「生成系AI」という言葉を最近よく耳にする方も多いのではないかと思います。米OpenAIが開発したChatGPTはリリースからたった2ヶ月で1億ユーザーに利用されるほどになりました。我々人間の仕事はAIに置き換えられてしまうのでしょうか?本稿では凄まじい勢いで進化し続ける「生成系AI」の市場規模や投資金額、そして、AIが現時点で出来ること、近い将来に出来るようになりそうなことを整理します。
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ChatGPTの衝撃
米OpenAIが開発したChatGPTを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。ChatGPTは、チャット形式で質問に回答してくれる人工知能です。
リリース以来、多くの業界関係者を驚かせるほどのクオリティで、たった3日で100万ユーザーへ、2ヶ月で1億ユーザーに到達しました。ちなみに、他の著名サービスが100万ユーザーに到達した日数は、Netflixが3.5年、Facebookが10ヶ月、Spotifyが3ヶ月、Instagramが2.5ヶ月、iPhoneが74日となっています。ChatGPTが如何に衝撃的だったのかがよくご理解いただけるのではないかと思います。
ChatGPTのように、あたかも人間のように文章や絵画を生成する人工知能のことを、Generative Artifitial Intelligence(生成系AI)と呼びます。
生成系AIとは?
実際に、ChatGPTに質問してみました。
Q.専門家ではない人にも分かりやすく、生成系AIとは何かを400字程度で説明してください。
A.生成系AIは、人工知能の一種であり、コンピュータープログラムを使って新しいデータを生成する技術です。具体的には、テキスト、画像、音声などのデータを生成することができます。
生成系AIは、大量のデータを学習し、そのデータのパターンを把握することによって新しいデータを生成することができます。例えば、テキスト生成AIは、過去の文章を学習し、その文章のパターンを理解して新しい文章を生成することができます。また、画像生成AIは、訓練用の画像を学習し、それに基づいて新しい画像を生成することができます。
生成系AIは、創造性を持つことができ、多くの分野で活用されています。例えば、芸術家が作品を制作する際に使用したり、商品のデザインや建築物のデザインなどにも活用されています。
また、生成系AIは、偽の情報を作り出すこともできます。そのため、その使用方法には慎重さが求められます。技術の発展とともに、生成系AIの利用範囲は広がり、社会に与える影響も大きくなると予想されています。
このクオリティの回答が数秒で帰ってくるレベルにまで到達しています。インターネット上で公開されている知識を瞬時に見つけ出し、会話形式で返答する「コミュ力」の高さがChatGPTの人気の秘密です。
生成系AIの市場規模とスタートアップ投資額
生成系AIはビジネスとして急速に成長する市場と見られています。生成系AIの市場規模を表したグラフをご覧ください。
2022年時点で$10.79Bの市場規模が、2032年には$118.06Bにまで拡大すると予想されており、年間平均成長率(CAGR)は27.02%です。
AI系スタートアップ投資金額への投資金額も、投資環境が厳しかった2022年でさえも$50Bを超える規模になっており、次のゴールドラッシュとして、多くの起業家が生成系AIを進化させることにチャレンジしています。
これだけ大規模な市場が期待でき、かつこれだけ急速に成長する可能性がある技術分野は、そう多くはありませんので、競争が加熱している分野の一つです。
生成系AIが出来ること・出来ないこと
これだけ生成系AIが急激に我々の生活の中に入ってくると、「人工知能に我々の仕事が奪われる日は来るのか?」と心配したくなる読者の方もいらっしゃるかもしれません。米大手ベンチャーキャピタルであるセコイアキャピタルが発表しているレポートから、生成系AIが出来ること、(今はまだ開発中で)今後できるようになるかもしれないことを詳しく見てみましょう。
文章理解・生成
2022年までに初歩的なコピーライティング、原稿の初稿・第2稿の作成、長文の生成が可能になるとされています。上で試したChatGPTはまさにこのレベルにすでに到達していると言えるでしょう。2023年以降は、特定用途(例:学術論文)向けのチューニングの精度が上がったり、原稿初稿が人間が書くよりもより良いレベルになったりすると予想されています。
プログラミング
2022年までに、基礎的なプログラミングは精度高く長いプログラムであっても書けるようになっています。ChatGPTにプログラムを書くように依頼すると驚くクオリティのソースコードを生成してくれます。2023年以降は、複数のプログラミング展開、文章で指示するだけで(ソースコードを書き)プロダクトを完成させてくれるということが期待されています。
画像生成
2022年にはアート、ロゴ、写真を生成するAIが誕生しました。2023年以降は、製品デザイン、建築物などのモックアップを生成できるように進化するとされています。
動画生成
2022年に3Dや動画を生成するAIを開発しようとする試みがいくつかありました。2023年にそれらのAIが簡単な3Dや動画を生成できるようになり、そこから進化していくと考えられています。
生成系AIは急速に進化はしていますが、まだ我々人間の専門性が勝てる部分が多いとご理解いただけるのではないでしょうか。他方、生成系AIを自らのアシスタントのように使うことでより我々自身の生産性が上げられるケースも多そうです。
「AI vs 人間」という対立関係ではなく、急速に進化する生成系AIが出来ないこと・苦手なことを常に意識しながら、我々も自らのキャリアパスを設計していくのが一番良いのではないかと感じました。
LLMと呼ばれる大規模言語モデルの構築に関しては、膨大な計算機資源と投資が必要になるため、現時点では、マイクロソフト・OpenAI連合、グーグル、METAの3社が大きくリードしている状況で非常に参入障壁が高いと言わざるを得ませんが、そこで構築されたモデルを実社会・実ビジネスに応用する局面においては、まだまだ大きなビジネスチャンスがあるといえるでしょう。日本企業にも大きなチャンスがあることは間違いありませんので期待したいと思います。
Profile
シバタ ナオキ 氏
元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。
東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。
スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」を連載中。