コラム
公開 2022.06.29 更新 2023.03.14

相続税の申告期限後3年以内の分割見込書とは?

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申告期限後3年以内の分割見込書について分かりやすく解説いたします。
相続税の申告期限後3年以内の分割見込書とは、相続税の申告期限までに遺産分割ができなかった場合に提出すべき書類です。
この書類を出すことで、後に協議がまとまった際に小規模宅地等の特例等の適用を受けることが可能となります。

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相続税の申告期限後3年以内の分割見込書とは?

相続税における「申告期限後3年以内の分割見込書」とは、相続税の申告期限までには遺産分割が間に合わなかったものの、その後3年以内には遺産分割ができる見込みである旨を税務署へ申告する書類です。

相続税の申告と納税は、亡くなった人(以下「被相続人」といいます。)の死亡を知った日の翌日から10か月以内にしなければなりません。

そして、相続税を正しく計算するためには、どの相続人がどの遺産を受け取るかという遺産分割協議がまとまっている必要があります。
なぜなら、分割がまとまっていない以上、各相続人が支払う相続税額を確定することができず、また、相続税には誰が遺産を受け取ったのかによって適用できるかどうかが異なる特例が存在するためです。

もっとも、相続人同士での話合いが難航して相続争いになってしまった場合や、相続人の中に連絡が取れない人がいる場合、遺産の数が多く全容の把握に時間が掛かる場合等には、相続税の申告期限までに遺産分割の協議をまとめることができない場合もあります。

そのような場合であっても、相続税の申告や納税の期限を先延ばしにすることはできません。
相続税の申告期限までに協議がまとまっていない場合には、いったん仮の申告と納税をすることとなります。

ただし、遺産分割協議がまとまっていない時点では、後ほど解説する「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」等の相続税が大きく減額される可能性のある特例の適用を受けることはできません。

このような際には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告期限までに提出しておくことで、申告期限から3年以内に遺産分割協議がまとまった際にこれらの特例の適用を受けることができることとなります。

相続税の申告期限後3年以内の分割見込書を出すべき場合

相続税の申告期限後3年以内の分割見込書を出すべき場合
相続が起きたからといって、すべてのケースで申告期限後3年以内の分割見込書を出すべきということではありません。
申告期限後3年以内の分割見込書を提出すべきなのは、次の3つの条件がすべて揃った場合のみです。

  • 相続税の申告が必要である場合
  • 相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合
  • 一定の特例の適用を受けたい場合

相続税の申告が必要である場合

相続税には、次の式で算定される「基礎控除額」が定められています。

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

そのため、相続税の対象となる遺産や一定の生前贈与等の合計額(小規模宅地等の特例等の特例適用前の金額)がこの式で算定される相続税の基礎控除額以下であれば相続税は課税されず、相続税の申告も必要ありません。

そもそも、その相続に相続税が課税されないのであれば、申告期限後3年以内の分割見込書の提出も不要です。

相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合

申告期限後3年以内の分割見込書を出すべきなのは、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまっていない場合のみです。

申告期限までに遺産分割の協議がまとまっているのであれば、始めからまとまった分割内容に沿って相続税の申告をすればよいからです。

一定の特例の適用を受けたい場合

申告期限後3年以内の分割見込書は、分割がまとまった後で行う申告で次の4つの特例の適用を受けたい場合に行うものです。

  • 小規模宅地等の特例:要件を満たすことで土地を最大8割減で評価することができる特例です。
  • 配偶者の税額軽減:配偶者が受け取った一定額までの財産について相続税が掛からなくなる特例です。
  • 特定計画山林の課税価格の計算の特例:要件を満たすことで山林を最大95%引きで評価することができる特例です。
  • 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例:要件を満たすことで自社株を減額して評価することができる特例です。

例えば、被相続人に配偶者がおらず、遺産も現金や預貯金のみであるような場合には、そもそもこの中に受けられる特例がないので、申告期限後3年以内の分割見込書を提出する必要はありません。

なお、これらの特例について簡便な説明をする際には、「相続税の申告期限から3年が経過すると、もはや適用を受けることができなくなる。」などと記載されることが少なくないでしょう。
もっとも、そもそも申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を出していないのであれば、申告期限後3年以内に分割がまとまったとしても、特例の適用を受けることはできないので注意が必要です。

また、申告期限後に遺産分割がまとまったからといって、自動的に特例が適用されるわけではありません。
特例の適用を受けるためには、遺産分割協議がまとまってから4か月以内に「更正の請求」をする必要があります。
更正の請求については、後ほど解説いたします。

相続税の申告期限から3年を過ぎると使えなくなる主な特例

前記で紹介をした特例のうち、特に利用する方が多い特例は次の二つです。
ここでは、それぞれの特例について概要を解説していきましょう。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たすことで、土地を一定面積まで最大8割減で評価することができる相続税の特例です。
特例の適用対象には被相続人や被相続人と生計を同じくする親族などが居住していた建物の敷地のほか、事業用建物の敷地や賃貸用建物の敷地等も含まれるので、比較的使いやすい制度といえるでしょう。

この特例の適用を受けることで、例えば、通常の相続税評価額が5,000万円の土地であれば、1,000万円で評価することができます。

相続税額を大きく減らせる可能性がある制度であるため、相続財産に土地がある場合には適用を検討したい特例の一つです。

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配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、その相続で被相続人の配偶者が受け取った財産のうち、次のいずれか大きな額までは相続税が掛からないとする特例です。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

つまり、配偶者であれば、少なくとも1億6,000万円までは無税で相続することができるということです。
また、法律上の配偶者であること以外に複雑な要件などは課されておらず、適用を受けやすい制度といえるでしょう。
税額に大きな影響を与えるため、こちらも適用を検討したい特例の一つといえます。

ただし、配偶者の税額軽減を最大限活用しようと配偶者が多額の財産を相続した場合には、次に訪れる配偶者自身の相続で支払うべき相続税が高額となる可能性があるため注意が必要です。

相続税の申告期限後3年以内の分割見込書には何を書く?

相続税の申告期限後3年以内の分割見込書には何を書く?
相続税の申告期限後3年以内の分割見込書は非常にシンプルな書式であり、記載すべき事項は次の三点のみです。
それぞれどのように記載すればよいのか、書き方の一例を紹介します。

分割されていない理由

この欄には、相続税の申告期限までに遺産分割が完了していない理由を記載します。
例えば、「連絡が取れない相続人がいるため」、「相続人間で話し合いがついていないため」、「遺産の全容が把握できていないため」等です。

分割の見込みの詳細

この欄には、今後の分割見込みや、分割できそうな時期が分かっていればその時期等を記載します。
例えば、「海外赴任中の相続人が〇年〇月に帰国をするため、帰国後に分割協議をする予定」、「現在分割協議を進めており、近々協議が成立する見込み」等です。

適用を受けようとする特例等

この欄には、次の四つの特例の名称があらかじめ印字されています。

  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者の税額軽減
  • 特定計画山林の課税価格の計算の特例
  • 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

このうち、適用を受けたい特例の番号にすべて「〇」を記載するのみです。
どの特例に〇をつけるべきか分からない場合には、税理士に相談するとよいでしょう。

相続税の申告期限後3年以内に分割がまとまらなかったらどうなる?

相続税の申告期限後3年以内の分割見込書を税務署へ提出したにもかかわらず、結果的に申告期限から3年を経過してもなお遺産分割ができていない場合もあるでしょう。

その場合には、次のような取扱いがなされます。

原則として特例の適用は受けられなくなる

相続税の本来の申告期限から3年を経過しても遺産分割協議がまとまらなかった場合には、原則として、小規模宅地等の特例等の適用を受けることはできなくなります。

そのため、まずは3年以内の分割を目指して協議を進めるとよいでしょう。

所轄税務署長の承認を受ければ3年経過後の分割でも特例適用が受けられる

相続税の申告期限から3年を過ぎてしまったからといって、特例の適用を受けられる可能性がなくなるわけではありません。
この場合であっても、一定の要件を満たした場合には例外的に特例の適用を受けることができます。

その要件とは、次のとおりです。

やむを得ない事情があること

一つめの要件は、申告期限後3年以内に分割ができなかったことについて、やむを得ない事情があることです。

やむを得ない事情の具体例としては、相続等に関する訴えが提起されており係争中であることなどが考えられます。
また、例えば海外に居住する相続人が新型コロナウイルスの蔓延により帰国できない状態であることや、海外にある相続財産の調査が進められないことなどもやむを得ない事情に該当すると判断される可能性が高いでしょう。

遺産分割に関して相続争いが勃発して裁判となってしまった場合には、解決までに長期間を要することが少なくありません。
もっとも、争いが長期化したとしても、次の二つの要件を満たすことで引き続き相続税の特例を受けられる余地があるということです。

何が「やむを得ない事情」に該当するのかについては、個別の事情に合わせてあらかじめ弁護士や税理士等の専門家に対して相談することをお勧めいたします。

税務署長の承認を受けること

申告期限から3年を経過してもなお遺産が分割されていない場合に特例の適用を受けるためには、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、所轄税務署長の承認を受ける必要があります。

この申請書は、相続税の申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出しなければなりません。

上記で記載をしたようなやむを得ない事情があったとしても、期限内にこの申請書を提出しなければ、もはや相続税の特例の適用を受けることはできなくなってしまいますので、申請を忘れないようにくれぐれも注意してください。

遺産分割協議がまとまったら4か月以内に「更正の請求」をする

相続税の特例の適用を受けるためには、実際に遺産分割協議がまとまってから4か月以内に、「更正の請求」をしなければなりません。

更正の請求とは、払い過ぎた税金を還付してもらうための申告です。

本来の申告期限までに仮で申告と納税をした相続税は、遺産の分割ができていない以上、前記で挙げた配偶者の税額軽減等の特例の適用は受けられていない前提の税額です。
その後、遺産分割協議がまとまって申告をした場合には特例の適用を受けることができるので、当初の納税額よりも相続税額が安くなることが一般的だといえます。

この差額を返してもらうための申告が、更正の請求です。

更正の請求の期限は分割がまとまってから4か月以内とされているため、この期限を過ぎてしまうと、もはや特例を適用して税金の還付を受けることができなくなってしまいます。

長期に及んだ遺産分割協議がまとまると、ほっとして力が抜けてしまうこともあるかと思いますが、更正の請求まで忘れずに行うようにしましょう。

まとめ

小規模宅地等の特例等の相続税の特例は、申告期限から3年を過ぎると適用できなくなると説明されることが多いように思います。
もっとも、正しくは「申告期限後3年以内の分割見込書」を出すことを条件に原則として申告期限から3年後までは特例の適用を受けることができ、さらに申告期限後3年を経過したとしても一定の要件を満たせば引き続き特例の適用を受ける余地があるということです。

そのため、係争中の遺産分割を無理に3年以内に終結させる必要はなく、むしろ急ぐことで不利な条件を飲まされてしまう可能性があることを知っておくとよいでしょう。

当事務所では提携をしている税理士等の専門家とも連携を取りつつご依頼者様をサポートしております。
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Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

・相続税の特例の適用を受ける手続がよく分からない場合や、手続に当たって提出する書類の書き方がよく分からない場合は、弁護士や税理士等の専門家に対して相談しましょう。
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記事を監修した弁護士
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弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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