コラム
公開 2023.05.16

公正証書遺言とは?作成にかかる費用・手数料、必要書類を弁護士がわかりやすく解説

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公正証書遺言とは、公証人が遺言書を作成する遺言です。
手軽に書ける自筆証書遺言と比較して、無効になりにくいなどのメリットがあります。

では、公正証書遺言はどのように作成すればよいのでしょうか?
今回は、公正証書遺言のメリットや作成する流れなどについて、弁護士がくわしく解説します。

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公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証人が遺言書を作成する遺言です。

では、そもそも遺言書にはどのような種類があるのでしょうか?
遺言書の主な種類と効力の違いは次のとおりです。

遺言の種類

遺言書にはまず、「普通の方式」と「特別の方式」が存在します。
このうち、「特別の方式」は死亡の危急に迫った者や伝染病のために行政によって隔離されている者などが用いる方式であり、平常時に作成方法の選択肢に入れるようなものではありません。
一般的に使用される「普通の方式」の遺言は、次の3種類です。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

自筆証書遺言

遺言書の全文、日付及び氏名を本人が自書して作成する遺言書です。
誰にも知られず手軽に作成できる一方で、決められた方式を欠いていることなどにより無効になるリスクがあります。

なお、令和2年(2020年)7月から、法務局での保管制度がスタートしました。
保管制度を利用することで、自筆証書遺言特有のリスクの多くを回避することが可能となります。

公正証書遺言

公証人と2名の証人が立ち会って作成する遺言です。
公証役場に手数料を支払う必要があり、また日程調整が必要であるため、思い立ってすぐに作れるものではありません。

その一方で、公証人が遺言書を作成するため、決められた方式を欠くことがなく、また、内容の不備もないことから、もっとも確実な遺言方式であるといえます。

秘密証書遺言

自分で作成した遺言書を、封をした状態で、公証人と2名の証人の前に提出する方式の遺言です。
公証人や証人にさえ内容を知られない点が最大のメリットです。

ただし、公証人が内容を確認するわけではないため、内容の不備などにより無効となるリスクがあります。
リスクと比較してメリットが大きいとは言いづらいため、実際にはほとんど利用されていない遺言方式です。

効力

どの方式で遺言書を作成したとしても、その遺言の方式に則って作成したものであれば、遺言書の効力に差はありません。
仮に異なる内容の遺言書が複数通出てきた場合には、新しい日付の遺言書が優先されます。

たとえば、「公正証書遺言が自筆証書遺言に優先する」などの決まりはありません。

ただし、自筆証書遺言には不備があることが多いうえ、作成時に立会人がいないことも少なくないでしょう。
そのため、自筆証書遺言は、その効力に疑義を持たれやすく、その効力をめぐって争いになることが多いといえます。

公正証書遺言のメリット

自筆証書遺言と比較した場合、公正証書遺言のメリットはどのような点にあるのでしょうか?
主なメリットは、次のとおりです。

なお、ここでは自筆証書遺言について、法務局での保管制度を利用しない前提で解説します。

無効になるリスクが低い

自筆証書遺言は、決められた方式を欠いていることなどにより、無効になるリスクが高いといえます。
一方、公正証書遺言は公証人が遺言書を作成するため、公正証書遺言の方式を満たさないことや内容自体に不備があることを理由に無効になる可能性はほとんどありません。

自分で文章を書かなくてよい

自筆証書遺言は、本文をすべて自書しなければなりません。
そのため、法的に意味がとおる文章を検討したり、長い文章を自分で書いたりすることが、大きなハードルとなるでしょう。

一方、公正証書遺言は遺言者の希望をもとに、公証人が文章を作成してくれます。
そのため、自分で法的な言い回しを考えたり、自書したりする必要はありません。

紛失や隠匿、偽造のリスクがない

自筆証書遺言は、その自書した証書自体が原本です。
そのため、紛失してしまったり、偽造や隠匿されたりするリスクがあります。

一方で、公正証書遺言作成後に交付される証書は「謄本」や「正本」であり、署名捺印をした原本は公証役場に保管されます。
そのため、紛失などのリスクはほとんどありません。

相続開始後に検認が不要

故人が遺した遺言書が自筆証書遺言または秘密証書遺言であれば、相続開始後にまずは「検認」を受けなければなりません。
検認とはその時点での遺言書の状態や内容を明確にすることで、以後の偽造や変造を防ぐ手続きであり、家庭裁判所で行います。

一方、公正証書遺言であれば検認は不要であるため、スムーズに遺産の名義変更などの手続きへ進むことが可能です。

公正証書遺言のデメリット

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公正証書遺言には、デメリットも存在します。
自筆証書遺言と比較した場合の主なデメリットは次のとおりです。

作成までに時間がかかりやすい

自筆証書遺言は自分1人で作成できるため、たとえば思い立ってその場ですぐに作成することも可能です。

一方、公正証書遺言は公証人や証人の関与が必要であり、すぐに作成することはできません。
急いで作成しなければならない事情がある場合などには、事前に公証人に相談するのがよいでしょう。

証人が2名必要である

公正証書遺言を作成するには、公証人のほか、2名の証人の立会いが必要です。
証人になるのに特に資格は必要ないものの、次の人を証人にすることはできません(民法974条)。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  3. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

つまり、ほとんどの家族のほか、遺言書で遺産を渡したい相手やその家族のほとんどは不適格とされています。
また、証人には遺言書の内容をすべて知られてしまうため、あまり近しくない知人に依頼することはおすすめできません。
そのため、証人の適任者に心当たりがないという人も少なくないでしょう。

ただし、公証役場で相談をすることで、手数料を支払って証人の紹介を受けることが可能です。
心当たりがない場合には紹介を依頼するとよいでしょう。

費用がかかる

自筆証書遺言は紙とペンさえあれば作成できるため、特に費用は掛かりません。

一方、公正証書遺言を作成するには、一定の費用が掛かります。
公正証書遺言を作成するためにかかる費用については、後ほどくわしく解説します。

公正証書遺言の作り方と流れ

公正証書遺言は、どのように作成すればよいのでしょうか?
公正証書遺言を作るまでの基本的な流れは次のとおりです。

遺言の内容を検討する

はじめに、遺言の内容を検討します。
たとえば、誰にどの財産を相続させるのかということなどです。

公証役場は、あくまでも決めた内容を法的な要件を満たした証書にしてくれる場所であり、原則として「家は配偶者に渡そうか、長男に渡そうかどちらがよいだろう」という相談や、「長男に全財産を渡したいけど、何か問題はないかな?」という相談などに乗ってくれるわけではありません。
そのため、公証役場へ出向く前に、遺言の内容をある程度決めておく必要があります。

しかし、遺言の内容を自分一人で検討することは、容易ではないでしょう。
安易な遺言書を遺してしまうと、後のトラブルの原因となる可能性があるほか、相続が起きた後での手続きが難航する可能性などもあるためです。

そのため、内容を検討する段階から、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

必要書類を収集する

遺言内容の検討と並行して、必要書類を収集します。
収集すべき書類は遺言の内容や状況によって異なりますが、主に次の書類などです。

  • 遺言者の書類
    • 戸籍謄本
    • 印鑑登録証明書(印鑑登録証明書に代えて、公的機関が発行した顔写真付き身分証明書を用意することでも可能)
  • 遺産を渡す相手に関する書類
    • 住民票(相続人以外の人に遺産を渡す場合)
    • 遺言者と相続人との関係のわかる戸籍謄本
  • 遺言に記す財産に関する書類
    遺贈の対象となるものを特定したい場合は、必要に応じて、次の書類を用意するのがよいでしょう。

    • 不動産:全部事項証明書(登記簿謄本)や固定資産評価証明書
    • 預貯金:通帳や残高証明書
    • 有価証券:証券会社の取引明細書や残高証明書など
    • 車:車検証など

必要書類は遺言の内容によって異なりますので、ある程度集めたうえで公証役場の事前相談の際に持っていくとよいでしょう。
なお、専門家にサポートを依頼した場合には、専門家側で書類を集めてくれたり、用意すべき書類について具体的に指示を受けることができます。

公証役場へ事前相談に出向く

書類がある程度揃ったら、遺言にしたい内容のメモと集めた書類を持って、公証役場に事前相談へ出向きます。
相談は予約制であることが多いため、あらかじめ確認のうえ出向きましょう。

公正証書遺言は、入院中などの事情がない限り、公証役場に出向いて作成することとなります。
公証役場に出向いて公正証書遺言を作成する場合には特に管轄の制限はありませんので、自宅から出向きやすい公証役場などを選択すれば構いません。

なお、専門家へサポートを依頼した場合には、遺言者本人が事前相談に出向く必要がなくなる場合がほとんどでしょう。

文案を作成してもらい、確認する

事前相談後、公証人が遺言書の文案を作成してくれることが一般的です。
この文案を受け取り、自身の意図するところと齟齬がないかどうか確認します。

証人を検討する

文案の確認と並行して、証人を誰にするのか検討します。
証人の候補者に心当たりがない場合には、公証役場に紹介を依頼することが可能です。

また、専門家にサポートを受けて公正証書遺言を作成する場合には、専門家側で証人を用意してくれることも多いでしょう。

公証役場に予約をする

次に、公正証書遺言を最終的に作成する日時を予約します。

作成日には、遺言者のほか担当する公証人と2名の証人の予定を合わせることが必要です。
そのため、候補日を複数挙げると調整がつきやすいでしょう。

予約した日時に出向く

最後に、予約した日時に公証役場へ出向きます。
当日の流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 遺言者の本人確認をする
  2. 遺言者が、公証人と証人に遺言の内容を口頭で述べる
  3. 公証人が遺言者が述べた内容を筆記する(通常は、事前の打ち合わせ内容に従って作成済み)
  4. 公証人が筆記した文案を遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させる
  5. 遺言者と証人が内容に間違いないことを確認のうえ署名捺印する

これで、公正証書遺言の作成は完了です。
その後、作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言者には謄本と正本が交付されます。

公正証書遺言作成にかかる費用

公正証書遺言の作成にかかる費用は、どの程度なのでしょうか?
かかる費用は、おおむね次のとおりです。

専門家報酬

専門家へ公正証書遺言の作成サポートの依頼をした場合には、専門家の報酬がかかります。
報酬額は、遺言の内容や状況などによって異なりますので、あらかじめ見積もりをとると安心です。
なお、Authense法律事務所では遺言に関する初回相談は約60分無料ですので、お気軽にご相談ください。

公証役場手数料

公正証書遺言の作成にあたっては、公証役場の手数料が必要です。
公正証書遺言の手数料は遺言内容によって異なっており、手数料表は次のとおりです。

目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11.000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額
10億円を超える場合 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

これは遺産総額ではなく、遺言書で財産を渡す相手ごとにかかる金額です。
たとえば、長男に9,000万円相当の財産を、長女に4,000万円相当の財産をそれぞれ相続させ、姪に800万円相当の財産を遺贈する内容の遺言の場合、手数料は次のとおりとなります。

  • 手数料=43,000万円(長男分)+29,000円(長女分)+17,000円(姪分)=89,000円

なお、この例のケースでは当てはまりませんが、遺言対象とする遺産総額が1億円以下である場合には、この表に当てはめて算定した金額に11,000円が加算されます。

たとえば、遺言対象とする遺産総額が8,000万円であり、このうち6,000万円相当を長女に、2,000万円相当を二女に相続させる内容とした場合の手数料は、次のとおりです。

  • 手数料=43,000円(長女分)+23,000円(二女分)+11,000円(遺言加算)=77,000円

他にも、祭祀財産を承継させる人を指定する内容を記載する場合には別途11,000円が加算されるなど、内容によっては手数料が加算されます。
また、入院中であるなどの事情で公証人の出張を受けて遺言をする場合には、遺言加算をする前の手数料が1.5倍となるほか、公証人の交通費実費と日当の支払いが必要です。

このように計算をした手数料額に、用紙代として数百円から数千円程度が加算された金額が、公証役場へ支払うトータルの金額となります。

必要書類の取得費用

先ほど解説をしたように、公正証書遺言の作成にはさまざまな書類が必要となります。
これらの書類を取得するのにかかる手数料は遺言の内容などによって大きく異なりますが、おおむね数千円程度となることが多いでしょう。

公正証書遺言の内容に納得がいかない場合

素材_小槌_悩んでいる人

故人が遺した公正証書遺言の内容に、納得がいかないこともあるかと思います。
たとえば、長男一家と同居して「お前(長男)に財産を渡すように遺言を作っておいたからね」と常日頃から言っていた父が、「二男に全財産を相続させる」という内容の公正証書遺言を遺しており、二男が父を珍しく旅行に連れ出した日が作成日であった場合などです。

このような場合には、早期に弁護士へご相談ください。

たとえば、二男がすでに遺言書を作成できるだけの判断能力を失っていた父に、無理やり公正証書遺言を作成させたなどの事情があれば、遺言を無効にできる可能性があります。

また、故人が自らの意思で作成した有効な公正証書遺言であったとしても、相続人には「遺留分」という最低限の取り分があります。
そのため、遺留分相当の金銭を取り戻す「遺留分侵害額請求」ができる余地もあるでしょう。

いずれの方策をとり得るかは状況によって異なるため、まずは早期に弁護士へご相談ください。

まとめ

公正証書遺言とは、公証人が遺言書を作成する遺言です。
作成に費用や手間がかかる一方で、無効になりにくいなどのメリットがあります。
そのため、より確実に遺言をしておきたい場合には、公正証書遺言の作成を検討するとよいでしょう。

しかし、公正証書遺言の内容を自分一人で検討することは、容易ではありません。
そのため、公正証書遺言を作成したい場合には、弁護士などの専門家へご相談ください。

Authense法律事務所では、公正証書遺言の作成サポートなど相続に関するリーガルサポートに力を入れています。
公正証書遺言の作成をご検討の際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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