相続が起きると、行うべき手続が多数あります。
それぞれの相続手続の期限はいつまでなのか、やることのチェックリストを分かりやすく解説します。
期限に遅れると不利益を被るものもありますが、慣れていない方にとっては手続が必要か判断するだけでもひと苦労なので、弁護士等に相談すると良いでしょう。
目次
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主な相続手続
相続が起きると、多数の行うべき手続が発生します。
まずは、主な相続手続を、期限があるものとないものとに分けて紹介します。
期限のある手続
期限のある相続手続の中で、代表的なものは次のとおりです。
なお、2021年の執筆時点において相続登記に期限はありませんが、相続登記に期限を設ける改正不動産登記法が成立しています。
2024年度までに施行される予定となっているので、期限のある手続に分類しています。
- 相続放棄や限定承認
- 準確定申告
- 相続税の申告と納税
- 遺留分侵害額請求
- 生命保険金の請求
- 相続登記
期限のない手続
一方で、特に明確な期限が定められていない手続には次のようなものがあります。
- 遺言書の検認
- 預貯金の解約や名義変更
- 遺産分割協議
とはいえ、遺言書の検認は、「遅滞なく」すべきとされており、これを怠った場合には5万円以下の過料に処するとされています。
また、遺言書の検認手続を正当な理由なく遅滞した場合、他の相続人から、「遺言書を偽造したのではないか。」等と、あらぬ疑いを掛けられ、無用な紛争を招くこともないとは言えません。また、遺産分割協議はこれを経ないことには他の名義変更等の手続が行えません。
そのため、期限がないからといって放置することなく、速やかに手続するようにしてください。
速やかにやるべきこと
ここからは、行うべき相続手続を順序立てて解説します。
まずは、相続が起きたら速やかに行うべき7つの手続について紹介していきます。
- 相高額療養費の請求
- 印鑑カードやマイナンバーカード等の返納
- 金融機関への連絡
- 公共料金の請求先変更
- 生命保険の請求
- 相続人調査
- 遺言書の探索
- 遺言書の検認
高額療養費の請求
高額療養費とは、1か月(同じ月の1日から末日まで)のうちに支払った医療費が年齢や所得によって定められた一定額を超えた場合に、その超えた金額が支払われる制度です。
亡くなった本人はもはや高額療養費の請求をすることができませんので、相続人が代わりに請求をすることになります。
亡くなる直前は入院費等の医療費がかさむことも多いので、相続が起きたら速やかに請求するようにしましょう。
なお、この高額療養費の支給を受ける権利は、診療を受けた月の翌月の初日から2年で消滅時効にかかります。
手続先は、亡くなった人が国民健康保険に加入していた場合は市区町村の国民健康保険担当窓口、健康保険に加入していた場合は保険証に記載の保険者です。
印鑑カードやマイナンバーカード等の返納
亡くなった人が印鑑登録証(印鑑カード)やマイナンバーカード等を保有していた場合には、速やかに返納しましょう。
返納先は、亡くなった人の最後の住所地の市区町村役場です。
なお、運転免許証の返納は義務ではありませんが、返納しない場合には更新時期に更新の案内が郵送されます。
気になる方は返納しておいた方が良いでしょう。
運転免許証の返納先は、都道府県の免許センターや警察署です。
金融機関への連絡
ご家族が亡くなったら、亡くなった人が口座を持っていた金融機関に対して速やかに連絡してください。
連絡することで、亡くなった人の銀行口座は凍結され、正式な手続を踏むまで預金を引き出すことができなくなります。
口座が凍結をされると不便に感じるかもしれませんが、相続が起きてから引き落としが掛かってしまったり、一部の相続人がキャッシュカードで勝手に預金を引き出してしまったりするとトラブルの原因となることがあるので、速やかに金融機関に対して連絡をして凍結をした方が良いでしょう。
公共料金の請求先変更
亡くなった人の銀行口座から公共料金が引き落とされていた場合には、引落し先の変更手続も必要です。
なお、請求先の変更よりも前に銀行口座が凍結された場合は、ご自宅等に請求用紙が届きますので、請求先の変更が完了するまでは郵送された請求用紙で支払っておけば問題ありません。
生命保険の請求
亡くなった人を被保険者とする生命保険があった場合には、生命保険金の受取手続を行いましょう。
契約で受取人が決まっている場合には、その受取人が単独で保険金の受取手続をすることができ、保険金の受取りにあたって、他の相続人等の同意等は必要ありません。
なお、生命保険金を受け取る権利は、保険金の請求ができるときから3年が経つと時効により消滅します。
うっかり期限を過ぎてしまわないよう、速やかに手続するようにしてください。
相続人調査
相続人調査にも、特に期限はありません。
とはいえ、以後の遺産分割協議や相続税の申告をスムーズに進めていくためには、相続が起きたら速やかに誰が相続人となるのかという調査は行っておくことが望ましいと言えます。
遺言書の探索
ご家族が亡くなったら、その方が遺言書を遺していなかったか探索しておきましょう。
遺言書の探索先は、主に次のとおりです。
- ご自宅
- 銀行の貸金庫
- 法務局(法務局の保管制度を利用していないか。)
- 公証役場
遺言書の検認
探索した結果として、遺言書が見つかり、その遺言書が法務局での保管制度を利用してない自筆証書遺言であった場合は、速やかに検認の手続を行ってください。
検認とは、相続人に対して遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状や加除訂正の状態、日付及び署名等、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造又は変造を防止するための手続です。遺言の有効性を判断する手続ではありません。
検認の手続は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
7日以内にすべきこと
次に、相続が起きてから7日以内にすべき手続について紹介します。
- 死亡届・死体火葬許可申請
死亡届・死体火葬許可申請
ご家族が亡くなったら、亡くなってから7日以内に死亡届を提出します。
死亡届には亡くなった病院等で発行された「死亡診断書」又は「死体検案書」を添付してください。
死亡届を出さないことには火葬許可証が発行されないので、通常は亡くなった翌日くらいまでには提出をすることが多いと言えます。
届出先は、原則として、亡くなった人の住所地の市区町村役場ですが、本籍地の市区町村役場や、届出をする人の住所地や本籍地の市区町村役場へ届け出ることも可能です。
10日以内にすべきこと
次に、相続が起きてから10日以内にすべきことについて紹介します。
- 年金受給権者死亡届
年金受給権者死亡届
年金を受給していた人が亡くなった場合には、死亡日から10日以内(国民年金の場合には14日以内)に年金受給権者死亡届の提出が必要です。
手続は、年金事務所又は街角の年金相談センターで行ってください。
この手続が遅れると、手続をしない間に次の年金が振り込まれ、多く受け取った年金を返却する手間が生じる可能性があります。
ただし、日本年金機構にマイナンバーが収録されている方が亡くなった場合には、この届出を省略することが可能です。
また、本来受け取れるはずであった年金のうち、受け取っていない未支給年金については、一定の遺族が受け取ることが可能です。
14日以内にすべきこと
次に相続が起きてから14日以内にすべき手続について紹介します。
- 健康保険証の返却・資格喪失届・葬祭費・埋葬料
- 介護保険被保険者証の返却・介護保険資格喪失届
- 世帯主変更届の申請
- 児童扶養手当の申請
健康保険証の返却・資格喪失届・葬祭費・埋葬料
亡くなった人が加入していた健康保険や国民健康保険の保険証は、死亡後14日以内に返却する必要があります。
加入していた保険が国民健康保険であれば市区町村役場に、健康保険であれば事業主に、それぞれ返却し、資格喪失届も提出してください。
また、葬祭費や埋葬料の支給が受けられますので、併せて請求すると良いでしょう。
介護保険被保険者証の返却・介護保険資格喪失届
介護保険の被保険者が亡くなった場合には、その保険証の返却と資格喪失届の提出も必要です。
この手続は、亡くなった人の最後の住所地の市区町村役場で行ってください。
介護保険料を納め過ぎていた場合は、保険料の還付を受けられる場合があります。
世帯主変更届の申請
亡くなった人が住民票上の世帯主であった場合には、世帯主変更届も行う必要があります。
世帯主変更届は、世帯主が亡くなったことにより新たに世帯主となる人を届け出る手続だと考えてください。
手続先は、亡くなった人の最後の住所地の市区町村役場です。
ただし、住民票に残った人が1人だけの場合等、次に世帯主となる人物が明瞭である場合は、届出が必要ない場合もあります。
児童扶養手当の申請
児童扶養手当とは、夫又は妻が亡くなり、ひとり親(父子・母子)家庭になった場合に受け取ることができる手当です。
18歳になって次の3月31日を迎えるまで(障害がある場合は20歳になるまで)の児童がいる場合、所得等の要件を満たすことで受給することができます。
この手当の受給申請の期限は、「速やかに」となっており、特に期限はありません。
一方、児童扶養手当を受給している人が死亡した場合には、14日以内に死亡の届出をすべきとされています。
手続先は、住所地の市区町村役場です。
1か月以内にやるべきこと
次に、相続が起きてから1か月以内に行うべき手続を紹介します。
- 個人事業主の廃業・承継
- 未支給失業等給付請求
個人事業主の廃業・承継
亡くなった人が個人事業を営んでいた場合には、その事業の廃業届等を提出しなければなりません。
手続先は、納税地を所轄する税務署です。
未支給失業等給付請求
亡くなった人が雇用保険による失業給付を受給中であった場合、生計を同じくしていた家族は、死亡の日の前日までの失業給付(未支給失業等給付)の支給を受けることができます。
この手続は死亡を知った日の翌日から1か月以内にすべきとされていますが、亡くなったことを知らなかった場合でも、亡くなった日の翌日から6か月が経過すると請求できなくなるため注意が必要です。
手続先は、最寄りの都道府県労働局やハローワークです。
3か月以内にやるべきこと
次に、相続が起きてから3か月以内に行うべき手続を紹介します。
- 財産調査
- 相続人調査
- 相続放棄の申述
財産調査
亡くなった人の財産調査には、特に期限はありません。
もっとも、後述する相続放棄の期限が相続の開始があったことを知ったときから3か月以内とされているため、これ以前に財産の調査をしておく必要があります。
亡くなった人の財産が把握できていないことには、相続放棄をするかどうかの判断ができないためです。
相続放棄の申述
相続放棄とは、家庭裁判所へ申述することにより、始めから相続人ではなかったこととされる手続です。
相続放棄が認められると、借金等のマイナスの財産を引き継がずに済むほか、プラスの財産についても一切相続できなくなります。
亡くなった人に借金が多く、承継してしまうと到底支払っていけないといった場合等に行うことの多い手続です。
相続放棄の手続は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないとされているので、相続放棄を検討している場合には早めから手続の準備を行うようにしましょう。
なお、マイナスの財産の範囲内でのみプラスの財産も承継するという限定承認という手続もありますが、この期限も相続放棄と同様に3か月以内とされています。
相続放棄の手続は、被相続人の債務を承継するか否かにかかわるので、相続放棄の手続を検討している場合には、これを確実に行う必要があります。そのため、弁護士等の専門家に相続放棄の手続を任せた方が良いでしょう。
4か月以内にやるべきこと
次に、亡くなってから4か月以内にすべき手続を紹介します。
- 準確定申告
準確定申告
準確定申告とは、亡くなった人について行う確定申告のことです。
亡くなった人に不動産収入や事業収入があった場合や、大きな財産を売却していた場合等には、準確定申告が必要となります。
通常の確定申告は毎年1月1日から12月31日までの所得を翌年3月15日までに申告しますが、準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内にしなければなりません。
期限が短いため、計画的に申告をするようにしましょう。
10か月以内にやるべきこと
次に、相続が起きてから10か月以内にすべき手続を紹介します。
- 相続税申告
- 遺産分割協議
- 預貯金の解約や財産の名義変更
相続税申告
10か月以内に行うべき手続の代表的なものは、相続税の申告です。
10か月というとかなり長く感じるかもしれませんが、申告までに相続財産の洗い出しや評価、遺産分割協議をするとなると、意外と余裕はないものです。
相続税の申告が必要となりそうな場合には、相続が起きたら速やかに専門家に対して相談する等の準備に取り掛かるようにしましょう。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、亡くなった人の持っていた財産を相続人がどのように分けるのかを決める話し合いのことです。
この遺産分割協議自体には、期限があるわけではありません。
もっとも、相続税申告を一度で済ませるためには相続税申告の期限までに遺産分割協議を成立させる必要があるので、10か月を一つの目安と考えておいた方が良いかと思います。
万が一、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合には、後日協議がまとまった後に、再度その内容で相続税の申告をし直す必要が生じます。
預貯金の解約や財産の名義変更
亡くなった人の預貯金の解約や名義変更には期限はありません。
とはいえ、手続をしないことにはいつまでもその預金を引き出すことはできませんので、
遺産分割協議がまとまり次第、速やかに解約や名義変更をしておくと良いでしょう。
なお、10年以上手続しなかった場合には預金は休眠預金等となり、民間公益活動に活用される可能性があります。
1年以内にやるべきこと
次に、相続が起きてから1年以内にすべき手続を紹介します。
遺留分侵害額請求
遺留分とは、子や配偶者等の一定の相続人に対して保障された相続での最低限の取り分のことです。
遺留分を侵害した遺言書があった場合等は、遺言等で多く財産をもらった人に対し、遺留分相当の金銭を請求することが可能です。
この請求を、「遺留分侵害額請求」といいます。
この遺留分侵害額請求の期限は、遺留分権利者が、相続の開始等を知ったときから1年です。
相続が起きたことを知らないまま10年が経過した場合にも、遺留分侵害額請求権は消滅します。
遺留分を請求する場合には、速やかに弁護士に対して相談する等し、請求の準備をするようにしてください。
3年以内にやるべきこと
最後に、相続が起きてから3年以内にすべき手続を紹介します。
- 相続登記
- 遺産分割協議
相続登記
相続登記とは、亡くなった人の持っていた不動産の名義を相続人等へと書き換える手続のことです。
従来、この相続登記に期限はありませんでしたが、2021年に成立し、2024年までに施行される予定の改正不動産登記法により、相続登記に期限が設けられることとなりました。
改正法の施行後は、相続が起きてから3年以内に相続登記を行うことが必要となります。
遺産分割協議
遺産分割協議は10か月以内にすべきと前述しましたが、10か月以内にまとめることができなかった場合でも、3年以内には成立させるようにしてください。
なぜなら、相続税の申告期限から3年を経過すると、もはや配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用が受けられなくなってしまうからです。
まとめ
相続が起きた後には、数多くの手続をする必要がある上、中には期限に遅れると不利益を被ってしまうものもあります。
また、亡くなった人や財産の状況により行うべき手続も異なるため、慣れていない方にとっては手続の要否を判断するだけでもひと苦労でしょう。
相続でお困りの際には、ぜひ弁護士へご相談ください。
Authenseの弁護士が、お役に立てること
・ご説明させていただいたとおり、相続手続においては、様々な期限が設けられた手続が存在します。
ご親族等が亡くなられてお気持ちとしても落ち着かない中、これらの手続にまで気を回していくのはとても大変かと思います。
Authenseの弁護士にご相談いただければ、これらのご説明や、遺産の分割等の相続手続に関するお手伝いをさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
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