遺産分割協議が不調の場合に取りうる手段や、その場合の名義変更の方法について解説します。家族が亡くなり相続の手続きをしようにも、他の相続人と遺産分割協議がまとまらないことには手続きを進めることはできません。中でも、被相続人の預貯金は、その金融機関が死亡の旨を知った時点で引き出しはできなくなってしまいます。
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遺言がない場合の名義変更の基本
まずは、遺言書がない場合における、相続での名義変更や解約手続きの基本について知っておきましょう。
相続発生後の権利義務
相続が発生すると、被相続人の所有していた財産などの権利義務は、一身専属的なものをのぞき、すべて相続人同士の共有となります。
ただし、共有状態のままでは財産の使い勝手が悪いため、財産を各自が確定的に承継するためには、誰がどの財産を相続するのかを具体的に決めていかなければなりません。
この話し合いのことを、遺産分割協議と言います。
遺産分割協議の成立には相続人全員の合意が必要となり、多数決などではありません。
そのため、金融機関での預貯金の解約手続きや名義変更手続きなどの相続手続きを行う際には、原則として、この話し合いの結果をまとめた遺産分割協議書の提示を求められます。
遺産分割協議書を提示することにより、金融機関はその相続人が確かに預貯金の払戻や名義変更を受ける権利があることを確認するのです。
ですから、相続人同士の遺産分割協議がまとまらなければ、原則として被相続人の口座からお金を引き出したり、名義変更したりすることはできません。
なお、名義変更や解約の際には、通常、下記の書類が必要となります。
相続人の状況や金融機関によりこれら以外の書類が必要となる場合もありますので、実際の手続きの際には、個別で金融機関に確認してください。
- 相続人全員が署名捺印をした遺産分割協議書
- 金融機関独自の相続手続き書類(※)
※こちらに相続人全員が署名捺印をすることで、遺産分割協議書が不要となる場合もあります。 - 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の最後の住所のわかる除票または戸籍の附票
- 被相続人の死亡から出生まで遡る連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本など、相続人を確定するために必要となる書類
- 相続人全員の住民票
- 手続きをする人の実印と、本人確認書類
預貯金の取り扱い
さて、ここで、相続における預貯金の性質についてみていきましょう。
預貯金についての従来の取り扱い
民法には、次のような条文があります。
「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。」
この条文があるため、債権や債務が可分であるときは、何らの手続きをすることなく、当然に分割されることが原則なのです。
つまり、例えば300万円の債権があり、相続人が長男・長女・二男の3人である場合、遺産分割協議をするまでもなく、それぞれ100万円の債権を持つことになるわけです。
預貯金も債権の一種ですので、相続財産に含まれる預貯金についても、従来はこれと同様であると考えられてきました。
つまり、ある金融機関に300万円の普通預金があったのであれば、それは長男・長女・二男が自動的に、遺産分割協議などを経るまでもなく、それぞれ100万円ずつの権利を持つということです。
よって、例えば遺産分割協議が不調であったとしても、それぞれが他の相続人の同意などを得ることなく、自分の法定相続分である100万円は引き出すことが可能というのが、法律の考え方でした。
なお、現実的には相続人の個別の引き出しに対応する金融機関は多くありませんでした。
なぜなら、条文には「別段の意思表示がないときは」という条件が付けられており、実際には法定相続分と異なる遺産分割協議がまとまっている可能性も考えられるためです。
判例変更
しかし、この取り扱いが、平成28年の判例により変更となりました。
この判例により、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」とされたのです。
つまり、預貯金は確かに可分債権ではあるものの、他の可分債権とは性質が異なるので、これまで考えられてきたように法定相続分に応じて自動的に分割されるのではなく、遺産分割協議をしないことには払い戻しを受けたり、解約をしたりすることはできない、ということです。
この判例を受けて、遺産分割協議がまとまる前に法定相続分のみの払戻しを受けられるわずかな余地さえもなくなってしまいました。
そのため、被相続人の預貯金を解約するには、原則として相続人全員での遺産分割協議がまとまる必要があるのです。
まずは、この原則を知っておいてください。
調停による名義変更
では、相続人同士で遺産分割協議がまとまらない場合には、もはや被相続人の預貯金を解約したり名義変更をしたりする余地はないのでしょうか?
結論を言えば、そのようなことはありません。
当人同士で遺産分割協議がまとまらない場合には、ほかに「調停」や「審判」という方法があります。
それでは、順に見ていきましょう。
調停とは
法定相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合に取り得る方法の1つとして、調停があります。
調停とは、家庭裁判所で行う、遺産分割の話し合いのことです。
調停では、裁判所の調停委員が当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取します。
そして、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をしたり、合意を目指し話し合いが進められます。
調停委員が話し合いの調整をしてくれることで、当事者のみで話し合いをする場合と比べて、話し合いが成立しやすくなるわけです。
なお、法定相続人全員が納得した場合には、法定相続分とは異なる割合で合意をする余地もあります。
とは言え、調停はあくまでも話し合いの場ですので、話し合いがまとまらない場合に、裁判所が一方的に結論を出すわけではありません。
この点は、後述する審判とは異なることを覚えておいてください。
調停が不調に終わると、後述する審判手続きに移行することとなります。
調停による名義変更の方法
調停で無事に話し合いがまとまると、その話し合いの結果をもとに、調停調書が作成されます。
この調停調書を使い、預貯金の解約や名義変更といった手続きを行なうことになるわけです。
通常、遺産分割協議書が求められるところ、遺産分割協議書の代わりにこの調停調書を使用するというイメージがわかりやすいでしょう。
審判による名義変更
前述の調停はあくまでも話し合いの場ですので、調停を経ても話し合いがまとまらない場合もあります。
また、そもそも相続人同士の主張が真っ向から対立している場合など、調停をしても話し合いがまとまる可能性が低いと考えられるケースもあるでしょう。
そのような場合には、審判により解決を図ることとなります。
審判とは
審判手続きとは、裁判官が当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官の行った調査の結果など、種々の資料に基づいて判断を決定する手続です。
審判の途中でも和解は可能ですが、和解も難しい場合には、当事者からの主張などを受けて、最終的には裁判所が結論を出します。
なお、審判の結果が不服である場合には、審判が下りた翌日から2週間以内に不服申し立て(即時抗告)をすることも可能です。
審判手続きによる場合には、原則として法定相続分通りに遺産分割がなされますので、この点も調停とは大きく異なる点であると言えます。
審判による名義変更の方法
審判が下ると、裁判所から審判の内容を記した「審判書」が発行されます。
この審判書を使い、預貯金の解約や名義変更をすることが可能です。
調停調書と同じく、遺産分割協議書の代わりにこの審判書を使って手続きをすると考えてください。
遺言書があった場合の名義変更
このように、仮に遺産分割協議が不調であっても、調停や審判で最終的には結論は出ます。
とは言え、仮に審判にまでもつれ込めば、かなりの期間を要することとなるうえ、心情的にもあまり気持ちの良いものではないでしょう。
被相続人が生前にきちんとした遺言書を作っておけば、このような争いは避けることが可能です。
では、遺言書があることで、相続での名義変更手続きは、どう変わるのでしょうか?
遺言書があった場合
全ての財産を網羅し、それぞれの財産につき相続させる相手をきちんと明示した有効な遺言書があれば、そもそも相続人間での遺産分割協議が不要となります。
遺産分割協議をするまでもなく、遺言書の中で財産の行先が決まっているためです。
これにより、相続争いを未然に防止することが可能となります。
遺言書による名義変更の方法
遺言書で財産の行先が明示されている場合には、遺産分割協議書ではなく、この遺言書を使って名義変更などの相続手続きが可能です。
遺言書を使って預貯金の名義変更をする際に必要な書類は、一般的には下記の通りです。
- 遺言書
- 金融機関の独自書式(通常、手続きをする人のみの署名捺印が必要)
- 手続きをする人の印鑑証明書
- 被相続人が亡くなったことのわかる戸籍謄本又は除籍謄本
- その財産を受け取る人の戸籍謄本と住民票
- 手続きをする人の実印と、本人確認書類
遺言書の内容や状況により異なる場合もありますので、実際の手続きの際には、事前に金融機関へ確認してください。
なお、手続きをする人は、その遺言書の記載内容により、その各財産の受取人であることもあれば、遺言執行者である場合もあります。
いずれにしても、相続人同士で話し合ったり、他の相続人の同意を得たりする必要はありません。
ちなみに、遺言書が公正証書遺言や、法務局での保管制度を利用している自筆証書遺言であれば、そのまま手続きに使用できます。
一方で、法務局での保管制度を利用していない自筆証書遺言である場合には、名義変更などの手続きに使う前に、家庭裁判所で検認手続きを行うことが必要です。
預貯金の仮払制度による手続きの方法
さて、ここまでは、確定的に預貯金を受け取る手続きについて解説してきました。ここでは、2018年の民法改正で新設された、預貯金の仮払い制度について解説します。
前述の通り、預貯金は原則として、遺産分割協議の前に法定相続分のみの払い戻しはできない旨の判例が確定されました。
つまり、仮に遺産分割協議がなかなかまとまらない場合であっても、協議成立まではその預貯金を使うことはできないわけです。
調停や審判が確定すれば最終的には手続きができるものの、その確定にはかなり長い期間を要するケースも少なくありません。
そうなると、被相続人の預貯金で主に生活をしていた相続人が、当面の生活に困窮してしまう可能性があります。
こうした事態を避けるため、2018年の改正により、遺産分割前の預貯金の仮払い制度が新設されました。
預貯金の仮払い制度には、裁判によるものと裁判によらないものの2つが存在します。
裁判上の仮払制度
1つめは、裁判上の仮払い制度です。
裁判上の仮払い制度は家事事件手続法200条3項を根拠とするもので、一定の要件のもと、遺産分割事件の解決に先立って、一定額の預貯金の払戻を受けられる制度です。
裁判上の仮払い制度を受けるためには、次の要件が必要です。
- 遺産分割の審判又は調停の申立てがされていること
- 必要性があると認められること
- 他の共同相続人の利益を害さないこと
これら3つの要件を満たす場合、家庭裁判所へ申し立てることにより、調停や審判の結論が出る前に、預貯金の払戻しを受けることが可能となります。
次で説明する裁判によらない仮払い制度と比較して大きな金額の払い戻しを受けられる可能性がある一方で、調停や審判の係争が要件となっている点で、少しハードルの高い手続きであると言えます。
裁判によらない仮払い制度
裁判によらない仮払い制度とは、金融機関で所定の手続きをすることにより、遺産分割協議の成立に先立ち、一定額まで預貯金の払戻を受けられる制度です。
裁判上の仮払い制度とは異なり、係争中であることは特に要件とはされておらず、また、その預貯金が生活のために必要か否かも特に問われないため、より使い勝手の良い制度であると言えます。
裁判によらない仮払い制度で仮払いを受けられる金額は、「その金融機関の預金額×法定相続分×3分の1」で、1つの金融機関につき150万円が上限です。
手続き方法や必要書類は金融機関によって異なりますが、一般的に、下記の書類が求められます。
- 金融機関独自の手続き書類
- 払戻を受ける人の印鑑証明書
- 被相続人の死亡から出生まで遡る連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本など、相続人を確定するために必要となる書類
- 払戻を受ける人の住民票と戸籍謄本
- 払戻を受ける人の実印と、本人確認書類
なお、通常、他の相続人の同意などは必要ありません。
まとめ
相続人同士で遺産分割協議がまとまらない場合に預貯金の払戻を受けるには、このようにいくつかの方法があります。
とはいえ、これらの手続きを自分で行うことは容易ではありませんし、また、審判などを有利に進めるためには、法律の知識は不可欠です。
遺産分割協議がまとまらずお困りの際には、一人で悩まず、ぜひ弁護士へご相談ください。
弁護士が親身になって、解決までサポートいたします。
オーセンスの弁護士が、お役に立てること
上記のとおり、遺産の名義変更手続きなどをするためには、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判のいずれかを成立させる必要がありますが、相続人が複数いる場合、一般に、そう簡単に成立させることはできません。中には、被相続人の方が亡くなられてから数年以上が経過しているにもかかわらず、全く遺産分割手続きなどが進んでいないという場合もあります。
オーセンスでは、相続案件を多数扱っており、相続に詳しい弁護士も多数所属しているため、オーセンスの弁護士に依頼することによって、上記遺産分割手続きをスムーズに進められる可能性が高くなります。
また、親族間で被相続人の遺産に関わる話し合いを進めていくことは精神的なストレスも大きいと思われますが、弁護士に依頼していただくことによって精神的なストレスを大幅に軽減することができます。
そのため、オーセンスの弁護士に依頼することによって、ご自身で対応されるより、スムーズにストレスを軽減させながら、適切な金額の遺産を取得できる可能性が高くなります。
相続でお困りの方は、一度オーセンスの弁護士にご相談ください。
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