コラム
公開 2024.03.27

【令和5年改正】生前贈与の非課税枠が2,500万円になる「相続時精算課税制度」とは?弁護士が解説

生前贈与にかかる贈与税が最大2,500万円まで非課税となる制度に、「相続時精算課税制度」があります。

この相続時精算課税制度とは、どのような制度なのでしょうか。
また、制度を活用する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
今回は、2024年(令和6年)1月1日に施行された改正点を踏まえ、生前贈与にかかる贈与税が最大2,500万円まで非課税となる相続時精算課税制度について弁護士がくわしく解説します。

※なお、本来2,500万円は非課税額ではなく特別控除額なのですが、わかりやすく説明するために本記事では非課税と記載しております。

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生前贈与で非課税枠が2,500万円になる制度は「相続時精算課税制度」

相続時精算課税制度の適用を受けると、生前贈与にかかる贈与税が最大2,500万円まで非課税となります。
しかし、相続時精算課税制度は誤解の多い制度の一つです。
はじめに、相続時精算課税制度の概要や要件について解説します。

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、ある特定の贈与者(「特定贈与者」といいます)と受贈者(贈与を受ける人)の間で行われる生前贈与を、「相続時」に「精算」して「課税」する制度です。
この制度を活用すると特定贈与者と受贈者間でなされた贈与にかかる贈与税が累計2,500万円まで非課税となるうえ、累計2,500万円を超えた分にかかる贈与税も一律20%という比較的低い税率となります。

ただし、相続時精算課税制度は、単なる非課税制度ではありません。
相続時精算課税制度を活用した贈与は課税が免除されたわけではなく、特定贈与者の死亡時に相続税の対象として相続財産に加算されます。
そのため、単なる非課税制度ではなく、「相続税で生前贈与をする制度」と理解しておくとよいでしょう。

たとえば、生前に子どもに土地や自社株を贈与した場合、そのまま贈与してしまうと高額な贈与税がかかってしまう場合があります。
しかし、税金の負担を避けるために相続時まで財産の移転を待つこととなれば、本来必要であったタイミングで財産を移転することができず、本末転倒です。

そこで、相続時精算課税制度を活用して、生前贈与を贈与税よりは税負担率の低いことが多い相続税の対象とすることで、必要な時期に次世代に財産を移転しやすくなります。

相続時精算課税制度を使う要件

相続時精算課税制度の適用を受けるための主な要件は次のとおりです。

  • 贈与者が60歳以上であること
  • 受贈者が18歳以上であり、贈与者の子または孫などの推定相続人であること

なお、相続時精算課税制度は、特定の贈与者と受贈者間での贈与を選択して適用を受ける制度です。
たとえば、「父から長男への贈与」について相続時精算課税制度の適用を受けたからといって、「母から長男への贈与」や「父から長女への贈与」についてまで相続時精算課税制度が適用されるわけではありません。

相続時精算課税制度の適用を受けるための手続き

相続時精算課税制度の適用を受けるには、納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」など所定の書類を提出しなければなりません。
提出期限は、相続時精算課税制度の適用を受けたい最初の贈与をした年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)です。

生前贈与の非課税枠が2,500万円になる相続時精算課税制度の注意点

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生前贈与にかかる贈与税が最大2,500万円まで非課税となる相続時精算課税制度の活用には、注意点が多く、一度誤って選択すると取り返しがつかないことも少なくありません。
そのため、実際に適用を受ける際は制度に詳しい弁護士や税理士へよく相談したうえで、適用を受けるかどうか慎重に検討してください。
ここでは、主な注意点を3つ紹介します。

相続税の対象となる

先ほども解説したように相続時精算課税制度は単なる非課税制度ではなく、生前贈与を相続税の対象とする制度です。
相続時精算課税制度の適用を受けて行った贈与は、特定贈与者が亡くなった際の相続税の対象財産として持ち戻されます。
そのため、たとえば「生前に贈与をして遺産を減らして相続税を減らす」といった単純な相続税対策としては使うことができません。

単なる非課税制度であると勘違いをして制度の適用を受けてしまうと、特定贈与者の相続発生時に思いがけず相続税が高額となり、後悔することになる可能性があるため注意しましょう。

一度選択すると暦年贈与には戻れない

相続時精算課税制度は暦年贈与との選択制であり、一度相続時精算課税制度を選択すると二度と暦年贈与に戻すことはできません。

暦年贈与とは、贈与税を暦年(毎年1月1日から12月31日までの1年間)ごとに計算する制度です。
あえて相続時精算課税制度の適用を選択しない限りは暦年贈与が適用されており、単に「贈与」や「贈与税」という場合は暦年贈与を前提としていることが多いでしょう。

暦年贈与から相続時精算課税制度への変更は一方通行であり、相続時精算課税制度から暦年贈与に戻ることはできないため注意が必要です。

適用を受けるには期限内の手続きが必須である

先ほど解説したように、相続時精算課税制度の適用を受けるには、相続時精算課税制度の対象としたい最初の贈与をした日の翌年2月1日から3月15日までの間に「相続時精算課税選択届出書」を提出するなどの手続きをする必要があります。

期限内に手続きをしなければ、相続時精算課税制度の適用を受けることはできません。
相続時精算課税制度の適用が受けられないと、暦年贈与として贈与税を計算する必要が生じ、高額な贈与税がかかる可能性があります。

そのため、相続時精算課税制度の適用を受けたい贈与をした場合は、期限内の手続きを忘れないよう特に注意が必要です。

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【令和6年1月~】生前贈与が2,500万円まで非課税になる相続時精算課税制度の改正ポイント

生前贈与にかかる贈与税が最大2,500万円まで非課税となる相続時精算課税制度が改正され、改正法が2024年(令和6年)1月1日から施行されています。
ここでは、令和6年から施行された改正の主なポイントをまとめて解説します。

年110万円の基礎控除が創設された

暦年贈与には受贈者1人あたり年間110万円の基礎控除が設けられていた一方で、相続時精算課税制度にはこのような基礎控除枠が設けられていませんでした。
改正により、相続時精算課税制度についても、暦年贈与とは別枠で年間110万円の基礎控除が設けられることとなりました。

年110万円以下の贈与ならその年の贈与税申告も不要となった

改正法の施行前は相続時精算課税制度に基礎控除額がなかったことから、たとえその年に特定贈与者から受けた贈与額が少額であったとしても、毎年確定申告をする必要がありました。
相続時精算課税制度の適用を受けた贈与は、すべて相続税の対象として持ち戻されることとなっていたためです。

改正により、相続時精算課税制度の適用を受けた場合であっても、特定贈与者から受けた年間110万円以下の贈与については相続税の対象として持ち戻されないこととされました。
これに伴い、一度相続時精算課税選択届出書を提出した年以降に特定贈与者から受けた贈与が年間110万円以下である年は、相続時精算課税制度の適用を受けていても確定申告が不要となっています。

(関連)暦年贈与の持ち戻し期間が最大7年に伸長された

令和6年1月1日に施行された一連の改正では、相続時精算課税制度と暦年贈与との差が縮められています。
ここまで紹介した2つの改正はいずれも相続時精算課税制度を暦年贈与に近づける改正ですが、暦年贈与を相続時精算課税制度に近づける改正もなされています。

具体的には、これまで相続開始前3年間であった暦年贈与の持ち戻し期間が、相続開始前7年へと伸長されました。

特定の子どもや孫に生前贈与以外に資産を移転する方法

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特定の子どもや孫に資産を移転したい場合、移転させるには生前贈与以外にどのような方法があるのでしょうか?
財産を移転したい場合は移転する方法の選択肢を知ったうえで、その状況に合った方法を選択することをおすすめします。

ここでは、父が長男に資産を移転させる場合を前提として、主な方法を4つ解説します。
実際に資産を移転させたい場合にどの方法が適しているかは状況によって異なるため、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談ください。

売却

1つ目は、売却です。
売却とは、無償で資産を渡すのではなく、長男に資産を買い取ってもらう方法です。

たとえば、移転したい資産が自社株である場合は、自社株の評価が下がっているタイミングで長男が対価を支払って自社株を買い取ることが選択肢に入ります。

適正価格での売却であれば贈与税などの論点が発生しない点がメリットです。

遺言

2つ目は、遺言です。
遺言とは、生前に民法で定める形式に従った有効な遺言書を作成することで、相続開始時に財産を移転する方法です。

たとえば、長男に渡したい財産が自宅の土地建物である場合、その土地や建物を長男へ相続させる旨の遺言書を作成することで、父が亡くなった時点で長男がその土地建物を相続することが可能となります。

ただし、遺言による場合は、財産が移転するタイミングは相続発生時です。
そのため、自社株など価額の変動が大きな資産である場合、相続発生時点における評価が高ければ相続税も高額となってしまいかねません。

また、長男に相続させると記載した財産の価値が高い場合は、他の相続人の遺留分にも注意が必要です。
遺留分とは、子どもや配偶者など一定の相続人に保証された、相続で受け取ることができる最低限の取り分です。

遺留分を侵害する遺言書も有効であるものの、他の相続人から長男に対して遺留分侵害額請求(侵害した遺留分相当の金銭を支払ってほしい旨の請求)がなされてトラブルとなるおそれがあります。
そのため、遺言書は独断で作成するのではなく、弁護士のサポートを受けて作成することをおすすめします。

生命保険

3つ目は、生命保険です。

父を被保険者(その者が亡くなった際に保険金の支払いが発生する対象者)、長男を保険金受取人とした保険契約を父が行い、父が保険料を支払うことで、父が亡くなった際に長男が生命保険金を受け取ることが可能となります。

生命保険金は受取人固有の財産とされており、長男が保険金を受け取るにあたって他の相続人の合意を得たり他の相続人に保険金を分配したりする必要はありません。
生命保険金は、遺産総額と比較してさほど高額でない場合は、原則として遺留分の計算の基礎からも除外されます。

また、相続人が受け取る生命保険金は、「500万円×法定相続人の数」という相続税の非課税枠も設けられていることから、相続税対策としても有効です。
そのため、長男に渡したい財産が預貯金である場合は、生命保険の活用が有力な選択肢となります。

民事信託

4つ目は、民事信託です。

信託とは、特定の財産を受託者に託し、そこから得た収益や最終的に残った財産を受益者に交付したりする制度です。
従来の信託は商事信託のみであり、受託者となることができるのは信託銀行や信託会社など免許や登録を受けた者のみとされていました。

一方、2006年(平成18年)に行われた信託法改正によって、家族など営利を目的としない者が信託の受託者となることが可能となりました。
これを、民事信託(家族信託)といいます。

民事信託はさまざまな設計が可能であり、資産の移転に活用することも可能です。
ただし、民事信託の組成には専門的な知識が必要となるため、弁護士などの専門家へご相談ください。

まとめ

生前贈与にかかる贈与税が最大2,500万円まで非課税となる「相続時精算課税制度」について解説しました。

相続時精算課税制度を活用すると、特定贈与者からの贈与が累計2,500万円まで非課税となります。
また、累計2,500万円を超えた分についても一律20%という低い税率が課されます。

ただし、相続時精算課税制度を活用して贈与を受けた財産は相続時に相続税の対象として持ち戻され、単純な非課税制度ではありません。
また、一度選択すると暦年贈与に戻すことはできない点にも注意が必要です。

相続時精算課税には注意点が少なくないため、適用を受ける前に弁護士などの専門家へ相談のうえ、慎重に検討するとよいでしょう。
財産を渡す方法には、生前贈与以外にも遺言や生命保険の活用などさまざまな方法があるため、そのケースにもっとも合った方法を選択してください。

Authense法律事務所では相続や生前贈与のサポートに力を入れています。
相続時精算課税制度の活用をご検討の際や特定の相手に財産を渡す方法について相談したい場合などには、Authense法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

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Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。
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記事を監修した弁護士
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