相続に伴い名義変更が必要になった場合、どのような手続きを行えば良いのかについて、遺産の種類別、遺言がある場合・ない場合に分けてわかりやすく解説します。また、名義変更の際に必要となる書類や、実施しておくべきこと・しておいた方が良いことも併せて紹介します。
目次
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相続の際に名義変更が必要となる遺産と変更方法
父や母、兄弟姉妹が亡くなり、相続が発生するということは誰にでも起こりうることです。
ただ、いざ相続するとなった際に何をどうすれば良いかわからないということも、誰しもが直面する問題です。
相続する遺産は、現金、預貯金、不動産、株式など、多岐にわたります。
預貯金、不動産、株式など、故人(被相続人)の名前で登録されているものについて相続を完了させるためには、すべて名義変更を行う必要があります。
名義変更は、被相続人の遺言書があれば遺言書、遺言書がない場合には遺産分割協議書、その他に戸籍などが必要になります。
以下では、名義変更が必要となる遺産と、その名義変更の方法について解説します。
不動産
土地、建物などの不動産は、不動産登記簿で所有者が登録されています。
相続が発生した際には、この不動産登記簿の名義を変更する必要があります。
預貯金
預貯金は、当然ながら、個々人の名義で口座が作られています。
被相続人の預貯金を相続するためには、この口座の名義を相続人へ変更する必要があります。
株式などの有価証券
株式や債権などの有価証券は、上場会社の株式など、証券会社を通じて保有しているものは、証券会社で被相続人の名義の口座が作られていますので、相続が発生した際には、この証券会社の口座名義の変更を行う必要があります。
また、上場されてない会社の株式は、その会社の株主名簿に被相続人の名前が記録されているはずですので、株主名簿の名義変更を行う必要があります。
その他の遺産
上記の不動産、預貯金、有価証券以外にも、自動車などの登録制度のある財産があります。
これらの登録制度がある財産についても、相続を完了させるためには同様に名義変更を行っておくべきです。
名義変更の方法は遺言書の有無により異なる
各遺産の名義変更は、大きく分けると「遺言書がある場合」と「遺言書がない場合」とで異なります。
それぞれ、以下のようにして名義変更を行います。
遺言書がある場合:検認と遺言執行者の選任
遺言書は、大きく分けて、次の2種類があります。
- 公正証書遺言:公証人が作成した遺言書
- 自筆証書遺言、秘密証書遺言:被相続人自身が作成した遺言書
このうち、被相続人が自身で作成した遺言書(自筆証書遺言、秘密証書遺言)は、まず、家庭裁判所で「検認」の手続きを行ってください。
検認とは、家庭裁判所において、裁判官と相続人立ち会いの下で遺言書の中身を確認する手続きのことです。
遺言書が封印されている場合、検認の前に開封しても遺言書が無効となるわけではありませんが、他の相続人から遺言書に疑義が出る場合があるため、検認手続きにおいて開封した方が良いです。
公正証書遺言は、検認の手続きは不要です。
また、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことを「遺言執行者」と言いますが、遺言書で遺言執行者が指定されていない場合は家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てることができます。遺産分割を行うにあたっては、必ずしも遺言執行者を選任する必要はありませんが、遺言書の中で、相続人の廃除や認知がなされているような場合には、遺言執行者を選任する必要があります。遺言執行者の選任申立ての際に候補者を記載して申立てても良いですし、家庭裁判所に選任を任せることもできます。
家庭裁判所に選任を任せた場合には、弁護士・司法書士を執行者として選任することが多いです。
このようにして、遺言執行者が選任された場合、遺言執行者が遺言書の内容に沿って各遺産の名義変更を行うことになります。
遺言書がない場合:遺産分割協議書の作成
遺言書がない場合には、相続人で名義変更を行う必要があります。
相続人が一人だけであれば、単独相続であることを証明する戸籍関係などの書類だけで足りますが、相続人が複数いる場合には、相続人間で、遺産分割協議書を作成する必要があります。
遺産分割協議書では、相続人の中で誰が何を相続するかを具体的に定めます。
そして、名義変更を行うには、相続人全員が遺産分割協議書に署名し、実印で押印する必要があります。
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名義変更の必要書類
名義変更を行うにあたっては上記の通り、遺言書か遺産分割協議書が必要となります。
ただし、これだけで十分なわけではなく、その他にも戸籍、印鑑証明書などが必要となります。
ここでは、具体的に必要となる書類について解説いたします。
戸籍
戸籍は、相続人の範囲を確定するために必要になります。
例えば、遺言書がなく相続人が複数いる場合で、不動産登記簿の名義変更を行う際には法務局に遺産分割協議書を提出しますが、これだけでは法務局としては、相続人の範囲が、遺産分割協議書に署名した人と同じであるかどうかがわかりません。
預貯金なども同じです。法務局、金融機関が、被相続人の相続人が誰であるのかを把握し、確定するために、戸籍が必要となります。
戸籍は、相続人の範囲がわかるものでなければなりません。
被相続人の戸籍は、相続人であれば取り寄せることができます。
ただし、被相続人の戸籍は、生まれてから亡くなるまでのすべてのものが必要となります。
一般的には、人は出生時には親の戸籍に入り、結婚すると親の戸籍から出て新戸籍が作られます。
被相続人が亡くなった際の戸籍は、この新戸籍の方だけにあります。
しかし、その結婚前に別の人と結婚して子供がいるということもあります。
この場合は、その子供も相続人となります。
こうした相続人の範囲を確定するためには、被相続人が亡くなった当時の戸籍だけでなく、被相続人が生れてから亡くなるまでの戸籍を取り寄せる必要があります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍を取ってみて、初めて他に相続人がいることがわかったということも珍しくありません。
なお、相続人の範囲を正確に把握するためには、戸籍の改製によって閉鎖された古い戸籍(これを「改製原戸籍」と言います。)も含めてすべて取得する必要がありますので、ご注意ください。
遺産分割協議書
先にお伝えしたように、遺言書がある場合には、遺言執行者が遺言書の通りに名義変更を行ってくれますが、遺言書がない場合には、相続人間で遺産分割協議書を作成する必要があります。
そして、この遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印する必要があります。
名義変更を求められた法務局、金融機関などが、相続人全員が確実に遺産分割協議の内容に同意しているかどうかを確認するために実印での押印が必要となります。
実印で押印されていない遺産分割協議書の場合は、名義変更に応じてくれません。
印鑑証明書
遺産分割協議書に実印で押印したことを証明するために、相続人全員の印鑑証明書の添付が必要となります。
遺産分割協議書への実印での押印と、印鑑証明書を対照することで、相続人全員が遺産分割協議書の内容で遺産分割したことを、法務局、金融機関などが確認することができます。
そのために印鑑証明書が必要となります。
印鑑証明書が添付されていないと、遺産分割協議書の押印が実印でなされたものかどうかが確認できないため、法務局、金融機関などは、名義変更に応じてくれません。
単独相続の場合
相続人が他にいない単独相続の場合は、遺産分割協議書の作成は必要ありません。
戸籍を取り寄せて、自分だけが相続人であることが証明できれば、名義変更が可能です。
この場合は、法務局、金融機関などに戸籍を提示し、各所所定の書式で手続を行うことで名義変更が可能です。
名義変更は義務ではないが実行しておいた方が良い
被相続人が亡くなった際の各遺産の名義変更について、実は法律上には、これらの名義変更を義務付けるものはありません。
ですので、名義変更を実行すべき法律上の義務はありません(ただし、2021年4月現在、相続登記などを義務化する改正法が審議中です)。
実際のところ、土地の登記簿上の名義が被相続人の名義のままであるということはよく見られます。
しかし、名義変更は行っておいた方が良いです。
ここでは、名義変更のメリットと、名義変更をせずに放置するデメリットについて解説します。
名義変更するメリット
名義変更を行うということは、相続が完了するということを示します。
遺言書がある場合には、遺言書の内容に沿った遺産分割の中で名義変更が行われます。
遺言書がない場合には、相続人全員で協議して、遺産をどのように分配するかということを合意して遺産分割協議書を作成し、名義変更が行われます。
こうして名義変更を実行しておくことで、その後に相続人間でトラブルが発生することを防止することができます。
また、名義変更を行うことで相続人の各自の権利(相続分)を明確にできるというメリットもあります。
名義変更しないデメリット
名義変更をせずに放置しておくデメリットとして、まず遺産の散逸、消失ということが挙げられます。
長期間名義変更をせずに遺産を放置すると、通帳などの預貯金や有価証券の存在を示すものがなくなってしまい、何が遺産として存在していたかがわからなくなってしまったり、不動産だと第三者に時効取得されてしまったりということも考えられます。
次に考えられるデメリットとしては、相続関係が複雑になってしまうということがあります。
被相続人の配偶者と子らだけなら、遺産分割協議もスムーズに進んだはずであるのに、長年にわたり放置してしまっている間に、相続人の一人である子が亡くなってしまい、その配偶者や子(被相続人から見ると孫)らが遺産分割協議をしなければならなくなるなど、こうした関係性が希薄な親族が加わることで遺産分割がうまく行えないという事態が発生することが懸念されます。
また、名義変更をせずに放置するということは遺産の内容を把握しないまま放置することにつながります。
そうすると、実は被相続人には負債もあり、相続放棄をしておくべきだったのに、相続放棄が認められる期間(相続開始から3ヶ月)を経過してしまっていたりすることも起こりえます。
加えて、遺言書により遺留分を侵害された相続人は、遺留分が侵害されたことを知った時から1年以内に遺留分侵害額請求を行う必要がありますが、その機会を失う懸念もあります。
こうしたデメリットを回避するためには、相続が発生した際にはできるだけ早期に名義変更に向けて行動を起こしておいた方が良いと言えます。
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名義変更前に行っておくべきこと
遺産の名義変更を行うということは、相続の手続が完了するということを意味しています。
相続の手続きが完了した後に何らかの法的紛争が生じることを回避するためには、名義変更を行う前に、以下の点を確認しておく必要があります。
遺産内容の確認
まず、行うべきは被相続人の遺産の内容の把握です。
不動産、預貯金、株式などの有価証券、自動車・貴金属などの動産など、被相続人の遺産にどのようなものがあるのかを正確に把握しておかないと、遺言書の執行や遺産分割が円滑に行えません。
後から他にも遺産があったことがわかると、遺産分割をやり直さなければならないこともあります。
また、場合によっては、負債の方が大きく、相続放棄をした方が良いということもありえます。
こうしたことから、まずは遺産の内容を確認しておくべきです。
遺言書の有無
次に、遺言書がないかどうかも調べておく必要があります。
公正証書遺言は、公証役場で照会すれば存否について確認が取れます。
自筆証書遺言や秘密証書遺言などの遺言書については保管場所が定められていないため、どこにあるのかわかりません。
遺言書がないものと思って相続人間で遺産分割協議をしても、後から遺言書が発見されると、遺産分割協議が無効になってしまいます。
被相続人の家の中や銀行の貸金庫などに遺言書がないかよく確認しましょう。
相続人の調査
相続人が誰かということも、正確に調査する必要があります。
先ほどお伝えしたように、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せて、相続人が他にもいないか調査しておいた方が良いです。
戸籍を取り寄せて初めて隠し子がいたことがわかるということもありえます。
そのため、相続人調査のために、被相続人の出生から死亡まですべての戸籍を取り寄せておくべきです。
遺産の保全
名義変更、遺産分割が実行される前に相続人の一人が勝手に遺産を処分してしまったり、費消してしまったりということが起りえるため、遺産の保全を行っておく必要があります。
預貯金、有価証券などについては、相続人や被相続人に近しい人が勝手に処分、費消したりできないように、金融機関に被相続人が亡くなったことを通知しておきましょう。
口座の名義人が亡くなった通知を受けた金融機関は、遺産分割協議書などの相続人全員の同意がない限りは、被相続人名義の口座からの出金や有価証券の処分に応じなくなります。
また、不動産については、遺産分割が成立するまでの保全として、不動産登記簿に法定相続分による相続登記を入れておくことができます。
こうした処置を取ることによって遺産が勝手に処分・費消されてしまうことを防止することができます。
もっとも、その後法定相続分とは異なる割合で遺産分割協議などが成立した場合は再度登記をしなければならないため、登記の手間や費用がかかりますし、法定相続分に従った登記をすると、ある法定相続人の法定相続分が処分されてしまい、かえって権利関係が複雑になることも考えられます。
そのため、もし法定相続分による相続登記をお考えの場合、一度弁護士などの専門家にご相談された方が良いでしょう。
まとめ
遺産の名義変更を行うには、まずは、遺産の内容を確認して保全したうえで、遺言書の有無を調査し、戸籍を取り寄せて相続人の範囲を確定する必要があります。
遺言書がない場合には、相続人間で遺産分割協議書を作成し、実印による押印、印鑑証明書の添付が必要となります。
そうして、遺言書がある場合には遺言執行者が名義変更を行い、遺言書がない場合には、遺産分割協議書と印鑑証明書、戸籍を法務局、金融機関へ提出することで名義変更を行います。
つまり、遺産の名義変更は、相続を完了させるという意味があり、その後の相続人間のトラブルを防止し、自身の権利を明確化するというメリットがあります。
相続でのトラブルや相続手続きでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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