コラム
公開 2022.07.21 更新 2023.04.07

借金は相続する必要がある?相続しないために取るべき手続きと注意点

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故人が借金をしていた場合、原則として借金も相続の対象となります。
また、一部の相続人が借金を引き継ぐなどの合意は相続人間では有効であるものの、金融機関などの債権者には対抗することができません。
今回は、借金を相続する場合の注意点や手続きなどについて、相続に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

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故人の借金は相続しなければならない?

「相続」というと、一般的に家、土地や預貯金などプラスの財産の承継を思い浮かべることが多いかと思います。
しかし、故人が借金をしている場合や、家のローンが残っている場合もあることでしょう。

では、故人の借金やローンも、相続の対象となってしまうのでしょうか?

原則として借金も相続する

原則として、相続人はプラスの財産のみならず、借金やローンなどマイナスの財産も相続することとなります。
借金やローンを引き継いだ場合には、故人に代わってその後は相続人が返済していかなければなりません。

借金は、法定相続人がそれぞれの法定相続分の割合に応じて、当然に承継することが原則です。

相続放棄すると借金は引き継がないが何も相続できなくなる

相続放棄とは、家庭裁判所へ申述することによって、はじめから相続人ではなかったこととされる手続きです。
相続放棄の結果としてはじめから相続人ではなかったこととなる以上、借金も引き継がずに済みます。

ただし、プラスの財産は相続したいけれど、借金だけを放棄したいなどといった都合の良いことはできません。相続放棄をすると、土地や預貯金などプラスの財産も一切相続することができなくなります。

なお、相続放棄をせず、遺産分割協議をした場合に、一部の相続人が何ももらわない内容の遺産分割協議を成立させたことを「相続を放棄した」と話す方がいらっしゃいます。ですが、これは法律上の「相続放棄」にはあたりません。法律上の「相続放棄」をするためには、必ず家庭裁判所への申述が必要ですので、混同しないようにしてください。

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1人の相続人が借金を相続する場合の注意点

相続人のうち、1人の相続人が故人の借金をすべて引き継ぐこととしたい場合もあることでしょう。

たとえば、亡くなった人(「被相続人」といいます)が事業を営んでおり、その事業を引き継ぐ相続人が事業に関連する借金を引き継ぎたい場合や、不動産を引き継ぐ相続人がその不動産の購入に関する借金を引き継ぎたい場合などが考えられます。

このような場合には、どのような点に注意すべきなのでしょうか?

内部的な取り決めは債権者に対抗できない

遺産分割協議などにおいて、たとえば長男など特定の相続人が借金を相続するといった旨を取り決めることは可能です。
また、借金を引き継ぐ人を、遺言書で定めておくこともできます。

しかし、このような取り決めは、あくまでも相続人間の内部的な取り決めという効力しかありません。そのため、この取り決めは、お金を貸す側の金融機関などの債権者に対抗することはできないのです。
なぜなら、仮にこの内部的な取り決めが債権者に対抗できるとしてしまえば、たとえば元々主だった財産を何も所有しておらず、相続でもほとんど何も相続しなかった相続人にあえて借金をすべて引き継がせ、その後その相続人が自己破産をすることなどによって、一家が借金から逃れることができてしまう可能性があるからです。

これは極端な例ですが、このような行為で債権者が一方的に不測の損害を被ってしまわないよう、相続人同士の内部的な取り決めのみでは、債権者に対抗できないこととなっているのです。

そのため、例えば、遺産分割協議で長男がすべての借金を引き継ぐと取り決め、遺産分割協議書にその旨を明記したり、借金はすべて長男に継がせる旨の有効な遺言書を遺したりしたとしても、債権者は長男だけでなく、他の相続人に対しても、それぞれの法定相続分を限度として返済するように請求することができてしまいます。

具体的な例で説明しますと、相続人が長男、長女、二男の3人であり借金が3,000万円であった場合を想定します。この場合、仮に長男が全ての財産を引き継ぐことが相続人で決まったり、遺言で決められていたりしたとしても、金融機関から、長男、長女、二男に対してそれぞれ1,000万円を限度に返済を請求される可能性があるということになります。

他の相続人への請求は求償で対応する

遺産分割協議や遺言書で長男が借金を相続すると取り決めたにもかかわらず、仮に長女や二男が債権者から請求を受けて借金を返済したら、長女と二男はその返済した額を長男に対して請求することが可能です。

たとえば、3,000万円あった故人の借金のうち、1,000万円の返済が長女に対して請求され、長女が実際に債権者に支払った場合には、長女は長男に対して1,000万円を支払うよう請求することができます。

長女から長男に対するこのような請求のことを「求償」といいます。

結果的に求償ができるのであれば問題がないのではないかと考えるかもしれませんが、仮に長男が、支払いができるだけの資力がない場合、長女や二男はお金を返してもらうことができません。

仮に、内部的な取り決めが債権者に対しても効力を持つのであれば、長男が無資力であった場合の損害を被るのは債権者です。
一方で、債権者に対して内部的な取り決めが対抗できないのであれば、長男が無資力であった場合に損害を被るのは、他の相続人である長女や二男となります。

この点が、内部的な取り決めが債権者に対して効力を持つかどうかの大きな違いの一つです。

他の相続人が借金を相続しない方法1:相続放棄

長男が借金をすべて引き継ぐこととしたい場合に、他の相続人が金融機関などの債権者から返済を求められないためには、どのような対策を取れば良いのでしょうか?

この場合の代表的な対策としては、長男以外の相続人が家庭裁判所で相続放棄をすることが考えられます。
相続放棄をした人は、はじめから相続人ではなかったことになるため、借金を引き継がずに済むためです。

他の相続人が相続放棄をする場合には、次の4点に注意しましょう。

他の財産も一切相続できなくなる

相続放棄をすると他の財産も含めて、一切相続することができなくなります。
そのため、長女や二男が何かプラスの財産を相続する予定である場合には、相続放棄という選択肢を取ることは現実的ではありません。
相続放棄を検討する場合には、専門家にご相談ください。

相続放棄ができる期間に注意

相続放棄は原則として、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に行わなければなりません。
「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、一般的には、被相続人が亡くなったことを知ったときです。

相続が起きた後は、葬儀、四十九日の手配や役所での手続きなど何かと多忙であるため、3ヶ月などあっという間に過ぎてしまうことが少なくありません。
3ヶ月を過ぎてしまうと、原則としては相続放棄が認められないことになりますので、相続放棄を検討する際には相続が起きたらすぐにでも準備に取り掛かる必要があるといえます。

また、あらかじめ家庭裁判所で手続きをすることによって、3ヶ月という期間を伸長できる制度があります。
そのため、3ヶ月に間に合わない可能性がある場合には、あらかじめ伸長の手続きをしておくと良いでしょう。

ただし、すでに3ヶ月の期間を過ぎてしまってからでは、期間伸長の申し立てをすることはできません。

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単純承認をしてしまった後では相続放棄ができない

たとえ上記の期間内であったとしても、いったんその相続の「単純承認」をしてしまった後では、もはや相続放棄をすることは認められません。

単純承認をしたとみなされる場合は、法律に規定がありますが、たとえば相続財産の一部を処分した場合などに単純承認をしたものとみなされます。

また、駐車場スペースを空けるために、被相続人名義の古い自動車を二束三文で売却したようなことがあっても、単純承認をしたとみなされる可能性があります。
また、預貯金の仮払い制度などを活用して故人の預貯金から一部を引き出した場合などにも、相続放棄が認められる可能性はかなり低くなってしまうでしょう。

そのため、相続放棄を検討している場合には、故人の財産には一切手をつけることのないように注意してください。

単純承認にあたるかどうか不明な場合には、相続に詳しい弁護士へあらかじめ相談すると安心です。

後順位の相続人に権利が移る場合がある

法定相続人が長男と長女、二男である場合に、長女と二男が相続放棄をすれば、長男のみが相続人となります。
一方で、長男ではなく被相続人の配偶者が借金をすべて引き継ぐ目的で、他の相続人である長男、長女、二男が相続放棄をする場合などは注意しなければなりません。

なぜなら、子が全員相続放棄をしたからといって、配偶者のみが相続人となるわけではないためです。

第一順位の相続人が全員相続放棄をすると、第一順位の相続人ははじめから誰もいなかったこととなります。
その結果、第二順位の相続人である被相続人の父母や、第二順位の相続人がいなければ第三順位の相続人である被相続人の兄弟姉妹が相続人となってしまうのです。

父母や兄弟姉妹も相続放棄を行えば良いですが、父母や兄弟姉妹からすれば、本来は関係なかったはずの相続で放棄の手続きをすべきこととなり、不満を感じさせてしまう可能性が十分あり得ます。

また、父母や兄弟姉妹の中に認知症を発症している人がいる場合や、行方不明となっている人がいる場合には、相続放棄に先立って成年後見人や不在者財産管理人などを選任する必要があり、手続きはさらに煩雑になります。
遺産の内容によっては、選任された成年後見人や不在者財産管理人が相続放棄を認めない可能性もあり、そうなれば当初の計画に大幅な狂いが生じてしまうことにもなりかねません。

相続放棄をする場合には、相続放棄の結果相続人となるのは誰なのか、あらかじめよくシミュレーションをしてから行う必要があります。

他の相続人が借金を相続しない方法2:債権者の承諾

相続放棄以外で他の相続人が借金を相続しない方法としては、長男が借金を引き継ぐことに対して債権者の承諾を得ることが考えられます。

では、具体的に解説していきましょう。

債権者が債務を承諾した後は他の相続人に請求できない

長男が借金を引き継ぐ旨の遺産分割協議を内部的に成立させたのみでは債権者に対して対抗することができず、長女や二男に対しても返済が請求されるリスクが残ります。
しかし、すべての借金を長男が引き継ぐことについて債権者が承諾すれば、以後は債権者に対してもこの取り決めが効力を持つこととなります。

長男が借金を引き継ぐことについて、債権者がいったん承諾した後は、債権者はもはや長女や二男に対して借金の返済を請求することはできません。
たとえ、その後長男が無資力となってしまった場合であっても同様です。

実務上、長男の資力に特に問題がなく、借金が長男の承継した事業に関連するものであったり、長男が相続した不動産に関連するものであったりする場合には、債権者の承諾を得られる可能性はあり得ます。

あらかじめ金融機関へ相談する

債権者の承諾をスムーズに得るためには、あらかじめ債権者である金融機関などに相談しておくと安心です。

特に、事業を引き継ぐ場合などは、被相続人が生前から長男を金融機関へ紹介するなどして関係性を築いておくことで、スムーズに承諾が得られる可能性が高くなります。

まとめ

遺産分割協議や遺言書による故人の借金についての内部的な取り決めは、金融機関などの債権者の承諾を得ない限り、債権者に対抗することができません。
債権者の承諾を得ることが難しい場合には、他の相続人が相続放棄をするなどの対応が必要となります。

対応を間違えてしまうと、他の相続人に対して借金の返済が請求されるなど不測の事態が生じかねませんので、故人の借金に対しては慎重な対応が必要です。

故人の借金や遺産分割協議、他の相続人への求償などについてお困りの場合には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所には相続問題や借金問題に詳しい弁護士が多数在籍しており、相続に関するお悩みを法的な観点から解決いたします。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

・故人に借金があり、相続するか相続放棄をすべきか悩まれている方は、ぜひ一度ご相談ください。適切な方法を一緒に考えましょう。
・事業の借金や住宅ローンなどがあり、それを適切に相続人に承継させたい、もしくは相続人に迷惑をかけたくないとお考えの方も、一度ご相談ください。適切な方法を一緒に考えていきましょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。
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