コラム
公開 2021.12.21 更新 2023.04.06

生産緑地の2022年問題とは?相続への影響と知っておきたい解決策

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生産緑地2022年問題とは、生産緑地の約8割が2022年に指定から30年の期限を迎えることで一気に宅地化され、宅地が供給過剰になると懸念されている問題です。

2022年に向けて、相続にどういった影響があるのか解説し、生産緑地オーナーが取り得る選択肢などについて分かりやすく解説します。

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生産緑地2022年問題とは?

生産緑地2022年問題とは、生産緑地指定の告示から「三十年を経過する日」が2022年に一気に訪れることに起因する問題です。

指定を受けている生産緑地のうち、面積ベースで実に約8割が、2022年に指定から30年の期限を迎えます。
指定から30年を経過した生産緑地は、一定の手続を踏むことにより宅地化をすることが可能です。
指定が解除された生産緑地が宅地化されて一気に市場に放出されることで、地価が暴落するのではないかと懸念されているのです。

生産緑地とは

生産緑地とは、生産緑地法の規定により指定を受けた農地等を指します。
生産緑地法の目的は、「生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資すること」です。

1970年代、地方から都市へ急激に人口が流入し、農地の宅地化が進んでいました。もっとも、住み良い都市環境を維持していくために誕生したのが生産緑地です。
生産緑地として指定を受けることで、農地等にかかる固定資産税の軽減などのメリットを受けることができます。
その代わりに、その土地を勝手に宅地化したりすることはできず、少なくとも、指定から30年間は農地等として管理しなければならないとされています。

住宅価格や地価の下落が予想される

多くの生産緑地は、生産緑地法が改正された1992年に指定を受けたため、指定から30年を経過する日を2022年中に迎えます。
生産緑地はその指定の告示から「三十年を経過する日」以後であれば、市町村長に対する買い取りの申し出が認められています。もっとも、実際に市町村が買い取るケースは少ないと考えられており、その場合、最終的には、生産緑地の指定が解除されます。そのため、2022年に多くの生産緑地が宅地化され、市場に放出される可能性があるのです。

宅地が一気に市場へと供給されれば宅地の供給が過剰となり、住宅価格や地価が下落する可能性があります。
これが不動産取引を行う者の間で懸念されており、「2022年問題」として話題となっているのです。

生産緑地の指定を受けるメリット

生産緑地の指定を受けることで、土地の所有者は次の2つのメリットを享受できます。

固定資産税が軽減される

生産緑地の指定を受ける1つ目のメリットは、固定資産税が安くなることです。

三大都市圏特定市の市街化区域では、農地であっても宅地並みの高い評価で固定資産税が課されるのが原則です。生産緑地の指定を受けた土地は農地として低く評価してもらうことが可能です。そのため、土地が低く評価されれば、その分だけ固定資産税も低くなります。

相続税が猶予される

生産緑地の指定を受けるもう1つのメリットは、農業を続ける場合、その土地にかかる相続税の納税が猶予される点です。

例えば、農業を営んでいた父が亡くなると、その父の相続に関して相続税がかかります。
もっとも、生産緑地の指定を受けている土地に係る相続税については、農業投資価格を超える部分の課税価格に対する納税の猶予を受けることが可能です。

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生産緑地オーナーに課される義務

生産緑地の2022年問題とは?相続への影響と知っておきたい解決策

生産緑地の指定を受けると、先ほど解説したようなメリットを享受できる一方で、次のような義務を負うことになります。
生産緑地についての義務は、次のとおりです。

生産緑地の管理

生産緑地の指定を受けた土地は、その指定を受けた土地を農地等として管理しなければなりません。

生産緑地である旨の掲示

生産緑地の指定を受けた土地には、生産緑地である標識を設置しなければなりません。
標識の設置自体は市町村に課された義務です。もっとも、土地の所有者等は標識の設置を拒んだり妨げたりしてはならないとされています。

建築物の新築等の原則禁止

生産緑地に指定された土地は、市区町村長の許可を得ることなく構築物の新築等をしたり、宅地の造成等、土地の形質を変更したりしてはいけません。

これに違反して勝手に構築物を建築した場合等は、元通りに戻すよう命令がなされる可能性があります。

なお、市区町村に建築等の許可が得られる可能性のあるものは、次のとおりです。

1. 生産又は集荷の用に供する施設(ビニールハウス・温室・育種苗施設・農産物の集荷施設等)
2. 生産資材の貯蔵又は保管の用に供する施設(農機具の収納施設・種苗貯蔵施設等)
3. 処理又は貯蔵に必要な共同利用施設(共同で利用する選果場等)
4. 休憩施設その他(休憩所(市民農園利用者用を含む。)・農作業講習施設等)
5. 生産緑地内で生産された農産物等を主たる原材料とする製造又は加工施設
6. 生産緑地内で生産された農産物等又は上記「5」で製造又は加工されたものを販売する施設
7. 生産緑地内で生産された農産物等を主たる材料とするレストラン

このうち「5・6・7」は、平成29年の法改正により新たに認められることとなりました。

2022年問題に向けた行政の対応

2022年問題は、行政側も懸念している問題です。
そこで、生産緑地の指定解除が2022年に集中してしまわないよう、行政側も対策を打ってきました。

これまでに行われた主な対策には、次のものがあります。

生産緑地に指定できる最低面積の引下げ

生産緑地は従来、500㎡以上の規模の区域であることが要件の一つとされていました。
平成29年の改正により、この下限面積を市区町村が条例により300㎡以上に引下げることが可能となっています。

これまで、公共収用や一部所有者の相続等に伴い、生産緑地地区の一部が生産緑地の指定解除を受けた場合、残った農地等だけでは下限面積を満たせずに自動的に生産緑地が解除される、いわゆる「道連れ解除」が問題となっていました。
そこで、この道連れ解除が起きるケースを減らすため、下限面積を引き下げることのできる改正がなされたのです。

生産緑地に設置できる施設等の拡充

生産緑地の指定された地域では、市区町村の許可を得ることなく構築物等を設置することはできません。

従来、許可が得られる構築物は、上で解説したとおりビニールハウス等の農業等に直接的に必要となるものに限定されていました。
もっとも、平成29年の改正により、農産物等の製造又は加工施設や、その販売所及び農家レストランの建築が新たに許可されることとなっています。

特定生産緑地制度の創設

平成29年の改正により、新たに特定生産緑地制度が創設されました。

特定生産緑地制度とは、市町村への買取申出の期間を、生産緑地の指定後30年経過後から10年間延期することができる制度です。
10年経過後、更に10年間の延長をすることも可能です。
特定生産緑地の指定を受けることで、生産緑地の税制優遇を、引き続き、受けることができます。

これにより、生産緑地オーナーが取ることのできる選択肢が一つ増えました。
詳しくは次の章で解説します。

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生産緑地オーナーが取り得る対応とメリット・デメリット

生産緑地の2022年問題とは?相続への影響と知っておきたい解決策

生産緑地の指定後30年を迎える2022年に向けて、生産緑地オーナーには次の3つの選択肢があります。
それぞれのメリットとデメリットを確認しておきましょう。

特定生産緑地の指定を受ける

1つ目の選択肢は、新たに創設された特定生産緑地の指定を受けることです。
先ほども解説したとおり、特定生産緑地制度とは、市町村への買取申出の期間を生産緑地の指定後30年経過後から10年間延期することができる制度を指します。

なお、首都圏1都3県で多くの生産緑地を抱える自治体では、2022年に優遇措置の期限が切れる面積の8割近くの所有者が特定生産緑地を選択しているようです。

特定生産緑地の指定を受けるメリットとデメリットは、次のとおりです。

メリット

  • 固定資産税の優遇措置を引き続き受けることができる
  • 相続税の納税猶予制度を引き続き受けることができる

デメリット

  • その土地を引き続き農地等として管理しなければならず、原則として、指定から10年間は宅地化ができない
  • 生産緑地指定の告示から30年を経過するまでに手続を行わなければならない

現在の生産緑地のままとする

2つ目の選択肢は、特に何ら手続を行わず、当面の間、現在の生産緑地のままとすることです。
この場合のメリットとデメリットは次のとおりです。

メリット

  • いつでも買取申出をして宅地化することができる

デメリット

  • 固定資産税が宅地並み課税となる(三大都市圏特定市は激変緩和措置により5年をかけて徐々に宅地並み課税となる)
  • 相続税の納税猶予制度が現世代で終了する

買取申出を行う

3つ目の選択肢は、買取申出をすることです。

指定から30年の期間が満了した後は、市町村長に対して生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることができます。
この買取申出が不調に終わった後は、最終的に生産緑地を宅地化するなど自由に活用することが可能です。

買取申出を行うメリットとデメリットは、次のとおりです。

メリット

  • 不動産の活用や売却が自由となる

デメリット

  • 納税猶予がなくなり相続税が発生する
  • 固定資産税が宅地並み課税となる

まとめ

生産緑地は、2022年に一つの節目を迎えます。
3つの選択肢のうちどの方法を取るのかまだ決めていない生産緑地オーナーは、すぐにでも対応を検討し、準備を始めましょう。

市区町村によっては特定生産緑地への指定申出期限をかなり早くに設定している場合もありますので、生産緑地のある市区町村の期限をあらかじめ確認しておくことをおすすめします。

Authenseの弁護士が、お役に立てること

・生産緑地オーナーの方が、その保全や活用方法を決める際には、まずはそれぞれの選択肢のメリットとデメリットを十分に理解する必要があります。弁護士が、税の優遇のことなど、生産緑地の制度についてより詳細にご説明いたします。
・生産緑地の土地を今後どのように管理していくかは、現在の利用状況に加え、今後の相続が発生した場合も踏まえて検討する必要があります。弁護士にご相談いただくと、今後とるべき選択肢について具体的にアドバイスをすることができます。
・生産緑地の土地だけでなく、その他の土地等もあわせ、生前対策全体についてご相談いただけます。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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