コラム
公開 2021.05.17 更新 2023.04.06

使途不明金の請求方法について詳しく解説!

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被相続人の生前に引き出された預貯金などを、使途不明金として、引き出した相続人に請求するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。
ここでは、使途不明金(損害賠償請求、不当利得返還請求)を請求するときの手続きについて、相続に詳しい弁護士が分かりやすく解説いたします。

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被相続人の預貯金の生前引出し(使途不明金)の問題について

最近、相続関係で増えている問題として、被相続人の預貯金の生前引出しの問題があります。
日本では高齢化が進んでいるため、ご高齢の方が自分の財産の管理を子どもたちに委ねるケースは少なくありません。
また、入院中や施設入所中は、病室や施設に財産を持ち込むことが禁止されている場合も多く、親族に財産を預けざるを得ないこともあります。

相続が発生した後に、財産を預かっていた子どもが、勝手に自分のために被相続人の財産を消費していたことが判明した場合、他の相続人たちは、どうすれば良いのでしょうか?

生前引出し問題の例

生前引出し問題の例

被相続人:母

令和3年1月1日に亡くなったが、亡くなる前の半年間は病院に入院していた。
令和2年6月末日時点では、母の預貯金残高は3000万円であったが、令和3年1月1日の預貯金残高は500万円となっていた(入院中の費用は月額10~15万円だった。)。

相続人:長女・次女

長女は、令和2年6月末日に母の通帳を預かり、保管していた。
次女としては、母が入院中に2500万円もの現金を使うことはできないため、この2500万円は長女が使ったのではないかと思っている。
次女としては、この2500万円が残っていれば自分が取得することができたはずの分について、何かしらの請求がしたい。

このケースの場合、次女は、どのような請求をすることになるのでしょうか。

以下、生前引出し(使途不明金)の手続きについて、解説していきます。

使途不明金の調査

使途不明金の調査

被相続人の預貯金が思ったより少なく、使途不明金の疑いがある場合、どのようにして使途不明金を調査すれば良いのでしょうか。
ここでは、使途不明金の調査方法について、解説いたします。

使途不明金の有無を調べるために、まずは被相続人名義の預貯金などの取引履歴を取得しましょう。取引履歴を取得できる年数は、各金融機関によって異なりますが、直近10年分の取得が可能な金融機関が多いです。各金融機関によって、必要書類や手数料が異なりますので、事前に問い合わせの上、必要な期間の取引履歴を取得しましょう。少なくとも、被相続人が自分自身で財産の管理をすることができなくなった時期から、現時点までの取引履歴は取得する必要があります。

金融機関とのやり取りや必要書類の収集が面倒だという方は、専門家に依頼することも可能です。

取引履歴を取得したら、預貯金の入出金について調べましょう。
入出金の調べ方ですが、まずは、水道光熱費などの使途が分かる引き落とし以外に、数十万円単位の使途不明な引き出しがないかを確認し、それらについて、エクセルシートなどを使って整理するところから始めてみると良いと思います。取引履歴の中には、どこのATMで引き出されているか、ATMの番号が記載されているものもあります。例えば、被相続人の自宅近くのATMではなく、財産を預かっていた子どもの自宅近くのATMからの引き出しが多数ある場合には、被相続人ではなく、その子どもがお金を引き出していた可能性が高くなります。

また、取引履歴だけでなく、被相続人の入院・入所期間や、入院・入所中の健康状態が分かる書類があるかどうかについて、病院や施設に問い合わせをし、そのような書類があれば病院や施設に依頼して取得しましょう。
そして、病院や施設から取得した書類と、金融機関の取引履歴とを比較し、例えば、被相続人の入院・入所期間中に、ATMで何回も出金している記録があるような場合は、被相続人以外の人が出金をしている可能性が高くなります。

また、被相続人の健康状態によっては、被相続人が外出もできない、あるいは、出金の依頼や指示すらできないような状況であることもあり、病院や施設から取得した資料で、被相続人が当時このような状況であったことが判明すれば、ますます、被相続人ではなく、財産を預かっていた子どもが、被相続人に無断でお金を引き出していた可能性が高くなります。

使途不明金の請求方法

使途不明金の請求方法としては、①交渉、②裁判があります。

①交渉

裁判所を介して手続きをする前に、裁判所を介しない当事者どうしの話し合い(交渉)をすることも多いです。この話し合いの中で、使途不明金の請求をしたい人は、財産を管理していた相続人などに対し、使途不明金の使途の説明を求めたり、使途不明金のうち、自身の法定相続分に相当する金額の返金を求めたりします。

しかしながら交渉では、請求する側、請求される側で、使途不明金の金額や支払方法について合意ができなければ解決できません。
使途不明金については、被相続人が既に亡くなっていることから、双方の主張がかみ合わず、交渉が決裂することもとても多いです。

②裁判

裁判所における手続きとしては、まず、家庭裁判所での遺産分割調停が考えられます。

しかし、家庭裁判所における遺産分割調停は、原則として、「現時点で残っている被相続人の財産を、相続人たちでどのように分けるか」について協議をする場なので、現在残っていない使途不明金をどうするかについては、遺産分割調停では原則として話し合いをすることはできません。例外として、使途不明金の問題を調停の場で協議することについて、相続人全員の合意が得られた場合には、遺産分割調停においても使途不明金問題を協議することは可能ですが、被相続人の財産を使い込んでいた人が、わざわざ、遺産分割調停での話し合いに応じることは、あまり期待できません。

したがって、使途不明金について問題にしたい場合には、原則として、遺産分割調停とは別に、地方裁判所に対し、民事訴訟を提起することになります。

民事訴訟の場合は、主に、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求のどちらかの法律構成をとることが多いですが、どちらの構成をとっても、主張を裏付ける証拠が必要となります。
取引履歴や当時の被相続人の生活状況、被相続人と相続人との関係性などを可能な限り、客観的な資料に基づき主張をしていく必要がありますので、しっかりと準備をした上で、訴訟を提起していきましょう。

使途不明金の訴訟では、誰が引き出したのか、引き出した金銭を何に使ったのか、その使途は正当なのかどうかについて審理を行っていくため、細かい議論になったり、大量の領収書が証拠として提出されたりして、訴訟にかかる期間が長くなることが多いです。

当事者どうしで和解ができない場合は、尋問を経たうえで、裁判官が最終的に判断をすることになりますので、訴訟を提起する場合には予め十分な準備が必要です。

使途不明金の発生を防ぐためには

使途不明金の発生を防ぐためには

それでは、使途不明金の発生を防ぐためには、どうすれば良いのでしょうか。
例えば、高齢の母の預貯金を一部の相続人が管理し、私的流用をしている場合は、どのようにすれば良いのでしょうか。

母に判断能力があれば、下記のような方法をとるのが良いでしょう。

  1. 通帳などを管理している相続人に、母が通帳などの返還を請求する
  2. 金融機関などに連絡をして、相続人が管理している通帳などでは、金銭を引き出せないようにする

母に判断能力が無い場合は、下記のような方法をとるのが良いでしょう。

  1. 成年後見人の申立てをする
  2. 任意後見契約を締結していれば、任意後見監督人の申立てをする

母の財産管理を後見人が行うようにすれば、使い込みを防ぐことができます。
①の成年後見人の申立ての場合、特に、財産の管理状況について親族間に意見の対立があるような場合や、管理すべき財産額が大きいような場合には、弁護士や司法書士などの専門職の成年後見人が選任されることも多いです。このような、専門職の後見人が選任されれば、
母の財産が適切に管理されることになるので、他の相続人による使い込みの心配がなくなります。

使途不明金の問題は誰に相談すれば良いか

使途不明金の問題は、相手方との交渉や裁判などが必要となってくるため、代理人として活動してくれる弁護士に相談されることをお勧めします。
早めに相談すれば、調査方法などについてもアドバイスをもらえる可能性がありますので、使途不明金について怪しいなと思ったら、早めに相談するようにしましょう。

まとめ

使途不明金の問題は、近年増加傾向にあります。
泣き寝入りとならないように、しっかりと調査をして、早めに弁護士などの専門家に相談して、対策をとるようにしましょう。

オーセンスの弁護士がお役に立てること

・弁護士であれば、金融機関の取引履歴や、病院・施設からの資料の取得に慣れているため、証拠が散逸する前に、速やかに、資料の収集をすることができます。

・弁護士であれば、交渉に慣れており、訴訟になった場合の流れを想定することができるので、相手方との交渉を有利に進めることができます。

・弁護士であれば、訴訟の代理人としての活動に慣れているので、裁判官にこちら側の主張を理解してもらえるように、法的に筋のとおった主張を組み立てて書面を作成したり、裁判官と話をしたりすることができます。

・使途不明金の問題は、例えば兄弟間の軋轢を原因として感情的な議論になってしまい、当事者どうしの協議が難航することが多いです。弁護士であれば、感情論と法律論を明確に整理し、依頼者のために法的に有利となるような主張を展開することができます。

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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。相続を中心に、離婚、不動産法務など、幅広く取り扱う。相続人が30人以上の複雑な案件など、相続に関わる様々な紛争案件の解決実績を持つ。
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