相続した家に住宅ローンの残債がある場合には、相続人が住宅ローンを承継することが原則です。しかし、住宅ローンに団信契約が付随している場合には、残債を返済する必要はありません。
今回は、住宅ローンが残っている場合の相続についてわかりやすく解説します。
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原則として住宅ローンなどの債務も相続する
亡くなった人の借金や住宅ローンなどが残っていた場合、相続人はこれらマイナスの財産も相続することが原則です。
相続というと、家や土地、預貯金などのプラスの財産が想起されがちですが、マイナスの財産も同様に相続の対象となります。
身内に相続が起きた際には、プラスの財産のみならず借金や住宅ローンについても調査を行い、相続財産の全体像を掴んでおきましょう。
住宅ローンは家をもらった人が自動的に全額相続する?
住宅ローンは、住宅ローンの対象となっている家を相続した相続人が自動的に引き継ぐこととなるのでしょうか?
このような誤解は多いのですが、原則として、家を相続したからといってその相続人が自動的に住宅ローンの全額を引き継ぐわけではありません。
亡くなった人(「被相続人」といいます)が負っていた借金は、その借金の中身が住宅ローンであっても事業上の借金であっても、相続が起きたと同時に、原則として法定相続人が法定相続分で引き継ぎます。
遺産分割協議で内部的な合意をすることができる
原則どおりに法定相続人が法定相続分で借金を引き継ぐこととなれば、その住宅を相続しなかった相続人までもが住宅ローンを引き継ぐこととなってしまい、いささか不合理です。
そのため、実際には遺産分割協議の中で、住宅を相続する人がその住宅に関する住宅ローンを承継すると合意するケースが多くあります。
なお、「遺産分割協議」とは、相続人全員で行う遺産分けの話し合いのことです。
また、この遺産分割協議の結果をまとめて相続人全員の署名・押印した書類のことを「遺産分割協議書」といいます。
金融機関は他の相続人にも請求できる
遺産分割協議で住宅ローンの承継者について、相続人間で合意ができたとしても、実はそれのみでは借入先である金融機関に対抗することはできません。
そのため、仮に相続人全員で行った遺産分割協議において、長男が住宅ローンを承継すると取り決めたとしても、二男や長女の法定相続分を限度として、二男や長女に対して金融機関からローンの返済を請求される可能性があります。
これが預貯金などプラスの財産であれば、相続人間で決まった協議内容に対して金融機関など外部から文句を言われる筋合いはありません。
しかし、マイナスの財産の場合には、相続人同士の取り決めのみでは不十分なのです。
ローンの承継者に関する取り決めが金融機関に対抗できない理由
遺産分割協議で決まった住宅ローンの返済者についての取り決めは、なぜ金融機関に対抗できないのでしょうか?
この理由は、極端な借金逃れを防ぐためであると考えられます。
仮に相続人同士の内部的な取り決めが金融機関に対しても有効だとすれば、資産をほとんど持っておらず返済の余力もない人にローンだけを相続させるようなことができてしまいます。
その後、ローンを承継した人が自己破産などをしてしまえば、金融機関はそれ以上返済を受けることができません。
これはやや極端な例ではありますが、金融機関にとってこうした不測の事態を避けるために、遺産分割協議が成立したのみでは、金融機関に対抗できないとされています。
他の相続人がローンを返済した場合には求償ができる
長男が住宅ローンの全額を承継する遺産分割協議が成立したとしても、金融機関が二男や長女に対してローンの返済を求める可能性があります。
この場合、長男の代わりに二男や長女が住宅ローンを一部返済した場合には、返済した分の額を二男や長女から長男に対して請求することが可能です。
この請求のことを、法律用語で「求償」といいます。
求償が可能になるという点で、住宅ローンなどマイナスの財産について遺産分割協議を行うことには意味があります。
実際は家を相続した人がローンを承継することを承認することが一般的
遺産分割協議が成立したのみでは、住宅ローンの承継者について金融機関に対抗することはできません。
しかし、長男が住宅ローンの全額を引き継ぐことを金融機関が承認すれば、住宅ローンは正式に長男が承継することとなり、以後は二男や長男が返済を迫られることはなくなります。
現実的には、よほど長男の返済能力が不安定であるなどの特殊な場合を除き、金融機関は家を相続した長男が住宅ローンを引き継ぐことを承認するケースが大半でしょう。
一般的に、家やその敷地である土地に担保である抵当権もつけられており、仮に長男の返済能力が被相続人より多少劣る場合であったとしても、抵当権を実行することで債務を回収ができない可能性は低いためです。
ただし、場合によってはその家に同居する長男の妻などが連帯保証を求められる可能性はあります。
団信で住宅ローンの返済ができることが多い
被相続人が残した借金が住宅ローンである場合には、団信の契約があることが少なくありません。
団信の契約があれば、団信から支払われた死亡保険金で住宅ローンの残債が返済されるため、相続人が身銭を切って住宅ローンを支払っていく必要はなくなります。
では、団信について詳しく解説していきましょう。
団信とは
団信は、正式名称を「団体信用生命保険」といいます。
団信とは、住宅ローンの返済中に加入者が死亡したり一定の障害状態となったりした場合に、保険金によって残りの住宅ローンが弁済される保障制度です。
被相続人が団信に加入してさえいれば、死亡の時点で団信から住宅ローンの全額が返済されるため、以後は相続人が住宅ローンの返済をしていく必要はなくなります。
住宅ローンであれば団信の契約をしている場合が大半ですが、団信の加入には年齢制限など一定の条件があるため、加入していない可能性もゼロではありません。
団信に契約しているかどうかは金融機関などで確認できる
被相続人が団信に加入していたかどうかを確認する主な方法は次のとおりです。
住宅ローン借入先の金融機関へ確認する
もっとも簡単で確実な方法は、住宅ローンの借入先である金融機関へ問い合わせることです。
相続人であることが確認できることを条件に電話などで回答してもらえる場合もありますが、窓口で死亡の事実や被相続人との関係がわかる戸籍謄本などの提示が求められる場合もあります。
なお、借入先の金融機関がどこであったのかわからない場合には、住宅ローンの対象となっている家や土地の全部事項証明書の抵当権者の欄で確認することが可能です。
家や土地の全部事項証明書は、全国どこの法務局からでも取得することができます。
ただし、金融機関の統合などによって全部事項証明書に記載された名称から変わっている可能性もあります。
その場合には、インターネットなどで現在どこの金融機関となっているのかを確認するとよいでしょう。
また、被相続人が毎月の住宅ローンの引き落としに使用していた銀行口座の通帳印字から確認ができる場合もあります。
契約時の書面を確認する
団信の契約がある場合には、住宅ローンの借入時に契約書面が交付されているはずです。
お手元に住宅ローンに関する書類がある場合には、その契約書を見ることで加入状況を確認できます。
住宅金融支援機構のコールセンターで確認する
団信の加入状況については、住宅金融支援機構のコールセンターで確認することが可能です。
何らかの理由で借入先の金融機関へ確認することがためらわれる場合や、借入先の金融機関がわからない場合などは、こちらで確認するとよいでしょう。
住宅ローンを相続しても支払ってならない場合の対応策
被相続人が団信に加入しておらず、かつ住宅ローンの返済が相続人にとって重い場合には、どのような対応を取ればよいのでしょうか?
ここでは、2つの対応方法を紹介していきます。
金融機関にリスケを相談する
1つ目の対応方法は、借入先の金融機関にリスケを相談することです。
リスケとは「リスケジュール」の略称で、住宅ローンの返済について、毎月の支払額などを減額してもらうなど、返済の条件を見直してもらうことをいいます。
金融機関としても、無理な返済を迫って返済が不能となるよりも、返済期間が多少延びても確実に返済してもらえる方が得策です。
そのため、毎月の返済額があまりにも少額であるなど、よほど無理な内容でさえなければ、交渉や相談に応じてもらえることが多いと考えられます。
相続放棄を検討する
リスケをしてもなお返済が困難である場合や、家を売却しても返済できる見込みがないオーバーローンの状態となっている場合には、相続放棄を検討することも一つです。
相続放棄とは、家庭裁判所へ申述することにより、はじめから相続人ではなかったものとされる手続きを指します。
相続放棄が認められると、被相続人の住宅ローン返済義務から解放されます。
ただし、家と土地は相続したいけれど、ローンだけは放棄するなどといった都合のよいことはできません。
相続放棄をすると、マイナスの財産も承継しなくて済む一方で、家や土地、預貯金などプラスの財産も一切相続できなくなります。
相続放棄には注意点が少なくありませんので、相続放棄を検討する際にはあらかじめ相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
住宅ローンは相続税の計算上控除できる
住宅ローンを引き継ぐ場合、相続税の計算には何か影響があるのでしょうか?
最後に、住宅ローンと相続税について解説します。
基礎控除を超える財産があれば相続税の対象になる
相続税は、実はすべての相続に対してかかる税金ではありません。
相続税の申告が必要となるのは、遺産総額など相続税の対象となる財産の合計額が、次の式で算定される相続税の基礎控除額を超える場合のみです。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
この計算式に当てはめると、法定相続人が2名の場合の相続税の基礎控除額は4,200万円、法定相続人が3名の場合の基礎控除額は4,800万円です。
この数字が相続税の課税対象かどうかの境目となりますので、ご自身やご家族に関連する金額だけでも覚えておくとよいでしょう。
住宅ローンなどマイナスの財産は控除して計算する
相続税は、被相続人のプラスの遺産に過去の一定の贈与を加算した金額から、債務を控除した残額に対して課税されます。
この「債務」には、次のものが該当します。
- 住宅ローンなどの借金
- 死亡時点で未払いとなっていた医療費や税金などの未払金
- 葬儀費用
つまり、被相続人に住宅ローンの残債があった場合には、相続税の計算上、その残債分はプラスの財産から控除して計算することが可能だということです。
このように、相続税の計算上債務を差し引いて計算することを「債務控除」といいます。
団信で完済された住宅ローンは債務控除の対象外
相続人が引き続き返済する必要がある住宅ローンは、相続税の計算上債務控除の対象となることは先ほど解説したとおりです。
しかし、団信に加入しており、死亡の時点で全額が完済された住宅ローンは債務控除の対象とはなりません。
被相続人の死亡時点で住宅ローンが完済された以上、相続人が債務を負ったわけではないためです。
一方で、生命保険は通常一定の非課税枠を引いた残額が相続税の対象となるものの、生命保険の一種である団信から支払われた保険金は相続税の課税対象から除外されています。
まとめ
被相続人の住宅ローンが残っていた場合には、まず団信の加入の有無を確認することが先決です。
団信への加入があれば、相続人が住宅ローンを返済していく必要はないためです。
団信への加入がない場合には、住宅ローンは相続人が承継します。
家を相続した人が住宅ローンを承継するなど特定の相続人がローンを引き継ぎたい場合には、あらかじめ金融機関へ相談し、承諾を得るようにしましょう。
返済が難しい場合には、リスケを相談したり相続放棄を検討したりすることも方法の一つです。
住宅ローンなどマイナスの財産の相続には、難しい判断が必要となる場合が少なくありません。
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