2021年4月、不動産登記法の大きな改正が公布されました。
この改正法の多くは、2024年4月1日から施行されています。
この不動産登記法の改正はどのような内容なのでしょうか?
また、不動産登記法の改正について、企業はどのような対応が必要なのでしょうか?
今回は、不動産登記法の概要や改正ポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。
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不動産登記法とは
不動産登記法とは、不動産の登記ルールについて定めた法律です。
家や土地に直接名前を書いて、所有者を証明することは困難です。
また、アパートなどを見てもわかるように、そこに住んでいる人が必ずしもその土地や建物の所有者であるとは限りません。
そもそも、オフィスビルや山林など人が住んでいない土地・建物であっても、原則として誰かの所有財産です。
しかし、不動産は非常に大切な財産です。
仮にA氏が「このa土地は私の土地なので、2,000万円で売りますよ」と話していても、そのa土地が本当にA氏のものであることを確信できなければ、2,000万円もの大金を支払うことはできないでしょう。
そこで設けられているのが、不動産登記制度です。
家や土地など、その不動産の情報や所有者の情報を登記して管理することで、第三者であってもその土地や建物の所有者を比較的容易に確認することが可能となります。
つまり、先ほどの例でいえば、a土地の全部事項証明書(登記簿謄本)を取得して所有者欄を確認することで、A氏が本当にその土地の所有者らしいと確認できるということです。
これにより、不動産取引の安全性確保へとつながります。
このような登記制度を維持するためには、登記情報が正しくなければなりません。
そこで、不動産登記法では、登記に関するさまざまなルールを定めています。
2024年4月1日施行の不動産登記法の改正ポイント
不動産登記法は、2021年4月に多くの改正がなされました。
この改正の多くは、2024年4月1日から施行されています。
ここでは、2024年4月1日に施行された主な改正内容について解説します。
- 相続登記申請が義務化された
- 外国に居住する登記名義人の国内連絡先が登記事項となった
- DV被害者等保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例が設けられた
相続登記申請が義務化された
1つ目は、相続登記申請の義務化です。
この点が、今回の改正の目玉であるといえるでしょう。
相続登記とは、相続で不動産を取得した場合に、法務局へ申請し登記上の不動産の所有者を故人(「被相続人」といいます)から自身へと変える手続きです。
これまで、相続登記は義務ではありませんでした。
なぜなら、本来不動産登記は自身の権利を守るために行うものであるためです。
しかし、後ほど改めて解説しますが、近年では所有者不明土地が社会問題となっています。
これが問題視され、所有者不明土地の解消や所有者不明土地を生まないための法改正が多くなされました。
そのうちの一つが、この相続登記の義務化です。
2024年4月1日以降に相続によって不動産を取得した場合、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。
期限内に登記申請をしなかった場合、10万円以下の過料の対象となります(不動産登記法164条1項)。
また、改正法の施行前に発生した相続によって不動産を取得した場合であっても、施行日から3年以内(つまり、2027年3月31日まで)に相続登記を申請しなければなりません。
なお、この期限は遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)がまとまっていないことを理由に伸長されるものではないことには注意が必要です。
相続発生から3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合は、単独で申請できる仮の登記(「相続人申告登記」といいます)をすることで義務を履行したこととなります。
その後、遺産分割協議がまとまって最終的な取得者が決まった段階で、協議の成立から3年以内に改めて相続登記を申請します(不動産登記法76条の2第2項、同76条の3第4項等)。
外国に居住する登記名義人の国内連絡先が登記事項となった
2つ目は、外国に居住する登記名義人の国内連絡先が登記事項となったことです(不動産登記法73条の2第1項2号)。
きちんと所有者が登記されていたとしても、その所有者が外国に居住している場合、災害など不測の事態が生じた際に、所有者にすぐに連絡を取ることができません。
そこで、万が一の際に所有者とすぐに連絡が取れるよう、所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、国内における連絡先が登記されることとされました。
具体的には、国内における連絡先となった者の氏名や住所、営業所などを登記することとなります。
実際の運用としては、司法書士や不動産関連業者などが連絡先となることが想定されているようです。※1
DV被害者等保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例が設けられた
3つ目は、DV被害者などを保護するため、登記事項証明書等の記載事項の特例が設けられたことです。
不動産の全部事項証明書は、誰でも取得できます。
取得できる者が関係者などに限られないことから、取得にあたって厳格な本人確認などもされません。
不動産の所有者については、氏名や住所が登記事項です。
つまり、あるA氏がa土地を所有していることさえわかっていれば、a土地の全部事項証明書を取得することで、A氏の現在の氏名や現住所がわかってしまうということです。
所有者の氏名や住所は、災害時に連絡を取ったりトラブル発生時に差し押さえをしたりする観点から、非常に重要な情報です。
一方で、DVなどの被害者にとってはこの情報から加害者に現住所を知られるおそれがあり、危険が及ぶおそれがあります。
そのため、DV被害者が不動産を所有している場合、引越しをしても住所変更登記をしないままとするほかなかったでしょう。
しかし、住所変更登記をしないことは、所有者不明土地の増加にもつながります。
そこで、DV被害者等保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例が設けられました。
これは、DV被害者などが申し出をすることにより、登記事項証明書などを発行する際に、被害者の住所が「公示用住所」に置き換えられる制度です(不動産登記法119条6項)。
公示用住所とは、委任を受けた弁護士や被害者支援団体、法務局など、DV被害者と連絡をとることのできる者の住所や事務所所在地です。
これにより、DVなどの被害者が登記された情報から加害者に現住所を知られる事態を避けることが可能となります。
ただし、この制度を利用できるのは、人の生命や身体に危害を及ぼすおそれがある場合など一定の場合に限られており、無条件に利用できるわけではありません。
2025年以降に施行される不動産登記法の改正事項
2021年に成立した不動産登記法の改正には、2025年以降に施行されるものも存在します。
ここでは、2025年以降に施行される不動産登記法の主な改正事項について解説します。
住所等変更登記に関する改正
2026年4月1日から、住所や法人の本店所在地などの変更登記が義務化されます。
相続登記と同じく、これまでは住所変更登記も義務ではありませんでした。
しかし、所有者不明土地の解消へ向け、住所変更登記の義務化が決まっています。
改正法の施行後は、住所などの変更日から2年以内に変更登記をしなければなりません。
正当な理由なく期限内に変更登記をしなかった場合は、5万円以下の過料の対象となります。
住所等変更登記の簡略化
2026年4月1日から、住所や本店所在地の登記が簡略化されます。
簡略化の内容は、所有者が個人である場合と法人である場合とでそれぞれ次のとおりです。
所有者が個人の場合
不動産の所有者が個人である場合、本人から申し出ることで、職権で住所変更登記をしてもらえることとなります。
本人が申し出た場合、登記官が検索用情報などを用いて住民基本台帳ネットワークシステムに照会をかけます。
これにより、住民基本台帳ネットワークシステム(つまり、住民票)の内容と連動し、不動産の住所変更登記が完了します。
所有者が法人の場合
不動産の所有者が法人である場合、法人について本店移転や名称変更登記をすることで、自動的に不動産所有者である法人情報も変更されることとなります。
同じ法務局の管轄であっても、これまで両者は連動しておらず、本店所在地の移転登記をした場合は、別途所有不動産についても住所変更登記をしなければなりませんでした。
改正法の施行後は、会社法人等番号が登記事項に追加され、不動産について別途住所変更登記を申請しなくても、法人登記による変更情報が自動的に反映されることとなりました。
また、個人の場合とは異なり、法人側からの申出などは必要ありません。
所有不動産記録証明制度等の創設
2026年2月2日から、所有不動産記録証明制度がはじまります。
これは、被相続人が所有していた不動産の一覧表が登記官によって作成される制度です(不動産登記法119条の2)。
これまで、ある者が所有している全国の不動産を一覧で確認する手段はありませんでした。
市町村役場で相続人などが手続きをすれば、名寄せの取得は可能であるものの、この方法では他の市町村にある不動産までは見つけることができません。
その結果、相続人の知らない被相続人名義の不動産が相続登記の対象から漏れ、所有者不明土地となる事態が散見されています。
そこで新たに、ある被相続人の所有不動産を登記官が抽出し、一覧表として相続人へ交付する制度が開始されることとなりました。
これにより、被相続人の所有不動産が相続の対象から漏れる事態を防ぐことが可能となります。
また、遺産を調査する手間が大きく削減されることとなるでしょう。
不動産登記法が改正された背景
不動産登記法が大きく改正された背景には、所有者不明土地の増加が社会問題となっていることがあります。
所有者不明土地とは、相続登記や住所変更登記などがされないまま長期にわたって放置された結果、現在の所有者と連絡が取れなくなっている状態の土地です。
所有者不明土地は、災害が生じた際の復興の妨げとなるほか、その地域の再開発の妨げともなります。
また、土地の上に老朽化した所有者不明の建物があると、危険も生じかねません。
そこで、所有者不明土地を新たに生まないための改正や、所有者不明土地を解消するための改正がなされました。
不動産登記法改正に伴う企業の対応
不動産登記法の改正に伴い、企業はどのような対応が必要となるのでしょうか?
最後に、企業に必要となる不動産登記法改正への対応について解説します。
自社に関係する改正点を把握する
1つ目は、自社に関係する改正点を把握することです。
不動産登記法の改正は個人にまつわるものが多く、ほとんどの企業にとって大きな影響はありません。
多くの企業に関係する部分としては、本店移転登記に伴う住所変更登記が職権でなされるようになることくらいでしょう。
一方で、不動産販売や不動産管理を担っている場合のほか、DV被害者の支援をしている場合などには、改正が直接影響する可能性があります。
たとえば、海外の居住者へ向けて不動産を販売している場合、自社の事務所を国内連絡先として登記するよう打診される事態が生じるかもしれません。
不動産登記法の改正がどの程度影響するのかは業務内容によって大きく異なるため、まずは関係する改正を洗い出すことが必要です。
弁護士などの専門家に相談する
2つ目は、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することです。
先ほど解説したように、海外の居住者へ不動産を販売する場合、自社を連絡先として登記するよう打診されるかもしれません。
しかし、国内連絡先として自社を登録する場合、今後も海外に居住する所有者と連絡が取れる状態を維持する必要性が生じ、業務上の負担が生じます。
その反面、顧客との関係が密となり、今後も不動産販売などにより収益を上げられる可能性が高まるでしょう。
自社の方針を決めるには、リスクを正確に理解することが必要です。
リスクを正しく把握するため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
登記申請など具体的に必要な措置を講じる
3つ目は、登記申請など具体的に必要な措置を講じることです。
たとえば、自社を国内連絡先として登記する場合、その旨の登記申請を行います。
また、DV被害者の支援をしている場合は、登記事項証明書等の記載事項の特例に関する案内文書やリーフレットを作成してもよいかもしれません。
具体的に行うべき対応は自社の業務内容などによって異なるため、弁護士へ相談したうえで洗い出すことをおすすめします。
まとめ
不動産登記法について概要を紹介するとともに、直近の改正について概要を解説しました。
所有者不明土地を抑止する観点から、不動産登記法は多くの改正がなされています。
企業としては、自社に関連する改正点を把握したうえで、具体的に必要となる対応を洗い出すとよいでしょう。
リスクの把握や必要な対応の洗い出しでお困りの際は、弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを設けており、不動産登記法を遵守するためのリーガルサポートも可能です。
不動産登記法改正への対応でお困りの際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。