コラム
公開 2022.12.26 更新 2024.07.29

遺言書で「一人」に相続させる場合の書き方は?遺留分対策が必要?弁護士が解説

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遺言書を作成しておくことで、相続発生後は、原則としてその遺言書どおりに遺産を分けることとなります。

では、相続人が複数いるにもかかわらず、遺言書で一人に全財産を相続させることはできるのでしょうか?
また、遺言書で一人に相続させる場合、どのような点に注意する必要があるでしょうか?

今回は、遺言書で一人に全財産を相続させることの可否や注意点などについて、弁護士がくわしく解説します。

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遺言書で全財産を一人に相続させられる?

何らかの事情から、全財産を一人に相続させたい場合もあるでしょう。
はじめに、遺言書で全財産を一人に相続させることか可能かどうか解説します。

全財産を一人に相続させる遺言書の作成はできる

全財産を一人に相続させる内容の遺言書を作成することは可能です。
この「一人」は遺言書を作成する人(「遺言者」といいます)の子どもなど相続人でも構いませんし、相続人ではない友人などでも構いません。

ただし、用語について補足すると、「相続させる」ことは相続人に対してしかできず、友人など第三者に遺産を渡す場合は「遺贈する」となります。
以後、この記事では、相続人のうちの一人に全財産を相続させようとする前提で解説します。

「遺留分」に注意が必要

全財産を一人に相続させる内容の遺言書を作成することはできますが、その際、他の相続人の「遺留分」には注意しなければなりません。

遺留分とは、「兄弟姉妹と甥姪」以外の相続人が有する、相続での最低限の取り分です。
遺留分割合は原則として2分の1であり、これに法定相続分を乗じて個々の遺留分を算定します。

たとえば、相続人が長男と二男の2名である場合、長男と二男はそれぞれ遺産の4分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)の遺留分を有します。
このケースで全財産を長男に相続させる旨の遺言書を作成すると、二男の遺留分を侵害します。
そうなると、相続が起きた後で、二男が長男に対して「侵害した遺留分相当の金銭を支払え」と請求する可能性があります。
この請求を「遺留分侵害額請求」といいます。

遺留分侵害額請求がなされると、実際に長男は二男に対して、遺産の4分の1相当の金銭を支払わなければなりません。
2019年7月1日に施行された改正民法により、遺留分は金銭請求となりました。

一人に全財産を相続させる遺言書の作成はできるものの、後に遺留分侵害額請求がなされ、相続人の間でトラブルになる可能性がある点に注意が必要です。

そもそも相続人が一人だけになるケース

ある相続人に全財産を相続させたい場合、遺言書の作成が必要となるのは、相続人が複数いる場合だけです。
そもそも相続人が一人だけであり、その者に全財産を相続させたい場合、遺言書を書く必要はありません。

しかし、相続人については誤解が多く、「相続人が一人だけ」というケースは実はさほど多いものではありません。
ここでは、相続人の基本的な概念と、相続人が一人だけになるケースを解説します。

相続人の基本

亡くなった人(「被相続人」といいます)に法律上の配偶者がいれば、配偶者は常に相続人となります。
また、次の者がいる場合、第1順位から優先的に、配偶者とともに相続人となります。

  • 第1順位:被相続人の子ども。子どもの中に被相続人の死亡以前に死亡したり相続欠格に該当したりして相続権を失った者がいる場合は、その相続権を失った子どもの子ども(被相続人の孫)。子どもも孫も相続権を失っている場合は、孫の子ども(被相続人の曾孫)。
  • 第2順位:被相続人の父母。父母がともに死亡しており、祖父母の中に存命の者がいる場合には、その存命の祖父母。
  • 第3順位:被相続人の兄弟姉妹。兄弟姉妹の中に被相続人の死亡以前に死亡したり相続欠格に該当したりして相続権を失った者がいる場合は、その相続権を失った兄弟姉妹の子ども(被相続人の甥姪)。なお、第1順位とは異なり、甥姪の子どもが相続人になることはない

第1順位の相続人が一人でもいる場合、第2順位と第3順位の者は相続人とはなりません。
同様に、第1順位の相続人が誰もおらず、第2順位の相続人が一人でもいれば、第3順位の人は相続人とはなりません。

相続人が一人だけになるケース

相続人が一人だけとなるのは、次の場合などです。

  • 被相続人に子どもが一人だけであり、死亡時点で配偶者がいない場合:その一人の子どもだけが相続人
  • 被相続人に配偶者がおり、子どもがおらず、父母や祖父母は死亡しており、兄弟姉妹や甥姪が一人もいない場合:配偶者だけが相続人
  • 被相続人に配偶者や子どもがおらず、父母や祖父母は死亡しており、兄弟姉妹が一人だけいる場合:その一人の兄弟姉妹だけが相続人

特に、配偶者がいるものの子どもはいない場合に「配偶者だけが相続人になる」という誤解は少なくありません。
しかし、配偶者だけが相続人となるためには、被相続人に父母や祖父母、兄弟姉妹、甥姪が一人もいないことが必要です。

配偶者と兄弟姉妹がともに相続人となった場合の相続トラブルは少なくないため、遺言書を作成するなどの対策が不可欠でしょう。
ご自身のケースで誰が相続人になるのか確信が持てず不安がある場合は、弁護士へご相談ください。

遺言書で一人に全財産を相続させる主な理由

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相続人となる予定の者が複数いるにもかかわらず、一人に全財産を相続させたいと考える理由はさまざまです。
ここでは、遺言書で一人に全財産を相続させる主な理由を紹介します。

なお、将来相続人になる予定の者を「推定相続人」といいますが、わかりやすさを重視して、以下では相続が起きる前であっても「相続人」と表記します。

他の相続人に遺産を渡したくないから

1つ目の理由は、他の相続人に遺産を渡したくないためです。
近しい親族であっても、関係性がよくないことはあるでしょう。

たとえば、親にさんざん迷惑をかけた長男に遺産を渡したくないことから、二男に全財産を相続させる場合が考えられます。
また、法律上離婚は成立していないものの、長年別居している配偶者に遺産を渡さないため、子どもに全財産を遺す遺言書を作成する場合もあります。

跡取りである子どもに全財産を継がせたいから

2つ目の理由は、跡取りである子どもに全財産を継がせたいためです。

昭和22年(1947年)に民法が改正されるまでは「家督相続」制度が取られており、家を継ぐ者(ほとんどの場合、長男)が全財産を相続することが原則でした。
しかし、現代の民法では、家を継ぐか否かに関わらず子どもであれば皆が平等な相続権を有しています。

とはいえ、今も家督相続「的な」相続を希望する家もあるでしょう。
その場合に、一人に全財産を相続させる遺言書を作成する場合があります。

他の相続人には生前に十分な援助をしたから

3つ目の理由は、他の相続人には生前に十分な援助をしたことから、それ以外の者に遺産を承継させたいためです。
たとえば、長男と二男の2人が相続人ではあるものの、二男だけが海外留学をした場合や、二男の借金を遺言者が肩代わりした場合などが考えられます。

この場合は、長男に全財産を相続させる遺言書を作成する場合があります。

夫婦間に子どもがおらず配偶者に遺産を遺したいから

4つ目の理由は、夫婦間に子どもがおらず、配偶者に全財産を相続させたいためです。

先ほど解説したとおり、夫婦間に子供がいないからといって、配偶者だけが相続人となるわけではありません。
子どもがいなければ、配偶者とともに、被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人となります。

兄弟姉妹や甥姪が相続する事態を避け、配偶者に全財産を相続させるためには、遺言書の作成が必要です。

遺言書で一人に全財産を相続させる際の注意点

全財産を一人に相続させる遺言書を作成する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
ここでは、主な注意点を3つ解説します。

遺留分侵害額請求がされる可能性がある

遺留分を有する相続人がいるにもかかわらず、一人に全財産を相続させる遺言書を作成すると、相続発生後に遺留分侵害額請求をされてトラブルとなる可能性があります。
遺留分を侵害する内容の遺言書を作る場合は、遺留分侵害額請求をされた場合の支払方法などを入念に検討しておいてください。

なお、繰り返しとなりますが、兄弟姉妹や甥姪には遺留分はありません。

遺言書の無効を主張されるおそれがある

一人に全財産を相続させるなど偏った内容の遺言書を遺した場合、遺産を受け取れなかった相続人から遺言書の無効を主張されるおそれがあります。
そのため、万が一無効を主張されても裁判所に無効と判断されることがないよう、弁護士へ相談したうえで万全の内容で作成することをおすすめします。

他の相続人との関係性が悪くなるおそれがある

偏った内容の遺言書を遺した場合、相続人同士の関係性が悪化するおそれがあります。

たとえば、長男に全財産を相続させる遺言書を遺した場合、遺産を受け取れなかった二男と長男の関係性の悪化が予想されます。
また、二男から長男に対して遺留分侵害額請求がなされて訴訟などにまで発展すると、修復が不可能なほど関係性がこじれてしまう可能性も否定できません。

一人に全財産を相続させる遺言書を作る際の注意点

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一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
ここでは、長男と二男の2人が相続人である場合に長男に全財産を相続させる遺言書を作成しようとする前提で、主な注意点について解説します。

遺産を承継させたい相手の意向を確認しておく

1つ目の注意点は、遺産を承継させたい相手の意向を確認しておくことです。
よかれと思って一人に全財産を相続させる遺言書を作成しても、これが遺産を受け取る相続人の意向に沿わない可能性があるためです。

たとえば、長男としては遺産をすべて受け取るよりも、遺産を二男と分け合って二男との関係悪化を避けたいと考えているかもしれません。
あらかじめ意向を確認しておくことで、このような齟齬を避けやすくなります。

他の相続人に話をしておく

2つ目の注意点は、他の相続人にあらかじめ話をしておくことです。
あらかじめ話をしておくことで、長男に全財産を承継させることが遺言者自身の意向であることが明確になります。

また、長男に全財産を承継させることとした理由や想いなどを遺言者から直接伝えることで、納得感を得やすくなる効果も期待できます。

付言に想いを記載する

3つ目の注意点は、付言に想いを記載することです。

付言とは、遺言書に書き添えることができるメッセージです。
ここに、長男に全財産を相続させるとした理由や想いなどを記載することで、遺言者の想いが伝わりやすくなります。

可能であれば生前に直接話をしたほうがよいものの、直接話すことが難しい事情がある場合は、付言をうまく活用するとよいでしょう。

遺留分対策を講じておく

4つ目の注意点は、遺留分対策を講じておくことです。

相続発生後に二男から長男に対して遺留分侵害額請求がなされると、長男は二男に対して二男の遺留分相当額の金銭を支払わなければなりません。
しかし、遺産の大半が不動産や自社株など換価が難しいものである場合、長男が遺留分を支払うための金銭の確保に苦労するおそれがあります。

そのため、他の相続人の遺留分を侵害する内容の遺言書を作成する際は、遺留分侵害額請求をされることを想定し、遺留分を支払うための金銭の調達方法を検討しておく必要があります。

遺留分対策として講じるべき具体的な方法は状況によって異なるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
場合によっては、遺留分相当額程度の遺産を二男に遺す内容で遺言書を作成することも一つの手です。

公正証書遺言で作成する

5つ目の注意点は、公正証書遺言で作成することです。

主な遺言方式には、遺言者が自身で手書きをする「自筆証書遺言」と、公証人が関与して作成する「公正証書遺言」があります。
公正証書遺言の作成には公証人が関与するため、自筆証書遺言と比較して無効となりづらいメリットがあります。

二男側から無効を主張されても遺言書が無効とならないよう、より確実な「公正証書遺言」とすることをおすすめします。

あらかじめ弁護士へ相談する

6つ目の注意点は、あらかじめ弁護士へ相談することです。

弁護士へ相談することで、一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成した場合のリスクについて、ケースに応じて具体的なアドバイスを受けられます。
これを踏まえ、自身にとって最適な遺言書の内容を検討することをおすすめします。

また、弁護士に遺言書の実現(「執行」といいます)まで依頼することで、遺言書の内容をより確実に実現させることが可能です。

まとめ

一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成することは可能です。
ただし、このような内容の遺言書を作成すると、遺留分侵害額請求がされたり遺言書の無効を主張されたりして、トラブルとなるおそれがあります。

特に、遺留分を有する相続人がいる場合はトラブルとなる可能性が高いといえます。
そのため、本当に一人に全財産を相続させる内容で作成するのか、慎重に検討しなければなりません。

ご自身のケースでリスクを正しく把握し、ご自身にとって最適な遺言書を作成するためには、あらかじめ弁護士へご相談ください。

Authense法律事務所では、遺言書の作成支援や相続発生後のトラブル解決に力を入れています。
一人に全財産を相続させる遺言書の作成をご検討の際は、Authense法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

Authense法律事務所が選ばれる理由

Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。
これまでに蓄積した専門的知見を活用しながら、交渉のプロである弁護士が、ご相談者様の代理人として相手との交渉を進めます。

また、遺言書作成をはじめとする生前対策についても、ご自身の財産を遺すうえでどのような点に注意すればよいのか、様々な視点から検討したうえでアドバイスさせていただきます。

遺産に関する問題を弁護士にご依頼いただくことには、さまざまなメリットがあります。
相続に関する知識がないまま遺産分割の話し合いに臨むと、納得のできない結果を招いてしまう可能性がありますが、弁護士に依頼することで自身の権利を正当に主張できれば、公平な遺産分割に繋がります。
亡くなった被相続人の財産を調査したり、戸籍をたどって全ての相続人を調査するには大変な手間がかかりますが、煩雑な手続きを弁護士に任せることで、負担を大きく軽減できます。
また、自身の財産を誰にどのように遺したいかが決まっているのであれば、適切な内容の遺言書を作成しておくなどにより、将来の相続トラブルを予防できる可能性が高まります。

私たちは、複雑な遺産相続の問題をご相談者様にわかりやすくご説明し、ベストな解決を目指すパートナーとして供に歩んでまいります。
どうぞお気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。創価大学法学部卒業。創価大学法科大学院修了。不動産会社やIT企業などの顧問弁護士として企業法務に携わるとともに、離婚や相続をはじめとする一般民事、刑事弁護など、様々な案件に取り組んでいる。また、かつてプロ選手を志した長年のサッカー経験からスポーツ法務にも強い意欲を有し、スポーツ法政策研究会に所属し研鑽を重ねる等、スポーツ法務における見識を広げている。
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