故人が遺言書を遺していた場合、遺言書の種類によっては、まず遺言書の「検認」を受けなければなりません。
では、遺言書の「検認」とはどのようなことを指し、どのような場合に必要となるのでしょうか?
今回は、遺言書の検認が必要となるケースや検認の流れ、検認の手続きにかかる費用などについて弁護士がくわしく解説します。
遺言書の有効性との関係についてお伝えします。
目次
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代表的な遺言書の種類
検認について解説する前に、まずは遺言書の種類について解説しておきましょう。
危機が迫った際などに使う特別方式の遺言ではなく、普通方式の遺言である「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3つについて解説します。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人の面前で作成をする遺言書のことです。
証人2名以上の立会いのもと、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がそれを筆記して読み聞かせ、遺言者と証人が署名捺印をすることにより作成します。
公正証書で作成した遺言書の原本は公証役場で保管されるため、通常、原本が遺言者の手元にあることはありません。
遺言者の手元にあるのは、その原本をもとに作成された写しである「正本」や「謄本」です。
相続の手続きには、原本ではなく、この「正本」や「謄本」を用います。
なお、公正証書で作成した遺言の場合には、手元の正本や謄本には通常、遺言者や証人の署名や捺印そのものはありません。
その代わりに作成をした公証人の署名や捺印がありますので、公証人の署名捺印の有無は確認しましょう。
また、公正証書遺言は、全文がワープロ打ちで作成されていることが通常です。
公正証書遺言は、公証役場で作成をすることや、2名の証人が必要な点で手間や費用はかかるものの、最も問題が生じにくい遺言の方式であるといえます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、全文を遺言者の自筆で作成する遺言書のことです。
遺言書に財産目録を添付する場合、2019年1月13日から施行されている改正民法により財産目録のみ自書が不要とされましたが、本文や氏名、日付は、自書することが要件とされています。
また、遺言者が押印をすることも、要件として定められています。
訂正の際の要件も厳密に定められており、様式から外れてしまうことで無効になってしまうリスクの高い遺言の方式といえます。
なお、2020年7月10日より、法務局における遺言書の保管制度が新たに始まっています。
この制度の施行後は、作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができるようになりました。
法務局での保管制度を利用することで、遺言書の偽造や変造などを防ぐことが可能となります。
もっとも、保管制度が施行されたからといって、必ず遺言書を法務局へ提出しなければならないわけではなく、これまでどおり自宅や貸金庫などで保管をすることも可能です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が署名、捺印をした遺言書を封印し、封印をした状態で公証役場へ提出する形式の遺言書です。
公証人と2名の証人にその封書を提出し、自己の遺言書である旨と自身の住所、氏名を申述することで作成します。
秘密証書遺言は制度としては存在しているものの、他の方式に比べてメリットがあるとは言いがたいことから、実際にはほとんど利用されていないのが現状です。
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遺言書の「検認」とは
検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
遺言書が存在していることやその内容を相続人が確認をするために大切な手続であるといえます。
遺言書には、相続が起きた後で検認が必要なものと不要なものが存在します。
それでは、遺言書のうち、どの遺言書は検認が必要で、どの遺言書は検認が不要なのでしょうか?
遺言書の検認が必要な場合
まず、検認が必要な遺言書は次の通りです。
- 法務局での保管制度を利用していない「自筆証書遺言」
- 「秘密証書遺言」
相続が起きた後、これらの遺言書を保管していた場合や、見つけた際には、速やかに検認の手続きをするようにしましょう。
これらの遺言書は、まず検認の手続きを経ないことには、不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きに利用することはできません。
遺言書の検認が不要な場合
一方で、遺言書が下記のものであった場合には、検認は必要ありません。
- 「公正証書遺言」
- 法務局での保管制度を利用している「自筆証書遺言」
これらの遺言書は検認が不要であり、そのまま相続手続きに使用できます。
検認の目的と遺言書の有効・無効
つぎに、検認の目的や、検認を受けた遺言書の有効性との関係についてもう少し詳しく解説していきたいと思います。
遺言書の検認の目的
遺言書の検認は、家庭裁判所で行います。
その目的は、前述のとおり、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するためにあります。
検認を行うと、その時点での遺言書の状態が家庭裁判所で確認されるので、それ以後の偽造や変造が不可能となるということです。
また、封のされた遺言書は検認の前に開けてはならないことになっていますが、これも、遺言書の偽造などを防ぐための決まりです。
検認を受けた遺言書は必ず有効か
誤解が少なくないところですが、無事に家庭裁判所での検認を終えたからといって、このことが遺言書が有効なものであるという保証になるわけではありません。
前述のとおり、検認の目的は遺言書の偽造や変造を防ぐことにあり、遺言書が「有効か無効か」を判断する目的で行う手続きではないためです。
ですので、例えば、第三者が遺言者の筆跡を真似て偽造したような無効な遺言書であったとしても、検認自体は受けられます。
しかし、このような遺言書が無効であると争いたいような場合には、検認をした後に別途訴訟等を行っていく必要があります。
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遺言書検認手続きの流れや費用
それでは、遺言書の検認手続きに関する期限や全体の流れ、そして検認にかかる費用について解説いたします。
遺言書の検認の期限
遺言書の検認に期限はありません。
相続が起きてから何か月を経過したらもう検認ができなくなる、というような決まりはないのです。
ただし、検認について民法の規定には、「遅滞なく」検認を請求しなければならないと記載されています。
また、検認が必要な遺言書は、検認を経ないことには相続手続きに使用することができません。
そのため、期限がないからといって先延ばしにするのではなく、できるだけ速やかに検認の手続きを開始するようにしましょう。
遺言書の検認は誰が申し立てるのか
では、遺言書の検認は誰が申し立てるべきなのでしょうか?
検認を申し立てるべき人は、「遺言書の保管者」もしくは「遺言書を発見した相続人」とされています。
これらの人は、相続開始後、遅滞なく検認を申し立てましょう。
遺言書の検認手続きの流れ
検認の手続きは、次のような流れとなります。
必要書類を収集する
検認の申立てには、添付書類が必要となります。
まずは、これらの必要書類を収集することから始めましょう。
検認の申立てに必要な書類は、次の通りです。
- 遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
なお、これはあくまでも相続人が配偶者や子である場合などの一例であり、誰が相続人であるかによって、これら以外の書類も必要となる場合があります。
実際に検認の手続きを行う際には、必要書類につき、家庭裁判所のHPを見たり、専門家に確認したりされるとよいでしょう。
申立書を作成する
次に、検認の申立書を作成します。申立書は、家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードが可能です。
家庭裁判所のウェブサイトに記載例もありますので、そちらを参考に作成しましょう。
家庭裁判所に検認を申し立てる
申立書と必要書類の準備ができたら、家庭裁判所に検認を申し立てます。
申立てをする家庭裁判所は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立ては郵送でも可能ですが、書類の不備などが心配な場合には、家庭裁判所へ直接出向いて書類を提出することも可能です。
検認の期日が決まる
申立てをすると、検認の期日が決まります。
法定相続人全員に検認の通知がされる
検認の期日が決まったら、家庭裁判所から、法定相続人全員へ、郵送で検認の期日の通知がなされます。この通知で、他の相続人も遺言書の存在を知ることとなります。
検認当日に家庭裁判所へ出向く
検認期日当日に、検認を受ける遺言書や印鑑など家庭裁判所から指示されたものを持って、家庭裁判所へ出向きます。
なお、検認当日、申立人は出席が必要であるものの、法定相続人の中に検認の場へ来ない人がいたとしても、検認手続きには特に影響はありません。
検認済証明書の申請をする
検認が無事に終わったら、検認済証明書の申請をします。
遺言を執行するにはこの検認済証明書が必須ですので、必ず申請するようにしましょう。
この手続きが終わると、検認済証明書が添付された遺言書が、申立人に返還されます。
遺言書の検認にかかる費用
検認手続きを自分で申し立てる場合、検認の手続きにかかる費用は、遺言書1通につき800円の手数料と、家庭裁判所から他の相続人への連絡に使用する切手代です。
家庭裁判所へ納める切手の金額は相続人の人数などにより異なりますので、個別の状況に応じて家庭裁判所へ確認しましょう。
その他、検認を申し立てる際の添付書類である、戸籍謄本や除籍謄本などの取得費が別途かかります。
また、検認済証明書の申請には、別途150円の手数料が必要です。
検認をしないとどうなる?
それでは、検認が必要な遺言書を発見したにもかかわらず、検認をしないとどうなるのでしょうか?
状況ごとに分けて解説していきます。
検認の前に遺言書の入った封筒を開けてしまった場合
民法の規定により、封のしてある遺言書は勝手に開封してはならず、検認の場で開封しなければならないとされています。
仮に、検認の前に開封してしまった場合には、5万円以下の過料が科される可能性があるほか、他の相続人から偽造や隠匿などを疑われることにもなりかねません。
検認の前に開封をしてしまったからといって、遺言書がただちに無効となるわけではありませんが、過料を科されてしまったり余計なトラブルに発展してしまったりしないためにも、遺言書は勝手に開封せず、きちんと検認の場で開けるようにしましょう。
検認をせずに放置した場合
では、遺言書を保管しているにもかかわらず、検認をせず放置した場合にはどうなるのでしょうか?
まず、検認が必要な種類の遺言書は、検認をしなければ、不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きに使用することはできません。
ですので、遺言書の検認をするまで、遺言書を使った相続手続きはできないということです。
また、遺言書があることを知りながら検認をせず、他の相続人にもその存在を秘密にしたような場合には、遺言書を隠匿したとして、相続人の欠格事由に該当してしまいます。
相続人の欠格事由に該当すると、その相続で財産を受ける権利が一切なくなってしまうという非常に強いペナルティを科されてしまいますので、注意しましょう。
なお、Authense法律事務所では、残された遺言書の検認の手続きをサポートする「遺言書の検認プラン」をご用意しておりますので、ぜひ一度ご覧ください。
遺言書の検認前に知っておくべき注意点
遺言書の検認について、存在は知っているけど、何をするのか、どういう意味があるのかよく分からないという方が少なくありません。
検認を受ける前に、次の事項を知っておきましょう。
検認が必要な遺言書は検認を終えるまで手続きに使用できない
被相続人が遺言書を遺していれば、その遺言書を使って、不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きをすることが可能です。
しかし、検認が必要である遺言書は、検認を経るまで手続きに使用することができません。
また、検認は家庭裁判所に申立てたからといってその場で済むようなものではなく、その後期日を通知する期間などが必要です。
申立てから検認期日が行われるまでの期間は裁判所の混雑状況などによって異なりますが、おおむね1か月から2か月程度となることが多いでしょう。
つまり、その期間は名義変更などの相続手続きが進行できないということです。
この点も踏まえて、検認が必要な遺言書を見つけた際にはできるだけ速やかに申し立ての準備に取り掛かるとよいでしょう。
検認は遺言書の有効無効を判断する場ではない
先ほども触れたように、検認はその時点における遺言書の状態を保存し、以後の偽造や変造を防ぐために必要とされる手続きです。
検認の場では、遺言書が有効か無効かなどの判断はされません。
そのため、仮にその遺言書の有効性を争いたいのであれば、検認の場で主張するのではなく、別途遺言無効確認訴訟などの裁判を行うことが必要です。
他の相続人全員に通知がされる
遺言書の検認を申立てると、裁判所から相続人全員に対し、検認期日の通知がなされます。
検認を申立てると、他の相続人も遺言書の存在を知ることとなりますので、あらかじめ心づもりをしておくとよいでしょう。
遺言書の検認に関するよくある疑問
最後に、遺言書の検認に関するよくある疑問を2つ紹介しましょう。
検認当日に来られない相続人がいたら検認はできない?
検認期日に一部の相続人が出席できない場合、検認は進行できないのでしょうか?
結論をお伝えすると、検認期日に来られない相続人がいたとしても検認は実施され、検認の効力にも一切影響ありません。
なぜなら、そもそも申立人以外の相続人は検認に出席することができるのみであり、出席の義務があるわけではないためです。
そのため、一部の相続人が来られなくても検認は実施でき、期日を変更する必要もありません。
一方、申立人は遺言書を持参するという重要な役割を担っており、検認期日に出席する必要があります。
事故に遭ったなど、万が一申立人の都合がつかなくなった場合には、すみやかに申立先の家庭裁判所に相談しましょう。
遺言書の検認を一部の相続人に隠すことはできる?
遺言書の存在を他の相続人に知られたくない場合、検認の事実を隠すことはできるのでしょうか?
結論をお伝えすると、他の相続人に検認の事実を隠すことはできません。
なぜなら、家庭裁判所から他の相続人に対して、検認期日の通知がなされるためです。
そもそも、検認は他の相続人に対して遺言書の開示をする役割も持ちます。
これにより、他の相続人が遺言書を見る機会が得られ、遺言無効確認訴訟や遺留分侵害額請求など法律上の権利を行使するかどうか検討する場ともなるためです。
相続人である以上、他の相続人にも遺言書を見る権利があることを念頭に置いておきましょう。
まとめ
法務局で保管をしていない自筆証書遺言などを見つけたり、生前に遺言者から遺言書を預かっていたりした場合には、相続発生後、速やかに検認の手続きを行う必要があります。
まずは、検認の手続きの流れや申立ての方法について、知っておきましょう。
そして検認の手続きを経たからといって、その遺言書が有効か無効かということとは別問題だということも知っておきましょう。
相続や遺言については、個別で判断すべき事項が多く、遺言書が有効か無効かといった判断さえ、書籍やインターネット上の情報などを見ただけでは分からないことも少なくありません。
遺された遺言書が有効かどうか分からない場合、遺言書を保管している人が一向に検認を申し立てない場合や、遺言書の無効を主張したい場合、他の相続人から遺言書は無効だと主張されている場合など、遺言や相続について悩んだときには、ぜひ弁護士へご相談ください。
オーセンスの弁護士が、お役に立てること
・検認手続きの申立書の作成や戸籍などの添付資料の収集などを相続人本人が行うのは手間と時間がかかるとともに、裁判所での検認手続きでの不安も生じやすいと思います。
弁護士にご依頼いただくことで、検認手続きの完了まで、一切を任せることができるので、相続人に負担もなく、円滑に手続きを進めることができます。
・自筆証書遺言が存在することで、遺言の有効性や相続全体の問題に派生することもありますので、弁護士に相談・依頼しながら進めることで、その後の紛争の予防や拡大防止につなげることができます。
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