「相続人の不存在」とは、相続人全員の相続放棄等の理由により、遺産を相続する人がいなくなった場合のようなことをいいます。被相続人(亡くなった方)に親族がおらず、相続人が存在しないときもこれにあたります。
この場合には、相続財産管理制度というものを利用することになります。
これに対して、「相続人の不在」とは、法定相続人はいるものの、その中の全部または一部の相続人が行方不明になっているような場合のことをいいます。この場合には、不在者財産管理制度というものを利用することになります。
これら2つの制度は財産管理という面では類似していますが、それぞれの制度はその趣旨が大きく異なり、利用される場面も異なります。
相続人の不在
相続人が不存在となった場合に遺産が宙に浮く状態を避けるため、検察官や債権者等が家庭裁判所に対し、申立てをして、相続財産管理人を選任してもらう制度です。
相続財産管理人は「相続人のあることが明らかでないとき」(民法951条)に選任されます。
これは、相続人が単に生死不明・行方不明の状態を指すのではなく、例えば戸籍の記載上は相続人が一人も居ないような状態や相続人がいないことが明らかであるときなどを指します。単に生死不明・行方不明の状態である場合は、当該相続人が相続したことを前提に、その人の不在者財産管理人を選任するか、失踪宣告の手続きを経た上で、相続財産の管理を行えば足りるからです。
被相続人の最終の住所地を管轄する家庭裁判所で、相続財産管理人の選任申立の手続きをします。その際には、相続財産管理人の選任申立書を作成して予納郵便切手を添えて、家庭裁判所に提出します。
その後、家庭裁判所で申立が受理されて、相続財産管理人が必要なのかどうかについて審理が行われます(これを審判といいます。)。
審理が終わると、申立人の元に「審判書」というものが送られてきます。これを見れば、相続財産管理人が選任されたかどうか等審理の結果がわかります。
相続財産管理人の申立費用自体は、収入印紙代や郵便切手代、官報公告料など全て合わせても数千円程度です。もっとも、申立人が裁判所に納めなければならない金額は、事案の複雑さに応じて、数十万~百万円程度にもなります。なお、このお金は相続財産の管理費用が足りなかった場合に備えて予め納めておくものなので、結果的に相続財産から諸費用が全て支出できた場合には申立人へ返還されます。
不在者財産管理制度とは、不在者に財産を管理する人がいない場合に、申し立てを受けて家庭裁判所が財産管理人選任等を行う制度です。
不在者とは、「従来の住所又は居所を去った者」をいい、簡単に言うと、従来いた場所に帰ってくる見込みのない者のことです。
この制度では、選任された不在者財産管理人が不在者の財産を管理、保存したり、必要に応じて、家庭裁判所の許可をもらった上で、不在者に代わって遺産分割、不動産の売却等を行ってくれます。
まず、相続人等の不在者(わかりやすく言えば、帰ってくる見込みのない者)に対して、利害関係をもつ者が不在者財産管理人選任の申立てを家庭裁判所に行います。
その後、家庭裁判所の調査官が申立人や不在者の親族等に対して事情を聴きつつ、不在者に関する年金の振込先や税の納付状況等を確認します。このような手続を経て、家庭裁判所が「対象者は行方不明である」と認定した場合に、不在者財産管理人が選任されます。
申立費用は、収入印紙800円と郵便切手代がかかります。ほかにも、不在者の戸籍謄本や戸籍の附票など各種必要書類等の取寄せ費用も発生します。また、あらかじめ予納金として、おおむね30万~50万ほどを裁判所に納めることも必要です。
遺産分割協議は、相続人全員の同意が必要ですので、不在者がいると、遺産分割の協議を進められません。
そこで、このような場合、以下の制度を利用することで遺産分割協議を進めていくことができます。
まず、失踪宣告制度というものがあります。
生死が不明である者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。不在者の生死が7年間明らかでないとき、または戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後、その生死が1年間明らかでないとき、家庭裁判所への申立てにより、失踪宣告をすることができます。
この申立てが認められると、法律上本人は死亡したものとして扱われるため、不在者の子どもなど代襲相続人が遺産分割協議に参加することになります。もっとも、家庭裁判所に申立てしてから認められるまでに1年程かかってしまいます。
そのため、不在者財産管理制度もよく利用されます。
この制度により選任された不在者財産管理人は、不在者の財産の管理・保存のほか、家庭裁判所の許可を得た上で、不在者に代わり、遺産分割や不動産の売却等を行うことができます。
不在者財産管理人が選任されたとしても、その者が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の許可が必要になります。そのため、実際に不在者財産管理人の選任申立てがなされてから、家庭裁判所による遺産分割協議の許可まで約1年以上の時間がかかるケースもあります。
したがって、相続人の中に行方不明者がいる場合には、不在者に関する資料を集めたうえでなるべく早い段階で弁護士にご相談することをお勧めいたします。
できます。このような場合に用いられる相続財産管理制度の流れを具体的に知っておいたほうがいいでしょう。
そもそも、相続人全員が相続放棄を行った場合等の相続人がいないケースでは、相続人の不存在に該当します。
相続人が不存在である場合、まず、民法の規定に従い、特別の手続きを経ることなく、相続財産は法人化されます(この法人化された相続財産を「相続財産法人」と呼びます。)。
しかし、相続財産法人が成立しただけでは、弁済等の手続きは始まらないため、利害関係者等が相続財産の管理人を選任するように裁判所に請求します。
相続財産管理人が選任されると①相続財産管理人選任の公告②相続債権者や受遺者に対する請求申出の公告(選任公告から約2ヶ月程度)③相続人捜索の公告(清算手続を経ても財産が残ると見込まれた場合に、6ヶ月以上の催告期間を定めて行われます。)が行われます。
ここで、注意すべき点は、相続債権者等は、②の期間内に申出をする必要があるということです。
この申し出がなされたのちに、準備が整い次第、相続財産管理人は、法律で決められた順番に弁済等を行っていくことになります。そのため、相続債権者は、相続財産管理人からの連絡を待って、適宜対応することとなります。以上が、相続債権者等が弁済を受けるために必要な手続の流れとなります。
なお、上記①~③の公告を経ても相続人が現れなかった場合以降も諸々の手続きはございますので、相続人の不存在でお悩みの方は一度弁護士にご相談してみてください。
相続財産がわずかな場合、申立費用や管理人報酬の予納等金銭的な負担があるので、申立てをしないことも考えるべきです。
しかしながら、遺産である不動産について時効取得したことなどを理由に訴訟を起こす必要がある場合等、なんらかの権利を行使する実益があると言える場面では、相続財産管理人がいたほうがいいでしょう。
したがって、ご自身の置かれている状況を踏まえ、費用を捻出しても、相続財産管理人がいる実益があると言えるならば一度弁護士にご相談してみてください。
認定死亡制度というものがあります。
通常人が亡くなるときは病院などで医師が死亡の確認を行います。
しかし、災害等の特殊な事情で、遺体が見つからずに、具体的に死亡の確認ができないこともあります。
認定死亡制度は、このような状況で生死不明となった人を法的に亡くなったものとして扱うというものです(戸籍法第89条)。一般に、認定死亡は死亡したことが確実といえる場合に用いられ、その意味で単に生死が不明である場合に利用できる失踪宣告と区別されます。