遺産分割協議書は、どんなときに作成が必要でしょうか。遺産分割協議書を作成するにあたり準備することや作成時のポイント・注意点について、相続紛争を多数経験している弁護士が分かりやすく解説致します。
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遺産分割協議書の作成が必要となるケース
相続が発生すると、遺産分割協議書や遺言書がない限り、原則としてお亡くなりになった方(以下、「被相続人」といいます。)の財産の名義を変更したり、解約払い戻しをしたりすることができなくなります。例えば、預貯金等の金融資産は、金融機関が被相続人の死亡を把握したときから取引が凍結されますし、不動産も、遺産分割協議書や遺言書に基づいて名義変更をしない限り、故人名義のままでは売却等の処分ができなくなります。相続開始後、被相続人の財産について名義を変更したり、解約したりするためには、①遺言書、②遺産分割協議書が必要となります(遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所において調停手続きや審判手続きを行い、遺産分割調停の調停調書や同審判の審判書等を取得し、これらを用いて手続きをすることになります)。なお、相続人が1名しかいない場合は、遺産分割協議書は不要となります。
したがって、遺言書が無く、相続人が2名以上いる場合は、遺産分割協議書の作成が必要となります。
また、遺言書があったとしても、遺言書どおりに分けると相続税が高くなる、相続人同士で話し合って遺言書とは別の分け方をしたいといった場合等は、相続人全員の同意があれば、遺言書どおりに分けるのではなく、別途遺産分割協議書を作成し、当該協議書どおりに分けることも可能です。なお、遺言書により法定相続人以外の人(以下、「受遺者」といいます。)が財産を取得する場合は、受遺者の同意も必要となりますので、少し注意が必要です。
以上より、遺産分割協議書の作成が必要となるケースは、相続人が2名以上いて、①遺言書が無いケース、②遺言書があっても、相続人全員(受遺者がいる場合は、受遺者も含む。)の同意により遺言書とは異なる分け方をとるケースとなります。
なお、相続財産の名義変更を行う際は、遺産分割協議書だけではなく、金融機関や法務局所定の書類等が必要となる場合がございますので、金融機関や法務局、弁護士・司法書士等の専門家にご確認いただくことをお勧め致します。
遺産分割協議書を作成するにあたって準備すること
遺産分割協議書を作成する場合、何から手をつけて良いのかわからないという方もいらっしゃると思います。
遺産分割協議書は、相続人全員が署名・捺印(実印)をすることが必要となりますので、まずは相続人が誰かを確認することになります。そのため、はじめに被相続人の戸籍の取得を行います。「相続人」が誰か明白だから戸籍の取得は必要ない!と思われる場合でも、遺産分割協議書を用いて不動産の名義変更や預貯金の名義変更、解約を行う場合には、被相続人の出生から死亡までの全戸籍、各相続人の現在戸籍を取得し、相続人が誰であるかを客観的な資料を基に確定させる必要がありますので、遺産分割協議書作成前にこれらの書類を取得しておおく必要があります。戸籍の取得が面倒だ、やり方が分からないという場合は、専門家に依頼して戸籍を取得してもらいましょう。
また、被相続人の財産についても、どのような財産があるかを調査する必要があります。不動産や預貯金、有価証券、保険金等、被相続人の財産として何があるかを確認し、財産目録を作成することをお勧めいたします。被相続人が所有する不動産については、毎年4~6月頃に届く納税通知書や各市区町村に名寄帳の申請をし、どのような不動産を所有しているかを調査した上で、当該不動産の登記簿を取得しましょう。また、預貯金については、各金融機関に問い合わせをして、所定の書類を提出することにより、被相続人が当該金融機関に口座を保有しているか、死亡時や現在の残高がいくらかを確認することも可能です。ただし、これらの手続は非常に面倒でもありますので、専門家に依頼して取得してもらうことも検討すると良いでしょう。
遺産分割協議書を作成する場合は、①被相続人の出生~死亡までの全戸籍、②各相続人の現在戸籍、③各相続人の印鑑証明書、④被相続人の財産目録を準備しましょう。
遺産分割協議書作成のポイント
準備ができたら、いよいよ遺産分割協議書の作成に入ります。遺産分割協議書の作成のポイントは、①誰がどの財産を承継するかが明確になるようにすること、②各財産の名義変更手続に足りる遺産分割協議書を作成することになります。
①「誰がどの財産を承継するかが明確になるようにすること」について、まずは相続人の間で、誰がどの財産を取得するかを決めなければなりません。相続人の話合いで、誰がどの財産を取得するかが決まらなければ、家庭裁判所における遺産分割調停・審判の手続で財産の分け方を決めることになります。財産の分け方について、相続人間でなかなか話がまとまらない、どのように分ければ良いか検討もつかないというような場合は、専門家に入ってもらい、相続のルールを教えてもらいながら、財産の分け方を決めると良いでしょう。せっかく遺産分割協議書を作成したのに、誰がどの財産を承継するかが明確でなければ、後々紛争となる要因となりますので、協議書作成時点で、誰がどの財産をもらうか(どの位の金額を取得することになるか)をしっかりと確認しておくことがポイントとなります。
②「各財産の名義変更手続に足りる遺産分割協議書を作成すること」について、相続財産を取得するには、遺産分割協議書を作成するだけでは足りず、協議書を用いて、被相続人の預貯金の払戻しを受けたり、不動産の名義変更の手続をとったりすることが必要となります。そのため、遺産分割協議書に、相続財産の払戻しを受ける/名義変更の手続をとるのに、必要な情報の記載があるかを確認するということが重要なポイントとなります。不動産だと地番に漏れが無いか、金融機関だと口座番号に誤りが無いか等になりますが、名義変更手続をとる機関によって、基準はそれぞれですので、各機関に確認しながら進めるのが良いでしょう。分からない場合は、専門家に依頼するか、各機関に確認をとりながら進めることになります。
遺産分割協議書作成のポイントである「揉めないように誰がどの財産を取得するかを明確にすること」と、「名義変更等がスムーズに進むように、協議書の記載事項を確認すること」をしっかりとおさえて、揉めない・困らない協議書を作成しましょう。
遺産分割協議書作成の注意点
遺産分割協議書を作成するにあたり、よくある失敗例は、①一部の相続人の署名捺印が抜けている、②一部の相続人が認知症で判断能力が無い、③不動産の地番や預貯金口座番号が誤っている、④被相続人の財産に漏れがあることです。
①「一部の相続人の署名捺印が抜けている」について、遺産分割協議書は、相続人全員が署名・捺印(実印)しなければなりません。そのため、長期間音信不通の相続人はいるが、その相続人はおそらく財産を欲しいとは言わないだろうということで、当該相続人の署名捺印無しの遺産分割協議書を作成したとしても、当該協議書では、不動産や預貯金等の相続財産の名義変更はできません。音信不通の相続人がいる場合は、音信不通の相続人を探し出すか、不在者財産管理人の選任の申立てや失踪宣告の申立て等の手続きを行うか、もしくは生前に遺言を作成しておくということが必要となってしまいます。
また、最近多いケースが、②「一部の相続人が認知症で判断能力が無い」というケースです。高齢化社会となり、相続人もご高齢のケースが増えてきています。そのため、認知症で判断能力が無い相続人がいる場合は、当該相続人が署名・捺印がある遺産分割協議書を用いて相続財産の名義変更等を行っても、後々、他の相続人等から当該遺産分割協議書が無効であることを主張され、紛争につながりかねません。このような場合は、家庭裁判所に後見人の選任を申立てた上で、後見人が遺産分割協議書に署名捺印するということになります。ただし、後見人は、被後見人の財産を守る職責を負いますので、後見人の立場としては、被後見人の法定相続分が十分に確保されていない遺産分割協議書に署名捺印することは難しいので、このような場合、被後見人となる人には、少なくとも法定相続分を超える遺産を取得させる必要があります。
③「不動産の地番や預貯金の口座番号が誤っている」について、不動産の地番や預貯金の口座番号の誤りは、気を付けなければなりません。特に、不動産の地番は、一般の方だと読み取りにくく、記載を誤ることも多いので、不動産の全部事項証明書を普段見慣れていないという場合は、専門家に遺産分割協議書の作成を依頼されることをお勧め致します。
④「被相続人の財産に漏れがある」については、登記されていない建物や有価証券の未受領配当金、入院保険金等、相続が発生しても見えづらい財産の記載が漏れてしまうことがよくあります。登記されていない建物については、納税通知書や名寄帳、現地確認等での確認が必要となります、配当金や入院保険金は分かりづらいのですが通帳の履歴や、証券会社、保険会社からの郵便物で、配当金の受領や保険料の支払いがないかを確認すると良いでしょう。
遺産分割協議書を作成するには、「相続人全員に判断能力があり、相続人全員が署名捺印をすること」が必要となります。また、被相続人の財産の名義変更等ができるように、「財産を正確に記載すること、漏れなく記載すること」も非常に大切です。せっかく遺産分割協議書を作成したけど、名義変更ができず、作り直しになった!等にならないように、注意しながら作成しましょう。
さいごに
遺産分割協議書を作成するには、準備や確認すべきポイントがたくさんあります。相続人同士の仲が良くても戸籍を取得したり、財産目録を作成したり等負担がかかってしまいます。また、相続税の申告が必要なケースですと、原則、相続税の納税期限(被相続人の死亡日から10カ月以内)までに遺産分割協議書を作成しておく必要がありますので、資料収集等の手続を急がなければなりません。
したがって、遺産分割協議書を作成する場合は、専門家(弁護士、税理士、司法書士、行政書士等)の力をうまく借りながら、揉めない!名義変更等の手続に困らない!協議書を作成することをお勧め致します。
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