コラム
公開 2020.11.24 更新 2023.04.04

隠し子に遺産を残したい!遺言書の効力と生命保険の扱いはどうなる?

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生命保険を上手く活用すれば、非嫡出子(隠し子)に遺産を多く残せるかもしれません。そのためには、遺言書の書き方と効力を知っておく必要があります。非嫡出子、いわゆる「隠し子」がいる場合の遺言者の取るべき対応と、遺言書の効力について解説します。

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遺言方式は2種類ある

遺言方式には「普通方式」と「特別方式」の2種類があります。一般的に遺言書としてみなさんがイメージするものは、普通方式の遺言書でしょう。

特別方式の遺言書は、病気や事故で死が間近に迫っていたり、感染症病棟内や船舶内など隔絶されたところにいたりする場合など、緊急事態や特別な事情があるときに作成されます。

作成した後に状況が変わり普通方式の遺言が作成できる状態になり、6ヶ月以上遺言者が生存している場合、作成した特別方式の遺言は無効になります。

普通方式の遺言書は3種類

普通方式の遺言書は、次の3種類に分けられます。それぞれの特徴について解説しましょう。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者による自筆が条件となっている遺言方式で、一定の要件を満たしていないと無効になります。

作成場所 自由
作成方法 本人が自筆(法改正より財産目録はパソコンなどで作成可能)
証人・立会人 不要
作成費用 かからない
署名・押印 いずれも必要(押印は実印、認印、拇印のいずれも可能)
封印 不要
秘密保持 可能
デメリット 方式や内容によっては無効になる可能性がある。死後、発見されなかったり、紛失、改ざんされたりなどの恐れがある
死亡後の家庭裁判所の検認 必要(法改正により法務局に保管されていた場合、検認は不要)

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言内容を公証人に口授し、公証人が証書を作成する遺言書です。

作成場所 公証役場その他公証人が立会可能な場所
作成方法 公証人が口述筆記
証人・立会人 2人以上の証人の立ち会いがが必要
作成費用 作成手数料がかかる
署名・押印 本人の署名・実印による押印、公証人、証人全員の署名・押印が必要
封印 不要
秘密保持 遺言内容、遺言したことが知られる
デメリット 作成費用がかかる
証人の確保など作成準備が必要
死亡後の家庭裁判所の検認 不要

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言内容を秘密にしつつ公証人の関与を経る遺言方式で、遺言書作成の事実が公証役場に記録されます。

作成場所 自由
作成方法 本人(自筆、代筆、パソコンいずれも可能)
証人・立会人 2人以上の証人と公証人
作成費用 公証人の手数料が必要
署名・押印 本人(遺言書・封紙に署名・押印)、証人・公証人(封紙に署名・押印)
封印 必要
秘密保持 遺言した事実は知られるが遺言内容は秘密にできる
デメリット 遺言の存在は明確にできるが、方式、遺言内容によっては無効になる可能性がある
死亡後の家庭裁判所の検認 必要

遺言書が持つ効力

遺言書に何を書こうとも自由です。しかし、法的に効力を有する遺言内容は限られています。遺言書が持つ法的効力の主な遺言内容は次の8つです。

相続人の廃除等

相続人を廃除したり、廃除を取り消したりできます。相続人に遺産を渡したくない場合は、当該相続人の相続権を消失させることができます。

相続分の指定等

法定相続分とは異なる各相続人の相続分を指定することができます。また、第三者に相続分の指定を委託することができます。

遺産分割の方法の指定と分割の禁止

遺産をどのように分けるか、具体的な遺産分割の方法を指定することができます。また、第三者に分割方法の指定を委託するができます。相続開始から最長5年以内であれば、財産の分割を禁止することができます。

相続財産の処分(遺贈)

財産を相続人以外に贈与(遺贈)することができます。財産を寄付したり、財団法人を設立したりすることができます。また、財産を指定した信託銀行などに預けて、管理、運用してもらうことができます。

子の認知

婚姻関係にない女性との間にできた子の認知(親子関係を認める)ができます。胎児に対しても認知が可能です。

後見人の指定

推定相続人に親権者のない未成年者がいる場合、後見人を指定することができます。さらに、後見人を監督する後見監督人の指定ができます。

相続人相互の担保責任の指定

相続後の相続人同士による担保責任を軽減したり加重したりできます。相続財産が他人の物であったり欠陥があったりする場合、法律上他の相続人は担保責任を負うこととなります。遺言者は、当該担保責任の負担者や負担割合についても、遺言により指定することができます。

遺言執行者の指定または指定の委託

遺言内容を実行させるための遺言執行者を指定することができます。また、遺言執行者の指定を第三者に委託することができます。

生命保険は相続財産になる?

生命保険金は、受取人が指定してあれば法律上は受取人の固有の財産とみなされ、相続財産にはなりません。このことから、遺産分割で家族がもめたときに、被相続人の通帳のお金は遺産分割が完了するまで使用できませんが、受取人が生命保険金を相続税の支払いや代償金として使用することが可能です。

生命保険金の受取人が単に「相続人」となっていた場合、基本的に法定相続人が法定相続分の割合で生命保険金を受け取ることができます。契約者が受取人を指定していなかった場合も保険契約の約款で受取人が指定されていることが多いため、約款を確認してみましょう。

また、受取人に指定されたのが相続を放棄した法定相続人であっても、生命保険金は相続財産ではないため、受取人は保険金を受け取ることができます。

このように、生命保険金は基本的に相続財産にはなりません。しかし、特定の法定相続人を受取人に指定すると、指定されなかった相続人が不満を抱く可能性があり、遺産分割でもめる原因になります。

法定相続人以外を生命保険金の受取人に指定すると相続税がかかり、法定相続人ではないため生命保険金の非課税の適用が受けられません。このことから、生命保険金の受取人の指定は、将来の相続発生を視野に入れ慎重に検討する必要があります。

隠し子の相続分とは?

正式な婚姻関係にある男女間に生まれた子どもを「嫡出子」と呼びます。
これに対し、婚姻関係にない男女間に生まれた子どもを「非嫡出子(婚外子)」と呼びます。いわゆる愛人が産んだ隠し子が非嫡出子(婚外子)です。
(以下、非嫡出子の呼称として一般的に用いられる「隠し子」という表現を用います。)

では、隠し子の相続分はどのように決められるのでしょうか?

隠し子が相続できるかは認知で決まる

隠し子は、出生と同時に母方の戸籍に入ります。実際に赤ちゃんを産む母親とは異なり、生まれただけでは父親との血縁関係は法律上証明することができません。

このことから、隠し子は生まれただけの状態では父親の相続権を持ちません。隠し子が父親の相続権を得るためには認知届を出し、父親が隠し子を自分の子であると公に認める「認知」という行為が必要になります。

これに対して、母子間では母親による認知が問題となるケースは非常に稀です。なぜなら、母親との親子関係はその母親から子供が生まれたという事実のみで当然に認められると考えられているからです。母親による認知は、捨て子・迷子など子どもを分娩したことが客観的に判断できない非常に限定的な場合です。

民法改正で非嫡出子(隠し子)の法定相続分も嫡出子と同等になった

先ほどお伝えしたように、隠し子が相続権を得るには、父親の認知が必要です。では、隠し子の法定相続分はどうなるのでしょうか?

平成25年9月4日、「非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定は違憲である」との最高裁判決が出ました。これにより、同年12月5日に「民法の一部を改正する法律」が成立し、認知された非嫡出子(隠し子)の法定相続分は嫡出子と同等になりました。

配偶者と嫡出子1人、認知された非嫡出子(隠し子)1人の法定相続分

法改正前

  • ・配偶者:1/2(3/6)
  • ・嫡出子:1/3(2/6)
  • ・非嫡出子(隠し子):1/6

法改正後

  • 配偶者:1/2(3/6)
  • 嫡出::1/4(1.5/6)
  • 非嫡出子(隠し子):1/4(1.5/6)

隠し子からの認知請求もあり得る

隠し子に相続権を与えないようにするには、父親は認知しなければ良いことになります。また、妻(配偶者)から認知しないよう迫られるかもしれません。しかし、隠し子本人や内縁の妻から認知請求されることもあります。

強制認知

父親が自分から認知しなくても、隠し子自身、あるいは隠し子の母である内縁の妻から認知請求することが可能です。任意認知を拒んでも、強制認知という家庭裁判所での調停や裁判で争う方法があります。強制認知で父子関係が立証されると、父親は認知を拒むことができません。

死後認知請求

隠し子が亡き父親に対して認知を請求し、父子関係を証明することができれば認知できます。死後認知請求は、父親の死亡後3年以内に父親もしくは非嫡出子(隠し子)の最後の住所を管轄する裁判所で行います。

父親はすでに亡くなっているため、公益の代表者として検察が被告になります。DNA鑑定や関係者の証言などをもとに父子関係の存否が判断されます。

隠し子がいる場合の生命保険と相続分

隠し子に相続させるには認知が必要です。隠し子と言うからには、認知していない子どものケースもあり得ます。ここからは、遺産を隠し子に残す方法を解説しましょう。

認知しないで隠し子に遺産を譲る

隠し子を認知しなくても遺言書で遺産をすべて第三者(隠し子)に譲ることは可能です。しかし、配偶者や嫡出子には遺留分があります。遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保するために設けられた制度のことで、兄弟姉妹以外の相続人には相続財産の一定割合を取得できる権利(遺留分権)があります。

配偶者や嫡出子がいる場合、遺留分侵害額請求をされる可能性が高いはずです。遺留分を侵さなくても遺された家族(配偶者や嫡出子)の心情としては、隠し子だけ多く遺産を譲り受けるのは納得しがたいと思われます。

隠し子に遺産相続させるには生命保険を上手く活用する

生命保険金は受取人を指定しておけば基本的に相続財産にならないため、うまく利用して隠し子を保険金の受取人に指定して遺産を譲ることが可能です。しかし、現在は保険会社や保険の種類によって、受取人になれる範囲が決まっています。

基本的に、保険金の受取人の範囲は2親等以内の血縁者とする保険会社が多いようです。3親等内の親族(おじ:おば、甥・姪、曽祖父母など)まで受取人に指定できる場合もあります。

このことから、認知していない隠し子は他人にあたり、基本的に保険金の受取人になれないのです。ただし、隠し子を認知したうえで生命保険金の受取人に指定することはできます。また、保険会社や保険の種類によっては、内縁の妻や認知前の隠し子を保険金の受取人に指定できる場合もあります。

隠し子に相続させたくないときの対策

父親が隠し子に相続させたくない場合は、認知しなければ良いわけです。しかし、内縁の妻や隠し子自身から認知請求される可能性もあります。

そこで、隠し子に相続させたくないときに父親や相続人ができる対策は次の3つです。

相続放棄してもらう

隠し子に相続放棄をしてもらう方法です。相続放棄をすると、初めからその人は相続人ではなかったという扱いになり、すべての遺産について相続する権利を失います。

相続分を譲渡してもらう

隠し子に相続分を譲渡してもらうことで、隠し子自身は相続権を失うとともに、他の相続人が相続分を得ることができます。相続分の譲渡とは、ある相続人が自分の相続分を他の人に譲渡することです。

遺言書で隠し子の相続分を減らす

父親(被相続人)の生前に遺言書で相続分を指定してもらい、隠し子の相続分を減らしたり、相続財産を具体的に指定したりすることが可能です。

上記の放棄以外の方法は、認知された後では隠し子でも遺留分侵害額請求が可能であるため、遺留分を考慮する必要があります。また、相続放棄に関しても借金など負の遺産でなければ隠し子が相続放棄するメリットはないため、事前の話し合いが重要になります。

隠し子に多く相続させるための遺言書の書き方

これまでお伝えしたように、隠し子がいて遺産を相続させたい場合は、事前に認知しておいた方がスムーズに進められます。遺された家族としても、相続が発生してから隠し子の存在を突然知るよりも事前に知っていた方が心の負担は軽いはずです。

では、隠し子にできるだけ多く遺産を相続させるために、遺言書を作成する際はどういったポイントに気を付ければ良いでしょうか?

隠し子を遺言書で認知する

父親(被相続人)が隠し子の存在を死ぬまで隠したい場合は、遺言書で隠し子を認知することも可能です。認知の届け出は遺言執行者が行うため、遺言執行者を指定しておく必要があります。

この場合の遺言書を作成するポイントは次の通りです。

  • 隠し子の母親が誰であるか明記する
  • 認知する子の住所、氏名、生年月日、本籍、戸籍の筆頭者を記載する
  • 相続分を指定する
  • 遺言執行者を指定する
  • 日付、署名を記載し、押印する

隠し子に多く相続させる遺言書の書き方のポイント

隠し子に多く相続させる場合、遺言書で相続分を指定する必要があります。遺留分を侵すような相続配分にすると遺産分割協議でもめる原因になるため注意が必要です。なぜ隠し子に多く相続させるか、他の相続人が納得できるような理由を遺言書に明記しておいた方が良いでしょう。

この場合の遺言書の書き方のポイントは次の通りです。

  • 嫡出子、非嫡出子(隠し子)の名前を列挙して相続分を指定する
  • 相続分の指定は分数を使用して分母を同じにして分かりやすくする
  • 隠し子に相続させる遺産を預貯金や土地など具体的に明記しておく
  • 隠し子に多く相続させる理由を明記する(生前、隠し子で肩身の狭い思いをさせ苦労をかけた、など)
  • 相続がスムーズにいくように遺言執行者を指定しておく
  • 日付、署名を記載し、押印する

まとめ

隠し子は、基本的に父親が認知しなければ相続権はありません。また、隠し子に多く遺産を譲るには生命保険を上手く活用したいものです。

非嫡出子(隠し子)と嫡出子の法定相続分は同等になりましたが、隠し子の相続分を多くすると遺産分割でもめる原因にもなりかねません。隠し子の相続分は遺言書にハッキリ明記して、相続がスムーズに進むように配慮しましょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
上智大学法学部国際関係法学科卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。企業法務や顧問業務、個人法務など幅広い分野に対応。個人法務では、離婚、相続、労働事件などを取り扱う。
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