現在、参院においてデジタル改革関連法案が審議されています(参照条文などに多数の誤りが見つかったという報道を目にされた方もおおいのではないでしょうか。)。
今般の新型コロナウイルス感染症への対応において、デジタル化の遅れが浮き彫りになるとともに、関連するシステムなどが急速に導入された企業も増え、激変の時を迎えました。
デジタル化によって生活が便利になっていく反面、個人情報の漏洩・悪用といった懸念があるのも事実です。
正しい知識をもって対応するためにも、本法案について見ていきましょう。
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迅速な公的給付のために
デジタル法案の1つとして、「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案」が挙げられます。
新型コロナウイルス感染症の蔓延による自粛要請などに対して、国民に10万円の一律給付が行われましたが、支給の手続きが煩雑であったり、支給されるまで時間がかかりすぎるとの声が多く見られました。
本法案は、個人の預貯金口座とマイナンバーとを紐づけることによって、公的給付を迅速かつ確実に行うことを可能にします。
しかし、本法案によっても個人の預貯金口座が勝手に行政機関に提供されるわけではなく、「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案」によって本人の意思が尊重されることとなります。
預貯金口座の開設などにあたり、口座がマイナンバーにより管理されることを希望する旨を申し出ることができ、金融機関にはそのことを確認することが義務付けられるため、口座情報が知らぬ間に漏洩しているという事態は生じません。※1
個人情報は守られるのか
「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」によって、個人情報保護制度の見直しが行われます。※2
現在施行されている「個人情報保護法」、「行政機関個人情報保護法」、「独立行政法人等個人情報保護法」を1本の法律に統合するとともに、地方公共団体の個人情報保護制度についても統合後の法律において全国的な共通ルールを設け、全体の所管を個人情報保護委員会に一元化するものです。
個人情報保護委員会において、公的部門を含め、一元的に個人情報の取扱いを監視監督する体制の確立や、官民や地域を超えたデータの利活用を促進するために、現行法制の不均衡などを是正するためや、国際的な制度との調整を図るためといわれております。
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デジタル化を遅らせてきたハンコ文化からの脱却
「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」によって、押印義務が廃止され、書面化義務も電磁的方法により行うことが可能となります。
改正する法律の数はなんと48法律にものぼります。約1万5千ある行政手続きのうち、99%の押印を廃止する方針が打ち出されています。
日本のデジタル化の遅れの象徴ともいえるハンコ文化ですが、関連ビジネスにとっては大幅な改革となることが予想されます。
しかし、本法案において押印は不要となるものの、記名義務・署名義務は残存しています。
「記名」とは、「署名」と区別し、他人が代わって書いたり、印刷したり、ゴム印を押したりして氏名を記すことをいい、これにも法律上の効果が認められています。
なお、商業・法人登記や不動産登記の申請といった実印を要する行政手続きには引き続き押印が必要となるので、注意が必要です。
地方自治の本旨と地方公共団体情報システムの標準化
「地方公共団体情報システムの標準化に関する法案」は、住民基本台帳、種々の課税、児童手当など、法律に基づいて地方自治体が実施している事務について、各地方公共団体が使用する情報システムについて、標準化を推進するものです。
地方公共団体のシステムの標準化・共通化を進めることによって、各地方公共団体におけるシステムの維持管理などに費やす人的・財政的負担が減り、住民の利便性を向上させるサービスの提供などを迅速に全国展開できるようになるといわれています。
また、本法案第8条では、独自のシステムの効率性、標準システムとの互換性、必要最小限度の改変又は追加の要件を満たしていれば、地方公共団体が独自の公共サービスを実施することも許容しており、憲法92条に定める「地方自治の本旨」を尊重した形にもなっていると考えられます。
マイナンバーカードの利便性向上
マイナンバーカードは、デジタル化が進む行政手続きにおいて、オンライン上で本人確認するための必須の仕組みとなります。
マイナンバーカードの利活用シーンとして想定されているのは、健康保険証をはじめとする医療関係や、在留カードや教員免許、学生証といった各種証明書などにまで及んでおり、マイナンバーの利用範囲が一段と広がります。
マイナンバーカードの機能のうち、電子証明書をスマートフォンに搭載し、各種の行政手続きがスマートフォンで完結し、ワンストップで行うことができるようになり、また、引越しの際の住所変更などもスマートフォンからの操作をすることによってかなり簡便化された手続きが可能となります。
先般行われたような公的給付に関しても、ほぼ手続きいらずで、迅速な給付を受けることができるようになります。
まとめ
デジタル改革関連法案の成立によって、国と地方公共団体が一元的にシステムを管理することが可能になり、また、公的給付などの様々な行政手続きがマイナンバーの普及、ハンコ文化からの脱却よって迅速に行うことができるようになります。
その反面、内閣中枢に個人情報の管理権限が委ねられることになり、その漏洩や恣意的利用のおそれはないとはいえません。
しかし、監視社会への対策は行いながらも、迅速な手続きなどが可能な状態に置いておくことで、より住みよい社会にすることができます。
当事務所では、電子契約についてクラウドサインを導入したり、当事務所所属の全弁護士にiPadを支給したり、テレワークを推進したりするなど、様々なデジタル改革を行っています。
また、行政手続きにおけるトラブルや、個人情報保護についても、その道に精通した当事務所所属の弁護士が、迅速かつ確実な解決をします。