成年後見人は、判断能力をなくしてしまった本人の代わりに、契約や財産管理などをする役割を担う人のことです。
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所で審判を受けなければなりません。
では、成年後見人はどのようや役割を担うのでしょうか?
また、成年後見人を選任してもらう際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は、成年後見人について弁護士がくわしく解説します。
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成年後見制度とは
成年後見制度とは、判断能力が十分でない本人の法的な意思決定を助け、財産や権利を保護するための制度です。はじめに、法定後見の種類について解説していきましょう。
成年後見人等
法定後見には、本人の判断能力の程度に合わせて次の3類型が存在します。
- 後見
- 保佐
- 補助
後見
後見とは、通常の状態において判断能力が欠けている方を対象とする制度です。
代理人(「成年後見人」といいます)は、財産に関するすべての法律行為についての代理権を持ち、また日常生活に関する行為以外のすべての行為について取消権や同意権を有します。
本人の判断能力が常にない状態で、その人の利益を保護するためにつく代理人であるため、成年後見人の権限の及ぶ範囲が広くなっています。
保佐
保佐とは、判断能力が著しく不十分な方を対象とする制度です。
代理人(「保佐人」といいます)は申し立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める一定の法律行為について代理権を持ち、民法13条1項に規定された借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為について、同意権と取消権を有します。
補助
補助とは、判断能力が不十分な方を対象とする制度です。
代理人(「補助人」といいます)は申し立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める一定の法律行為について、代理権、取消権、同意権を有します。
不十分とはいえ、本人がある程度判断能力を有しているため、補助人の権限の及ぶ範囲は狭くなっています。
任意後見人
成年後見人等が裁判所で選任されるものであることに対し、任意後見人は、本人と第三者とが、将来に備えて契約で決める後見人のことをいいます。
任意後見制度を利用するためには、本人にまだ判断能力があるうちに、任意後見人候補者との間で任意後見の契約を交わすことが必要です。
本人が判断能力を失った後から利用することはできません。
また、任意後見契約は、公正証書で作成することが要件とされます。
任意後見人が持つ代理権の範囲は、当人同士の契約である程度自由に定められます。
ただし、法定後見とは異なり、同意権や取消権を付与することはできません。
成年後見人ができる主なこと
成年後見人は、成年被後見人である本人(以下、「本人」といいます)のために、どのようなことができるのでしょうか?
成年後見人ができることは、主に次のとおりです。
財産管理
成年後見人は、本人のために財産管理を行います。
財産管理とは、たとえば預貯金を管理して本人の生活費や医療費を引き出したり、年金などを受け取ったり、公共料金を支払ったりすることを指します。
また、本人が不動産を持っている場合には、その不動産を管理したり本人のために賃料収入を受け取ったりすることなども、成年後見人の役割の一つです。
施設入所などの契約行為
成年後見人は、本人の代わりに契約行為を行います。
代表的なケースとしては、本人が施設へ入所する際の入所契約や、介護サービスの利用契約などです。
他にも、要介護認定を受けるための手続きや、保険の請求手続きなども行います。
遺産分割協議
本人が相続人となる相続が発生した場合には、成年後見人が本人の代わりに遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)に参加します。
本来、遺産分割協議は相続人全員が合意するのであれば、どのような内容で成立させても構いません。
たとえば、相続人が複数いるにもかかわらず、一人の相続人が全財産を相続しても構わないわけです。
ただし、遺産分割協議を、成年後見人が行う際には、原則として本人の法定相続分を最低限確保する必要があります。
そのため、成年後見人が、本人の法定相続分よりも少ない取り分で協議に応じることは、原則として認められません。
不動産の売却
本人が施設に入所するにあたってお金が足りないなど必要性がある場合には、成年後見人が本人の自宅不動産を売却することが可能です。
ただし、自宅の売却は、本人にとって非常に重大な行為です。
そのため、成年後見人が本人の自宅不動産を売却する際には、別途家庭裁判所の許可を得なければなりません。
成年後見人ができない主なこと
成年後見人は、本人のためのすべての行為ができるわけではありません。
成年後見人ができない行為は、主に次のとおりです。
本人の利益にならない行為
成年後見人は、本人の利益を保護する役割を持っています。
そのため、本人の利益にならない行為をすることはできません。
本人の利益にならず、原則としてできない行為には、たとえば次のものが挙げられます。
- 本人の財産を、子どもや孫などに贈与する行為
- 子どもや孫などが家を建てるにあたって、本人名義の土地などに担保をつける行為
- 相続対策として、本人のお金でアパートを建築する行為
これらの中には、本人が正常な判断能力を有していれば、本人自ら行ったはずの行為もあることでしょう。
しかし、これらの行為を行うことは家庭裁判所の許可が下りない可能性が高く、原則として成年後見人が行うことはできません。
掃除や洗濯などの直接的な生活支援
掃除や洗濯、料理など直接的な生活支援は、成年後見人の権限の対象外です。
そのため、専門家が成年後見人に就任した場合には、専門家がこれらの行為を行うわけではありません。
ただし、家族が成年後見人に就任している場合には、「成年後見人として」ではなく、家族として生活支援を行うことは少なくないでしょう。
介護
介護は、成年後見人の権限の対象外です。
本人が適切な介護サービスを受けるための契約締結などは成年後見人の役割である一方で、直接的な介護を成年後見人が行うことはできません。
なお、掃除や洗濯などと同様に、「成年後見人として」ではなく、家族として介護を行うことはもちろん可能です。
医療行為への同意
成年後見人は、医療行為への同意をすることはできません。
成年後見人ができない医療行為への同意とは、たとえば手術への同意や、胃ろう造成、人工呼吸器着脱への同意などです。
ただし、この点は誤解されていることも多く、医療従事者のから成年後見人に対して医療行為への同意を求められる場合もあるようです。
なお、こちらも成年後見人が本人の家族である場合には、家族として同意を行うことはあるでしょう。
遺言の代理
成年後見人は、本人の代わりに遺言を作成することはできません。
遺言の作成は、本人のみができる行為です。
そのため、成年後見人に限らず、弁護士などの専門家や家族などであっても、代理で遺言を書くことはできません。
成年後見人に誰がなれる?
成年後見人には、どのような人がなるのでしょうか?
順を追って解説していきます。
成年後見人になれない人
次の人は欠格要件に該当するため、成年後見人になることはできません(民法847条)。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をした者、その配偶者、直系血族
- 行方の知れない者
これら以外の人であれば、法律上は、誰でも成年後見人になることが可能です。
特別な資格が必要となるわけではありません。
成年後見人は誰が決める?
成年後見制度を利用するための申し立てにあたって、候補者を記載することはできます。
候補者を記載するとは、成年後見人になろうと考えている人を、成年後見人に選んで欲しいということを裁判所に伝えるために、申立書に成年後見人「候補者」として記載することを意味します。
ただし、これはあくまでも「候補者」でしかなく、必ずしもその人が選任されるとは限りません。
実際には、全体の約80%以上で、親族以外(弁護士や司法書士など)が成年後見人等に選任されています。※1
成年後見制度を利用する手続きの流れ
成年後見制度を利用するには、どのような流れを踏めばよいのでしょうか?
基本的な流れは次のとおりです。
専門家に相談する
成年後見制度の利用にあたって、専門家への相談が必須となるわけではありません。
手続のやり方を自分で調べたり、家庭裁判所に電話で問い合わせたりしながら進めることができるでしょう。
しかし、後ほど解説するように、成年後見制度の利用には注意点が少なくありません。
また、一度後見人等に選ばれてしまったら、簡単には辞めることができないため、制度をよく理解しておくことが必要です。
そのため、申し立てを行う前に、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
家庭裁判所に申し立てる
成年後見人等の選任を申し立てることが決まったら、必要書類を準備して、申立てを行います。
申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立てに必要な書類は非常に多いため、一つずつ準備を進めていきましょう。
主に必要となる書類は、次のとおりです。※2
- 後見・保佐・補助開始等申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 親族の意見書
- 後見人等候補者事情説明書
- 財産目録
- 収支予定表
- 本人の戸籍謄本(発行から3か月以内)
- 本人の住民票(発行から3か月以内)
- 成年後見人候補者の住民票(発行から3か月以内)
- 本人に関する医師の診断書(発行から3か月以内)
- 本人情報シートの写し(医師に診断書を作成してもらうにあたり、医師に本人の生活状況を伝える「本人情報シート」の写し)
- 本人の健康状態に関する資料(介護保険認定書、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳など)
- 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
- 本人の財産に関する資料(預貯金通帳の写し、不動産登記事項証明書、ローン契約書の写しなど)
- 本人の収支に関する資料(年金額決定通知書、給与明細書、確定申告書、家賃や地代などの領収書、施設利用料、入院費、納税証明書、国民健康保険料などの決定通知書など)
必用書類が非常に多いため、専門家のサポートを受けながら準備を進めるとよいでしょう。
成年後見人等が選任される
申立てをすると、家庭裁判所によって調査が行われます。
調査とは、本人との面談や、後見人等候補者との面談、親族への意向照会などです。
また、申立て時に提出をした診断書とは別途、本人の精神鑑定が行われることもあります。
これらの調査を経たうえで、必要性が認められた場合、成年後見人等を指定する審判が行われます。
成年後見人等選任を申し立てる際の注意点
成年後見人等の選任を家庭裁判所に申し立てる際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
主な注意点は、次のとおりです。
候補者が必ず選任されるとは限らない
先ほども解説したように、成年後見人等を誰にするのかは、諸般の事情を考慮したうえで裁判所が決定します。
そのため、申立書に記載をした候補者が、必ずしも選任されるとは限りません。
また、希望した候補者以外の者が選任されたことを理由に、申し立てを取り下げることも認められません。
たとえば、「継続的に後見人報酬がかかるのが嫌なので、専門家が選任されたら成年後見制度の利用をやめる」などといったことはできないことには注意が必要です。
継続的に費用がかかる
成年後見制度を利用するには、継続的に費用がかかります。
まず、成年後見人等として弁護士や司法書士などの専門家が選任された場合には、後見人に対する報酬が発生します。
報酬額は本人の財産状況などによって異なりますが、1か月あたりおおむね2万円から5万円です。
一方、成年後見人等に親族が選任された場合には、無報酬とすることも少なくないでしょう。
しかし、この場合には成年後見人を監督する「後見監督人」として、弁護士や司法書士が別途選任されることが一般的です。
この後見監督人の月額報酬は、1か月あたり1万円から2万円程度かかります。
なお、報酬額は後見人や後見監督人に就任した専門家が自由に決めるのではなく、家庭裁判所が決定します。
相続対策や贈与などが制限されることとなる
先ほど解説したように、成年後見人等は、本人の利益とならない行為をすることはできません。
そのため、成年後見制度を利用した場合には、相続対策が大きく制限されることとなります。
たとえば、相続対策として子どもや孫に贈与をしたり、アパート建築をしたりすることなどは認められない可能性が高いでしょう。
裁判所へ定期的な報告が必要となる
成年後見人等は、他者の財産を管理する役割を担います。
そのため、本人の収支状況や資産状況などについて、家庭裁判所に定期的に報告しなければなりません。
これには、それなりの手間がかかります。
また、たとえ家族であっても、原則として本人のお金と家族のお金を混ぜて生活することなどは認められません。
簡単に辞められない
成年後見人等に選任されたら、簡単に辞めることはできません。
これは、成年後見人に簡単に辞任されてしまうと、本人にとって不利益であるとの考えからです。
そのため、いったん就任した成年後見人等が辞任をするためには、辞任に正当な事由があることを主張して、家庭裁判所に許可を得る必要があります。
辞任が認められ得る正当事由とは、たとえば成年後見人等の病気や高齢、遠方への転勤などです。
まとめ
成年後見人は、判断能力を失ってしまった本人に代わって、財産管理や契約締結などを行う役割を担う人です。
家庭裁判所に選任を申し立てることで、制度の利用がスタートします。
ただし、希望した候補者が必ずしも選任されるとは限らないことや、相続対策が制限されることなど、利用にはさまざまな注意点が存在します。
そのため、あらかじめ弁護士へ相談して制度の内容をよく理解したうえで、申し立てをする必要があるでしょう。
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成年後見人等の利用や親族間のトラブル、相続問題などでお困りの際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
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