精神疾患や認知症などで判断能力が衰えてしまった人は、よくわからないままに不利益な契約を結ばされてしまったり、悪徳商法に騙されてしまったりするかもしれません。
このような人を守るため、後見人が財産管理や身上監護をする制度が「成年後見制度」です。
裁判所から選任された成年後見人が代わりに契約をしたり財産の管理をしたりすることで、本人が不利益をこうむる事態を予防することが可能となります。
では、成年後見を申し立てるには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか?
また、成年後見制度には、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
今回は、成年後見の申し立てについて弁護士がくわしく解説します。
ささいなお悩みもお気軽に
お問合せください初回相談60分無料※一部例外がございます。 詳しくはこちら
オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。
- 24時間受付、通話無料
- 24時間受付、簡単入力
成年後見制度とは
まずは、成年後見制度とはどのような制度なのか、制度の概要について解説していきましょう。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類がありますが、今回は、法定後見制度について解説します。
成年後見制度の概要
成年後見制度とは、判断能力が衰えてしまった人(以下、「本人」といいます)の代わりに契約をしたり、後から契約を取り消したりできる人(以下、「成年後見人等」といいます)を選任する制度です。
成年後見人等は、本人の財産管理や身上監護など重要な役割を担います。
そのため、「私が成年後見人となります」などと宣言するのみでなれるものでもなければ、本人の子どもなどであるからといって自動的に就任するものでもなく、家庭裁判所から正式に選任されなければなりません。
成年後見人等は、本人の代わりに契約や財産管理などを行い、定期的に家庭裁判所に報告をします。
成年後見制度の3類型
成年後見制度には、次の3類型が存在します(参照元:法務省(成年後見制度・成年後見登記制度):Q3:法定後見制度とは,どんな制度ですか?)。
- 後見:判断能力が欠けているのが通常の状態の人が利用する制度。成年後見人は財産に関するすべての法律行為の代理権と、日常生活に関する行為以外の法律行為の取消権を持つ。
- 保佐:判断能力が著しく不十分な人が利用する制度。保佐人の同意権や取消権は一部に限定されている。家庭裁判所の審判によって、同意権・取消権の範囲を広げたり、代理権を付与したりすることができる。
- 補助: 判断能力が不十分な人が利用する制度。家庭裁判所の審判によって、補助人に同意権や取消権、代理権を与えることができる。
本人の判断能力が欠けている程度がもっとも重度であるのが「後見」であり、もっとも軽度であるのが「補助」です。
後見の場合には本人の判断能力が常にない状態であるため、成年後見人の権限が強くなっています。
一方、補助の場合には本人はある程度の判断能力がある状態であるため、補助人の権限はあくまでも本人をサポートする程度にとどまっています。
なお、この記事では特に補足のない限り、「後見」を前提として解説します。
成年後見を申し立てる主な目的
たとえ家族が重い認知症などであったとしても、同居親族が常に一緒にいる状態であれば、日常生活で困ることは少ないかもしれません。
では、どのような際に成年後見を申し立てるのでしょうか?
成年後見を申し立てる主な目的は次のとおりです。
施設の入所契約をするため
本人が介護施設などへ入所するにあたっては、施設と本人との間で入所契約を結ぶこととなります。
しかし、本人に判断能力がない以上、本人は有効に入所契約を締結することはできません。
そこで、成年後見人が本人に代わって施設の入所契約をするために、成年後見を申し立てる場合があります。
施設の入所費用や入院費用を本人の預金口座から引き出すため
施設への入所や入院をするにあたって、本人の預貯金口座からお金を引き出そうにも、たとえば預貯金の大半が定期預金となっていた場合には、定期預金を解約しなければなりません。
原則として、定期預金の解約は本人が銀行の窓口に出向いて行う必要があります。
しかし、本人を銀行の窓口に連れて行ったとしても、明らかに判断能力がない状態であれば、定期預金を解約することはできません。
それどころか、成年後見人が選任されるまでの一時的な措置として、預金口座が凍結されてしまうこともあるでしょう。
この場合において、入所費用や入院費用などを本人の預金口座から引き出すため、成年後見を申し立てる場合があります。
成年後見人が選任されれば、成年後見人が代わりに定期預金を解約したり、本人のために必要な資金を引き出したりすることが可能となります。
本人の不動産を売却するため
本人の入所費用や入院費用がかさむと、本人の預貯金だけでは不足する場合があります。
この場合においては、本人の入所などによって空き家となった家や土地を売って、資金を捻出することが選択肢の一つとなるでしょう。
しかし、不動産を売却するにあたっては、本人の判断能力が必要です。
いくら家族であっても、本人名義の不動産を勝手に売却することはできません。
この場合おいて、本人名義の不動産を売却するためには成年後見の申し立てが必要となります。
訪問販売などから本人の財産を守るため
判断能力の衰えた高齢者が一人暮らしをしていたり、日中は一人でいたりすることがわかってしまうと、悪質な訪問販売などにより、本人に不利益な契約を結ばされてしまう危険があります。
契約から一定期間内であればクーリングオフ制度によって契約の解除ができるものの、本人が契約したことを家族に伝えなければ、クーリングオフ期間内に被害に気がつかない可能性もあります。
このような被害から財産を守るため、成年後見を申し立てる場合があります。
成年後見人が就くことで、成年後見人の同意なしにした契約を取り消して無効にすることが可能となるためです。
家族による財産の使い込みを防ぐため
同居している家族による使い込みを防ぐ目的で、成年後見を申し立てる場合もあります。
本人と同居している親族の中には、本人の財産をさも自分のものであるかのように使ってしまう場合もあるようです。
成年後見人がつけば、たとえ家族であっても本人の財産を使い込むことが難しくなるため、この効果が期待されています。
遺産分割協議をするため
遺産分割協議とは、誰かが亡くなった際に、遺産を分ける方法について話し合いをすることです。
遺産分割協議をするためには意思能力が必要であり、意思能力がない状態で行った遺産分割協議は無効となります。
たとえば、父が亡くなり母と子が相続人になった場合において、母が重い認知症で意思能力を失っている場合を想定しましょう。
本来は母と子の話し合いで父の遺産分割ができるところ、母に意思能力がないのであれば、母は有効に遺産分割協議をすることはできません。
遺産分割協議ができないということは、父の遺した預金を解約したり、不動産の名義を変えたりすることができないということです。
この場合において、遺産分割協議を有効に成立させるためには、母に成年後見人をつける必要があります。
このような目的から、成年後見の申し立てをするケースもしばしば見受けられます。
成年後見を申し立てるデメリット
成年後見を申し立てる前に、デメリットを理解しておく必要があるでしょう。
主なデメリットは、次のとおりです。
一度成年後見人が選任されると原則としてやめられない
一度成年後見人が選任されると、家族が希望しても自由にやめることはできません。
成年後見制度をやめられるのは、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなった場合のみです。
仮に遺産分割協議を目的として成年後見制度を申し立てた場合であっても、遺産分割協議を終えたからといってやめることはできないことを知っておきましょう。
定期的に成年後見人の報酬が発生する
成年後見人には家族が選任される場合もありますが、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが大半であるのが現状です。
そして、専門家が成年後見人となった場合には、定期的に報酬を支払わなければなりません。
報酬額は家庭裁判所が定め、月に2万円程度です。
ただし、本人の資産が多い場合や管理に手間がかかる財産がある場合には、さらに高額となります。
成年後見人の報酬は本人の資産の中から支払うものではありますが、成年後見人がついている期間が長ければ長いほど、報酬の支払いによって本人の財産は目減りすることとなります。
家族であっても本人の財産を自由に利用できなくなる
成年後見人が選任されると、いくら家族であっても、本人の財産を自由に利用することはできなくなります。
たとえば、これまでは毎月、本人の年金を家族が引き出して本人の生活費に充てていた場合であっても、成年後見人がついた後は、家族が本人の預貯金から支出することが困難となる可能性があります。
また、本人のお金を孫に贈与することなども原則として認められません。
この点は、成年後見制度のメリットでもある反面、不自由さを感じる場合もあるでしょう。
遺産分割協議の内容が制限される
本来、遺産分割協議は相続人全員が納得するのであれば、どのような内容としても構いません。
たとえば、子が全財産を相続して母は一切相続しないなどという内容であっても、当事者同士で合意ができるのであれば問題ありません。
ただし、成年後見人がつくと、原則として本人の不利になる遺産分割協議をすることはできなくなります。
つまり、本人は一切財産を相続しない、などという内容の遺産分割協議を成立させることはできず、最低でも本人に法定相続分は相続させる内容とする必要が生じるでしょう。
成年後見制度を申し立てる手順
成年後見制度を申し立てる手順は、次のとおりです。
本人情報シートを発行してもらう
はじめに、本人を日ごろから支援している福祉関係者から、本人の生活状況等に関する本人情報シートを発行してもらいます。
但し、本人情報シートが準備できなくても、医師が診断書の作成に応じてくれる場合もあります。
医師に診断書を発行してもらう
次に、医師に診断書を発行してもらいます。
これが、後見相当であるのか保佐相当であるのかなど、どの制度が適当であるかの判断材料となります。
後見人の候補者を選定する
次に、後見人の候補者を選定します。
候補者は、家族を挙げることも可能です。
ただし、最終的に誰を後見人とするのかは裁判所が判断するため、選定した候補者が必ずしも選任されるとは限りません。
申し立てに必要な書類を準備する
次に、申し立てに必要となる書類を準備します。
必要書類については、後ほどくわしく解説します。
成年後見を申し立てる
書類の準備ができたら、成年後見を申し立てましょう。
申し立て先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
成年後見申し立てに必要な基本書類
成年後見開始の審判を申し立てるために必要となる基本の書類は、次のとおりです(参照元:裁判所:後見開始の申立書、裁判所:後見開始)。
必要となる書類が多いうえ、見慣れない書類も含まれているため、弁護士などの専門家へ依頼して準備を進めるとよいでしょう。
後見・保佐・補助開始等申立書
後見・保佐・補助開始等申立書は、申し立ての基本となる書類です。
裁判所のホームページに記載例があるので、参考にするとよいでしょう。
申立事情説明書
申立事情説明書は、申し立てに至った動機などを記載する書類です。
こちらも、裁判所のホームページに記載例が掲載されています。
親族関係図
親族関係図は、本人の親族関係を表した図です。
裁判所のホームページに記載例があるので、参考にするとよいでしょう。
親族の意見書
親族の意見書は、親族が成年後見制度の理由に賛成であるのか反対であるのかなどを表明する書類です。
意見書が必要となる親族の範囲は、仮に本人が亡くなった場合に相続人となる人です。
親族の意見は、誰を成年後見人とするのかの判断材料の一つとなります。
後見人等候補者事情説明書
後見人等候補者事情説明書は、後見人の候補者を挙げた場合において、その候補者の生活状況や経歴などを記載する書類です。
その候補者が適任であるのかの判断材料の一つとなります。
財産目録
財産目録は、本人の財産を一覧とした書類です。
なお、遺産分割協議を目的として成年後見の申し立てをする場合には、これに加えて相続財産の目録も必要となります。
収支予定表
収支予定表は、本人の定期的な収入や定期的な支出を示す表です。
本人の収支状況が確認されます。
本人の戸籍謄本
本人の戸籍謄本は、発行から3か月以内のものが必要です。
本籍地の市区町村役場で取得できます。
本人の住民票
本人の住民票は、発行から3か月以内のものが必要です。
住所地の市区町村役場で取得できます。
なお、本籍地の市区町村役場で取得できる戸籍の附票でも構いません。
成年後見人候補者の住民票
成年後見人候補者の住民票は、発行から3か月以内のものが必要です。
住所地の市区町村役場で取得できます。
本籍地の市区町村役場で取得できる戸籍の附票でも構いません。
なお、成年後見人等候補者が法人の場合には、法人の商業登記簿謄本を添付します。
本人の診断書
発行から3か月以内である医師の診断書が必要です。
裁判所のホームページで公開されている手引書をもとに作成してもらいましょう。
本人情報シート写し
本人情報シートは、医師に診断書を作成してもらうにあたり、医師に本人の生活状況を伝えるシートです。
家族などではなく、本人の状況を知るソーシャルワーカーによる作成が想定されています。
本人の健康状態に関する資料
本人の健康状態に関する資料とは、介護保険認定書や療育手帳や精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳などの写しなどです。
本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
本人について、成年被後見人や被保佐人、被補助人、任意後見契約についての記録がないことを証明する書類です。
東京法務局後見の登録課のほか、全国の法務局と地方法務局の本局で発行を受けられます。
本人の財産に関する資料
本人の財産に関する資料とは、次の資料などです。
- 預貯金及び有価証券の残高がわかる書類:預貯金通帳写し、残高証明書など
- 不動産関係書類:不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)など
- 負債がわかる書類:ローン契約書の写しなど
本人の収支に関する資料
本人の収支に関する資料とは、次の資料などです。
- 収入に関する資料の写し:年金額決定通知書、給与明細書、確定申告書、家賃、地代等の領収書など
- 支出に関する資料の写し:施設利用料、入院費、納税証明書、国民健康保険料等の決定通知書など
成年後見制度の申し立てにかかる主な費用
成年後見制度の利用に関して発生する主な費用は、次のとおりです。
申し立て時にかかる費用
成年後見の申し立てに際してかかる費用は、次のとおりです。
なお、この費用は本人ではなく、原則として申立人が支払うこととなります。
医師の診断書手数料
成年後見を申し立てるにあたっては、医師の診断書が必要となります。
診断書の作成手数料は医師によって異なりますが、おおむね5,000円から1万円程度となることが多いでしょう。
専門家のサポート報酬
成年後見の申し立てには、先ほど解説したように、さまざまな書類が必要となります。
また、制度利用にあたっての注意点も少なくありません。
そのため、成年後見の申し立てにあたっては、弁護士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
専門家のサポート報酬は事務所によって異なりますが、弁護士の場合には15万円から25万円程度であることが多いでしょう。
必要書類の取得費用
先ほど解説した、必要書類を収集する費用です。
こちらは、数千円程度で収まることが多いでしょう。
申し立て費用
成年後見を申し立てるための費用は、3,400円です。
ほかに、3,000円から4,000円程度の予納郵便切手が必要となります(裁判所によって異なるので管轄の裁判所に確認しましょう)。
なお、状況によっては裁判所が医師に鑑定を依頼することがあります。
この場合には、依頼する医師により異なりますが、一般に10万円から20万円程度の鑑定費用が別途必要です。
継続的にかかる費用
成年後見制度の利用では、継続的に次の費用が発生します。
なお、これらは本人の財産から支出するものであり、申立人が負担するわけではありません。
また、これらの費用の額は、いずれも裁判所が決定するものです。
成年後見人の報酬
成年後見人として専門家が選任された場合には、報酬が発生します。
報酬額は月に2万円程度ですが、本人の資産が多い場合や管理に手間がかかる財産がある場合には、さらに高額となります。
また、不動産の売却や遺産分割協議など特別な手続きをした場合には、付加報酬が発生する場合もあります。
後見監督人の報酬
後見監督人とは、成年後見人を監督する役割を持つ人です。
成年後見人に親族が選任された場合には、後見監督人として専門家が選任されることが多くなっています。
後見監督人が選任された場合には、月に1万円から2万円程度の報酬が発生します。
まとめ
成年後見制度を申し立てるには、さまざまな書類が必要です。
また、申し立てにあたっては、成年後見制度の注意点をよく理解しておく必要があるでしょう。
そのため、成年後見制度の申し立ては弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所には、成年後見制度や遺産相続問題にくわしい弁護士が多数所属しております。
成年後見制度についてお悩みの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問合せはこちら
ささいなお悩みもお気軽に
お問合せください初回相談60分無料※一部例外がございます。 詳しくはこちら
オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。
- 24時間受付、通話無料
- 24時間受付、簡単入力