未成年後見人とは、何らかの事情で親権者がいなくなってしまった未成年者の法定代理人です。
では、未成年後見人になる人は、誰がどのように決めるのでしょうか?
また、未成年後見人には、何らかのリスクや注意点があるのでしょうか。
今回は、未成年後見人について、弁護士がくわしく解説します。
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未成年後見人とは
未成年後見人とは、未成年者の監護養育や財産管理、契約などの法律行為などを行う役割を担う人です。※1
日本の法律では、18歳未満の未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意を得なければならず、この規定に反する法律行為は取り消すことができるとされています(民法5条)。
なぜなら、未成年者は判断能力が未成熟であるがゆえに、不利な契約を締結してしまうリスクなどが高いためです。
そして、一般的にこの法定代理人は未成年者の親権者が担っています(民法818条)。
原則として、この親権者は未成年者の父母ですが、父母が離婚をした場合や父母の一方が死亡した場合などには、いずれか一方の親権に服します。
しかし、何らかの事情で親権者が誰もいなくなってしまうこともあるでしょう。
そのような状況では、未成年者にとってさまざまな支障が生じます。
未成年者が幼い場合には一人で生きていくことは困難ですし、ある程度成熟した年齢であっても未成年者である以上、契約の締結などが有効にできないためです。
そこで登場するのが、未成年後見人です。
未成年後見人が未成年者に代わって契約締結などの法律行為をしたり、未成年者の財産管理や身上監護をしたりすることで、未成年者が社会生活を送りやすくなります。
未成年後見人が必要となるケース
未成年後見人が必要となるのは、未成年者に親権者が誰もいなくなってしまった場合です。
具体的には、次のケースなどが考えられます。
- 父母が2人同時に死亡した場合
- 父母が離婚して一方が親権を持ったが、親権を持った親が死亡した場合
- もともと親権者であった者が親権を喪失した場合
一方、離婚や一方の死亡などで親権者が一人になった場合でも、一人でも親権者がいるのであれば、未成年後見人が就任することはありません。
未成年後見人になるのは誰?
親権者がいなくなった場合、未成年後見人になるのは誰なのでしょうか?
また、未成年後見人は、誰がどのように決めるのでしょうか?
それぞれ解説していきます。
未成年後見人になれない人
未成年後見人になるために、特に資格などは必要ありません。
また、未成年者の親族であることなどの制限もありません。
ただし、下記の人は欠格事由に該当し、未成年後見人になることはできないとされています(民法847条)。
- 未成年者
- もともと法定代理人や保佐人、補助人であったものの、家庭裁判所に免ぜられた者
- 破産者
- その未成年者に対して訴訟をした者やその配偶者、直系血族
- 行方の知れない者
未成年後見人を決める方法
未成年後見人は、誰がどのように決めるのでしょうか?
決める方法には、次の2つのパターンがあります。
遺言で指定する
未成年後見人を決める1つ目の方法は、遺言書で指定する方法です。
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で未成年後見人を指定することができるとされています(民法839条)。
たとえば、離婚をして単独親権となっている者が、子どもが未成年のうちに自分が死亡した場合に備えて、子どもをかわいがってくれている自分の妹を未成年後見人として指定する遺言書を作成しておくことなどが考えられます。
家庭裁判所が選任する
未成年後見人を決める2つ目の方法は、家庭裁判所に選任してもらう方法です。
遺言のない状態で親権者が不在となった場合などには、こちらの方法が適用されます(民法840条)。
家庭裁判所は、次の状況などを総合的に考慮して、未成年後見人を選任することとされています。
- 未成年被後見人についての次の事項
- 年齢
- 心身の状態
- 生活と財産の状況
- 未成年後見人となる者の次の事項
- 職業と経歴
- 未成年被後見人との利害関係の有無
- 法人であるときは、事業の種類、内容、その法人や法人代表者と未成年者との利害関係の有無
- 未成年被後見人の意見
親権者が死亡したら元配偶者に自動的に親権が移るのか
離婚によって夫婦の一方(仮に、妻)が親権を持った場合、その後、この妻が亡くなったからといって、自動的に元夫へと親権が移るわけではありません。
ただし、未成年後見人が遺言などで指定されていなかった場合において、親権者であった妻の死亡後に元夫から親権者変更の申し立てがされた場合には、これが認められる可能性が高いでしょう。
そのため、たとえば元夫が子どもに暴力を振るっていたなど、自分が亡くなっても元夫に親権を渡したくない事情がある場合には、遺言で未成年後見人を指定しておくことをおすすめします。
遺言で未成年後見人が指定されていれば、仮に元夫から親権者変更の申立てがされたとしても、遺言での指定が優先される可能性が高いためです。
ただし、たとえ遺言書の指定どおりに未成年後見人が選任されたとしても、元夫が家庭裁判所に「未成年後見人よりも自分の方が親権者としてふさわしい」などとして、親権者変更の審判を申し立てる可能性は否定できません。
この場合、裁判所は子どもの利益や福祉を総合的に考慮して、親権者変更を認めるべきかどうかを判断することとなります。
未成年後見人を選任する手続き・流れ
未成年後見人を選任し、就任するまでの手続きと流れは、次のとおりです。
ケース1:遺言で指定されている場合
未成年後見人が遺言で指定されており遺言者である最後の親権者が死亡した場合には、戸籍法にもとづく届出をすることで、遺言で指定された人が未成年後見人に就任します。
具体的には、最後の親権者である遺言者の死亡後10日以内に、未成年者の本籍地を管轄する市区町村役場に届け出ることが必要です(戸籍法81条)。
届出の際には、原則として次のものが必要となります。
- 市区町村役場に備え付けの「未成年者の後見届」
- 未成年後見人に指定された自筆証書遺言や公正証書遺言の謄本など
状況によってはこれら以外の書類が必要となる場合もありますので、届出先の市区町村役場へあらかじめ電話などで確認してから出向くとよいでしょう。
ケース2:家庭裁判所に選任してもらう場合
未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらう場合の基本の流れは、次のとおりです。
ステップ1:必要書類の収集と作成をする
未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらうためには、さまざまな書類が必要となります。
基本的な必要書類は、次のとおりです。※2
- 取り寄せる書類
- 未成年者の戸籍謄本
- 未成年後見人候補者の戸籍謄本
- 未成年者の住民票または戸籍の附票
- 未成年後見人候補者の住民票または戸籍の附票
- 親権者の死亡が分かる戸籍謄本など、親権者がいなくなったことのわかる資料
- 作成する書類
- 未成年後見人選任申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 相続財産目録
- 収入予定表
- 未成年後見人候補者事情説明書
申立てにはさまざまな書類が必要となるうえ、状況によってはこれら以外の書類も必要となります。
そのため、弁護士などの専門家のサポートを受けながら手続きを進めるとよいでしょう。
ステップ2:家庭裁判所に申立てをする
必要書類が揃ったら、家庭裁判所に未成年後見人の選任申立てを行います。
申立先の家庭裁判所は、未成年者の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所です。
なお、申立ての際には未成年後見人の候補者を記載することができますが、必ずしもこの候補者が選任されるとは限りません。
家庭裁判所の判断で、候補者以外の者が選任される可能性があります。
また、仮に候補者が未成年後見人として選任された場合であっても、弁護士や司法書士などの専門家がその未成年後見人を監督する「未成年後見監督人」として選任されることもあります。
ステップ3:戸籍への掲載
家庭裁判所で未成年後見人が選任されると、選任からおおむね2週間程度で、未成年者の戸籍に未成年後見人の情報が掲載されます。
この手続きは家庭裁判所が行いますので、遺言で選任された場合とは異なり、未成年後見人が自ら届出をする必要はありません。
未成年後見人を引き受ける際の注意点
未成年後見人には、未成年者を監護養育する重い責任が生じます。
では、未成年後見人を引き受ける際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
主な注意点は、次のとおりです。
善管注意義務がある
未成年後見人には、善管注意義務が課されます(民法869条・644条)。
善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」のことであり、委任された業務の内容や社会的地位などから考えて、通常期待される注意義務のことです。
たとえば、未成年後見人が被後見人である未成年者の財産と自己の財産を混同してしまうことなどは、善管注意義務違反に問われる可能性が高いでしょう。
善管注意義務に違反をすると、未成年後見人から解任される可能性があるほか、損害賠償請求をされたり刑罰を受けたりする可能性があります。
なお、善管注意義務と対比するものに、「自己のためにすると同一の注意をなす義務」が存在します。
これは、自分の持ちものと同等の注意義務のことであり、注意すべきレベルは善管注意義務より一段低くなります。
未成年後見人に善管注意義務が課されている一方で、親権者が負う注意義務は「自己のためにすると同一の注意をなす義務」です(民法827条)。
戸籍に記載される
未成年後見人に就任すると、未成年後見人の氏名と本籍が、被後見人である未成年者の戸籍に記載されます。
つまり、未成年者の戸籍謄本などを取得すると、未成年後見人の氏名や本籍を見ることができるということです。
解任されることがある
未成年後見人に不正な行為がある場合など後見の任務に適しない事由があると判断された場合には、未成年後見人を解任されることがあります。
善管注意義務違反などをして解任されないよう、責任をもって職務を遂行することが必要です。
正当な理由がなければ辞任できない
未成年後見人は、未成年者の監護養育や財産管理などをする、非常に重要な役割を担います。
そのため、簡単に辞任できるものではありません。
未成年後見人を辞任するには、正当な事由があることに加え、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。
正当な事由としては、たとえば未成年後見人の病気や高齢、遠隔地への転居などが考えられます。
一方、単に後見事務が面倒になったという程度では、辞任が認められる可能性は低いでしょう。
また、後見の空白期間が生まれないよう、未成年後見人の辞任する申立てと併せて、後任の後見人を選任するための「未成年後見人選任」の申立てをすることが求められています。※3
これは、未成年後見人が被後見人である未成年者の利益を保護するための制度であり、簡単に辞任されてしまうと未成年者の利益が保護されないと考えられるためです。
まとめ
未成年後見人とは、未成年者に代わって契約などの法律行為をしたり、未成年者の監護養育や財産管理などをしたりする人です。
このような役割は通常親権者が担いますが、親権者が不在となった際には、選任された未成年後見人がこれらの役割を担います。
未成年後見人は家庭裁判所に選任してもらうことも可能ですが、自分の望んだ信頼できる相手を未成年後見人とするためには、遺言で指定しておくとよいでしょう。
特に両親のもう一方が親権者となることを避けたい事情がある場合や、すでに死亡しているなどの事情がある場合には、遺言書での指定が必須であるといえます。
しかし、遺言書の作成には、法律上さまざまな要件があり、一つ間違えば遺言書が無効となってしまうリスクがあります。
そのため、未成年後見人を指定する遺言の作成をする際には、弁護士へ相談のうえ作成するとよいでしょう。
Authense法律事務所では、遺言書の作成サポートなど、相続にまつわるリーガルサポートに力を入れています。
未成年後見人についてお悩みの際には、ぜひAuthense法律事務所までお気軽にご相談ください。
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