成年後見制度とは、判断能力が不十分な方のため親族や専門家などの第三者が財産管理や身上監護を行う制度です。必要がある場合には、家庭裁判所で審判を申し立てて「成年後見人」を選任してもらう必要があります。今回は成年後見開始審判の申立方法や、その流れについて弁護士が解説します。
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1.成年後見開始審判とは
「成年後見人」を選任してもらうためには、家庭裁判所に成年後見開始審判を申立てる必要があります。成年後見人は、事理弁識能力を欠く常況にある人のために財産管理や身上監護に関する判断を行います。具体的には預貯金や不動産などの財産管理、処分、収支の管理、入所する介護施設を決定して入所の手続きを行ったり介護施設の担当者と連絡を取り合って本人の状況を確認したりします。
2.成年後見開始審判の申立方法
2-1.申立ができる人
成年後見開始審判を申し立てられるのは、一例として以下の人です。
- 本人(後見開始の審判を受ける者)
- 配偶者
- 四親等内の親族
2-2.成年後継人の候補者を立てることも可能
審判を申し立てるとき、成年後見人の候補者を立てることも可能です。候補者を立てるというのは、この人に後見人になって欲しいという人がいる場合に、申立ての際に、この人を成年後見人にして欲しいと裁判所に伝え、その人が後見人にふさわしいかどうか判断してもらうことを指します。子どもや孫などの「本人より年の若い親族」を候補者にするパターンが考えられます。また、直系の親族がいない場合、甥や姪が後見人候補者となるケースもあります。
候補者を立てたいときには申立の際に「申立書」に候補者の氏名や住所、続柄などを記入しましょう。但し、必ずしも、その候補者が、後見人に選ばれるわけではないことには注意が必要です。
2-3.申し立て先の家庭裁判所
本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ成年後見審判開始の申立を行います。
2-4.必要書類
基本的な必要書類は以下の通りです。(より詳しく知りたい方は、裁判所のホームページも適宜ご参照ください。)
- 審判申立書
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)(発行日から3か月以内のもの)
- 本人の住民票または戸籍附票(発行日から3か月以内のもの)
- 成年後見人候補者がいる場合、その住民票または戸籍附票(発行日から3か月以内のもの)
- 専用書式の診断書
- 本人情報シート
- 健康状態に関する資料
- 介護保険認定書、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳などの写し
- 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書(発行から3か月以内のもの)
- 財産に関する資料(預貯金通帳写し、残高証明書、不動産の登記事項証明書ローン契約書の写しなど)
- 収支に関する資料(年金額決定通知書、家賃、地代の領収書、介護施設の利用料、入院費や納税証明書、国民健康保険料の決定通知書など)
ケースにより、上記以外のものの提出を要求される可能性があります。
2-5.費用
- 申立手数料…収入印紙800円
- 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって異なります。申立前に電話等で確認しましょう)
- 登記手数料…収入印紙2,600円
上記の必要書類と収入印紙、郵便切手を揃えてまとめて家庭裁判所へ提出すれば、成年後見審判の申立が完了します。鑑定が必要な場合、別途鑑定費用が発生する場合があります。
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3.成年後見審判の流れ
成年後見審判の申立をすると、以下のような流れで手続きが進みます。
3-1.裁判所による調査や審問
成年後見審判の申立をすると家庭裁判所で調査が開始され、通常であれば、申立人の面接が行われます。
その後、候補者や、場合によっては他の親族に対する意見照会が行われます。
他の親族に後見開始審判の申立をすることを伝えていないと、いきなり家庭裁判所から書類が届いて驚かれてしまうケースがあります。トラブルを防止するため、できるだけ事前に連絡しておいた方がよいでしょう。
申立の際には親族を候補者として立てられますが、他の親族が反対すればその人ではなく弁護士や司法書士などの専門家の後見人が選任される可能性が高くなります。
3-2.鑑定
書類だけでは後見人をつけるべきか判断しにくい場合、裁判所の判断で鑑定が行われるケースもあります。鑑定が行われると別途費用がかかります。
3-3.審判
調査や鑑定結果等を踏まえて、裁判所が後見開始の審判を下します。
審判が出ると、申立人等に「審判書」が郵送されます。申立から審判が出るまでの期間は、約2~3か月程度です。
3-4.不服申立(即時抗告)
関係者が審判書を受領すると、2週間以内であれば不服申立が可能です。ただし「後見人を変えてほしい」という内容の不服申し立てをすることはできません。
3-5.後見開始
誰も不服を申し立てず審判が確定したら後見が開始し、選任された後見人が本人の財産や健康保険証等の重要書類を預かり管理します。また後見人として選任された人は、おおむね1か月以内に以下の書類を作成して家庭裁判所へ提出しなければなりません。
- 財産目録
- 収支状況報告書
4.成年後見審判の効果
4-1.後見人が財産管理や身上監護を行う
後見人の選任後は、後見人が本人に代わって財産管理や処分、身上監護を行います。ご本人が勝手にした契約や法律行為については、後見人が取消可能です。またご本人が遺産相続した場合には後見人が遺産分割協議に参加しますし、ご本人が交通事故に遭えば後見人が損害賠償請求の手続きに対応します。介護施設への入居手続きや施設との連絡にも後見人が対応します。
4-2.成年後見登記される
後見人が選任されると、「成年後見登記」が行われて本人に後見人がついたことが公示されます。
とはいっても、法務局から登記事項証明書を取得しない限り後見人がついているかどうかはわかりません。戸籍謄本(全部事項証明書)や住民票等の公的書類にも記載されません。
4-3.選挙権について
2000年に成年後見制度が導入されて以降、2013年までの間、被後見人(本人)には「選挙権」が認められませんでした。
ただ「選挙権を奪うのは違憲ではないか?」という批判があったため2013年に法改正が行われ、被後見人にも選挙権が認められるようになりました。
現在では本人に選挙権が認められるため、後見人による代理投票はできません。介護施設や病院に入所している方など、投票所へ行けない場合には不在者投票制度も利用できます。
4-4.成年後見人の報酬について
弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選任された場合、「報酬」が発生します。報酬の金額は、管理している財産額等によって異なり、月2~6万円程度です。ご本人の財産から支払われるので、申立人等の親族が負担する必要はありません。
まとめ
身近な親族が認知症などになって判断能力が低下してきたら、不安になるものです。放っておくと、財産の散逸などでご本人に不利益が及ぶ場合がありますし、親族の方が財産管理を行うことも簡単なことではありません。
成年後見制度を利用すれば、後見人が財産管理を行いますので、親族の方の負担が軽くなる場合があります。
もし、後見開始審判をお考えで、ご自身で審判の申立てを進めるのが不安な方に対しては、弁護士がアドバイスやサポートを行いますので、お気軽にご相談ください。
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