コラム
公開 2021.09.07 更新 2023.04.06

認知症でも相続放棄はできる?成年後見人が必要?

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認知症の人でも、相続放棄を行うことはできるのでしょうか?

認知症の相続人が相続放棄をするには成年後見人が必要となります。

認知症の人が自分で相続放棄する場合、不利益を被ってしまう可能性があるからです。

ただし、成年後見人と成年被後見人が利益相反の関係にある場合、代理で相続放棄ができないケースがあります。

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はじめに

相続が発生すると、被相続人の持っていた権利や義務は、一身専属的なものを除き、すべて相続人へと移転します。
被相続人の持っていたものがプラスの財産ばかりであれば良いですが、中には多額の借金が含まれている場合もあります。

その場合、そのまま相続してしまうと、以後相続人が借金を返済していかなければならず、その支払いに困窮することにもなりかねません。
そのような際に検討すべき手続きが、相続放棄です。

では、相続人の中に認知症の人がいたとしても、通常どおり相続放棄の手続きをすることは可能なのでしょうか?
この記事では、相続放棄の効果や手続きの期限などとともに、相続人の中に認知症の人がいる場合の相続放棄についても、詳しく解説していきます。

なお、Authense法律事務所では、相続に関する複雑な手続きや、多様な相続トラブルに対応すべく、さまざまなニーズに対応する料金プランをご用意しております。
ぜひ一度ご覧ください。

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相続放棄とは

まずは、相続放棄について詳しく解説していきましょう。

相続放棄とは、相続放棄をした人が当初から相続人ではなかったこととみなされる、非常に強い効力を持つ手続きです。
ここでいう相続放棄とは、家庭裁判所へ申述をすることによって行う手続きのことです。
単に一部の相続人が財産を一切承継しない内容の遺産分割協議を成立させることは、法律上の相続放棄ではありませんので、混同しないようにしてください。

相続放棄を検討する場面はいくつかありますが、代表的なものとしては被相続人に多額の借金があった場合が挙げられます。
では、相続放棄を行うと、どのような効果をもたらすのでしょうか?

相続放棄をするとどうなる?

相続放棄をすることにより、その人は最初から相続人でなかったものとみなされます。
相続人ではない以上、被相続人の借金を引き継ぐこともありません。
一方で、自宅不動産や預貯金などといったプラスの財産についても、一切承継できなくなります。

また、相続放棄の効果として、本来であれば相続人にはならないはずであった人が、新たに相続人となるケースがあることも知っておきましょう。

例えば、第一順位の相続人である子が全員相続放棄をしたことにより、第二順位の相続人である両親や、第三順位の相続人である兄弟姉妹が新たに相続人となるような場合があります。

これは、被相続人の子が全員相続放棄すると、最初から第一順位の相続人が誰もいなかったこととなり、後順位の相続人へと権利が移るからです。

そのため、後々のトラブルを防ぐためには、後順位の相続人へあらかじめ相談をすることをお勧めします。もし、後順位の相続人も相続放棄の手続きをしたいというような場合には、ご自身の相続放棄が終了次第、後順位の方にも、相続放棄の手続きをとっていただくように連絡をする方が良いでしょう。

第一順位の相続人が、後順位の相続人に何の相談や連絡もなく、相続放棄をしてしまうと、後順位の相続人にとっては、自分には関係がないと思っていた借金のリスクがある日突然降りかかり、それを逃れるためには自らも手間や時間をかけて相続放棄をしなければならないことになりますので、誰しもあまり良い思いはしません。

相続放棄と「何ももらわない」遺産分割協議との違い

前述のとおり、法律上の相続放棄をするためには、家庭裁判所への申述が必要です。
これに対して、一般用語として、ある相続人が何も承継しないという内容の遺産分割協議をすることを、「私は相続を放棄した」という場合もあります。
では、この両者は何が異なるのでしょうか?

両者の最も大きな違いとしては、借金の取り扱いです。
当人同士で何も承継しないという内容の遺産分割協議を成立させたとしても、実は被相続人にお金を貸していた人などの債権者には主張できません。

例えば、被相続人の長男が何も相続しない内容の遺産分割協議が成立したとしても、債権者はこの長男に対しても、法定相続分に応じて、被相続人の借金の返済を求めることができるのです。

一方、法律上の相続放棄をすれば、債権者はその相続放棄をした人に対して、借金の返済を求めることはできません。

この点で、両者には大きな違いがある点を知っておきましょう。
その上で、多額の借金を免れたいという目的であれば、必ず家庭裁判所で法律上の相続放棄を行うようにしてください。

相続放棄はいつまでにすべき?

相続放棄はいつまでにすべき?

では、相続放棄はいつまでに行うべきでしょうか?
その期限について解説していきましょう。

なお、これから紹介する期限を超過してしまったとしても、状況によっては放棄を認めてもらえる場合があります。
お困りの際は、弁護士にご相談ください。

相続放棄の期限の原則

相続放棄の期限は、原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」とされています。
つまり、被相続人が亡くなったその日に亡くなった旨を知った場合、その亡くなった日から3ヶ月以内ということです。
一方で、被相続人の死亡後すぐにはその旨を知らず、その後期間が経過してから亡くなったことを知った場合には、亡くなった日からではなく、知った日から起算します。
まずは、この原則を知っておいてください。

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成年被後見人の相続放棄期限はいつから起算する?

認知症などにより、事理を弁識する能力が常にない状態となってしまっている場合、その人が法律上の行為をするには、成年後見人を選任しなければなりません。
このとき、その認知症となっている人を「成年被後見人」、その認知症の人の代わりに法律行為などをする人を「成年後見人」と呼びます。

では、相続人に成年後見人がついている場合、その成年被後見人についての相続放棄の起算日は、いつを基準にするのでしょうか?

これについては、成年被後見人が相続人となったことを、「成年後見人が」知った日から、期限の3ヶ月をカウントするものとされています。
認知症である成年被後見人が知った日からではないことに注意してください。

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認知症の相続人の相続放棄には成年後見人が必要

では、認知症の相続人が相続放棄をするにはどうすれば良いのでしょうか?

認知症の相続人が相続放棄をするには

常に事理弁識能力がない状態となっている認知症の人は、自分で相続放棄をすることはできません。
なぜなら、このような状態の人が自分で相続放棄をするとなると、不利益を被ってしまう可能性が高いと法律では考えられているからです。

例えば、他の相続人が財産を独り占めするために、認知症の人を騙して相続放棄をさせてしまうかもしれません。
また、特に誰からも騙されていなかったとしても、よくわからないまま相続放棄をしてしまう可能性もあります。

このような事態を防ぐため、認知症の人が相続放棄をするには、成年後見人を選任してもらうことが必要とされています。
選任された成年後見人が、認知症の人の代わりに相続放棄の手続きを行います。

なお、相続人の中に認知症の人がいる場合には、その人が相続放棄をする場合だけでなく、遺産分割協議をしようとする際にも成年後見人の選任が必要とされています。

成年後見人とは

成年後見人とは、認知症の人などの代わりに法律行為をしたり、本人がしてしまった不利益な契約を取り消したりする役割を担う人です。

例えば、相続放棄や遺産分割協議などは、正常な判断能力がない人が行うと不利益を被ってしまうかもしれません。
成年後見人はそうした不利益から成年被後見人を守るため、代わりに手続きを行うのです。

また、例えば訪問販売で不要な商品を契約してしまったような場合に、その契約を取り消すことなども、成年後見人の役割の一つと言えます。

なお、選任のきっかけが相続放棄や遺産分割協議であったとしても、これらが済めば成年後見人との関係が終了するわけではない点には注意が必要です。
一度成年後見人が選任されると、基本的には認知症である本人が亡くなるまで、その役割は終わりません。

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共同相続人も成年後見人になれる?

共同相続人も成年後見人になれる?

それでは、誰が成年後見人となるのかについて解説していきましょう。

結論からお伝えすれば、共同相続人であっても、成年後見人となる余地はあります。
しかし、必ずしも希望した人が成年後見人になれるとは限りません。

成年後見人は誰が決める?

成年後見人の選任を申し立てる際に、その候補者を挙げることは可能です。
例えば、成年後見人の家族や、共同相続人を候補者として挙げることもできます。

しかし、最終的に誰を成年後見人とするのかを決めるのは家庭裁判所です。
候補者として挙げた人が必ずしも選任されるわけではありません。

成年被後見人の財産状況に加え、候補者や他の家族との関係性を考慮のうえ、裁判所は成年後見人を選任します。
弁護士や司法書士といった専門家が選任される可能性が高いケースとしては、財産が多額である場合のほか、家族との間に争いがあるような場合が一般的です。

最近では、家族と専門職を同時に選任の上、まずは専門職後見人が成年被後見人の財産を信託する手続きを行った上で、家族である後見人へと引き継ぐケースもあります(後見制度支援信託といいます。)。

共同相続人も成年後見人になれる?

成年後見人は、家族などがなる場合もあれば、弁護士や司法書士といった専門家が選任される場合もあります。
前述のとおり、最終的に誰を選任するのかは家庭裁判所が決めますが、共同相続人だからといって成年後見人になれないわけではありません。
家庭裁判所が状況などから見て適任だと判断すれば、共同相続人が成年後見人として選任されることも十分に考えられます。

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成年後見人は相続放棄の手続きができる?

では、成年後見人は、成年被後見人の相続放棄の手続きを行うことができるのでしょうか?
実は、状況によって異なります。

これは、成年後見人の役割が、成年被後見人の財産を守ることであるためです。
成年後見人が相続放棄をすることができる場合とできない場合に分けて解説しましょう。

相続放棄を成年後見人ができない場合

成年後見人が成年被後見人を代理して相続放棄ができないケースには、両者が利益相反の関係にある場合があります。
「利益相反」とは、お互いの法律上の利益が対立する場合のことだと考えてください。

利益相反関係にある場合、成年被後見人の権利が適切に守られるかといった点で不安が残るため、成年後見人は後見人の代理として相続放棄をすることはできないとされているのです。

例えば、母が成年被後見人であり、その成年後見人が長男である場合で考えてみましょう。
このとき、父の相続に際しては、成年被後見人である母と後見人である長男は、共同相続人です。
母が相続放棄したとすると、その効果として長男の相続での取り分が増えることになります。

このようなケースでは、成年後見人である長男が代理をして母の相続放棄をさせることは通常認められません。

この場合には、この相続放棄に関してのみ、認知症である母を代理する「特別代理人」を新たに選任し、その特別代理人が代理で相続放棄の手続きをすることになります。特別代理人は、共同相続人などの利害関係人の申立てにより、家庭裁判所が選任します。

なお、特別代理人が選任されたからといって、その特別代理人が好き勝手に手続きができるわけではありません。

例えば、他の相続人が財産を独り占めする目的で相続放棄をさせるといったような、成年被後見人である母の権利を一方的に害する手続きは認められません。特別代理人は、例えば、遺産分割協議の代理のみなど、限られた手続きのための代理人ですので、特別代理人の選任に際し、裁判所に遺産分割協議書の案文の提出などを求められ、成年被後見人にとって不利な遺産分割協議となっていないか確認されることが多いです。

相続放棄を成年後見人ができる場合

一方で、成年後見人による相続放棄が認められるのは、お互いの利益が相反しない場合です。

例えば、そもそも成年後見人と成年被後見人が共同相続人でなければ問題ないでしょう。

他にも、仮に成年被後見人と成年後見人が共同相続人であったとしても、成年後見人を監督する立場である後見監督人が選任されている場合は、この後見監督人が代わりに相続放棄をすることができるとされています。

また、成年後見人と成年被後見人が元々は共同相続人であったとしても、成年後見人が成年被後見人に先立って相続放棄をしたような場合や、同時に相続放棄をする場合には、代理での相続放棄が認められるとされています。
この場合には、もはや両者は利益相反の関係にはないと考えられるためです。

例えば、父の相続に際し、成年後見人である長男がまず相続放棄をした後に、成年被後見人である母を代理して相続放棄をするような場合や、長男と母が同時に相続放棄をするような場合を想定してください。
この場合、特別代理人の選任などをすることなく、成年後見人である長男が、母の相続放棄を代理して行うことが可能です。

まとめ

被相続人の多額の借金を引き継がないように、認知症の相続人に相続放棄をさせるためには、まず成年後見人を選任し、成年後見人は相続放棄の手続きをするようにしましょう。成年後見人が共同相続人である場合などは利益相反関係にないかどうか、特別代理人の選任が必要かどうかについて、確認検討する必要がありますので、専門家に相談されることをお勧めします。

オーセンスの弁護士が、お役に立てること

・オーセンスでは、相続放棄手続きも多数取り扱っています。

・オーセンスでは、相続放棄手続きの代理のみではなく、そもそも被相続人の資産状況から、ご相談者様が相続放棄をすべきかどうかといったところからご相談にのることができます。相続放棄には期限がありますので、お早めにご相談いただくことをお勧めします。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。相続を中心に、離婚、不動産法務など、幅広く取り扱う。相続人が30人以上の複雑な案件など、相続に関わる様々な紛争案件の解決実績を持つ。
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