集計すべきであったわけですが、実際には両行は到達主義という民法の原則に反する処理をしてきたことになります。

そして、株主総会は、株式会社の最高意思決定機関であり、株式会社にとって重要な一定の事項(取締役の選任等)を決定する場合等に開催されますが、議決権の誤集計があった場合、その株主総会決議の帰趨を左右する可能性があるため、議決権の誤集計問題は株式会社にとって非常に重大な問題であると言えます。また、議決権の誤集計のあった会社の株主は、当該会社に対し、株主総会決議取り消しの訴え等を提起する可能性があり、議決権誤集計のあった株主総会決議の有効性が長期間にわたり確定しない状態となるおそれがあります。

三井住友信託銀行とみずほ信託銀行は、議決権の誤集計によって生じた損害を賠償する意向を明らかにしておりますが、その賠償額は多額に及ぶことが予想され、誤集計が生じることを予防する適切な管理体制を講じていなかったことにより両行に生じる経済的損害は莫大な額になると考えられます。また、両行の業務に対する社会の信頼も大きく損なわれてしまったといえるでしょう。さらに、誤集計のあった1300社以上の企業では、経済的損害は填補されるとしても、株主総会決議取り消しの訴え等が提起される可能性があり、大きな混乱が予想されます。

このように、議決権誤集計問題によって、三井住友信託銀行及びみずほ信託銀行に大きな損害が生じるだけでなく、両行に対し議決権集計業務を委託していた各企業にも大きな損害が生じることになるため、このような事態が起きないよう議決権数の誤集計が起きることを防止できるよう適切な管理体制を構築しておくべきだったと言えます。具体的には、「先付け」という特殊な処理が誤集計の起きた原因であったのであれば、少なくとも「先付け」によって期限内に到達した行使書をどのように扱うべきか確認した上で、その処理を事前に決定し、決定内容を行内や下請け企業等に周知しておくべきだったと言えるでしょう。また、議決権の誤集計を予防できなかったことだけでなく、議決権の誤集計が約20年間という長期間にわたり放置されてきたことも大きな問題であり、議決権の誤集計に早期に気づくことのできるよう適切な管理体制を講じておくべきだったとも言えるでしょう。

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3 まとめ

以上に見てきた通り、特に大企業の場合、非常にたくさんの利害関係者がおり、一度不祥事等が発生してしまうと不祥事を起こした当該企業だけでなく、その他の利害関係者にも大きな損害が発生してしまいます。そのため、不祥事が起きることを予防するために各企業の業務内容に応じた適切な危機管理体制を講じておくべきであると言えます。

また、不祥事が起きることを完全に予防することは不可能であるため、不祥事が起きた際に早期に発見し、損害の拡大を防止できるような管理体制を講じておくとともに、第三者に損害を早期に填補できるような体制を講じておくべきとも言えるでしょう。

もっとも、議決権誤集計問題で「到達主義」という民法の大原則を無視するような運用がなされていたことからすると、法律の専門家の協力なしでは適切な危機管理体制を構築することは困難なのかもしれません。
そのため、適切な危機管理体制を構築するにあたっては、一度顧問弁護士にご相談いただくことを強くお薦めいたします。

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