コラム
公開 2021.09.14 更新 2022.09.13

裁判を起こされるも完全勝訴したデータ消失事故の解決事例

裁判を起こされるも完全勝訴したデータ消失事故の解決事例
記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。法律事務所オーセンス入所から、ベンチャー法務を担当し、現在では、HRTech(HRテック)ベンチャー法務、芸能・エンタメ・インフルエンサー法務、スポーツ団体法務等を中心に担当。上場企業をはじめとした日本国内外に成長を求める企業のM&A支援にも積極的に取り組む。
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はじめに

プログラムの障害や人的なミスで管理・保管していたデータを消失してしまった・・・
このような事故を起こしてしまった場合、取引先から損害賠償請求されてしまうのでしょうか?

クラウドサービス事業者の故意または過失により・管理・保管していたデータが消失した場合は、損害賠償を請求されてしまうことは考えられます。
ただし、取引先がデータの消失による損害額を立証できなかったり、クラウドサービス事業者側の利用規約の中の免責規定が適用されるなどした場合には、損害賠償請求が否定される可能性もあります。

今回は、当事務所が解決した事例をもとに、クラウドサービス事業者が気をつけるべきポイントについて解説いたします。

なお、Authense法律事務所では、多様な企業法務ニーズに対応するさまざまな料金プランをご用意しております。

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ご相談までの経緯・背景

個人やショップ向けに、安価なマーケティング支援サービスを提供しているB社で、預かっていた顧客の顧客情報などが消失する事故が発生しました。
顧客から、営業損害や再構築費用、弁護士費用など合わせて約5億円の損害が発生したとして、その賠償を求める民事訴訟が提起されたことを受けて、B社は当所にご相談にお見えになりました。

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解決までの流れ

相手方はB社のサービスで複数アカウントを契約して、多数の販売サイトを運営していました。
あるとき、そのうちのひとつのアカウント(仮に3番とする)を解約してほしいとB社に依頼がありました。
B社はその依頼を受けて、3番を解約する手続きをとったものの、B社内で構築されていた業務システム上の不具合から、3番ではなく5番のアカウントに関する顧客情報やその他アカウントに紐づくデータが、すべて消失してしまいました。

誤ったアカウントが消えてしまったことに、普通であればすぐ気が付きそうなものですが、相手方で多数の販売サイトを運営していたことなどもあり、依頼とは違うアカウントが消えてしまったことがすぐには発覚せず、相当期間が経過してしまいました。
その結果、B社のバックアップ期間は過ぎ、事故が発覚したときには消去されたデータの回復は不可能な状態となってしまい、もとに戻すすべはありませんでした。

原因調査の結果、B社側の業務システムに問題があったということが確認され、B社は相手方に謝罪のうえ、一定の補償金を支払う意向を示しました。
ところが、損害額に関する認識が一致せず、相手方に納得してもらうことはできませんでした。
両者に代理人弁護士が入って話し合いをするも、互いの金額の乖離は大きく、結局、裁判へと至ってしまいました。

裁判では、B社のウェブサイト上に掲示された利用規約の免責条項について、その解釈と適用が大きな争点になりました。
特に、B社の提供していたサービスは薄利多売。多くのユーザーに活用してもらうことで、安い金額設定が可能になるビジネスモデル。
B社に一定の落ち度があるとはいえ、ユーザー側に生じた損害を全て補償していたら、ひとつのミスで利益が全て無くなってしまいます。
ユーザー側も、これだけ安い金額で利用できるのは、リスクと裏腹であるという点や、このモデルだとミスに対して全ての補償はできないという免責を入れておかなければ事業として成り立たない点も主張しました。

また、B社のサービス内容や業務システムの仕組みなどについて詳細な説明を行ったうえ、いかにB社にとって回避し難い事故であったかなどを立証していきました。

その結果、一審、二審、最高裁とすべて勝訴。
B社の完全勝利となり、賠償金の支払いは免れました。

結果・解決ポイント

このケースは利用規約の免責条項が有効に機能した事例です。
契約書類や利用規約では、ある一文、場合によってはわずか一言の文言が入っているかいないかで、大きな結果の違いが生まれてしまいます。
とはいえ、なにも考えずに「全部免責」としても意味がありません。
自社のサービスやビジネスモデルをしっかり理解して、どこまでなら免責事項に入れられるのかを考えて作らなければいけません。

IT企業の場合、専門知識や用語を理解している弁護士に依頼することも大切です。
裁判では裁判官に当方の主張が正当であることを認めてもらう必要があるためです。
裁判官には、ITの専門用語や最新技術などの知識がない場合もありますので、説明も分かりやすく丁寧に行わなければ伝わりません。
弁護士がサービスの根幹やビジネスモデル、それらを支える技術的なバックグラウンドについて理解していなければ、適切な説明をすることができないので、専門家を選定する際にはその分野の知見があるかを見極めることが大切です。

Authense法律事務所は、多くのIT企業の顧問を務めており、日々さまざまな業種の方々のサポートをさせていただいております。
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