コラム

生前贈与も遺留分の対象!計算方法も弁護士がわかりやすく解説

遺留分は遺言書とセットで問題となることが多いものの、生前贈与も遺留分計算の対象となります。
しかし、原則として、何十年も前の贈与までが遺留分計算の基礎に含まれるわけではありません。

では、何年前の生前贈与までが遺留分計算の対象となるのでしょうか?
また、生前贈与がある場合、遺留分はどのように計算するのでしょうか?

今回は、生前贈与がある場合の遺留分について、弁護士がくわしく解説します。

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生前贈与も遺留分の対象になる

遺留分とは、亡くなった者(「被相続人」といいます)の配偶者や子どもなど一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。

冒頭でお伝えしたように、遺留分は遺言書とセットで問題となることが少なくありません。
たとえば、相続人が長男と二男の2名であるにもかかわらず、被相続人が「全財産を長男に相続させる」旨の遺言書を遺していた場合などです。
このような遺言書でも有効ではあるものの、二男の遺留分を侵害しています。

そのため、相続開始後に、二男は長男に対して、侵害された遺留分相当額の金銭を支払うよう請求できます。
このような請求を「遺留分侵害額請求」といいます。

しかし、遺留分の対象となる財産は遺言書によって遺贈された財産だけではありません。
被相続人が行った一定の生前贈与も、遺留分計算の対象となります。

そのため、実際に遺留分を請求する際は、生前贈与についても調査することをおすすめします。
また、生前贈与を受けた側は、生前贈与が遺留分計算の対象となる可能性があることを知ったうえで、遺留分侵害額請求に備えておきましょう。

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遺留分の対象となる生前贈与

被相続人が行った生前贈与のすべてが遺留分計算の対象となるわけではありません。
では、どのような生前贈与が遺留分計算の対象となるのでしょうか?
ここでは、遺留分計算の対象となる生前贈与を解説します。

相続人以外の者にした、相続開始前「1年間」の生前贈与

被相続人が相続人ではない者にした生前贈与は、相続開始前1年以内にしたものだけが遺留分計算の対象となります(民法1044条1項)。
相続人以外の者とは、たとえば次の人などです。

  • 被相続人の長男が存命である場合の、長男の子ども(被相続人の孫)
  • 子どもの妻
  • 被相続人に子どもがいる場合の、被相続人の兄弟姉妹や甥姪
  • 内縁の配偶者
  • 友人

相続人にした、相続開始前「10年間」の生前贈与

被相続人が相続人に対してした贈与は、相続開始前10年以内にしたものが遺留分の対象となります。
相続人に対してした贈与は遺留分の対象となる期間が長いため、注意しなければなりません。

なお、相続人となる者は次のとおりです。

  1. 被相続人の法律上の配偶者
  2. 第1順位の相続人:被相続人の子ども。被相続人以前に死亡するなど相続権を失った子どもがいる場合は、その死亡した子どもの子どもである被相続人の孫
  3. 第2順位の相続人:被相続人の父母。父母がいずれも死亡している場合は、被相続人の祖父母
  4. 第3順位の相続人:被相続人の兄弟姉妹。被相続人以前に死亡するなど相続権を失った兄弟姉妹がいる場合は、その死亡した兄弟姉妹の子どもである被相続人の甥姪

被相続人に配偶者がいれば、配偶者は常に相続人となるため「ゼロ順位」ともいわれます。
第2順位の相続人と第3順位の相続人は、先順位の相続人が一人でもいれば相続人とはなりません。

遺留分権利者に損害を与えることを知ってした生前贈与

被相続人と贈与を受けた者(「受贈者」といいます)の双方が、遺留分権利者に損害を与えることを知って行った生前贈与は、どれだけ前に行ったものであっても遺留分計算の対象となります。
なお、損害を与えることを知っていたかどうかは主観的な判断ではなく、状況から見て客観的に判断されます。

たとえば、被相続人がすでに年金だけの収入となっており、その後財産が大きく増える見込みがない状態で遺産の大半を贈与したような場合には、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたと判断される可能性があるでしょう。
そのため、多額の生前贈与をする場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。

生前贈与がある場合の遺留分侵害額の計算方法

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生前贈与がある場合、遺留分はどのように計算するのでしょうか?
ここでは、次の前提で順を追って解説します。

  • 相続人は、被相続人の長男と二男の2人
  • 被相続人は、長男に5,000万円相当、二男に2,000万円相当の遺産を相続させる旨の遺言書を遺していた
  • 被相続人は、相続開始の5年前に、長男に対して3,000万円相当の財産を贈与していた
  • その他の特記事項はない

ステップ1:遺留分の基礎となる財産を計算する

はじめに、遺留分計算の基礎となる財産を計算します。
遺留分計算の基礎となる財産は、次の式で算定します。

  • 遺留分計算の基礎となる財産の価額=(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(遺留分計算の対象となる贈与の価額)-(被相続人の債務)

例のケースでは、次の額が遺留分計算の基礎となります。

  • 遺留分計算の基礎となる財産の価額=5,000万円+2,000万円+3,000万円(生前贈与)=1億円

ステップ2:自身の遺留分割合を確認する

次に、自身の遺留分割合を確認します。
このケースにおいて、長男と二男の遺留分割合はそれぞれ次のとおりです。

  • 長男:4分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)
  • 二男:4分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)

ステップ3:自身の遺留分を計算する

次に、ステップ1で計算した遺留分計算の基礎となる価額に遺留分割合を乗じて、自身の遺留分の額を計算します。
このケースにおいて、長男と二男の遺留分は、それぞれ次のとおりです。

  • 長男:1億円×4分の1=2,500万円
  • 二男:1億円×4分の1=2,500万円

ステップ4:遺留分侵害額を計算する

最後に、遺留分侵害の有無と、遺留分侵害額を計算します。
例のケースでは、それぞれ次のとおりです。

  • 長男:実際に受け取った金額8,000万円(=遺言で5,000万円+生前贈与で3,000万円)≧遺留分2,500万円。よって、遺留分侵害額はない
  • 二男:実際に受け取った金額2,000万円<遺留分2,500万円。この差額である500万円(=2,500万円-2,000万円)の遺留分を侵害されている

そのため、例のケースでは、二男から長男に対して500万円分の遺留分侵害額請求をすることが可能です。

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遺留分を生前贈与で侵害された場合の対処方法

被相続人が行った生前贈与によって遺留分を侵害されている場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
ここでは、順を追って生前贈与で遺留分を侵害された場合の対応を解説します。

早期に弁護士へ相談する

遺留分を侵害されていることに気づいたら、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。
遺留分侵害額を正確に算定することは容易ではなく、弁護士に相談することで適切な請求額を把握しやすくなるためです。
また、弁護士へ依頼することで、遺留分侵害額請求を代理してもらうこともできます。

請求する遺留分侵害額を計算する

弁護士へ相談したうえで、請求する遺留分侵害額を計算します。
なお、生前贈与や遺産の額が分からない場合であっても、弁護士へ相談することで調査できる可能性があります。
情報が少ない場合も諦めずにご相談ください。

期限内に遺留分侵害額請求をする

遺留分侵害額を計算したら、期限内に遺留分侵害額請求をします。
遺留分侵害額請求には期限があり、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内に行わなければなりません(同1048条)。

また、相続開始などを知らないままであっても、相続開始から10年が経つと遺留分の権利が消滅します。
そのため、期限内に請求することが最大のポイントとなります。

期限内に遺留分侵害額請求をしたとの証拠を残すため、実務上は内容証明郵便で請求することが一般的です。
内容証明郵便とは、いついかなる内容の文書が誰から誰に差し出されたかを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する制度です。

なお、遺留分侵害額請求は、必ずしも請求額を明示して行う必要はありません。
そこで、請求期限が間近に迫っている場合などには、まず請求額を明示せず内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示を行い、その後具体的な金額を検討することもあります。

相手方が遺留分侵害額請求に応じて請求額を支払えば、その時点で解決となります。
また、多少金額について意見の相違が生じても、弁護士が代理で交渉したり双方が譲歩したりすることで解決に至ることもあります。

一方で、遺留分侵害額について、双方で意見がまとまらないこともあります。
特に、遺留分の計算対象である財産の中に不動産がある場合は、この評価額について意見が相違する可能性があります。

なぜなら、遺留分請求をする側としては不動産を実勢価格などできるだけ高く評価したいと考える一方で、その不動産を相続した側としては、相続税評価額などできるだけ低い価格で評価したいと考えることが多いためです。
また、生前贈与の有無や金額について、意見が食い違うことも少なくありません。

遺留分侵害額請求調停を申し立てる

当事者間で意見がまとまらない場合は、遺留分侵害額調停で解決を図ります。
遺留分侵害額請求調停とは、裁判所での話し合いによって遺留分トラブルの解決を図る手続きです。

とはいえ、双方が直接対峙して意見をぶつけ合うわけではありません。
調停では、裁判所の調停委員が当事者双方から交互に意見を聞き、意見を調整することで解決を図ります。
数回の期日を経て双方の合意がまとまれば、調停が成立します。

遺留分侵害額請求訴訟へ移行する

調停を経てもなお双方の合意が得られない場合、遺留分侵害額請求訴訟へと移行します。

遺留分侵害額請求訴訟とは、双方の主張や提出された証拠をもとに、適正な遺留分額について裁判所が判断を下す手続きです。
裁判所が下した判断に不服がある場合は2週間以内に控訴をすることができますが、期間内に控訴をしなければ判決が確定します。

なお、判決が確定したにもかかわらず所定の期限内に遺留分侵害額を支払わない場合は、強制執行の対象となります。

遺留分侵害額請求をする際のポイント

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遺留分侵害額請求をする場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
遺留分侵害額請求を成功させるポイントを3つ解説します。

期限に注意する

1つ目は、期限に注意することです。

先ほど解説したように、遺留分侵害額請求は相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に行わなければなりません。
この期限を超過すると遺留分侵害額請求ができなくなるため、できるだけ早期に請求を行いましょう。
また、期限内に請求したことの証拠を残すため、内容証明郵便で請求することをおすすめします。

生前贈与を含めて遺留分侵害額を算定する

2つ目は、生前贈与を含めて遺留分侵害額を算定することです。

先ほど解説したように、一定の生前贈与も遺留分計算の基礎に含まれます。
遺留分侵害額請求をする際は、生前贈与分を加味することを忘れないよう注意しましょう。

弁護士へ相談する

3つ目は、弁護士へ相談することです。

遺留分侵害額を自分で適正に計算することは、容易ではありません。
また、相手が受けた生前贈与を遺留分計算の基礎に含められるかどうかなど、実際に算定していくと疑問に感じる部分も少なくないでしょう。
自分で長期間悩んだり調べたりしているうちに、請求期限を過ぎてしまえば元も子もありません。

遺留分侵害額請求で後悔しないため、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。

まとめ

遺留分計算の基礎に含めることができる生前贈与について解説しました。

遺留分は遺言書について問題とされることが多いものの、一定の生前贈与も遺留分計算の対象となります。
遺留分侵害額請求をする際は、相手方が受けた生前贈与を見落とさないよう注意しましょう。

また、将来の遺留分対策として生前贈与をする際は、これが本当に遺留分計算の基礎から除外されるのかどうか、あらかじめ弁護士へご相談ください。

Authense法律事務所は、遺産相続トラブルの解決や相続対策のサポートに力を入れており、遺留分事件についても多くの解決実績があります。
生前贈与を受けた者に対して遺留分侵害額請求をしたい場合や、生前贈与などで遺留分対策をしたい場合は、まずはお気軽にAuthense法律事務所までご相談ください。
相続や遺言、遺留分に関するご相談は、初回60分間無料でお受けしています。

Authense法律事務所が選ばれる理由

Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。

これまでに蓄積した専門的知見を活用しながら、交渉のプロである弁護士が、ご相談者様の代理人として相手との交渉を進めます。

また、遺言書作成をはじめとする生前対策についても、ご自身の財産を遺すうえでどのような点に注意すればよいのか、様々な視点から検討したうえでアドバイスさせていただきます。

遺産に関する問題を弁護士にご依頼いただくことには、さまざまなメリットがあります。

相続に関する知識がないまま遺産分割の話し合いに臨むと、納得のできない結果を招いてしまう可能性がありますが、弁護士に依頼することで自身の権利を正当に主張できれば、公平な遺産分割に繋がります。

亡くなった被相続人の財産を調査したり、戸籍をたどって全ての相続人を調査するには大変な手間がかかりますが、煩雑な手続きを弁護士に任せることで、負担を大きく軽減できます。

また、自身の財産を誰にどのように遺したいかが決まっているのであれば、適切な内容の遺言書を作成しておくなどにより、将来の相続トラブルを予防できる可能性が高まります。

私たちは、複雑な遺産相続の問題をご相談者様にわかりやすくご説明し、ベストな解決を目指すパートナーとして供に歩んでまいります。

どうぞお気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
早稲田大学法学部卒業、早稲田大学法学部法務研究科を修了。これまで離婚、相続など個人の法律問題に関する案件を数多く取り扱い、依頼者の気持ちに寄り添った解決を目指すことを信条としている。複数当事者の利益が関わる調整や交渉を得意とする。現在は不動産法務に注力。
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