コラム

遺産分割協議書の提出先は?作成不要な場合も弁護士がわかりやすく解説

相続人間で遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。

この遺産分割協議書はどこに提出するものなのでしょうか?
また、遺産分割協議書の作成が不要な場合はあるのでしょうか?

今回は、遺産分割協議書の提出先などについて弁護士が詳しく解説します。

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遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果、誰がどの遺産を受け取ることになったのかを記載した書類です。

相続が起きると、遺言書があるなど一定の場合を除き、亡くなった人(「被相続人」といいます)の有していた財産は、自動的に分割される財産を除き、相続人全員による共有となります。
しかし、共有のままでは遺産の使い勝手がよくないうえ、原則として預貯金の解約などもできません。
そこで、相続人全員で話し合いを行い、確定的に誰がどの遺産を取得するのかを決めるステップが必要となります。
この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は、相続人全員が合意することによって成立します。
遺産分割は、相続人全員が合意するのであれば、法定相続分とは異なる分け方をしても構いません。

たとえば、相続人が配偶者と長男、長女の3名である場合であっても、全員が合意するのであれば、原則として「配偶者が全財産を相続する」とすることや「長男は一切相続せず、配偶者と長女が半々の割合で相続する」とすることなどもできます。

無事に遺産分割協議がまとまったら、協議の結果誰がどの遺産を取得することになっ
たのかを記した遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、相続人全員が協議内容に合意していることを示すため、相続人全員が署名と実印での押印をします。

相続人間で協議がまとまらない場合は、家庭裁判所で行う話し合いである「遺産分割調停」や、裁判所に分け方を決めてもらう「遺産分割審判」へ移行します。
遺産分割協議がまとまらずお困りの際や、遺産分割協議書の作り方がわからずお困りの際は、弁護士にご相談ください。

遺産分割協議書の提出先は?

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遺産分割協議書は、相続人間で遺産分割協議を蒸し返さない(「言った・言わない」のトラブルを防ぐ)ための意味があるほか、さまざまな手続きに使用します。
ここでは、遺産分割協議書の主な提出先を紹介します。

提出先1:遺産の名義変更や解約の手続き先

遺産分割協議書は、遺産の名義変更や解約などの手続きをする先に提出します。

たとえば、A銀行に被相続人の長男であるX氏が訪れ、「この銀行の預金は自分が相続することになったので、被相続人の預貯金をすべて自分宛に払い出してほしい」と主張したところで、証拠がなければ、この主張が真実かどうか判断のしようがないでしょう。

一方で、「A銀行の預金はすべて被相続人の長男であるXが相続する」との記載があり、相続人全員による署名と実印の押印がある遺産分割協議書があれば、長男の主張の裏付けが可能となります。
そのため、遺産の名義変更や解約をするにあたっては、原則として遺産分割協議書の提出が必要です。

このような理由により遺産分割協議書の提出が必要となる主な機関を4つ紹介します。

  • 法務局
  • 銀行
  • 証券会社
  • 運輸支局

法務局

遺産に不動産がある場合、被相続人名義となっている不動産を相続人名義へと変える「相続登記」が必要となります。
この相続登記の申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。

法務局に相続登記を申請する際は、遺産分割協議書のほか、登記申請書などさまざまな書類が必要となります。
相続登記は相続手続きの中でも難易度が高いため、自分で行うことが難しい場合は司法書士に手続きを依頼するとよいでしょう。

銀行

被相続人名義の預貯金口座を解約して預金を引き出すには、各銀行での相続手続きが必要です。
銀行口座の解約手続きは銀行の支店で行うことが原則であるものの、近年その銀行の相続手続きを一手に取り扱う相続センターを設けており、郵送で手続きができる銀行もあります。

銀行口座の相続手続きには、遺産分割協議書のほか銀行独自の「相続届」などさまざまな書類が必要となります。

証券会社

被相続人が証券会社に委託している有価証券を相続人の口座に移管する場合、各証券会社での相続手続きが必要です。
各支店で手続きができるほか、郵送で手続きができる証券会社も増えています。

証券会社の相続手続きには、遺産分割協議書のほか、証券会社独自の書類なども必要です。

運輸支局

被相続人名義の自動車を相続人の名義へと変えるためには、運輸支局での手続きが必要です。

車の名義変更の手続きには、原則として遺産分割協議書の提出が必要であるものの、その車の査定額が100万円以下である場合は、車を相続する者の署名や押印だけをした簡易的な「遺産分割協議成立申立書」で手続きできます。
なお、軽自動車の場合の手続き先は軽自動車協会であり、原則として遺産分割協議書の提出は必要ありません。

提出先2:税務署(相続税申告書の添付書類)

相続税とは、遺産などに対してかかる税金です。
遺産や被相続人から受けた一定の生前贈与が相続税の基礎控除額を超える場合は、相続税申告をしなければなりません。

個々の相続人が負担する相続税額は、遺産の分割内容によって異なります。
そのため、相続税申告には、原則として遺産分割協議書の写しを提出しなければなりません。

なお、申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合は、期限までに申告と納税を行ったうえで、その後協議がまとまった時点で改めて申告をし直すこととなります。
詳しくは、税理士などの専門家にご相談ください。

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遺産分割協議書が不要な場合

相続発生後に相続人間で遺産を分けるためには、原則として遺産分割協議をまとめて遺産分割協議書を作成しなければなりません。
しかし、中には、遺産分割協議書が不要なケースもあります。
ここでは、遺産分割協議書を作成する必要がないケースを3つ解説します。

遺言書に従って遺産を分割する場合

1つ目は、被相続人が有効な遺言書を遺しており、その遺言書に従って遺産を分割する場合です。

遺言書ですべての遺産について承継者が決められている場合は遺産分割協議をする必要はなく、遺産分割協議書を作成する必要もありません。
遺産分割協議書がなくても、遺言書を使って遺産の解約や名義変更が可能であるためです。

相続人が一人しかいない場合

2つ目は、相続人が一人しかない場合です。
相続人が一人しかいない場合は遺産分割協議をするまでもなく、その一人の相続人が遺産をすべて相続します。
そのため、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

なお、相続人となる者は、配偶者のほかに第1順位から第3順位までが定められており、それぞれ次のとおりです。

  • 第1順位:被相続人の子。被相続人の死亡以前に死亡した子がいる場合は、その亡くなった子の子(被相続人の孫)が代襲して相続する
  • 第2順位:被相続人の親。両親がともに他界しており、祖父母のなかに存命の人がいる場合は、その存命の祖父母
  • 第3順位:被相続人の兄弟姉妹。兄弟姉妹の中に被相続人の死亡以前に死亡した者がいる場合は、その亡くなった兄弟姉妹の子(被相続人の甥姪)

このように、相続人の範囲は広く、甥姪までが相続人となる可能性があります。
そのため、子どものいない夫婦であるからといって夫(妻)だけが相続人になるとは限らないため、誤解のないよう注意してください。

相続人が1人を残して相続放棄した場合

3つ目は、相続人が一人を残して相続放棄をした場合です。
相続放棄とは、相続発生後一定期間内に家庭裁判所に申述することで、はじめから相続人ではなかったこととなる手続きです。

たとえば、相続人がもともと配偶者と長男、二男の3名であったものの、配偶者と二男が相続放棄をした場合には、長男だけが相続人となります。
そのため、この場合は遺産分割協議をするまでもなく、結果的に唯一の相続人となった長男が相続することとなります。

ただし、相続放棄をした事実は戸籍などの記載されるわけではないため、手続き先である金融機関や法務局などは配偶者や二男が相続放棄をしたかどうかがわかりません。
そのため、この場合は配偶者と二男それぞれの「相続放棄受理証明書」を家庭裁判所から取り寄せて、これを手続き先に提出することが必要です。

なお、子が全員相続放棄をした場合は、配偶者だけが相続人となるのではなく、相続権が次順位へと移ることに注意しなければなりません。
たとえば、元々の相続人が配偶者と長男、二男であったところ、長男と二男が相続放棄をした場合は、配偶者だけが相続人になるとは限らないということです。
この場合において、第2順位の相続人や第3順位の相続人がいるのであれば、その者が繰り上がって配偶者とともに相続人となります。

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遺産分割協議書に関するよくある疑問

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最後に、遺産分割協議書に関するよくある疑問とその回答を紹介します。

遺産分割協議書は提出先の数だけ作成すべき?

遺産分割協議書は、提出先の数分を作成する必要はありません。
なぜなら、銀行や証券会社などの手続き先にはいったん原本を提出する必要があるものの、コピーを取ったうえで原本を返却してくれることが一般的であるためです。
また、相続登記の申請先である法務局も、所定の原本還付手続きをとることで、原本の返却が受けられます。

遺産分割協議書は自分でも作れる?

遺産分割協議書は、自分で作成することも不可能ではありません。
インターネットや書籍などを参照すれば、記載例を見つけられるでしょう。

ただし、自分で記載方法を調べたり実際に作成したりする時間や労力を掛けたくない場合や、遺産分割協議書の記載を巡るトラブルを生じさせないためには、専門家に作成を依頼することをおすすめします。
また、相続人間の関係性があまりよくない場合も、専門家に作成を依頼したほうがよいでしょう。

なぜなら、関係性がよい場合は記載に誤りがあって手続きに使えなくても、作成し直した遺産分割協議書に再度署名や押印を受けられる可能性が高い一方で、関係性がよくない場合には再度押印などに応じてもらうのが難しい可能性があるためです。

行方不明の人や認知症の人は遺産分割協議書に押印しなくてよい?

相続人の中に行方不明となっている人や重い認知症の人などがいる場合、これらの人は、遺産分割協議書に有効に署名や押印をすることが困難です。
しかし、これらの人の押印がない遺産分割協議書は無効であり、手続きに使用できません。
なぜなら、遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があるためです。
相続人の中に行方不明の者や認知症の者など有効に押印することが難しい人がいる場合は、これらの人の代わりに遺産分割協議に参加する人を家庭裁判所で選んでもらうステップが必要となります。
具体的には、行方不明の場合には「不在者財産管理人」、認知症の場合は「成年後見人」がこれに該当します。

これらの人の選任を裁判所に申し立てるには、裁判手続きに関する理解が必要です。
また、特に成年後見人はたとえ選任のきっかけが遺産分割協議であったとしても、原則として本人が亡くなるまで制度の利用を辞めることができないなど、注意点が少なくありません。

相続人の中に有効に押印をすることが難しい人がいる場合は、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談ください。

遺産分割協議書はコピーの提出でよい?

遺産の名義変更や解約に使用する際、遺産分割協議書は原則としていったん原本を提出することが求められます。

ただし、先ほど解説したように、原本の確認後はコピーを取ったうえで原本は返却されることが一般的であり、手続き先の数だけ遺産分割協議書の原本を作成する必要はありません。
一方、相続税申告は、はじめからコピーの添付でよいとされています。

具体的な取り扱いは手続き先の金融機関などのよって異なる可能性があるため、実際に手続きをする際は、手続き先にご確認ください。

まとめ

遺産分割協議書は、相続人全員で行った遺産分割協議の結果を示した書類です。
遺産分割協議を有効に成立させるためには相続人全員による合意が必要であることから、遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印での押印が必要となります。

遺産分割協議書の提出先は、金融機関や法務局、税務署などさまざまです。
スムーズに手続きをすることができるよう、遺産分割協議書の作成は弁護士などの専門家に任せるとよいでしょう。

Authense法律事務所には相続問題に強い弁護士が多数在籍しており、遺産分割協議書
の作成支援実績も豊富です。
遺産分割協議書の作成を依頼したい場合や、相続人間での遺産分割協議がまとまらずお困りの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
相続や遺産分割に関するご相談は、初回60分間無料でお受けしています。

Authense法律事務所が選ばれる理由

Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。
これまでに蓄積した専門的知見を活用しながら、交渉のプロである弁護士が、ご相談者様の代理人として相手との交渉を進めます。
また、遺言書作成をはじめとする生前対策についても、ご自身の財産を遺すうえでどのような点に注意すればよいのか、様々な視点から検討したうえでアドバイスさせていただきます。

遺産に関する問題を弁護士にご依頼いただくことには、さまざまなメリットがあります。

相続に関する知識がないまま遺産分割の話し合いに臨むと、納得のできない結果を招いてしまう可能性がありますが、弁護士に依頼することで自身の権利を正当に主張できれば、公平な遺産分割に繋がります。

亡くなった被相続人の財産を調査したり、戸籍をたどって全ての相続人を調査するには大変な手間がかかりますが、煩雑な手続きを弁護士に任せることで、負担を大きく軽減できます。
また、自身の財産を誰にどのように遺したいかが決まっているのであれば、適切な内容の遺言書を作成しておくなどにより、将来の相続トラブルを予防できる可能性が高まります。

私たちは、複雑な遺産相続の問題をご相談者様にわかりやすくご説明し、ベストな解決を目指すパートナーとして供に歩んでまいります。
どうぞお気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。創価大学法学部卒業。創価大学法科大学院修了。不動産会社やIT企業などの顧問弁護士として企業法務に携わるとともに、離婚や相続をはじめとする一般民事、刑事弁護など、様々な案件に取り組んでいる。また、かつてプロ選手を志した長年のサッカー経験からスポーツ法務にも強い意欲を有し、スポーツ法政策研究会に所属し研鑽を重ねる等、スポーツ法務における見識を広げている。
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