金融商品取引法は、主に金融商品を取り扱う事業者を対象とする法律です。
では、金融商品取引法ではどのような規制がなされているのでしょうか?
また、企業が金融商品取引法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
今回は、金融商品取引法の概要や主な規制内容、違反しないための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。
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金融商品取引法とは
金融商品取引法とは、企業内容の開示制度や金融商品取引業を行う者に関する必要な事項、金融商品取引所の適切な運営の確保などについて定めた法律です(金融商品取引法1条)。
これにより、有価証券の発行や金融商品等の取引などを公正にして有価証券の流通を円滑にすることのほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成などを図ることを目指しています。
金融商品の内容や上場会社の財務状況などが適切に公開されていなければ、投資家が公正に投資先を選ぶことが困難となります。
また、「この金融商品は絶対に儲かりますよ」などと嘘の勧誘をされる事態が横行すれば、安心して金融商品を取引することはできないでしょう。
このような事態を避けるため、金融商品取引法ではさまざまな規制を設けています。
証券取引法との違い
証券取引法は、金融商品取引法の前身である法律です。
2007年、関連する法律の廃止・改正と証券取引法の改正がなされたことで、金融商品取引法が誕生しました。
金融商品取引法の主な規制対象
金融商品取引法では、主に次の2つが規制対象とされています。
- 有価証券
- デリバティブ取引
ここでは、それぞれの概要を解説します。
有価証券
金融商品取引法の「有価証券」とは、次のものを指します(同2条1項)。
- 国債証券
- 地方債証券
- 特別の法律により法人の発行する債券
- 特定社債券
- 社債券
- 特別の法律により設立された法人の発行する出資証券
- 協同組織金融機関の優先出資証券
- 優先出資証券または新優先出資引受権を表示する証券
- 株券または新株予約権証券
- 投資信託または外国投資信託の受益証券
- 投資証券、新投資口予約権証券もしくは投資法人債券または外国投資証券
- 貸付信託の受益証券
- 特定目的信託の受益証券
- 受益証券発行信託の受益証券
- 法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形のうち、一定のもの
- 抵当証券
- 外国または外国の者の発行する証券または証書のうち、証券または証書の性質を有するもの
- 外国の者の発行する貸付債権受益権またはこれに類する権利を表示するもので、一定のもの
- オプションを表示する証券、証書
- 上記の各証券または証書の預託を受けた者が、その当該証券または証書の発行された国以外で発行する証券または証書で、預託を受けた証券または証書に係る権利を表示するもの
- その他政令で定める証券または証書
また、次のものは有価証券とみなされ、金融商品取引法が適用されます(同2項)。
- 信託受益権
- 外国の者に対する権利で、信託受益権の性質を有するもの
- 合名会社・合資会社の社員権のうち一定のもの、または合同会社の社員権
- 外国法人の社員権で合同会社等の社員権としての性質を有するもの
- いわゆる集団投資スキームの持分権
- 外国の法令に基づく権利のうち、いわゆる集団投資スキームの持分権
- その他政令で定める権利
一般的に「有価証券」というと、上場株式や投資信託などを想起するかもしれません。
これらも「有価証券」に含まれることはもちろん、ほかにも非常に多くの証券や権利が有価証券に含まれており、非常に広く定義されていることがわかります。
デリバティブ取引
金融商品取引法の「デリバティブ取引」とは、次のものを指します(同2条20項)。
- 市場デリバティブ取引:金融商品市場において、金融商品市場開設者の定める基準・方法に従って行う一定の取引(同21項)
- 店頭デリバティブ取引:金融商品市場・外国金融商品市場によらないで行う一定の取引(同22項)
- 外国市場デリバティブ取引:外国金融商品市場において行う取引で、市場デリバティブ取引と類似の取引(同23項)
金融商品取引法の対象となる事業者
金融商品取引法では、金融商品の取引に携わる事業者を4つに分け、それぞれ登録制を設けています。
自社の行おうとする事業について金融商品取引法による登録が必要か否か判断に迷う際は、弁護士へご相談ください。
なお、これらをまとめて「金融商品取引業者」といいます。
第一種金融商品取引業
第一種金融商品取引業とは、次の業務などを行う金融商品取引業者です(同28条1項)。
- 有価証券の売買(みなし有価証券を除く)
- 店頭デリバティブ取引等
- 引受業務
- 私設取引システムの運営
- 有価証券等管理業務
証券会社などは、これに該当するケースが多いでしょう。
第二種金融商品取引業
第二種金融商品取引業とは、次の業務などを行う金融商品取引業者です(同2項)。
- 集団投資スキーム等の自己募集
- みなし有価証券の売買等
- 市場デリバティブ取引(有価証券を除く)
自己募集のファンドなどは、これに該当することが多いでしょう。
投資助言・代理業
投資助言・代理業とは、顧客に対して投資に関するアドバイスをしたり、取引の代行をしたりする金融商品取引業者です(同3項)。
いわゆる投資顧問会社や投資アドバイザーなどがこれに該当します。
投資運用業
投資運用業とは、次の業務などを行う金融商品取引業者です(同4項)。
- 投資一任契約等に基づく運用
- 投資信託等の運用
- 集団投資スキーム等の運用
投資ファンドや投資信託委託会社は、これに該当することが多いでしょう。
金融商品取引法の4つの特徴
従来の証券取引法と比較して、金融商品取引法には4つの特徴があるとされています。
ここでは、4つの特徴について解説します。
横断化
1つ目の特徴は「横断化」です。
証券取引法の時代には金融商品の種類によって適用される法律が異なっており、複雑化していました。
また、金利・スワップ取引など規制対象から漏れていた金融商品も存在していました。
金融商品取引法では、さまざまな金融商品をまとめて規制対象としており、より強く投資家の保護がはかられています。
柔軟化
2つ目の特徴は「柔軟化」です。
投資に関する知識や経験は、投資家によってさまざまです。
そうであるにも関わらず、たとえば退職金ではじめて投資商品を購入しようとする一般個人と、日々取引を繰り返しているプロの投資家(「特定投資家」といいます)とで同じルールを適用していては、ルールが実態に即さないものとなりかねません。
そこで、金融商品取引法では所定の特定投資家に金融商品を販売する際には、書面交付など一部の義務を省略できることとし、柔軟化をはかっています。
公正透明化
3つ目の特徴は「公正透明化」です。
金融商品のさらなる公正透明化をはかるため、上場会社に対して有価証券報告書の確認書の提出が義務付けられたほか、内部統制報告書や四半期報告書が法定化されました。
厳格化
4つ目の特徴は「厳格化」です。
金融商品取引法では、罰則の強化がなされています。
これにより、不正がより強く抑止され、投資家保護が強化されることとなりました。
金融商品取引法の主な規制内容
金融商品取引法では、金融商品取引業者についてどのような規制がされているのでしょうか?
ここでは、金融商品取引法による主な規制内容について概要を解説します。
無登録営業の禁止
金融商品取引業者は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができません(同29条)。
無登録で金融商品取引業を営めば、罰則の適用対象となります。
広告に関する規制
金融商品取引業者が広告などをする際は、次の事項など一定の事項を表示しなければなりません(同37条1項)。
- その金融商品取引業者の商号、名称、氏名
- 金融商品取引業者である旨と登録番号
また、広告において著しく事実に相違する表示や著しく人を誤認させるような表示をすることは禁じられています(同2項)。
不公正な勧誘行為の禁止
金融商品取引業者は、不公正な勧誘をしてはなりません(同38条)。
不公正な勧誘とは、次の方法を用いた勧誘などです。
- 虚偽のことを告げる
- 不確実な事項について断定的判断を提供したり、確実であると誤解させるおそれのあることを告げたりする
- 信用格付業者以外の信用格付業を行う者が付与した信用格付を、所定の事項を告げることなく提供する
- 勧誘を求めていない顧客に対して、訪問したり電話をかけたりする
- 勧誘に先立って、顧客に対してその勧誘を受ける意思の有無を確認しない
- 顧客が断ったにもかかわらず勧誘を継続する
損失補填の禁止
金融商品取引業者は、顧客を勧誘するに際し、顧客に対して損失の全部または一部を補填する約束をしてはなりません(同38条の2 2号)。
このようなことをすると、市場全体での公平性確保が困難となるためです。
不公正取引規制
金融商品取引業者のほか一般企業にも関連する規制として、不公正取引の禁止があります。
不公正取引として金融商品取引法で禁止されている取引には、次のものが挙げられます。
相場操縦行為
相場操縦行為とは、有価証券などの取引状況に関して他人に誤解を生じさせる目的で、仮装の市場デリバティブ取引などをすることです(同159条)。
たとえば、ある上場株式の売買が頻繁に行われていると見せかけるために、仮装の取引を繰り返す行為などがこれに該当します。
インサイダー取引
インサイダー取引とは、会社の役員や職員など内部情報に接する立場にある者がその立場を利用して重要事実を知り、その情報が公表される前に会社の株式などを売買することを指します(同166条、167条)。
たとえば、近々公表される決算数値が非常によいことを知った上場会社の経理担当者が、会計情報が公表される前に自社株を購入する場合などがこれに該当します。
同様に、社内で大きな不祥事が生じた際、これが明るみに出る前に、その会社の役員が自社株を売り抜く行為もこれに該当するでしょう。
風説の流布等
風説の流布とは、風説(うわさ)を流すことで市場を操縦しようとする行為です。
ほかに、偽計を用いたり、暴行や脅迫をしたりして市場を操縦しようとする行為も禁じられています(同158条)。
企業が金融商品取引法に違反しないための対策
企業が金融商品取引法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、違反を避けるための主な対策を3つ解説します。
金融商品取引法の内容をよく理解する
1つ目は、金融商品取引法の内容をよく理解することです。
日頃から金融商品を取り扱う事業者や上場企業であればもちろん、それ以外の事業者であっても注意しなければなりません。
なぜなら、たとえば企業が私募債を発行する場合、設計内容によっては金融商品に該当し、金融商品取引法上のさまざまな義務の対象となるためです。
このように、非上場の一般企業であっても金融商品取引法と無縁というわけではありません。
不公正な取引に手を染めない
2つ目は、不公正な金融取引に手を染めないことです。
企業を経営するなかで、さまざまな「おいしい話」が持ち込まれることもあるかもしれません。
しかし、ほとんどの「おいしい話」にはウラがあります。
そのような話に乗ってしまうと、自社が被害者となり金銭的な被害を受ける可能性が高くなります。
また、インサイダー取引などに関与してしまい、自社が金融商品取引法などの法令に違反するおそれも生じます。
迷ったら弁護士へ相談する
3つ目は、迷った際は弁護士に相談することです。
企業経営で注意すべき法令は、金融商品取引法以外にも非常に多く存在します。
自社だけですべての法令を理解し、リスクに対処することは困難でしょう。
そのため、新しい事業を展開しようとする際など、判断に迷ったら弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士へ相談することで、知らず知らずのうちに法令に違反する事態を避けられるほか、安心して自社の事業を展開しやすくなります。
まとめ
金融商品取引法の概要や規制内容、違反しないための注意点などを解説しました。
金融商品取引法は、金融商品などの取引を公正にし、有価証券の流通を円滑とすることを目的とする法律です。
この目的を達成するため、金融商品取引業を行う者の登録制度などさまざまな規制を設けています。
金融商品取引法に違反しないため、判断に迷った際に相談できる弁護士などを見つけておくとよいでしょう。
Authense法律事務所では、企業法務に特化した専門チームを設けており、金融商品取引法についても豊富なサポート実績があります。
金融商品取引法について相談できる専門家をお探しの際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。