遺言書とは、自分の亡きあと遺産を渡す相手などをあらかじめ決めておく書類です。
では、全財産を特定の相手に渡したい場合、遺言書はどのように書けばよいのでしょうか?
今回は、全財産を特定の相手に渡す場合の遺言書の書き方や例文、遺言書作成時の注意点などについて、弁護士がくわしく解説します。
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3種類の遺言それぞれの特徴
通常時における遺言書の方式には、次の3つが存在します。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人の関与のもとで作成する遺言書です。
公証人に遺言内容を口授し、書面化した文案を公証人が遺言者と2名の証人に読み聞かせ、遺言者と証人が署名捺印をすることで遺言書が作成できます。
遺言したい内容を公証人が文書化してくれるため、遺言者が自分で文章を作成したり文字を書いたりする必要はありません。
作成には公証役場の手数料がかかるものの、無効になるリスクがほとんどなく、もっとも確実な遺言であるといえるでしょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自書して作成する遺言書です。
遺言書の全文と氏名、日付を自書し、押印することが要件とされています。
紙とペンさえあれば作成できるため、もっとも手軽な遺言書といえるでしょう。
一方で、要件を満たせず無効となったり、内容が不明瞭であるがゆえに手続きに使用できなかったりするリスクがあります。
なお、令和2年(2020年)7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度(自筆証書遺言書保管制度)がスタートしています。
この制度を利用することで、遺言書を紛失したり偽造されたりするリスクを大きく低減することが可能となるでしょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書を封筒に入れて封印した状態で、公証役場へ差し入れる遺言書です。
誰にも内容を知られることなく作成できるうえ、公証役場で保管されるため紛失などのリスクがない点がメリットです。
ただし、遺言書の内容には公証人が関与しないため、内容が不明瞭で手続きに使用できないリスクや、無効となってしまうリスクが存在します。
そのため、利用する場面は非常に限定的であるといえるでしょう。
全財産を特定の相続人に相続させる遺言書の書き方
全財産を特定の相続人に相続させる遺言書の書き方は、次のとおりです。
ここでは、遺言者である法律太郎氏が、長男である法律一郎氏に全財産を相続させる場合の例を紹介します。
シンプルな文例
全財産を特定の相手に相続させる場合におけるシンプルな文例は、次のとおりです。
遺言書
遺言者 法律太郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。
第1条 遺言者の有するすべての財産を、遺言者の長男である法律一郎(昭和40年1月1日生)に包括して相続させる。
令和5年1月1日
東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号
法律太郎 ㊞
一部の財産を明記する文例
上の例と同じくすべての財産を特定の相手に渡す内容の遺言であっても、一部の財産について明記をする場合もあります。
その場合の書き方の例は、次のとおりです。
遺言書
遺言書
遺言者 法律太郎は、次のとおり遺言する。
第1条 次の財産を含む遺言者の有するすべての財産を、遺言者の長男である法律一郎(昭和40年1月1日生)に包括して相続させる。
(1)土地
所 在 東京都〇〇区〇〇1丁目
地 番 1番
地 目 宅地
地 積 100.00平方メートル
(2)建物
所 在 東京都〇〇区〇〇1丁目1番地
家屋番号 1番
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床 面 積 1階50.00平方メートル
2階40.00平方メートル
(3)預貯金
abc銀行 東京支店 普通預金 口座番号0123456
令和5年1月1日
東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号
法律太郎 ㊞
個々の財産を記す際には、不動産であれば全部事項証明書(登記簿謄本)、預貯金であれば通帳などを参照しつつ、正しく記載しましょう。
記載が曖昧だと、相続が起きてから行う名義変更などの手続きに使えない可能性があります。
なお、不動産の全部事項証明書は全国どこの法務局でも、誰でも取得することが可能です。
公正証書遺言の書き方と流れ
公正証書遺言の作り方と全体の流れは次のとおりです。
必要書類を準備する
はじめに、必要書類を準備します。
必要となる書類は遺言書の内容によって異なるものの、おおむね次のとおりです。
- 遺産を渡す相手が相続人である場合:遺言者と遺産を渡す相手との関係がわかる戸籍謄本
- 遺産を渡す相手が相続人でない場合:遺産を渡す相手の住民票
- 遺産に不動産がある場合:不動産の全部事項証明書と、固定資産税課税明細書または固定資産税評価証明書
- 遺産に預貯金がある場合:預貯金通帳のコピー
不動産や預貯金の他にも遺言書内に記載したい財産がある場合、それを特定するための資料も必要です。
遺言書の内容を検討する
必要書類の収集と並行して、遺言の内容を検討しましょう。
なお、自分で直接公証役場へ出向いて遺言書を作る場合には、遺言書の内容は自分で検討しなければなりません。
明らかに無効な内容であれば公証人から指摘がされるものの、たとえばその遺言書が他の相続人の遺留分を侵害する内容となっているなどトラブルの原因をはらんでいたとしても、公証人から特にアドバイスがない可能性もあります。
公証役場は法律相談をする場所ではなく、あくまでも作成した文書を公証する場であるためです。
そのため、遺言書の内容について相談をしたりアドバイスを受けたりしたい場合には、弁護士などの専門家へご相談ください。
公証役場に事前相談をする
専門家を介さずに公正証書遺言を作る場合には、あらかじめ公証役場へ事前相談をします。
完全予約制となっている場合もありますので、いきなり出向くのではなく、電話で問い合わせをしてから出向くとよいでしょう。
ここで作成したいと考えている遺言書の内容を伝え、公証人に文書化してもらいます。
また、あらかじめ集めた書類に不足があれば、追加資料の提出が求められます。
なお、弁護士などへサポートを依頼した場合には、原則として公証役場へ事前相談に出向く必要はありません。
公証人作成の文案を確認する
公正証書遺言の場合には、原則として自分で文章を書く必要はありません。
遺言書としたい内容を公証役場へ伝えることで、公証人が文案を作成してくれます。
公証人に文案を作成してもらったら、自分の意思と異なっていないかどうかを確認します。
2名の証人を検討する
公正証書遺言を作成するには、2名の証人の立ち会いが必要です。
証人になれる人は法律で制限されており、次の人は証人になることができません。
- 未成年者
- 推定相続人、その配偶者、直系血族
- 受遺者、その配偶者、直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
つまり、近しい親族の大半は証人になることができないということです。
証人を引き受けてもらう相手に心当たりがない場合には、公証役場へ相談することで紹介を受けることができます。
また、遺言書の作成支援を専門家へ依頼している場合には、専門家側で証人を手配してくれる場合があります。
作成日を予約する
文案の確認と証人候補者の調整がついたら、公正証書遺言の作成日の予約をします。
公証人の予定が埋まっている可能性がありますので、候補日をいくつか挙げておくとスムーズでしょう。
予約当日に公証役場へ出向く
予約をした当日に、公証役場へ出向きます。
当日の主な流れは、次のとおりです。
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する
- 公証人が遺言者の口述を筆記して、これを遺言者と証人に読み聞かせる
- 遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名して印を押す
これで、公正証書遺言が完成します。
自筆証書遺言の書き方と流れ
自筆証書遺言を作成するまでの流れは、次のとおりです。
必要書類を準備する
はじめに、必要書類を準備します。
集めるべき書類は、公正証書遺言の場合とほとんど変わりません。
ただし、「不動産の固定資産税課税明細書または固定資産税評価証明書」は公証役場の手数料を算定するための書類であるため、自筆証書遺言の場合には不要です。
遺言書の内容を検討する
必要書類を準備と並行して、遺言書の内容を検討します。
遺言書の内容の検討は自分で行うか、弁護士などの専門家へ相談しながら行います。
下書きをする
自筆証書遺言をいきなり書き始めてしまうと、書き損じや漏れなどが生じやすくなります。
そのため、いきなり清書するのではなく、先に下書きを作成するとよいでしょう。
なお、弁護士などの専門家へサポートを依頼した場合には、専門家が下書きを作成してくれる場合もあります。
清書する
下書きが作成できたら、清書をします。
清書をする際には、次の点にご注意ください。
また、自筆証書遺言は訂正方法が厳格に定められています。
そのため、もし書き損じてしまったら、新たな用紙に書き直した方が確実です。
全文を自書する
自筆証書遺言は、本文のすべてを自書しなければなりません。
ワープロや代筆では作成できませんので、注意しましょう。
なお、財産目録を別紙として添付する場合には、財産目録のみは自書しなくても構いません(ただし財産目録の全頁について署名押印が必要)。
氏名を自書する
自筆証書遺言は、氏名を自書することが要件の一つとされています。
氏名は、フルネームでしっかりと記載しましょう。
なお、氏名は普段から使用しているペンネームでも構わないとされていますが、無用なトラブルを避けるためには、戸籍どおりの氏名を記載することをおすすめします。
日付を記載する
自筆証書遺言の要件の一つとして、日付の自書が必要です。
日付は、何年何月何日であるのかが特定できるよう、明記してください。
「令和5年1月吉日」などでは日付が特定できないため、適切ではありません。
一方、「令和5年の誕生日」などは日付が特定できるため、無効ではないとされています。
ただし、無用なトラブルを避けるためには、「令和5年1月1日」など年月日を記載した方がよいでしょう。
押印をする
自筆証書遺言が書けたら、遺言書に押印をします。
押印がなければ無効となりますので、忘れずに押印をしてください。
なお、自筆証書遺言の押す印は、実印に限定されているわけではありません。
ただし、遺言者本人が作成したものであることを証するため、可能な限り実印を押した方がよいでしょう。
全財産を特定の相手に渡す遺言書を書く場合に注意すべき遺留分とは
相続人が複数いるにもかかわらず、全財産を特定の人に渡す遺言書を書く場合には、「遺留分」に注意しなければなりません。
遺留分の概要は、次のとおりです。
遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。
遺留分割合は、遺留分算定基礎額(遺産総額に過去の一定の贈与を加算し、債務を控除した額)の2分の1または3分の1(法定相続人が被相続人の親や祖父母のみである場合)となります。
遺留分のある相続人・遺留分のない相続人
遺留分は、すべての相続人にあるわけではありません。
遺留分のある相続人は、次の相続人のみです。
- 配偶者相続人
- 第一順位の相続人:子や、子が被相続人よりも先に他界している場合の孫など
- 第二順位の相続人:親や、親がともに他界している場合の祖父母など
一方、兄弟姉妹や甥姪はたとえ相続人となる場合であっても、遺留分はありません。
遺留分を侵害する遺言書を遺したらどうなる?
遺留分を侵害した遺言書を遺した場合には、どうなるのでしょうか。
たとえば、法定相続人が長男と二男の2名であるにもかかわらず、長男に全財産を相続させる旨の遺言書を遺した場合で考えてみましょう。
まず、遺留分を侵害したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。
長男に全財産を相続させるとの遺言書は有効であり、相続が発生すると、実際に長男が全財産を取得することとなります。
しかし、この遺言書は二男の遺留分を侵害しています。
そのため、二男から長男に対して、「遺留分侵害額請求」がなされるかもしれません。
遺留分侵害額請求とは、侵害された自分の遺留分相当額を、金銭で支払うよう請求することです。
遺留分侵害額請求がなされると、長男は二男に対して、侵害した遺留分相当額の金銭を実際に支払う必要が生じます。
この場合、仮に遺産の大半が預貯金などであれば、長男が受け取った遺産から遺留分侵害額相当の金銭を支払うことができるでしょう。
一方、遺産の大半が不動産や自社株など、簡単に換価できないものである場合に問題となります。
遺留分侵害額相当の金銭を支払おうにも、支払うだけの金銭がない可能性があるためです。
遺言書を作成するにあたって、安易に全財産を相続するなどとして他の相続人の遺留分を侵害してしまうと、遺留分侵害額請求がなされてトラブルとなるかもしれません。
そのため、たとえ多くの財産を特定の相手に渡したいと考えていても、遺留分についてよく理解したうえで慎重に内容を検討する必要があるでしょう。
まとめ
遺言書で全財産を特定の相手に渡す場合の書き方は、本文で解説したとおりです。
公正証書遺言とすることで、より確実性の高い遺言書となるでしょう。
ただし、全財産を特定の相手に渡す遺言書を作成する際には、遺留分に注意しなければなりません。
遺言書の内容によっては後のトラブルの原因となる可能性がありますので、作成前には弁護士へご相談されることをおすすめします。
Authense法律事務所では、遺産相続問題や遺言書の作成支援に力を入れています。
トラブルとならない遺言書を遺すために、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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